Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

家族なんだから

2010/05/02 23:00:49
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「ぬえちゃん、こんなところにいたの。夕ご飯の時間よ」


 寺の隅に隠れていたところを聖に見つかった。
 いつもどおり顔には柔和な表情を浮かべ、傍らに飛ぶ蝶と見事にマッチして穏やかな空気を作り出している。
 正体不明の私をどうやって見つけたのか知らないが、今はそんなことは関係ない。
 聖に見つかった私は、そのまま手を引かれ廊下を歩いてゆく。
 引きずられるといってもいい。
 手を握るというより、これは掴まれてるんじゃね?


「いいよ、私は! みんなよくわかんないし!」


 村紗とは知った顔だが、他の連中は知らない奴ばかりだ。
 なんでも、聖が封印される前に聖を慕って集まったらしいが、私には何の関係も無い。
 聖と行動しようと決めたが、馴れ合うつもりは無い。


「じゃあこれから仲良くなりましょう。みんないい子ばかりだから、きっと仲良くなれるわ」


 手を振りほどこうともがく私を気にする風でもなく、聖はどんどん廊下を進んでいく。
 というか、全く振りほどける気がしない。魔法使いってのはみんなこうなのか?


「だからいいって! 仲良くする必要なんか無いって!」

「そうはいかないわ。家族なんだもの」

「家族っ!?」

「そうよ。一緒に暮らしてるんだもの」


「そんなものいらない!」


 そこで私は声を荒げた。
 そんなものは要らない。
 家族とか、友達だとか、そんなものは要らない。
 そんなものできたら、正体不明じゃなくなっちゃうじゃないか。

 突然の大声に聖は驚いたのか、手が緩んでいた。
 声が聞こえたのか、奥から村紗や一輪が顔を覗かせる。
 私は手を振りほどき、反対方向に向いて全速力で逃げ出した。
 聖がなにやら叫んでいたが、聞かなかった。

















 私は家族を持ったことは無い。
 そもそも妖怪が家族を持つこと自体あまり無い。
 妖怪は、群れるだけだ。
 私にいたっては群れることもなく生きてきた。
 何故なら正体不明だから。
 そんな私が群れに加わったところで、誰も私がわからない。
 私の正体を知る術は無く、私の正体を知る者も無く。
 それが私だ。


 そんなことを考えていたら、またもや白蓮に見つかった。


「なんで、私の居場所がわかるの? 正体不明にしてるはずなのに」

「家族ですもの。家族の居場所くらいちゃんとわかるわ」


 寺の一部屋、その片隅に座り込む私に、そう言って白蓮は手を差し出す。
 今度は引っ張っていこうとしない。


「連れて行かないの?」

「村紗から聞いたわ、あなたは正体不明にこだわってるって。それを大事にしてるんだって」


 村紗に?
 私は正体不明のはずなのに、なんでそこまでバレてるのかな。
 私の正体不明も地に堕ちたか。


「それじゃ、駄目じゃん。そこまで知られちゃってたら、正体不明じゃなくなっちゃうじゃん。嫌だよ、そんなの。私じゃない」


 正体不明だからこそ、私はぬえだ。
 存在意義なんてつまらないものじゃない。
正体不明は私の矜持だ。
 だから、こればっかりは譲れない。


「正体不明の私に、関わらないで」












「じゃあ、正体不明で構わないわ」


そう言って聖は笑った。


「別に正体不明でも構わないから、一緒にご飯を食べましょう。みんなで一緒にご飯を作って、みんなで一緒に後片付けをしましょう。みんなで一緒にお話して、みんなで一緒に遊びに行きましょう」


 聖はしゃがみこんで、目線を私に合わせてきた。


「別にあなたが何者だろうと構わないわ。大切なのは、傍にいてくれること。自分が辛いとき、悲しいとき、そんな大事なときに、当たり前のように傍にいてくれる。それが家族なの」


 聖は笑っている。
 でも、その奥には、微かに悲しみが見えた。


「だから、私たちは無理にあなたを知ろうとしないわ。あなたが解って欲しいことだけ、私たちに教えて欲しい」


 そして聖は再び手を伸ばす。


「だから、みんなで一緒にご飯を食べましょう?」


 正体不明の私を、正体もわからないままに解ってくれる気がした。
 少し泣きそうな自分に気づいたが、少しくらいならいいかと思った。


















 こうして聖に手を引かれ、私はまた廊下を歩く。
 さっきと違って、正真正銘手を握られている。
 私は気まずくて、ずっと聖の足元を眺めていた。

 さっき見た、聖の悲しそうな目は、何を意味しているのだろうか。
 封印されていた孤独なのか、封印されることになったときの失望なのか。
 あるいはもっと前のことなのか。
 知りたいとも思ったが、それを私から聞こうという気には、何故かなれなかった。


 ――と、そのとき、視界の隅になにか映った気がした。
 辺りを見回しても何も無い。
 が、後ろにちらちらと何か見える気がする。
 体を限界まで捻って背中を見てみると、一匹の蝶が背中に止まっていた。

(これって……、たしか聖の……)

 よく見ると、それはたしかに聖が魔法で生み出した蝶だった。
 背中に止まっていたかと思うと、また周囲を飛び回っている。

(そういえば、最初に見つかったときも蝶が飛んでいた)

 あのときの蝶は、聖の周囲を飛んでいるものと思っていたが。
 それは私の周囲を飛んでいたのではないだろうか。


(くそっ! 聖の奴、何が家族だ! これで私の位置を探ってたんじゃないか!)



 見事に嵌められた気分になり、こんなもの潰してやろうとして――



 ――やめた。



(……家族か)


 いつか自分が、素直にみんなの所へ行けるようになるまで、付けておこうと思った。


(目印くらい、つけてやらないと。だって私はほら、正体不明だからね)


(でも、聖にくらいは――)


 そんなことを考えかけたから、それを振り払う気持ちで聖の蝶も潰した。










 ――家族なんだから、次は見つけてよね。




 そんな期待を込めて。
 こうして、正体不明は、自分の知らない『家族』の中へ足を踏み入れた。
「ねぇ村紗」
「何ですか、聖」
「私は、人間も妖怪も、神も仏もみんな仲良く暮らせたらいいと思ってるんです」
「ええ、知ってます」
「でも、幻想郷は、そんなこと望まなくてもいいのですね」
「?」
「だってもう、現実にあるんだもの」
「ああ、そうですね……」

「……だから、次は神様も家族に入れたいと思ってるんです」
「え?」
「仏様はいないけど、神様なら幻想郷にわんさかいるんですから」
「あの、聖?」
「とりあえずあの影の薄い赤い二人組みのうちどちらかを……」
「聖いいいぃぃぃぃぃ!!!」
「ふふふ、冗談よ、冗談」

「ずっと――これからも末永く――、みんなで暮らしていけるのね」




正直、家族だからって何でもかんでも話す必要はないと思います。
だって家族なんだから。
なんか流れがベタで、本当に残念です。
が、「家族」について書きたかったっていう、実際はそれだけなんで、満足です。
妙蓮寺の面々は、仲良さそうで大好きです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
梔子
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
家族の大切さが改めて分かりました…
とっても素晴らしかったです!
2.ぺ・四潤削除
聖がはやっぱり幻想郷のお母さんだな……こんなこと言われたら胸に飛び込んで泣いちゃうぞ……

でも聖! 滅っっ!です! 神様に対して冗談でもそんなこと言っちゃいけません!
あれ? でもスカーレット姉妹って神様だっけ?
3.名前が無い程度の能力削除
家族だからこそ、命蓮寺のメンバーは誰一人欠けてはいけないんだろうなあ。  
赤い二人組
↑おそらく秋姉妹ではないかと
4.ぺ・四潤削除
>3
いや、軽いボケだったんだけどマジツッコミされると困っちゃう……
ほら、直射日光の下に出ないから影が出来ても薄いっていう……(ゴニョゴニョ
5.名前が無い程度の能力削除
赤い二人組・・・一体誰なんだー(棒読み)