魔理沙は途方に暮れていた。
紅魔館から借りてきた飛び出す絵本を開いてみたら、紙面から本物のティラノサウルスが全身飛び出してきた。
しかも、その次のページからはアリスの尻が中途半端に飛び出し、このままではページをめくることができない。
つまるところ、飛び出してきたティラノサウルスを元のページに戻すことができないわけだ。
迫るティラノサウルス。
追い詰められる魔理沙。
2秒で1回左右に揺れるアリスの尻。
窓の外には、ムーンウォークでその辺を徘徊する衣玖。
霧雨家に成り立つ奇妙なネオファミリーは、今幕を開けたのであった。
◇ ◇ ◇
「おい、アリスの尻。とりあえずそこをどいてくれ、恐竜が片付けられないんだ」
そう言いながらスカートの上から尻をぺんぺんと叩くと、尻は春風のように左右に揺れた。
たぶん、これが指す意味はNoだ。そう思いたくないが、窓の外で衣玖が『それはNoだ』と言っている。
だからNoなのだ。現実は非情である。
そんな間にも、ぬっと近づいてきたティラノサウルスに魔理沙は尻もちをついてしまう。
「ひっ」
距離はおよそ50cm。あまりに近すぎる。
思わず後ずさりをしたところ、窓の外からホイッスル音。
見ると、衣玖がトラベリングの注意勧告を切っていた。
こういう時にバスケのルールを適用されると困るものがある、と魔理沙は心中呟いた。
そもそも、ボールも持っていないのに。
「ボールって私のことじゃない?」
尻が言った。
じゃあ引っ込めよと魔理沙が叩くと、アリスの尻は武田信玄のように揺れた。
尻とは、風のように爽やかに、
林のように残像が残るほど速く、
火のように情熱的かつ芸術的に、
山のようにどっしりと揺れなければいけないのである。
つまり風林火山だ。
用途は主に宴会芸、信玄はこの技で戦国時代を生き延びたとも言われる。
「いや、そんな風に揺れられたって困るぜ」
だが魔理沙の目前にいるのは白亜紀の帝王、ティラノサウルス。
戦国時代の中でも最も優雅であると言われた宴会芸でも、恐竜から見れば幼稚園児のお遊戯に等しい。
ティラノサウルスがグッとしただけで、魔理沙は震えあがり、尻は止まり、衣玖はイナバウアー。
呼ばれてもいない寅丸が、頼んでもいないラーメンの出前を携えて出動する始末である。
戦力に差がありすぎる。もはや絶体絶命の状況であった。
もう召し上がられるのも時間の問題だ、魔理沙がそう思ったとき、衣玖がトリプルアクセルを決めながらプラカードを掲げた。
『一刻もはやく、正義の味方を呼びなさい!』
超高速回転と共に掲げられたプラカードにも拘わらず、魔理沙の驚異的な動体視力はそれを読み取った。
「せ、正義の味方だと!? 」
魔理沙は驚いた。
正義の味方云々よりも、窓の外で既に衣玖が勝手に正義の味方を要請していたことに驚いた。
おまえ、自分で呼ぶように言っておいて、なんで私の判断を聞かないんだよ、と。
「あー、もしもし、巫女さんですか? こちら、コードネーム:ジェネリ衣玖。
ジェネリック改名記念に便乗して、白亜紀の帝王が暴れているようなんで出動してもらえませんか?」
『えー、嫌よ。面倒くさい』
「今ならアリスさんの風林火山が見られますよ」
『馬鹿ッ、それを早く言いなさいよ! 今すぐ気合入れていくから!』
無線はそこで切れたらしい。
と同時に、地震、地震、また地震。
そして、
「助けに来たわよッ!」
霧雨魔法店の屋根をぶちやぶり、ガメラに乗った霊夢が颯爽と参上した。
「馬鹿、気合入れ過ぎだ!」
魔理沙がそう叫んでも、霊夢には届かないご様子。
そのうえ、よく見るとガメラの胸元に名札がついていた。
『なまえ;げんじい』
魔理沙の中で、もう何かを言う気力も失せた。
目の前で行われるガメ爺(仮称)とティラノサウルスの決戦を、その反動で崩壊していく自宅を茫然と見守るしかできなかった。
これが正義の味方の戦いだというから驚きである。
無論、日頃の自分の行いは棚に上げるとして。
「……正義は、死んだな」
もはや廃墟と化した自宅を見て、魔理沙はそう呟いた。
無論、そもそも恐竜が霧雨家にやってきた原因が自分にあることを棚に上げるとして。
「そうでもありません、正義はまだ貴方の近くで輝いています」
いつのまにか魔理沙のすぐそばまで来ていた星が言った。
「ああ、そうだな。見ろよ、霊夢の目、あんなに輝いていたのはいつぶりだ?」
「なるほど、正義を信じていない。ならば見せてあげましょう、正義の力を!」
星はそう言うと宝塔を高く掲げた。
同時に、衣玖が変身用BGMをレコードで再生。
魔理沙が驚いて声もでないうちに、星はあっという間に巨大化し、ついでにコスチュームもチェンジ。
「ただいま参上、愛と正義と聖の味方、うるトラ星!
自分で言うのもなんですが、今日はナズーリンがいないので私が一通り説明しておきましょう。
通常ではありえないドジをかます寅丸星は仮の姿、本当の私は、誰もが正義と認めたうるトラ星!
うるトラ星は、正義の力で悪とか訪問販売とかと戦う光の戦士なのです。
数多の必殺技を持ち、不屈の闘魂と慈愛の心を持ち合せる、自分で言うのもなんですが絶対的ジャスティス。
この私がかけつけてきたからには、怪獣は土下座し、訪問販売員は速やかに退場し、武田信玄などひと捻り。
ただし、それでも万能というわけではないんですよ。
正義の力を誇示していられるのは、宝塔の力を使いきる時間のみ。
つまり3秒! 正義の味方は3秒ルール! もう少し見せ場がほしいところですが、仕方ありません。
さあ、今日も目前の皆さまに正義の力をお見せいたしましょう!」
この長い台詞を1秒で言い切り、直後にポーズをかまえ
「うるトラ星必殺、スペシウム・へにょりレーザー!」
放たれた、数多のへにょりレーザー。
直撃を受けたガメ爺は元の玄爺に戻り、ティラノサウルスは白亜紀に帰り、アリスの尻にはチューリップが咲いた。
「滅びよ、武田信玄!」
と、勝利のポーズを決める。
ここまでで3秒。なんという早業だろう。
そしてコスチュームはうるトラ星から普段の寅丸星に戻った。
「……おまえ、凄い奴だったんだな、見なおしたぜ」
「いやはや、ありがとうございます。では、私はこれで」
そう言って、何も要求せずに帰路につく星の背中を見て、魔理沙は思った。
「どうせなら家を直していってほしかったな」
「お嬢ちゃん、そいつは野暮ってものよ」
廃墟では衣玖が1人、アリスの尻に腰かけてカクテルを呑んでいた。
◇ ◇ ◇
「ナズーリン、今帰りましたよー! 今日もうるトラ星は大活躍でしたー!」
「わっ、ご主人! 活躍して嬉しいのは分かったから、巨大化は解除してから帰ってこいと何度言っt──」
うるトラ星のもう1つの弱点。
それは、3秒たっても体の大きさが元に戻らないこと。
そして今日も命蓮寺は正義の味方に踏みつぶされたのであった。
スペシウム・へにょりレーザーはマジ最凶。
そして俺は、考えるのをやめた…
台詞が無いティラノサウルスの存在感が空気だww
次回も期待してます。
だが、ここはメルランを呼ぶべきだ。
星と違って彼女のは自機狙いのへにょりレーザー、その恐ろしさはケタ違いw
ともかく、その飛び出す絵本はアリスの尻ごと頂いていく。
……追っかけて来んなw
トラ柄ビキニの某鬼娘のコスプレした星を思い浮かべたw
笑いが止まらんwww
某ラップのCMにあわせて『にゅ~ジェネリック♪』とか。
さてさて、コメントありがとうございました。
いつも通り変身、じゃなくて返信していきたいと思います。
>01
誰がうまいこと言えとww
>02
※変身は屋外で行ってください。
>03
巨大化にですか?
>04
難しい設問ですね……考えておきます。
そういえば、ハンプティ・ダンプティの尻ってどうなってるんでしょうね?
>05
つっこんでも、いいのですよ?
>06
そういうことなの。
>07
初期段階では『流暢なイタリア語を話す』『関西弁を話す』などの予定がありましたが、いつのまにか消えていました。
いずれにせよ、彼の必要性はグッとした時を最後に消えていきますw
なお、私に期待してもご利益は保障できませんぜ。
>08
おぉっと、貴公はもしや前作のメルラニストの一員ですかい?
ならばそのうち、メルランが主役で何か書こうかなぁと思ってるので、それまで見捨てないであげて下さい。
ところで、
>紅魔館から借りてきた飛び出す絵本を開いてみたら(ry
>紅魔館から借りてきた飛び出す絵本
>紅魔館から借りてきた
……返そうね。
>09
ダーリンは誰だ!
>10
誰か言うと思ってましたw
>11
全ては川中島の合戦、上杉軍と武田軍が激しく(尻で)ぶつかりあったことから始まりました。
ここ、テストに出ます。
>12
書いたとき、体温が37.5度ありました、はい。
その勢いかもしれませんねw
>13
およよ、ありがとうございます。
バレてしまいましたかw
メルラン主役の話ですか!! 嬉し過ぎて涙でる!
楽しみに待たせてもらいます。
いつも凄い作品で楽しませてくれて感謝です。