「おーい!天狗様!」
「んー…?」
木の上で記事とにらめっこしていると、大きな声で私を呼ぶ者がいました。
橙と申しましたか、八雲藍さんの式神。
「はいはい、なにか御用ですか?私の名前は射命丸文です」
「新聞ください!」
「あー、それが今回はまだなんですよねぇ」
「そうなんですか?」
「藍さんのおつかいですよね?」
「はい!」
藍さんが気まぐれで新聞を受け取ることがある、彼女が新聞にどういう興味を持ってるのか知らないが、その際に使いによこされるのがこの橙だ。
「あ、そういえばこのあいだの新聞を見て、藍様が言っていましたよ」
「ほお、なんと?」
「相変わらず微妙だな……だそうです!」
「………それはどうも」
この子に罪は無いか……恐らく藍さんもそれを伝えろとは言っていないんだろう。
そういう感想は、随時取り入れていかなければいけないものだ。
「ま、最近確かにネタが無かったのは認めますよ」
「だから今回も遅れてるんですか?」
「そういうことです」
「天狗様!私が何かスクープを持ってきます!」
「へぇー?そりゃ確かにありがたい話ですが…」
「待っててください!」
ほんとに行っちゃったよ……足速いな。
しかしスクープなんてそうそう落ちているものじゃない、彼女にもすぐわかるでしょう。
夕刻。結局今日は成果が上がらす、元のところにもどってきてしまった。
「おや?」
「あ!お帰りなさい!」
「橙、私を待っていたんですか?」
「はい!スクープもって来ました!」
そんなバカな……だが、邪険にする理由もないでしょう、
聞くだけ聞いてみますか。
「えーとですね、チルノちゃんが小さい池を全部凍らせちゃって、蛙が全滅しちゃったんです!」
「惨いな…」
だが、珍しい情報じゃない。
「リグルがおっきな虫を操ることができたんです、大きなログハウスを作るんだって意気込んでましたよ!」
「……ログハウスねぇ」
「あとですね、森の中にある二階建てのおっきぃ家に人が入っていくのが見えたんです」
「……アリスさんの家でしょうか」
「あの家、誰も住んでないお化け屋敷だって聞いてたからびっくりしました!」
それ、本人の前では言ってないでしょうね…
「えーと、えと……妖夢が髪の毛をちょっと短くしてて…」
「…」
「幽々子様が紫様と囲碁の勝負をしてて……」
「………」
「………」
私の無反応さを見て、段々表情を落としてきた橙。
私としても微笑ましい情報ばかりで退屈はしていなかったのですが、記事にできるものではなくて…
「…ごめんなさい」
「……」
でもまぁ、私も鬼ではないつもりです。
ちょうどネタもないことですしね、特集でも組みますか。
「橙、お手柄です!」
「え…?!」
「待っててください、明日には新聞をお届けします!」
「は……はい!」
「おい、天狗」
「やあ藍さん、ご機嫌如何ですか?」
「気持ち悪いことを言うな、お茶を飲んでいかないか?」
「いいですね、お邪魔します」
あれから二日、白玉桜に訪れた私を藍さんが引き止めた。
橙は新聞を渡してくれたようですね。
「昨日の新聞、面白かったよ」
「おや、意外ですね」
「もちろん内容を褒めるつもりはないさ、どれも平凡でいまひとつインパクトに欠ける、探りもぜんぜん足りてない」
「あやや」
「だが、妖精や里の子供が書かせたというのは面白い発想だ」
「そこがウリですから」
「……恥ずかしがって教えてもらえなくてな、橙が書いたのはどの記事なんだ?」
橙もまさか全て採用されるとは思っていなかったんでしょうね。
私が広げられた新聞の記事を指差して教えてあげると、藍さんは溜息交じりで優しい笑顔を浮かべました。
「もっと字をうまく書けるようにしないとな…」
「そのまま出すのがいいんじゃないですか、見てくださいよこの氷精の字」
「…なんだこれは、読めんな」
「私も解読に時間がかかりました」
「藍さんとしても新鮮だったんじゃないですか?小難しい話ばっかりじゃなくてこういうのも」
「そうだな、実際評判はどうだったんだ?」
「なかなかのものです、もしかしたら里の子供と妖精達の共存の一歩かもしれませんよ」
「言いすぎだろ」
冗談を交わしていたら、時間も遅くなってきたので今日はお世話になることにしました。
マヨヒガから来た橙も夕飯に招かれ、私の新聞に関する話題でもちきりでした。
「天狗様」
「やあ橙、顔が真っ赤ですよ」
「はい」
お酒なのか、熱くて火照っているのか。
一人で縁側に腰掛けていた私の隣にきて、橙は小声で話し始めた。
「ごめんなさい、こんなすごいことしてもらって」
「……謝ることはありません、結果的にもなかなか好評だったわけですから」
「…天狗様、気を使ってくださったんですよね」
「ええ?」
「だって、でなかったら私が持ってきたスクープなんて取り上げてもらえないだろうから…」
「………」
まぁ確かに…
「私、あんまりわからないけど新聞いっつも読んでるんです、難しいこといっぱい書いてあって、藍様と一緒じゃないとわからないことばっかりだけど…」
「ほう」
「藍様、へぇーって唸ることがあるんです、驚いてるんです天狗様の新聞で」
「……」
「私も藍様を驚かせるようなこと、何かしてみたくて…」
そういうことですか。
この子もこの子なりに新聞に対して興味を持っていたんですね。
「まぁねぇ……正直に言いますと、貴女の持ってきたスクープはかなり力不足でしたね」
「やっぱり…」
「ですが、今回は運よく使われる機会があったというわけです、情報を多く持っておくことに損はありません、もっと普段から情報を収集しておくと、大きな事件の存在に気がつけるかもしれません」
「……」
「もし何か大きなものを掴んだら私に言ってください、新米な貴女だけでは不安ですからねぇ」
「…はい!」
私は部下を持つつもりはありませんが、仲間を持つことも損にはならないでしょう。
「そういえば、藍様が自分も記事を書いてみたいって言っていました」
「え?」
「藍様なら、とっても面白いお話作れるんじゃないでしょうか!」
「……え、ええ……」
期待できるような、不安なような…。
後日、藍さんが担当した記事の特集は非常に評判がよかった。
魑魅魍魎には特にウケた。
小難しいなどというレベルではなく、解読不能な域に達していたその文は、文学の道を志していた若者を挫折させ、妖精達には漢字の勉強と言われ、引きこもりの人形遣いにはどこを縦読み?と唸らせたという。
一躍有名になったその記事はレギュラー化し、後に「天声妖語」と名づけられたという噂。
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「んー…?」
木の上で記事とにらめっこしていると、大きな声で私を呼ぶ者がいました。
橙と申しましたか、八雲藍さんの式神。
「はいはい、なにか御用ですか?私の名前は射命丸文です」
「新聞ください!」
「あー、それが今回はまだなんですよねぇ」
「そうなんですか?」
「藍さんのおつかいですよね?」
「はい!」
藍さんが気まぐれで新聞を受け取ることがある、彼女が新聞にどういう興味を持ってるのか知らないが、その際に使いによこされるのがこの橙だ。
「あ、そういえばこのあいだの新聞を見て、藍様が言っていましたよ」
「ほお、なんと?」
「相変わらず微妙だな……だそうです!」
「………それはどうも」
この子に罪は無いか……恐らく藍さんもそれを伝えろとは言っていないんだろう。
そういう感想は、随時取り入れていかなければいけないものだ。
「ま、最近確かにネタが無かったのは認めますよ」
「だから今回も遅れてるんですか?」
「そういうことです」
「天狗様!私が何かスクープを持ってきます!」
「へぇー?そりゃ確かにありがたい話ですが…」
「待っててください!」
ほんとに行っちゃったよ……足速いな。
しかしスクープなんてそうそう落ちているものじゃない、彼女にもすぐわかるでしょう。
夕刻。結局今日は成果が上がらす、元のところにもどってきてしまった。
「おや?」
「あ!お帰りなさい!」
「橙、私を待っていたんですか?」
「はい!スクープもって来ました!」
そんなバカな……だが、邪険にする理由もないでしょう、
聞くだけ聞いてみますか。
「えーとですね、チルノちゃんが小さい池を全部凍らせちゃって、蛙が全滅しちゃったんです!」
「惨いな…」
だが、珍しい情報じゃない。
「リグルがおっきな虫を操ることができたんです、大きなログハウスを作るんだって意気込んでましたよ!」
「……ログハウスねぇ」
「あとですね、森の中にある二階建てのおっきぃ家に人が入っていくのが見えたんです」
「……アリスさんの家でしょうか」
「あの家、誰も住んでないお化け屋敷だって聞いてたからびっくりしました!」
それ、本人の前では言ってないでしょうね…
「えーと、えと……妖夢が髪の毛をちょっと短くしてて…」
「…」
「幽々子様が紫様と囲碁の勝負をしてて……」
「………」
「………」
私の無反応さを見て、段々表情を落としてきた橙。
私としても微笑ましい情報ばかりで退屈はしていなかったのですが、記事にできるものではなくて…
「…ごめんなさい」
「……」
でもまぁ、私も鬼ではないつもりです。
ちょうどネタもないことですしね、特集でも組みますか。
「橙、お手柄です!」
「え…?!」
「待っててください、明日には新聞をお届けします!」
「は……はい!」
「おい、天狗」
「やあ藍さん、ご機嫌如何ですか?」
「気持ち悪いことを言うな、お茶を飲んでいかないか?」
「いいですね、お邪魔します」
あれから二日、白玉桜に訪れた私を藍さんが引き止めた。
橙は新聞を渡してくれたようですね。
「昨日の新聞、面白かったよ」
「おや、意外ですね」
「もちろん内容を褒めるつもりはないさ、どれも平凡でいまひとつインパクトに欠ける、探りもぜんぜん足りてない」
「あやや」
「だが、妖精や里の子供が書かせたというのは面白い発想だ」
「そこがウリですから」
「……恥ずかしがって教えてもらえなくてな、橙が書いたのはどの記事なんだ?」
橙もまさか全て採用されるとは思っていなかったんでしょうね。
私が広げられた新聞の記事を指差して教えてあげると、藍さんは溜息交じりで優しい笑顔を浮かべました。
「もっと字をうまく書けるようにしないとな…」
「そのまま出すのがいいんじゃないですか、見てくださいよこの氷精の字」
「…なんだこれは、読めんな」
「私も解読に時間がかかりました」
「藍さんとしても新鮮だったんじゃないですか?小難しい話ばっかりじゃなくてこういうのも」
「そうだな、実際評判はどうだったんだ?」
「なかなかのものです、もしかしたら里の子供と妖精達の共存の一歩かもしれませんよ」
「言いすぎだろ」
冗談を交わしていたら、時間も遅くなってきたので今日はお世話になることにしました。
マヨヒガから来た橙も夕飯に招かれ、私の新聞に関する話題でもちきりでした。
「天狗様」
「やあ橙、顔が真っ赤ですよ」
「はい」
お酒なのか、熱くて火照っているのか。
一人で縁側に腰掛けていた私の隣にきて、橙は小声で話し始めた。
「ごめんなさい、こんなすごいことしてもらって」
「……謝ることはありません、結果的にもなかなか好評だったわけですから」
「…天狗様、気を使ってくださったんですよね」
「ええ?」
「だって、でなかったら私が持ってきたスクープなんて取り上げてもらえないだろうから…」
「………」
まぁ確かに…
「私、あんまりわからないけど新聞いっつも読んでるんです、難しいこといっぱい書いてあって、藍様と一緒じゃないとわからないことばっかりだけど…」
「ほう」
「藍様、へぇーって唸ることがあるんです、驚いてるんです天狗様の新聞で」
「……」
「私も藍様を驚かせるようなこと、何かしてみたくて…」
そういうことですか。
この子もこの子なりに新聞に対して興味を持っていたんですね。
「まぁねぇ……正直に言いますと、貴女の持ってきたスクープはかなり力不足でしたね」
「やっぱり…」
「ですが、今回は運よく使われる機会があったというわけです、情報を多く持っておくことに損はありません、もっと普段から情報を収集しておくと、大きな事件の存在に気がつけるかもしれません」
「……」
「もし何か大きなものを掴んだら私に言ってください、新米な貴女だけでは不安ですからねぇ」
「…はい!」
私は部下を持つつもりはありませんが、仲間を持つことも損にはならないでしょう。
「そういえば、藍様が自分も記事を書いてみたいって言っていました」
「え?」
「藍様なら、とっても面白いお話作れるんじゃないでしょうか!」
「……え、ええ……」
期待できるような、不安なような…。
後日、藍さんが担当した記事の特集は非常に評判がよかった。
魑魅魍魎には特にウケた。
小難しいなどというレベルではなく、解読不能な域に達していたその文は、文学の道を志していた若者を挫折させ、妖精達には漢字の勉強と言われ、引きこもりの人形遣いにはどこを縦読み?と唸らせたという。
一躍有名になったその記事はレギュラー化し、後に「天声妖語」と名づけられたという噂。
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>白玉桜
→白玉『楼』でしょうか?
だとしたら幽々子様の家ですよね
好きですよ、こういうの。