Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

九尾の狐の嫁入り

2010/04/27 16:05:20
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     九尾の狐の嫁入り

「暇ね」


つい口から出た言葉。それは今の状態を的確に表していた。

口だけでなく、うつ伏せになって両手を伸ばし、体でも暇である事を全力で表している。


「紫様、スカートが捲れ上がっておりますよ?」

「いいわよー誰も見ていないもの」

「私が見ているではありませんか」


私の式である、八雲 藍がそっと捲れ上がったスカートを直してくれる。

残念なことに、自慢の脚線美が隠れてしまった。今度からミニスカートを穿くべきか、藍に聞いてみようか。


「藍、今すぐミニスカートを用意しなさい」

「お歳を数えてから言ってください」

「百から先は覚えていないわ」

「カッコよくないですから」

「ひどいわ~。私はいつでも心は少女なのに」


足をバタバタさせてとりあえず抗議してみる。

またスカートが捲れ上がったが気にしない。

だって見ているのは藍だけだから。


「紫様……最近だらけ過ぎではありませんか?」

「だって暇なんだもの~」

「では異変など起こされては如何でしょう」

「幻想郷の管理者である私が?」

「ほら、よく言うではありませんか。八雲家の令嬢である前に、私は一人の女の子なの! 私を、本当の私を見て!」


……迫真の演技だった。

藍は両手を胸の前で合わせ、涙目になって訴えている。もう一度言うけれど迫真の演技だった。ゆえに


「恥ずかしい子ね。親の顔が見てみたいわ」


親とは私のことになるのだろうけれど。

鏡には幻想郷で一番麗しい女性しか映らないから、今更確認するまでもない。


「こほん。今のはお忘れ下さい」

「膝枕してくれたら忘れるかもしれないわ」

「申し訳ありませんが、膝の上は未来永劫、予約で埋まっておりますので」

「この親不孝者。藍なんかとっととお嫁に行ってしまいなさい」

「しかし紫様、それでは……」


本当に、我ながら何をしたいのか分からない。

藍をずっと傍に置いておきたいのか、それとも藍の結婚を祝福したいのか。

……つまり、そういう事なのだ。

先週の晩、藍は結婚を許してほしいと言ってきた。

相手は……まったくどうしてよりにもよってあの子なのだろう。

いや、あの子だからこそ、藍は惹かれてしまったのだ。

藍とは真逆の性格であるあの子だから……


「紫様、お考え直していただけませんか?」

「嫌よ。藍が居ない幻想郷なんて必要ないわ。滅!」

「いやいや、規模が大きくなっているではないですか! この前は、あの人の家に殴りこみに行くと……」

「そうだったかしら? なんでもいいわ~暇だもの。藍が居なくなったら毎日が暇になってきっと死んじゃうわ~」


 あぁ、だだっこだ。私は今ただの子供になっている。

ずっと長い間、藍の親としてこれでもがんばっていたつもりだった。

それが今では子供のように、我儘を言っている。

もちろん自覚はしているし、私には似合わない行動だと思っている。

それでも……やっぱり寂しいものは寂しい。

藍の言葉を借りるなら、妖怪の賢者、幻想郷の母である「八雲 紫」である前に、私は藍の家族なのだから。

親と言いきれない所がすでに悲しいけれど。


「ですから、一緒に住みませんか?」

「毎日ラブラブちゅっちゅを見せつけられたり、夜な夜な不埒な声が響く中、私にどうしろと言うのかしら? それか、その中に混ざってもいいのかしら?」

「……分かりました。紫様がそう仰られるのでしたら、結婚は諦めます」


チクリ。

胸に鋭い痛みが走った。


「あの人と、紫様。両方を取るという私の考えが甘い。そう仰られるのでしたら、私は紫様を取りましょう」


そうではない。そうではないのよ藍。


「私は妖怪の式。人間に恋をしてしまった式。どんなことがあっても、紫様の式であることは変えられません。ゆえに私は、常に紫様と共にありましょう」


そんな悲しい事を、泣きそうな顔で言わないで。

貴方は貴方なのだから。

でも、その一言が言えない。

だって、こんなにも私は安心してしまった。ひどい妖怪だ。


「あの人には言っておきます。次は人間の人と、恋をするように、と」


藍の声はもう消え入りそうだった。

大きな耳も、柔らかい尻尾も、力なく落ち込んでいる。


チクリ


胸が痛い。

分かっている。分かっているわ。

私の心から言葉が流れ出る。


自分自身を惑わす言葉と、伝えるべき伝言が。


私はただ……貴方が幸せなら、それでいいのよ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



雨が降っている。

今日は藍の結婚式の日だというのに……

娘の結婚だもの。盛大にやらなくてはと、森の中を式場へ向かって、大名行列のように知り合いの妖怪達と歩いている。

本日の主役の藍と結婚相手は、籠の中で揺られながら式場はまだかと、待ちくたびれていることだろう。

私はその様子を、式場である博霊神社から、隙間を通して見ていた。

しんしんと雨が降る中、私はその時を、じっと待っていた。



 雨が降っている。

今日は私の結婚式の日だというのに。まったく、天気の神様も意地悪なもんだ。

さて、紫様に許可をもらってから、わずか二日目だ。それが今なのだが、とりあえず言えることは……


「暑いな」

「……」


ジメジメとした大気の中、籠に入っているのもあるがすごく暑かった。

隣に居る私の結婚相手も、暑いからか先ほどから、一言も話していない。

……よく見たら、緊張でガチガチになっているだけだった。

ふふふ、ちょっと可愛いかもしれない。


「可愛いな」

「!」


びっくりした表情でこちらを見る目は、私だけを写していた。

吸い込まれるように瞳を合わせる。

そしてどちらとなく顔が近付き……


ガタンッ


「うわっ」


急に籠に衝撃が走った。どうやら地面に落とされたようだ。

籠を運ぶ妖怪が躓いたのか、まさか籠を吊るしている紐が切れたのではないだろうな。

切れるとか縁起でもない。


「す、すまない。どうやら吊るしていた紐が切れたようだ。すぐに直すからしばらく待ってくれ」


そのまさかだった。

まったく……今日は、空は晴れているのに、どういうわけか雨が降るし、紐まで切れる。一体何だというのだ。

隣をみると、険しい顔があった。怒っているのだろうか。


「そんな顔をするな。こんな日もあるさ。紫様には悪いが、もう少し待っていてもらおう」


おかしいと気付いたのは半刻ほど待っただろうか。

私も緊張していたのだろうか。周りに妖怪の気配がまったくなくなっていることに気がつかなかった。


「おかしいな。少し外を見てくるから、少し待っていてくれ」


そういうが早いか、私は外へと出た。そこには……


「これは……一体何があったのだ」


どっちを見ても紅、紅、紅。

沢山の妖怪達が、全て死体となっていた。

おかしい。こんな状態になるなら相当の争いがあったはず。

それなのにどうして私は気付かなかった。いや、気付けなかったのだ。

その答えは籠にあった。籠全体が結界になっているようだ。

有事の時は周りから隔離されるようだった。

もっとも、外に出てしまった今、結界の効果は切れてしまったようだが。


「そんな所に居たのか。探したぜ」


ハッと振り向くと、そこには人間が立っていた。

俗に言う山賊だろうか。それにしては身なりが綺麗だが。


「お前は何者だ。なんて事は聞かない。必要ないからな」

「それは助かるね。もっとも、聞かれても答えるつもりは無いけどな」

「覚悟はできているのだろうな」

「さすが九尾の狐様。腕に自信が……」

「死ね」


と言っても本当に殺すつもりはない。

死んでいった妖怪達には悪いが、私は八雲のもの。無益な殺生を犯すわけにはいかない。

だがこれだけの妖怪を切り刻んだのだ。油断するわけにはいかない。

速攻で終わらせる。これから私の大切な結婚式なのだから。

まったく、最低な結婚式だが、数十年後には笑い話にでもできるだろうか。


「っとと、あの方の式だというからもっと賢いと思っていたのに。やることは他の妖怪と変わらないのかよ。とんだ肩すかしだぜ」

「他の者と同じかどうか、試してみるのだな。もっともそんな暇を与えるつもりはないが」


一撃、二撃。男を殺すつもりで殴りつける。

しかし男は腕でそれをさばいた。


「……破魔の小手」

「御明察。こんなものでもないと、妖怪退治なんてできないからねぇ」

「そうか、お前は妖怪ハンターか」


妖怪ハンター。妖怪を殺す事を生業とする人間だ。

時々同族殺しもいるが、この男は間違いなく人間だろう。


「妖怪ハンター、か。そうだな。俺は妖怪ハンターさ」

「ならば引け。幻想郷での妖怪ハンターは人間を襲った妖怪しか、退治してはいけないと知っているだろう」

「あぁ知ってるさ。だからこそ、お前を退治するのさ!」

「何かの間違いだ、といっても聞くつもりはないか」

「分かってるじゃないか。その通り、だ!」

「くっ!」


男が鎌を懐から出すと、こちらに投げてきた。

ぎりぎり避けるが、太ももを掠ってしまった。

おそらく特殊な鎌だろう。掠っただけで血が噴き出してきた。


「避けたか。この距離なら確実に殺れると思ったんだがな」


油断するわけにはいかないと思っておいてこれだ。

私も相当腕が鈍ったものだ。笑いも浮かんでこない。


「だが、次は外さない」

「それはどうかな。お前の動きはもう見切ったさ」

「なら試してみるか?」

「駄弁ってていいのか? 私の足はもうすぐ直るぞ」


実際にはもう血は止まっている。まだ少し重たいが、十分避けることは可能だ。

避けた後、爪を突き付ければ戦意を喪失させることができるだろう。

それでもまだ戦うというのならば、妖術でしばらく幻でも見てもらうしかない。


「……では仕事を終わらせるとしよう。はっ!」


掛け声と共に男は鎌を投げた。

その速さは確かなものだ。目で追う事は出来ないほどの神速。

だがどんな動作でも前動作というものがる。

それを見れば後はどう動けばいいか自ずとわかるというものだ。

飛んでくる鎌を見る必要はない。軌道さえ分かれば、あとは避けるだけ。


「……残念だったな。さぁ降参して武器をすてろ。命までは取らない」

「……あぁ本当に残念だ。お前は結局、他の妖怪と何も変わらなかった」

「何を言っている」

「俺がいつお前を殺すのが仕事だと言った?」

「少し前に私を退治するって言ったぞ」

「……俺としたことが調子に乗りすぎたか。ははは」

「何がおかしい」


男は武器を捨てながら笑っていた。

服も脱ぐかと男が言ったが、私はかぶりを振る。

この雨の中、裸になどなろうものなら、肺炎を起こしてしまうだろう。


「甘いな。俺が暗器でも持っていたらどうするつもりだ」

「持っているのか?」

「馬鹿か、もしくは阿呆か。教えるわけがないだろう」

「む……」


今のは私が悪かったらしい。

たしかにこの男の言う通りなのだが。


「と言っても本当に持ってないんだがな。持っていても使う必要はない。もう戦う必要がないしな」

「さっきから何を言っているのだ。いい加減にしないと腕の一本くらいは持っていくぞ」

「やっぱりお前は馬鹿だ。でなければ阿呆だ」


男は立ち上がると、濡れた髪の毛を後ろへとかきあげながら言った。


「今ならまだ間に合うかもしれないぞ」

「結婚式の事か?」

「結婚式? あぁ、そうか。そうだったな……やっぱり馬鹿は俺か。阿呆も俺だな」


男はそれだけ言うと、手を振りながらこの場を去って行った。

血と雨の水の川を渡るように。

森の奥へと姿を消していった。


「さて、この惨状するか。とりあえず結婚式は中止だな。せっかくの服が台無しだし、こいつらをほおっておくわけにもいかないしな」


バラバラになった妖怪達は、じっと見ていても動きそうな者はだれ一人として居なかった。

結界が無ければこのようなことにはならなかったのだろうか。

私が最初から外に出ていれば……


「すまない」


合唱だけ済ませると、私は籠へと戻った。

紫様にこの現状を伝えるにも、早く博霊神社へ行かなければ。

濡れてしまうが、しかたがない。お姫様だっこでもしてやろう。


「待たせた。ちょっと結婚式どころではなくなったから、博霊神社までひとっ飛びする……ぞ?」


あ……れ?


あいつはどこに行ったのだろう。


籠の中には、私の結婚相手は居なかった。


私が飛び出してから、まだ数刻も立っていないはずだ。


探してみるか。


(必要ない)


だが、あいつは人間だ。この血の海を目の当たりにして、正気で居られるか。


(正気になれ)


それに他の妖怪だっている。都合悪く襲われてしまったらどうするのだ。


(もう……遅い)


「うるさい」


(あいつも言っていただろう。仕事は終わったと)


「違う、そんなはずは……」


(目をそらすな。目の前のモノをしっかりと見ろ)


「うるさい! こんな肉の塊が……私の大切な人のはずがない!」


(死んだのだ。お前が、私が避けた鎌が刺さって。博霊の巫女は死んだのだ)


「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」














 雨が降っていた。

しんしんと、全てを洗い流すように、地面へとしみ込んでいく。


「後味悪い」

「お疲れ様。藍相手によく戦ったわ。さすが元有名な妖怪ハンターね」


森の中。雨では洗い流せない血が、男の服を黒く染め上げていた。

先ほどまで藍と戦っていた男だ。

そしてその前に、傘をさした人が立っていた。

その顔は傘に隠れて見ることができないが、声からして女だろう。


「言われた通りにしたぜ。これで子供達の事、守ってくれるんだよな?」

「えぇ、あなたの家族は私が責任をもって、死ぬまで守ってあげるわ。それが約束だもの」

「……ならいい」


話していた女の横を、そのまま男は通り過ぎる。

その瞬間、男は女の頬をひっぱたいた。

乾いた音は、雨の音の中でも森の中に響き渡った。


「もうこんな仕事は受けないぜ。人の幸せを壊す仕事は、もうたくさんだ」


女は叩かれた頬を雨に濡らし、ただそこに立ちすくんでいた。

しかしその口には、うっすらと笑いを浮かべ震えている。


「藍は幸せよ。そして私も幸せ。ずっとずっと幸せ。家族だもの。家族と一緒に居られることは幸せに決まっているでしょう?
 貴方も同じ、家族と一緒に居たいから殺した。ふふふ、だから連れて行ってあげるわ。寂しいでしょ? 一人ぼっちは。暇でしょう? 一人ぼっちは。うふふ、あはははははは!」


女が持っていた傘が男に刺さる。

傘は胸を前から後ろへと突き抜けていた。


「うぐっ! 貴様……約束が違うぞ!」

「約束は守ったわ。死ぬまでは守ってあげたもの。でも貴方の仕事が終わるまでに、すでに死んでいたら守りようが無いのよね」

「く……そがぁぁぁ」


ずしゃ……


肉が、ぬかるんだ地面に落ちた音がした。

女はそれを見下ろし、まるで興味が無い風に、その場を去る。


残されたのは森の声だけ。


森は雨だけを通し、太陽の光は通さない。


暗く、静かな時だけが、ただ空しく過ぎて去って行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「暇ね」


つい口から出た言葉。それは今の状態を的確に表していた。

口だけでなく、うつ伏せになって両手を伸ばし、体でも暇である事を全力で表している。


「紫様、スカートが捲れ上がっておりますよ?」

「いいわよー誰も見ていないもの」

「私が見ているではありませんか」


私の式である、八雲 藍がそっと捲れ上がったスカートを直してくれる。

残念なことに、自慢の脚線美が隠れてしまった。今度からミニスカートを穿くべきか、藍に聞いてみようか。


「藍、今すぐミニスカートを用意しなさい」

「お歳を数えてから言ってください」

「千から先は覚えていないわ」

「カッコよくないですから」

「ひどいわ~。私はいつでも心は少女なのに」


足をバタバタさせてとりあえず抗議してみる。

またスカートが捲れ上がったが気にしない。

だって見ているのは藍と藍の式、橙だけだから。


「紫しゃま……最近だらけ過ぎだとおもうのですよ~?」

「だって暇なんだもの~」

「では異変など起こされては如何でしょう」

「幻想郷の管理者である私が?」

「わたしもお手伝いします!」

「そうねぇ……」


たまにはいいかもしれない。

数十年前と違い、今はスペルカードルールがある。

いい暇つぶしにはなるだろう。


「うーん。どんな異変にしようかしら」

「幻想郷中の女性が全て幼女になる異変とかどうですか?」

「橙、いいわそれ。すばらしい。まずは先駆けて藍を幼女にしましょうか」

「私ですか!? 冗談はやめ……こーーーん!」







家族団欒。それは幸せの形だ。


心を全て解放できる場だから。


遠慮や思慮は必要ない。


ただあるがままで、自分が自分で居られる大切な。


だから、何があっても「守らなければいけない」


それは義務?


それは意思。


それは約束?


それは想い。


だから……





「うふふ。次は博霊の巫女で遊んでみましょうか」





私が私でいられるのだから。
人形遣い「という脚本を書いてみたの」
紅白巫女「アリス、あなた途中から疲れてたのよ」


こじろー貴方疲れてるのよ
こじろー
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ラストー!!!!
まさか、そんなオチになるとはwwwww
ゆっくり休んでください…
2.名前が無い程度の能力削除
概ねいい話だった。藍様愛されてるねえ。紫様も良い依存っぷりだ。何故かほのぼのしながら背筋がスッと寒くなったけど。
どこもおかしくないよこじろーさん。

ちょっと疲れてるだけさ…
3.こじろー削除
>ゆっくり休んでください…
人生の長期休暇がほしいんですけお!けお!!

>ちょっと疲れてるだけさ…
そろそろ本当のほのぼの話を書きたい欲が出てきたんだ
欲情!よくじょおおおお!