太陽が燦々とその威光を振り下ろす夏。幻想郷は至る所が茹だるような暑さに包まれていた。
普段は陰鬱な雰囲気に包まれている古道具屋も例外ではなく、その輝きで充分に熱せられた店の中では、偏屈な店主が今にも蒸し焼きになろうとしていた。
一応半妖の身の上である為、普通の人間に比べて幾ばくかは環境の変化に強い霖之助。とは言え人間よりも臨界点が高いと言うだけで、暑い事には代わりがない。そんな訳でこの熱気にはほとほと参りきっていた。
熱気渦巻く店内で、次第に朦朧としてくる霖之助の意識。この暑さがこのまま続くと、自分は一体どうなるのか。終いには全身の血液が沸騰し始めるのではないだろうか。そうなればいかに半妖の身としても一巻の終わりだろう。自らの創り上げた世界である香霖堂。その世界に抱かれながら最期を迎えられるのならば、死に様としては中々上等なものかも知れない。そんな考えが、茹だった霖之助の脳内を駆け巡る。
他人から見れば間抜けだが、本人からしてみれば悲壮な覚悟を決める霖之助。彼に救いの手が差し伸べられたのは、そんな折だった。
◆ ◆ ◆
狭い店内を縦横無尽に飛び回る薄氷の羽。その青く透き通った結晶が羽ばたく度に、涼やかな風が生まれる。暑さに取り殺されそうになっていた霖之助にとって、その涼風はまさに命の息吹だった。
氷の精であるチルノ。彼女が香霖堂を訪れたのは、単なる暇潰しの気まぐれだった。ふらふらと森を漂っていたら見付けた、何やらごちゃごちゃした建物。彼女の勘はそこで「何か面白いものがある!」と告げ、何より本能に忠実なままに生きる彼女はその欲求に素直に従ったのだった。
普段ならば妖精など営業妨害にしかならないからと追い返す霖之助も、訪れたのが氷精ともなれば話が違う。何しろ彼女が店内に居てくれれば、いくら店外が灼熱の熱気に包まれようとも快適に過ごす事が出来るのだ。
そんな訳で霖之助は、彼に出来る精一杯で彼女の暇潰しに付き合う事にしたのだった。
◆ ◆ ◆
チルノが道具を漁り始めてから暫く経つ。既に太陽は南中を通り越し傾き始めたのだが、その日差しは衰えない。しかしチルノの元気が放つ輝きもまた、その陽光に勝るとも劣らないものだった。
妖精とは好奇心の塊である。その妖精の中でもとりわけ強い好奇心を持つチルノにとって、この香霖堂はまるで宝の山。目も眩むような量の未知の物体に興味を引かれるのも、至極当然の流れだった。
チルノは好き勝手に店内を駆け巡り、目に付いたものを片っ端から弄くり廻す。そして時たま霖之助に説明を求めては、また次の道具に手を伸ばす。先程からそれの繰り返しだった。
そして霖之助はと言うと、チルノの一挙一動に冷や冷やさせられっぱなしだった。何しろ彼女の道具の取り扱い方と言えば、幼い子供のそれと同等なのだ。興味を引いたものはとにかく手に取り、興味が尽きればぞんざいに放り出す。店主としては気が気でない。確かに涼みを求めたのは霖之助自身だが、これでは些か心臓に悪い。
そんな霖之助を尻目に、次にチルノが目を付けたのは堆い山の中から見つけ出した小さな道具。外の世界の札入れであるそれは二つ折りとなっており、その接合面には彼女が見た事もないザラザラした何かがくっついていた。
彼女がその二つ折りになった道具を開くと、周囲にはバリバリという音が響き渡る。
「これ一体何だ? バリバリしてる」
興味津々のチルノとは裏腹に、バリバリというその音が不快なのか、霖之助は止めてと言わんばかりに顔をしかめた。
「それはマジックテープ」
いつまでも活発に飛び回るチルノに疲弊したのか、やや突っ慳貪に受け答えする霖之助。当のチルノは全く意に介していないようだが。
「ん……マジック? つまり……魔法でくっついてるって事ね! 流石あたい! 聞いただけで判ったわ!」
「いや、それは違う」蘊蓄蒐集家の性か、間違った知識は反射的に否定しようとする霖之助。しかし彼女の楽しそうな笑顔を見ると、思わず口を噤んでしまう。フムン、彼女がそう思うのならそうなのだろう。少なくとも彼女の世界では。
折角チルノも楽しそうなのだし、何よりここで機嫌を損ねて帰られては、また蒸し風呂のような店内に逆戻りだ。それは非常に困る。そう考えた霖之助は、精々チルノのご機嫌をとる事に決めた。あの暑さを我慢するぐらいならば、自分を律した方がましだと自らに言い聞かせながら。
普段は陰鬱な雰囲気に包まれている古道具屋も例外ではなく、その輝きで充分に熱せられた店の中では、偏屈な店主が今にも蒸し焼きになろうとしていた。
一応半妖の身の上である為、普通の人間に比べて幾ばくかは環境の変化に強い霖之助。とは言え人間よりも臨界点が高いと言うだけで、暑い事には代わりがない。そんな訳でこの熱気にはほとほと参りきっていた。
熱気渦巻く店内で、次第に朦朧としてくる霖之助の意識。この暑さがこのまま続くと、自分は一体どうなるのか。終いには全身の血液が沸騰し始めるのではないだろうか。そうなればいかに半妖の身としても一巻の終わりだろう。自らの創り上げた世界である香霖堂。その世界に抱かれながら最期を迎えられるのならば、死に様としては中々上等なものかも知れない。そんな考えが、茹だった霖之助の脳内を駆け巡る。
他人から見れば間抜けだが、本人からしてみれば悲壮な覚悟を決める霖之助。彼に救いの手が差し伸べられたのは、そんな折だった。
◆ ◆ ◆
狭い店内を縦横無尽に飛び回る薄氷の羽。その青く透き通った結晶が羽ばたく度に、涼やかな風が生まれる。暑さに取り殺されそうになっていた霖之助にとって、その涼風はまさに命の息吹だった。
氷の精であるチルノ。彼女が香霖堂を訪れたのは、単なる暇潰しの気まぐれだった。ふらふらと森を漂っていたら見付けた、何やらごちゃごちゃした建物。彼女の勘はそこで「何か面白いものがある!」と告げ、何より本能に忠実なままに生きる彼女はその欲求に素直に従ったのだった。
普段ならば妖精など営業妨害にしかならないからと追い返す霖之助も、訪れたのが氷精ともなれば話が違う。何しろ彼女が店内に居てくれれば、いくら店外が灼熱の熱気に包まれようとも快適に過ごす事が出来るのだ。
そんな訳で霖之助は、彼に出来る精一杯で彼女の暇潰しに付き合う事にしたのだった。
◆ ◆ ◆
チルノが道具を漁り始めてから暫く経つ。既に太陽は南中を通り越し傾き始めたのだが、その日差しは衰えない。しかしチルノの元気が放つ輝きもまた、その陽光に勝るとも劣らないものだった。
妖精とは好奇心の塊である。その妖精の中でもとりわけ強い好奇心を持つチルノにとって、この香霖堂はまるで宝の山。目も眩むような量の未知の物体に興味を引かれるのも、至極当然の流れだった。
チルノは好き勝手に店内を駆け巡り、目に付いたものを片っ端から弄くり廻す。そして時たま霖之助に説明を求めては、また次の道具に手を伸ばす。先程からそれの繰り返しだった。
そして霖之助はと言うと、チルノの一挙一動に冷や冷やさせられっぱなしだった。何しろ彼女の道具の取り扱い方と言えば、幼い子供のそれと同等なのだ。興味を引いたものはとにかく手に取り、興味が尽きればぞんざいに放り出す。店主としては気が気でない。確かに涼みを求めたのは霖之助自身だが、これでは些か心臓に悪い。
そんな霖之助を尻目に、次にチルノが目を付けたのは堆い山の中から見つけ出した小さな道具。外の世界の札入れであるそれは二つ折りとなっており、その接合面には彼女が見た事もないザラザラした何かがくっついていた。
彼女がその二つ折りになった道具を開くと、周囲にはバリバリという音が響き渡る。
「これ一体何だ? バリバリしてる」
興味津々のチルノとは裏腹に、バリバリというその音が不快なのか、霖之助は止めてと言わんばかりに顔をしかめた。
「それはマジックテープ」
いつまでも活発に飛び回るチルノに疲弊したのか、やや突っ慳貪に受け答えする霖之助。当のチルノは全く意に介していないようだが。
「ん……マジック? つまり……魔法でくっついてるって事ね! 流石あたい! 聞いただけで判ったわ!」
「いや、それは違う」蘊蓄蒐集家の性か、間違った知識は反射的に否定しようとする霖之助。しかし彼女の楽しそうな笑顔を見ると、思わず口を噤んでしまう。フムン、彼女がそう思うのならそうなのだろう。少なくとも彼女の世界では。
折角チルノも楽しそうなのだし、何よりここで機嫌を損ねて帰られては、また蒸し風呂のような店内に逆戻りだ。それは非常に困る。そう考えた霖之助は、精々チルノのご機嫌をとる事に決めた。あの暑さを我慢するぐらいならば、自分を律した方がましだと自らに言い聞かせながら。
でも、世界観は共有しているんでしょうかね。チルノかわいいよチルノ。
>タイトルで 落ちてる。
ですよねー。