これは、「とある人形使いのお泊り その4」の続編となっております。先にそちらを一読することをお勧めいたします。
◇
森の中を霊夢の後をついて歩きながら、アリスは首を傾げる。「ついて来て欲しい場所がある」、そう聞いた時はおそらく何か欲しい物があって、よっても良いかとどうかを尋ねて来たのだろうとアリスは考えていた。言うまでもなく神社の主は霊夢であり、自分はただの居候である。断る権利は無いし、断る心算も無かった。当然二つ返事で了承したアリスだったが、彼女は自分の考えを直ぐに改めた。
返事を聞いた後嬉しそうに笑った霊夢は、里を後にしてドンドン森へと歩を進めて行ったのだ。自分の予想が外れた事と、霊夢がどこに向っているか解らないという二つの理由で、少し躊躇った彼女だったが、ついて行くと言ったのは自分なのだから行くしかない。そう結論付けると、急いで霊夢の後を追った。
そして現在。楽しそうに鼻歌を歌いながら歩く霊夢の背中を見ながら、もう一度首を傾げる。一体何がそんなに楽しいのか、別に何か珍しいものがあるわけでもないだろう。そんなものがあったら、霊夢よりも早くに魔理沙が騒いでいるはずだ。いや、魔理沙でなくとも見た事の無いものを見たら、誰かに話したくはなるだろう。そんな話を聞いた事は一切ないし、そもそも霊夢がそんなものに惹かれるとも思えない。
彼女は少々冷静すぎるのだ。悪く言えばドライな性格……そのため、変なお世辞も使わないし、自分の得にならないと思う事には手を出さない。いくら珍しくても使い方や価値が分からないものは、彼女にとってはゴミ同然である。
それは、他人と接する時の態度にも表れているため、始めの頃は気に入らなかったし恐怖も感じた。
無論、今となってはそんな事は微塵も感じないし、その性格も彼女の魅力の一つだと認識している。その証拠に、何時でも凛としている彼女はとても格好良いのだ。
そこまで考えると、アリスは頬を紅く染めて勢いよく首を横に振る。何を考えている、そんな事はどうでも良いだろう!……いや、どうでも良くは無い。良くは無いが、少なくとも今考える事ではない。今考えなければいけないのは、一体どこに向っているのか、だ。
少々脱線はしたが、元のレールに戻るための冷静さはあったらしく、彼女は再び目的地を考えようとしたが、直ぐに止めた。
考えるまでも無いではないか、訊けば良いだけだ。別に遥か前方にいるわけでもない、たった二、三歩の距離なのだ。
「ねぇ、霊夢?」
「ん?何?」
アリスの問いかけに、クルリと振り向いた霊夢は満面の笑みを浮かべて、アリスを見つめる。その表情はいつもの彼女とは違い、年相応の幼さがあり形容しがたい可愛らしさがあった。
一瞬見惚れそうになったが、理性をフル動員して何とか抑える事に成功した。声をかけて、何も言わなければ変に思われてしまう。ただでさえ、良い関係とは言えないのだ。これ以上の―評価はゴメンこうむりたい。
「楽しそうだけど、どこに向ってるのかなって思って」
「あ、そうか。そう言えば何にも言ってなかったわね。う~ん、教えても良いんだけど……」
霊夢はそう言ってから少し考える仕草をとると、数秒後に悪戯っぽい笑みを浮かべて、人差し指を自分の唇に当てる。
「着いてからのお楽しみ……って事で」
◇
「アリス、着いたわよ」
霊夢がふと足を止め、発した言葉にアリスは周囲を見渡す。そこは何の変哲も無い、ただの丘。高いわけでも低いわけでもなく、どこにでもありそうな平凡な丘である。勿論、辺り一面の鈴蘭も、その花に囲まれて暮らす可愛らしい人形もいない。
そのため、特別な感想がでてくるわけも無く、アリスはただ呆然と霊夢を見つめる事しかできなかったが、霊夢は満足そうにその場に横になった。
「ここってさ、私が子供の頃……って言っても、アリスからしてみたらまだ子供か。まぁ、今よりももっと小さな頃よく遊びに来てた場所なのよ」
懐かしむ様に目を閉じると、霊夢はポツリポツリとこの丘での思い出話を始めた。小さな頃から、博霊の巫女としての厳しい修行に明け暮れていた霊夢を、師であった母親が遊びに連れて来てくれた事、失敗したり叱られた時によくここに来て泣いていた事など、彼女はニコニコと笑いながら話す。
霊夢の話に耳を傾けながら、アリスは思う。この場所は霊夢にとって大切な場所なのだ。魔理沙からこの場所の話を聞いた事は無い。それはきっと、霊夢が今まで誰にも話すことなく、自分だけの宝物にしてきた証拠だ。
そして理由は分からないが、自分をそこに招いてくれた。魔理沙でも文でもなく自分を招いてくれたのだ。それが何よりも嬉しい。
自分は信用されているのだ、そうでなければこんな大切な場所に連れられたりはしない。そう考えると、今までの悩みは何だったのか。霊夢に嫌われているかも知れない、などと悩んでいた自分が馬鹿らしく思えて来た。
アリスは心の中で苦笑を浮かべると、横になっている霊夢の頬を抑え、唇を重ねた。
◇
それから、二人で談笑して神社に戻る頃にはすっかり日が落ちていた。まだ、昼にもならない内に出かけたはずの買い物で、実に半日以上も潰したのだ。これには、流石の霊夢も苦笑するしかないようで、頭をポリポリ掻いている。
それに合わせる様にアリスも肩を竦めると、溜息を吐く。長話をし過ぎた……しかし、二人ともその事を後悔はしていない。そのおかげで、二人があると思い込んで作っていた壁がなくなったのだから。
後日、家に帰ったアリスが見たものは、自分が神社に出かけた時と寸分変わらない我が家だった。否、状況は悪化していた。キノコのせいか、或いは別の何かのせいか、家中に腐乱臭が漂っておりとても生活できるような状態ではなかった。
それでも必死で自分の部屋に向った彼女の目に飛び込んで来たのは、机の上に置かれた一つの封筒だった。中を開けてみると、乱雑な文字で書かれた一枚の手紙が出てきた。
『アリスへ
予想以上に手強く、これ以上ここに居たら私までおかしくなりそうだったから、非難する事にしたぜ。
自分の家なんだから、自分で何とかしな。
PS.本とかは痛まない様に私が管理しておくから安心しろよな。
それじゃ、元気で暮らせよ。
魔理沙より』
その日、魔法の森中に響き渡るほどの怒声が起こったとか起こっていないとか。
◇
「それで?何で紅魔館に来るのかしら?」
「良いじゃないか。神社やこーりんの所だと直ぐに見つかるだろうし。それに私とお前の仲じゃないか」
「ふぅ……ま、言っても聞かないでしょうし、お嬢様には私から言っておくわ。ただし……」
「ただし?何かあるのか?」
「働かざる者食うべからず、紅魔館にいる間メイドとして働いて貰うわ。大丈夫、一人前のメイドになれる様にしっかり教育してあげるから」
「いや、私は別にメイドになりたく……って、お前目が据わってるぞ!?」
「うふふ……手取り足取り、教えてあげるからね。それじゃ、私の部屋に行きましょうか」
~完~
◇
森の中を霊夢の後をついて歩きながら、アリスは首を傾げる。「ついて来て欲しい場所がある」、そう聞いた時はおそらく何か欲しい物があって、よっても良いかとどうかを尋ねて来たのだろうとアリスは考えていた。言うまでもなく神社の主は霊夢であり、自分はただの居候である。断る権利は無いし、断る心算も無かった。当然二つ返事で了承したアリスだったが、彼女は自分の考えを直ぐに改めた。
返事を聞いた後嬉しそうに笑った霊夢は、里を後にしてドンドン森へと歩を進めて行ったのだ。自分の予想が外れた事と、霊夢がどこに向っているか解らないという二つの理由で、少し躊躇った彼女だったが、ついて行くと言ったのは自分なのだから行くしかない。そう結論付けると、急いで霊夢の後を追った。
そして現在。楽しそうに鼻歌を歌いながら歩く霊夢の背中を見ながら、もう一度首を傾げる。一体何がそんなに楽しいのか、別に何か珍しいものがあるわけでもないだろう。そんなものがあったら、霊夢よりも早くに魔理沙が騒いでいるはずだ。いや、魔理沙でなくとも見た事の無いものを見たら、誰かに話したくはなるだろう。そんな話を聞いた事は一切ないし、そもそも霊夢がそんなものに惹かれるとも思えない。
彼女は少々冷静すぎるのだ。悪く言えばドライな性格……そのため、変なお世辞も使わないし、自分の得にならないと思う事には手を出さない。いくら珍しくても使い方や価値が分からないものは、彼女にとってはゴミ同然である。
それは、他人と接する時の態度にも表れているため、始めの頃は気に入らなかったし恐怖も感じた。
無論、今となってはそんな事は微塵も感じないし、その性格も彼女の魅力の一つだと認識している。その証拠に、何時でも凛としている彼女はとても格好良いのだ。
そこまで考えると、アリスは頬を紅く染めて勢いよく首を横に振る。何を考えている、そんな事はどうでも良いだろう!……いや、どうでも良くは無い。良くは無いが、少なくとも今考える事ではない。今考えなければいけないのは、一体どこに向っているのか、だ。
少々脱線はしたが、元のレールに戻るための冷静さはあったらしく、彼女は再び目的地を考えようとしたが、直ぐに止めた。
考えるまでも無いではないか、訊けば良いだけだ。別に遥か前方にいるわけでもない、たった二、三歩の距離なのだ。
「ねぇ、霊夢?」
「ん?何?」
アリスの問いかけに、クルリと振り向いた霊夢は満面の笑みを浮かべて、アリスを見つめる。その表情はいつもの彼女とは違い、年相応の幼さがあり形容しがたい可愛らしさがあった。
一瞬見惚れそうになったが、理性をフル動員して何とか抑える事に成功した。声をかけて、何も言わなければ変に思われてしまう。ただでさえ、良い関係とは言えないのだ。これ以上の―評価はゴメンこうむりたい。
「楽しそうだけど、どこに向ってるのかなって思って」
「あ、そうか。そう言えば何にも言ってなかったわね。う~ん、教えても良いんだけど……」
霊夢はそう言ってから少し考える仕草をとると、数秒後に悪戯っぽい笑みを浮かべて、人差し指を自分の唇に当てる。
「着いてからのお楽しみ……って事で」
◇
「アリス、着いたわよ」
霊夢がふと足を止め、発した言葉にアリスは周囲を見渡す。そこは何の変哲も無い、ただの丘。高いわけでも低いわけでもなく、どこにでもありそうな平凡な丘である。勿論、辺り一面の鈴蘭も、その花に囲まれて暮らす可愛らしい人形もいない。
そのため、特別な感想がでてくるわけも無く、アリスはただ呆然と霊夢を見つめる事しかできなかったが、霊夢は満足そうにその場に横になった。
「ここってさ、私が子供の頃……って言っても、アリスからしてみたらまだ子供か。まぁ、今よりももっと小さな頃よく遊びに来てた場所なのよ」
懐かしむ様に目を閉じると、霊夢はポツリポツリとこの丘での思い出話を始めた。小さな頃から、博霊の巫女としての厳しい修行に明け暮れていた霊夢を、師であった母親が遊びに連れて来てくれた事、失敗したり叱られた時によくここに来て泣いていた事など、彼女はニコニコと笑いながら話す。
霊夢の話に耳を傾けながら、アリスは思う。この場所は霊夢にとって大切な場所なのだ。魔理沙からこの場所の話を聞いた事は無い。それはきっと、霊夢が今まで誰にも話すことなく、自分だけの宝物にしてきた証拠だ。
そして理由は分からないが、自分をそこに招いてくれた。魔理沙でも文でもなく自分を招いてくれたのだ。それが何よりも嬉しい。
自分は信用されているのだ、そうでなければこんな大切な場所に連れられたりはしない。そう考えると、今までの悩みは何だったのか。霊夢に嫌われているかも知れない、などと悩んでいた自分が馬鹿らしく思えて来た。
アリスは心の中で苦笑を浮かべると、横になっている霊夢の頬を抑え、唇を重ねた。
◇
それから、二人で談笑して神社に戻る頃にはすっかり日が落ちていた。まだ、昼にもならない内に出かけたはずの買い物で、実に半日以上も潰したのだ。これには、流石の霊夢も苦笑するしかないようで、頭をポリポリ掻いている。
それに合わせる様にアリスも肩を竦めると、溜息を吐く。長話をし過ぎた……しかし、二人ともその事を後悔はしていない。そのおかげで、二人があると思い込んで作っていた壁がなくなったのだから。
後日、家に帰ったアリスが見たものは、自分が神社に出かけた時と寸分変わらない我が家だった。否、状況は悪化していた。キノコのせいか、或いは別の何かのせいか、家中に腐乱臭が漂っておりとても生活できるような状態ではなかった。
それでも必死で自分の部屋に向った彼女の目に飛び込んで来たのは、机の上に置かれた一つの封筒だった。中を開けてみると、乱雑な文字で書かれた一枚の手紙が出てきた。
『アリスへ
予想以上に手強く、これ以上ここに居たら私までおかしくなりそうだったから、非難する事にしたぜ。
自分の家なんだから、自分で何とかしな。
PS.本とかは痛まない様に私が管理しておくから安心しろよな。
それじゃ、元気で暮らせよ。
魔理沙より』
その日、魔法の森中に響き渡るほどの怒声が起こったとか起こっていないとか。
◇
「それで?何で紅魔館に来るのかしら?」
「良いじゃないか。神社やこーりんの所だと直ぐに見つかるだろうし。それに私とお前の仲じゃないか」
「ふぅ……ま、言っても聞かないでしょうし、お嬢様には私から言っておくわ。ただし……」
「ただし?何かあるのか?」
「働かざる者食うべからず、紅魔館にいる間メイドとして働いて貰うわ。大丈夫、一人前のメイドになれる様にしっかり教育してあげるから」
「いや、私は別にメイドになりたく……って、お前目が据わってるぞ!?」
「うふふ……手取り足取り、教えてあげるからね。それじゃ、私の部屋に行きましょうか」
~完~
次は萃天でお願いします!
美しく締めくくられましたね。大切な思い出の場所に案内するというのは、単純に好きだ惚れたと言葉にするよりもずっと叙情的で、この二人にぴったりだったと思います。
それにしても、約束を放棄した上で窃盗までして逐電するとは、この魔理沙はクズすぎる……。
天アリがみてみたいです。
手紙のところで非難となってましたが、避難かな?
既にある程度構想が出来ているのなら、文椛or萃天orルーレミを書いてしまった方が良いものができると思いますよ、氏の話なら期待できます。
しかし敢えてリクエストするなら……ゆうかれいむとかダメカナ
萃天が気になるかも、なんにせよ期待させて頂きます