「それじゃあ、行ってくるわねー」
「一輪、悪いけど、今日の私の仕事お願いするわね」
「はいはい。貴方もぬえから目を離さないようにね」
「わかっているわ。ぬえったら、いつもいつも……」
「ほら、ムラサ!早く!」
「あー、もう。待ちなさい」
朝早くに、命蓮寺から出かける二つの影とそれを見届ける一つの影と一つの雲があった。
今日はぬえが妖怪の友達に釣りに誘われたらしく、水場のエキスパートとしてムラサもそれについて行く事になったのだ。
「川だけど大丈夫?」「川で溺れる舟幽霊なんて聞いたことないわ。大丈夫よ」
ムラサの過去のことを考えて心配する一輪だったが、元は海の上の戦いを得意とする舟幽霊である。無用の心配であった。
とにかく、二人はでかけ、一輪はそれを見届けるといつもの自分の仕事と今日はムラサに仕事にも早速取りかかるのであった。
そして、時間が進み、
「そうですか。今日は村紗はぬえとお出かけですか。あの二人は仲がいいですね」
「地底にいた頃からそうよ。まぁ、あの頃は仲がいいというか、あの子からちょっかいを出してただけだけど」
二人分の仕事を終え、一息ついていた一輪のところに星とナズーリンがやって来た。
そして、ぬえ達に話題が移ったところである。
「それにしても、君は妬いたりしないのかい?船長は君の長年のパートナーじゃないか」
「何が言いたいのよ、ネズ公」
「『焼く』?今日の晩御飯は魚かお肉ですか?確かに村紗が喜びそうですね」
命蓮寺の頭脳派二人がにらみ合っている横で、今日も星はハングリータイガーである。
一輪はとりあえず矛先を星達に向けてみた。
「時間の長さを言うなら貴方達もそうでしょう。貴方達は相手がいないと寂しく思うの?」
「私はご主人様が心配で心配で気が気でならないね。私がいない間に、どれだけ私の仕事が増やされていることか」
「私もナズーリンがいないと寂しいですよ。出来れば、ナズーリンの望む限りここにいてほしいと思っています」
「愚問だったわね」
これも一つの信頼と言えるのだろうか。
仕事が完璧な星の唯一の弱点である「うっかり」「失くし癖」をナズーリンがフォローしていると思えばいいのか。
「一輪は寂しくないのですか」
「そうね。昔は寂しかったかもね」
一輪は少し遠くを見つめ、昔を思い出していた。
*
地底にいた頃は二人三脚だった。いや、雲山を入れて三人四脚か。雲山に足はないから、三人三脚ね。
寺の門番として、姐さんも仲間達も守れなかった私は水蜜を守っていくことで、
自分の救い手である姐さんを失い、精神が不安定になっていた水蜜は私にすがることで、
お互いにお互いを必要としていた。
千年という時はあまりにも長い。
時に気が狂い、時に挫けそうになっても、仲間がいたから支えることができ、支えられていた。
私達はお互いに依存していたのだ。
*
「あの時の私達だったら、片方がいなくなっただけで、もう片方も駄目になっていたわね。
私と雲山はあくまで運命共存体。水蜜との関係はまた違うもの」
「地底は、そんなに」
「そうね。知り合いもなく、外のことは何もわからず、ここから出られる保障もない。『牢』と言っても差し支えないわ」
「……」
雲山は黙って一輪を見つめている。
彼も千年、彼女達を見つめてきたのだ。
だからこそ、彼にムラサを慰めることは出来ず、彼女の心を癒せるのは一輪だけであり、
一輪もまた、ムラサを守り続けることでこの無限の地獄を生き続ける理由にできたのだ。
「そこまで求めた相手なら、やはり離れていったら寂しいだろう」
「それはないわ。私はあの子を信頼しているし、あの子もそう。お互いに必要としている相手じゃなくて、お互いに任せられる相手なのよ」
「つまり、どういうことですか?」
「仲間というものは『依存』ではなく、『信頼』でつながっているということだよ。
ご主人様は私に『依存』しているのかい?」
「いいえ、『信頼』していますよ」
「そういうことよ、星」
話はそこまでと言わんばかりに、一輪は立ち上がり、二人の方を向いた。
「それに私は心配していないわ。水蜜はちゃんと帰ってくるから」
わたしのところに……
一輪が言葉を続ける前に寺の戸が開く音がして、言葉は遮られた。
ムラサとぬえが帰ってきたのだ。
「ただいまー。見てよ、一輪。私、こんなに大きいの釣ったのよ」
「あら、凄いじゃない。じゃあ、それは今日のおかずに決定ね。すぐにご飯にするから、先に手を洗ってきなさい」
「はーい」
ぬえは機嫌良く、外の井戸へと飛び出していく。
途中、白蓮の部屋に寄って、この日の戦果を報告しているようだ。
「ただいま、一輪」
「お帰りなさい、水蜜。ぬえの相手、お疲れ様」
「私は遊んでいたようなものよ。それよりも、今日は私の仕事を任せてしまってごめんね」
「それなら、お詫びに今度どこかへ連れて行ってもらえるのかしら?」
「それで一輪が喜んでくれるなら是非ね」
一輪はムラサから帽子を受け取ると帽子掛けにかけ、すぐに急須から湯のみにお茶を注ぎ、ムラサの前に置いた。
「ありがとね。あれ、どうしたの?星さんもナズーリンも変な顔をして」
「いえ。……ナズーリン、あの二人の関係はもしや」
「そうだね。擬似的なふう……」
「それで水蜜。ご飯を先にするの?お風呂を先にするの?」
「もちろん一輪で」
大きな音を立てて、雲山の拳がムラサの頭にめり込んでいる。
雲山は自分の意思でやったわけではないのに、申し訳なさそうに目を伏せてムラサにペコペコしていた。
殴った当の本人である一輪は顔を頭巾で隠して、下を向いてプルプルしている。
心なしか、顔が真っ赤な気がするが、気のせいだろうか。
「ごちそうさま」
「私もお腹がいっぱいです」
「やっぱり、ご飯とお風呂の後にするべきでしたね」
「ちょっと黙りなさい、あんた達!」
部屋は自分の意思とは無関係に暴れまわる雲山の拳と泣いて詫びる雲山の顔のどアップに覆い尽くされた。
これより後、ぬえに連れてこられた白蓮によって、嵐は止められ、
ムラサは風呂場で拗ねた一輪の髪を洗いながら、謝り続けることになるのであった。
「いいかげん機嫌直してよー。もう、ああいうこと、二人でいる時以外言わないから」
「……馬鹿」
>擬似的なふう……
後に続くのは…
ご馳走様でした!あと、天然な星が可愛かったw
一緒にお風呂入ってるしww名前で呼び合ってるしwwwお風呂のあとは『一輪』なのか?!
かつてないほどにムラ一に萌えてきた。
『一輪さんは毎朝、船長のスカーフ』いつか書こうと思ってたのに……いや、あなたにお任せします。
あぁもう可愛いなぁ、みんな可愛い!
雲山含めて、本当にみんな可愛い。
早く結婚しちゃいなよ!