Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

吾輩は仔牛である

2010/04/27 02:36:59
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このお話は作品集54「吾輩は小石である」、作品集56「吾輩は碁石である」の続編です。
もしお時間があるようでしたら、そちらの方を先にお読みいただくとノリを分かっていただけるかと思われます。





 目覚めると、隣で牛が寝ていた。

「……!!?」
「ぶもー……ぶもー……」
「え、ちょ、何これ、え、え?」

 鼻息荒く寝息を立てる牛。私は思わず跳ね起きて、ベッドから飛び降りそのまま部屋の隅まで後ずさった。
 いや、だって意味が分からない。本来一緒に寝ているのは、私の妹である古明地こいしのはず。それがどうして牛になるというのだ。
 ちなみに全然関係ないのだが、妹の外見は小石である。

「え……て言うか、本物なの? これ……触っても大丈夫かしら」
「ぶるるふぁ……んにむんにむ」
「うわぁ……なんか臭い……ってよだれ! よだれ!!」

 まるで寝言を漏らすかのように、むにゃむにゃと牛は口を動かす。
 そうして大きく出っ張った歯の隙間から、だらりと粘性の高い唾液を垂らすのだ。
 幸い、咄嗟に蹴り飛ばしたおかげで布団に被害が及ぶことはなかったが。
 どすん、と大きな音を立てベッドから落ちる牛。その衝撃で目覚めてしまったようで、「んもー」と間延びした声を上げた。

「あ、ああ、ごめんなさい……つい、乱暴にしてしまいました」
「もー」
「……許して、いただけますか?」

 返事はない。ただ口をもごもごとさせて、つぶらな瞳でこちらを見つめてくるだけである。
 あるいは、反芻しているだけか。いずれにしても、答えは得られなかった。

 ……しかし。

「本来、隣で寝ているのはこいしのはずだけれど……いったいどうして牛が? うーん……」

 そう。そこなのだ。疑問点はそこに尽きる。
 いるはずの者がいなく、いないはずの者がいる。しかも状況はあまりにも唐突だ。
 心を読んでみても、『干し草食べたい』などと本能丸出しの欲望ばかり。手掛かりなんて全くない。
 と、なると。

「やっぱり……そう考えたくはないけれど……この牛が、まさかこいし、ってことは……」

 その結論に帰着する。
 そもそも妹は小石。無機物。意思を持った石なのだ。本来生きてる方がおかしいのである。
 ならば、例え牛になってしまったとしても何らおかしいことではないだろう。むしろならない方が不自然だ。
 古明地こうし。ほら、字面的にもぴったりじゃないか。

「成程……そういうことだったのですね。どういう経緯でそうなったかは分からないけれど……まぁ、とりあえず朝ごはんを食べましょうか。ね?」
「もーぅ」

 にっこりと笑い掛けると、こうしもまたそれに応じるように鳴く。優しげにうるんだ瞳は、どこか微笑んでいるようにも見えた。



 とその時。
 がちゃり、と。

『……あれ、お姉ちゃん起きてたの?』
「へ? こいし?」
「もぉぉーぅぅ」

 扉が開いて入ってきたのは、紛れもなく我が妹なのであった。







 テーブルに向かい合った私たち。
 やれやれ、と私は呆れた口調で言う。

「全く……別に飼ってもいいですけどね、こういうのはちゃんと順序を正して――」
『はーいーはーいー。だからごめんなさいって』
「投げやりに謝る人がどこにいますか」
『ここにいるよ?』

 平べったい形をした、灰色で丸っこい頭を指さしこいしは無邪気に笑いながら言う。
 こんな人の揚げ足を取るような子に、私は育てた覚えがないのだが。

 結局、あの牛はこいしのペットだったそうだ。
 まぁ、ペットを増やすこと自体に別に異存はない。
 元来地霊殿が動物だらけなのだ。今更牛の一頭や二頭、増えたところで何も変わりはしない。
 何故ベッドの中に牛を寝かせていたのかは、ほとほと謎なのだけれど。
 曰く“お姉ちゃんと早く仲良くなってほしいから”。その心遣いは嬉しいが、もっと先にやることがあるだろうに。
 それでも、あの子が自分から誰かに関わろうとしたことは良いことだ。
 元々引っ込み思案な子。積極性を持つのならば、多少の失敗には目をつぶってあげるべきかもしれない。

「……で、それでですが」
『うん? 何?』
「何故、この牛をペットにしようと? もっと他にも良さそうなのはいたでしょうに。趣味?」
『え? やだなぁお姉ちゃん、決まってるじゃない』
「はぁ」
『牛乳よ』

 人差し指を立て、ふふんとキメ顔で。
 意味が全く分からない。

『だってほら、みんなも飲めるし、あわよくば売り出すことだってできるじゃない。これは地霊殿復興一大プロジェクトなのよ!』
「いや、そもそも没落とかもしてないし……」
『ま、いいからいいから。ほら、ここにさっき搾ったばかりの牛乳があるわ。試しに一口飲んでみて』
「ん……まぁ、一口なら」

 テーブルにことりと置かれた紙コップ。中には少量の白い液体。殺菌消毒はしてないんだろうなと思いつつ、私は一気にそれをあおった。
 途端。

「……ん、おいしい」
『でしょ? やっぱりねー。私の目に狂いはなかったのだ』

 えっへん、と胸を張る。その仕草に少々小憎たらしく感じないこともないが、しかし確かにおいしいので何も言わないでおく。
 口の中に広がるまろやかな味。野生に育った牛の贅沢な脂肪分が、甘みと絶妙に絡み合っている。まさに奇跡の産物。
 案外、というとあんまりだが、しかしそれでもこの美味しさは異常であり意外であったのだ。

「うん……いける。これは私たちだけに止めておくには勿体なさ過ぎるわ」
『ってことは……』
「ええ。……売り出しましょう。これは確実に行ける。誰もが絶賛する、至高の牛乳となり得る――!」

 私たちは手を取り合って、ぴょんぴょんと飛び跳ね喜びを表す。
 後ろでは牛が「もぉぉぉぉぉぉ」と、相変わらず間延びした声を発していた。
 笑いで満たされる部屋。しかし突然、はた、とそこでこいしが動きを止めた。

「あ、そうだ。商品化するんだったら名前考えないとね。どんなのがいいかしら?」
「名前……そうね……あ、ぴったりなのが一つあったわ。こんなのはどう? ――――」
後の「古明地 おいしい牛乳」である。



コーヒー牛乳の方が好きです。
誤爆
http://www.usamimi.info/~mks/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ちょっとまて、そこの小石。どうやってドア開けた。そしてどうやって自らの頭を指差して……え?指……だと……?
2.奇声を発する程度の能力削除
フルーツ牛乳の方が好きです。
3.名前が無い程度の能力削除
なんだこのぶっ飛んだ絵はwww
4.名前が無い程度の能力削除
天才すぎるwww
5.ぺ・四潤削除
本来一緒に寝ているのは、私の妹である古明地こいしのはず。
↑さりげなくなんてことを言ってるんだwww
ていうかそもそも子牛って牛乳出るの?