Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

十六夜日記

2010/05/02 00:29:21
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 ――7月11日

 今日は天気が良かったので、お嬢様と一緒に湖へ遊びに行った。
 水辺に木製のテーブルと椅子を置き、湖上で遊んでいた妖精を招いて、小さなお茶会を開催した。
 茶菓子を雑に食い散らかす妖精の顔を見つめながら、お嬢様は静かに微笑んでいた。
「お前は……変わらないでいてくれるのね」
 そう言うお嬢様の笑顔に、かつての明るさは一片も見えなかった。


 ――7月12日

 私は驚きで言葉を無くした。
 掃除の為にお嬢様の部屋へ訪れてみると、お嬢様が自らの手首を喰い千切っていたのだ。
 ぶちゅーっと間抜けな音を発てながら、噴水の様に宙を舞う血。血。血。
 真っ白な絨毯をその鮮血で染め上げながら、お嬢様は静かに泣いていた。
 涙を流しながら、泣き疲れた子供の様に無言で立ち尽くしていた。
 洗ったばかりのメイド服が血に汚れるのも気にしないで、私はその肩を抱いた。
 昔と変わらない、その小さな小さな肩を。
 昔と変わらない、精一杯の優しい笑顔で。
 

 ――7月13日

 久しぶりに太陽が顔を出したこの日。突然、屋敷の中からお嬢様が消えた。
 息を切らして湖へ向かうと、そこには一着のドレスが落ちていた。
 何かの煤で汚れたその桃色のドレスは……間違いなく私の見慣れた※※※※※※※※※


 ※※嘘だ※※嘘だ嘘だウソだ嘘だ嘘だ嘘だ※※※

※※※※  ※※  ※※※    ※※※

 ※※※※※  ※※  ※  ※※※  ※



 ――7月13日

 屋敷にお嬢様がいない。どうしたんだろう。
 あの人の気紛れには慣れっこだけれど、今日は陽射しが強いから心配だ。
 明日になっても帰って来ない様なら、探しに出てみようと思う。
 全く……困った800才様だ。


 ――7月13日

 昼食を部屋へ持っていくと、お嬢様の姿が消えていた。
 また、いつもの放浪癖だろうか。
 全く……従者泣かせのお嬢様である。


 ――7月13日

 お嬢様が消えた。どうしたんだろう。


 ――7月13日

 お嬢様が居なくなってしまっ※※おかしい※※※※


 ――7月13日

 お嬢様が※※※※※  ※  ※※※


 ――7月13日

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 ※※※※※※※※  ※※※※  ※※※


 ――7月13日

 何も無かった。


 ――7月13日


 ――7月13日
 ――7月13日
 ――7月13日
 ――※※※※※



 ――7月13日

 どうして私はお嬢様を救えなかったのだろう。
 どうして300年以上一緒にいたのに、あの時お嬢様の変化に気付けなかったのだろう。
 私はお嬢様の一番の理解者であった筈なのに。
 どうして。何故。
 私は心からお嬢様を愛していたのに。
 どうして。どうして。どうして。どうして! どうして――



 どうして、時は戻らないのだろう。



 
 ――7月30日。

 屋敷の庭に、お嬢様のお墓を作ってあげた。
 門番の隣は嫌だろうから、この屋敷の頭脳と妹様に挟まれる形で。
 十字の墓石を建てて、沢山の花を植えた。お嬢様の大好きだった赤色の薔薇で、お墓の周りを一杯にした。
 ポンポン。
 そんな作業をしていると、誰かが私の肩を叩く感触がした。
 昔お嬢様がよくやっていた様に、「一緒に遊びなさい」と命令された気がした。
 大丈夫ですよ、お嬢様。私は……もうすぐ貴方を抱きしめにいきますから。


 ――8月6日

 静かになった屋敷の書斎。以前お嬢様が好んでしていた様に、その部屋のロッキングチェアに深く腰掛けて、私は古いアルバムを開いた。
 その中は――止まった時で満たされていた。まだ幸せだったあの頃で満たされていた。
 ポタリポタリ。
 涙が頬から落ちた。涙が零れて止まらなくなった。
 子供の様に大きな声を上げて、私はただただ泣き続けた。
 今は亡き大切な主人を想い、泣き続けた。
 
 お嬢様、大好きです。頼りないメイドで……ごめんなさい。


 ――8月13日

 私は――なくのを止めた。



    ◆



「あたいったらザ・ストロングェストね!」

「お、置いてかないでよぉ~」

 風の様に早く空を抜けていく氷の妖精を、緑色の髪をした大妖精が追い掛ける。
 日々成長を重ねる氷精の力は、今や幻想郷でも指折りものである。
 別に本気を出していなくとも、ちょっと力の強い妖精程度が追い付ける訳が無い。

「ん?」

 湖に向かっていたはずが、突然進行方向を変え、無人の寂れた屋敷の庭へ降り立つ氷精。
 大妖精が大慌てでその背中を追いかけると、庭に並んだ沢山のお墓を前にして、彼女は無言で立ち尽くしていた。
 いつになく真剣な顔で、ただ墓石を見つめていた。

「ねぇ、このお墓の人達って……」

「大ちゃんはちょっとここで待ってて」

 音もなくその場から消え去り、音もなく氷精は帰ってきた。
 その手中にあるのは、煤の様なもので汚れたメイド服と銀のナイフ。
 桃色のお墓の前で行儀悪く豪快に座り込み、氷精はその墓石へメイド服を強く巻き付けた。
 そして手にしたナイフを地面に差し込み、二度、大きな拍手を響かせた。

「一人仲間外れはかわいそうでしょ? このバカ吸血鬼」

 そう氷精が言い終えた途端。ナイフの銀色に亀裂が入り、刃は粉々に砕け散った。
 地面へと降りかかっていく、キラキラと光る銀色の破片。
 その様子はまるで、たくさんの涙が地面へ落ちていく様で……

 こうして――1つの運命(じかん))が終わりを告げた。
 
 初めまして、藤八景と言います。読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます。

 今まで読む側でしたが、これからは少しづつ投稿していけたらな、と思います。

 読みづらい文、訳の分からない話ですいません……精進します。
 
藤八景
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
うーん、向こうでも皆一緒に幸せであると良いなぁ…。
2.名前が無い程度の能力削除
話の内容は悪くないけど、もう少しまともな書き方できんもんかね?
3.名前が無い程度の能力削除
墓場で柏手ってどうなんでしょ