Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

毒角  ・続ブキョウユウギ・

2010/04/24 08:05:10
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/作品集59「ブキョウユウギ」の続きです





 人形解放計画は最終段階に入っていた。




 ……地底であろうと、冬であるなら雪は降る。
 そして雪が降るのなら、雨が降るのも当然のこと。

 如雨露からそっと撒かれたような雨が、旧都の昼を濡らしている。
 憂鬱極まりないその音とにおいの中を、誰が好き好んで出歩くものか。
 というわけで旧都のものたちは飲む撃つ買うで屋根の下に居る。
 だが星熊勇儀は屋根の外、建物の間と間を走っている。
 その右腕は肘から先が無い。


 どうして走っているのか。どうして右腕を失ったのか。
 それは全て、戦いのためである。
(いかん)
 妖怪の目にも止まらぬ速度で走りながら勇儀は思う。
 眠い。
 尋常ではなく眠い。
 それは酔い潰れる寸前と似ているが、しかし酔い潰れるその時とは違っていま周りに気を許せる者は居ない。
 居るのは敵。『何かを本当にしようの会』の追手だ。

(どこに向かっている……?)
 そう自ら思う――といってもぼんやりとだが――ほど、勇儀は物を考えずに走っていた。
 頭の動きが鈍い。
 右腕の傷は大したことは無い。腕があれば繋がる程度のものである。
 問題なのは体の毒だ。
 走れば走るほど、それは体の隅々まで周り……
 だんだんと、勇儀の足の運びが遅くなっていく。
 追手との距離が縮まっていく。


 とうとう勇儀は足を止めた。
 雨で水量を増した川が、その傍にある。そして追手が勇儀を取り囲んでいる。
「所詮、鬼は退治されるものよね」
 と追手のひとりの犬妖怪。その手には棒がある。
「キキッ。早く済ませちまおうぜ。キキキッ」
 笑いながら追手のひとりの猿妖怪。手には鉄爪。
「……」
 追手の最後のひとりの雉妖怪は無言でその手の羽に力を込めている。
 この三者が、ここまで勇儀を追い詰めた者たちだ。
 勇儀は楽しげな笑みを浮かべて言った。
「……桃がないのが残念だが、不足している訳じゃないな。楽しんでやろう」
 かかって来いと指を挑発的に動かす。
 追われて追い詰められたものには相応しくないその態度に、追手は神経を刺激された。
「!」
 それぞれ叫び声を上げ、一斉に勇儀へ攻撃を仕掛ける。
 犬妖怪は棒で跳び棒で殴り、猿妖怪は走って鉄爪。雉妖怪は近づかず羽を弾として飛ばす。
 勇儀は。

 叩き折られた鉄爪の破片が雉妖怪の胸を貫き、
 殴られた猿妖怪がコマのように回りながら吹き飛んで近くの建物の壁にめり込み、
 犬妖怪の棒を腹に食らって勇儀は吹き飛ばされ川に沈んだ。

「はっ、」
 犬妖怪が、棒を振り抜いた姿勢のまま、喜びと恐れの相混じった声を上げた―――。



「私が手を出せる所はぜんぶ終わったよ」
 黒谷ヤマメは愛想のない顔でメディスン・メランコリーに言う。
 地底の旧都のさらに地下にある『何かを本当にしようの会』の本拠地、その長の部屋でのことだ。
「晴れてお役御免。あんたの野望に付き合うのもこれでおしまい!」
「今までありがとう。ヤマメ」
 メディスンはヤマメに深く頭を下げた。
「へん。あんな手で巻き込んでおいてさ」
 ヤマメは不機嫌そうにメディスンに背を向けて、部屋から出て行こうとする。
 その背にメディスンは、声をかけた。
「あの日、地底で追われていた私を救った土蜘蛛剣法の鮮やかさ。命ある限り忘れない」
「……。あの時あなたを助けた事。一度だって後悔した事は無いからね」
 振り返ってヤマメは言い、そして何事もなかったかのように立ち去った。
 メディスンは寂しさを覚えた。
 ヤマメが再びこの部屋に入ってくる事は、ない。それが黒谷ヤマメのルールだ。




 ……誰が去っても、残ったものは頑張らなければならない。
 あの日、東方不敗が去った後。
 メディスンは追われる身になった。

 東方不敗という中核を失った組織は当然の結果として乱れて分かれ、
 当時のメディスンに組織を手に入れるだけの力は無かったから、野心や恨みにひとりで立ち向かわなければならず。勝てず。
 しかし誰に頼るのも嫌で、地底へと逃げ込んだ。
 そしてヤマメとの出会いがあり、地底で力を得るための時があり、
 いま『何かを本当にしようの会』の長としてメディスンはここに居る。
(全ては……)
 星熊勇儀の打撃があったからの事。
 メディスンは、勇儀が今どうしているかを考えた。



 天井だ。
(どこだ)
 勇儀は、普段と同程度で動いている頭で考える。
 地底の天井ではない。屋内の天井だ。どうして自分がその天井を見ることになったのか、まったく覚えていなかった 
 覚えているのは、あの犬妖怪の棒をくらった所までだ。
 雨の音はもう無い。かけられた布団はほどほどに温い。

 意識を無くしていた時間を体調と外の様子で測りながら勇儀は身を起こす。と、その左手側にある襖が音もなく開き、
「お目覚めのようですね」
 という声。
 勇儀の見知らぬ兎妖怪であった。
「うむ、どうやら川底で目覚めないで済んだようだ。貴女が救助を?」
「はい。目的のために、力をお借りしたく」
「目的とは」
「『何かを本当にしようの会』の長、メディスン・メランコリーの打倒です―――」
 その兎妖怪、鈴仙・優曇華院・イナバは言った。



 鈴仙がメディスンを倒してどうしたいのかと言えば、メディスンの身の安全の確保である。
 メディスンは鈴仙が住まう場所に訪れたり訪れなかったりをするものであったが、最近はとんと姿を見せなくなった。
 それと時を同じくして噂を聞いた。
 メディスンは地底で権力の座を手に入れて、何事かを企んでいると。
 これはいけないと鈴仙は思った。
 メディスンのする事によってメディスンの出入りしていた場所のもの、すなわち鈴仙たちの立場がまずくなる可能性があり、
 メディスン自身も再起不能になる罰を受ける可能性があった。

 鈴仙は身内と相談し、メディスンを打ちのめす事に決めた。
 倒され、素直にごめんなさいと言えば許される。それなりの力を保持していればだが。
 ここはそういう所だ―――。

「実際に地底で活動するのは私だけです。他のみんなが動くと余計な騒動が起きてしまうので」
 その理由は、勇儀にはとてもよく理解出来た。
 大山鳴動すれば鼠一匹では済まないのだ。山が鼠で済ませたがっていても。
「……そっちの事情は大体わかった。こっちの事情はわかってる?」
 勇儀に鈴仙首を横振り、
「いいえ。星熊の伝説と、『何かを本当にしようの会』と騒動を起こした事。それだけです」
「では言おうか」


 勇儀が毒を受けて川に叩き落とされるはめになったのは、全てなりゆきだ。
 『何かを本当にしようの会』が何かをやっていて面白そうだったから近づき、
 そして毒を食らわされ腕を奪われた。
 それだけ。

 それまで、『何かを本当にしようの会』に迷惑をかけられたわけでもなく、
 それまで、『何かを本当にしようの会』にメディスンが居る事などまるで知らなかった。


「だから、メディスンを助ける気は―――無くはない」
 自分が拳を振るわなければ、メディスンが地底で力を手に入れることは無かったのではないか。
 そう思う。実際の可能性がどうであれ、一度そう思ってしまったならしこりは残る。
「川から助けてもらった恩もある……。
 そっちの邪魔をする気は無いし、こっちの動きをそっちが利用するのも勝手。これでどうだ」
「いいですね」
 よし、と勇儀は頷いて、気を入れて立ちあがった。
 鈴仙は勇儀がいきなり巨大化したように感じて戸惑う。
「私はこれから『何かを本当にしようの会』に殴りこみに行くよ」
「え―――では、お耳に入れたい事が」




 集めろ集めろヒュドラの酒を、全て我らの夢のために、
 目指せよ目指せ底の向こうを、全て我らの夢のために。


 ……そこには柱があった。
 太い、長い柱だ。その周りで動く者が豆粒に見えるほど。天井を突き抜けているのではないかと思うほど。
 そこは地底である。
 旧都が位置する層よりもさらに地下にある、空洞だ。

 空洞には柱以外に目を引く物はない。
 その、柱の周りには、妖怪たちがいた。


 集めろ集めろヒュドラの酒を、全て我らの夢のために、
 目指せよ目指せ底の向こうを、全て我らの夢のために。


 そう歌いながら、
 中に不思議な色の液体がたっぷりと入った壺をかついだり飛ばしたりとそれぞれのやり方で運び、
 柱の所々に空いた穴から柱の中に壺を投げ入れている。
 彼らはみな『何かを本当にしようの会』の一員であった。




 己の右腕を見て勇儀は思った。
(腕を獲られるなどいつ以来だ?)
 ずっと昔―――年頃で言えば今のメディスンぐらいの時以来だ。
 その時、勇儀はこう思った。
「面白くなってきた!」
 と。
 楽しい戦いとなるだろう力が目の前に現れた事を喜んだ。
 今はどうか。
(……うむ。久々に面白くなってきた!)
 今も昔も星熊勇儀に大した違いは無い。戦いが好きで、強い奴が好きだ。
 勇儀は腕から視線を外し、前を見る。そこには柱がある。


「おい」「あのツノは」「あの気配は」


 勇儀は、柱に向かって歩き出した。
「来たぞ! 星熊勇儀が来たぞ―――!」






 防御の上から回し蹴りを入れ、砕く感触と共に蹴り飛ばす。
 砕けた剣の破片ごと相手は下に落ちて行った。相当な高さだが、相手も妖怪だ。死にはすまい。
 勇儀は柱に螺旋状に取り付けられた足場の上にいる。
 柱の一番上を目指して走っている。


 ……柱の周りには、不思議な力が働いているらしかった。
 それが脚力によるものだろうと魔法によるものであろうと、『トブ』という行為から力は失われ、
 つまり柱の上を目指すなら柱の足場を使って行かなくてはならない。
 敵がわんさといる中を。


「その首もらったあー!」
「その程度じゃ」
「そのツノくださーい!」
「やらんよ」
「サインをくれ!」
「ほれ」
 殴って蹴って色紙を飛ばして『何かを本当にしようの会』の妖怪たちをどかしながら勇儀は進む。
 何度勝っても再び向かってくる天狗らに比べれば、一度勝てばもう向かってこないだけ楽である。
 が、いささか面倒になってきた。
 ひとつここいらで、足場に居るものを減らしてから進もうか。
「……」
 勇儀は足を止めて息を吸い、足に力を込めて、
「ゴールまでは後少しよ、今更そんな気を出さないの」
 勇儀の進もうとする方向からその声はした。勇儀の視線は声の方に。
 声の主は、軟鞭を手にした、毒々しい輝きの瞳の娘。
 勇儀の知った顔であった。
「しかし雑魚が多すぎてねえ。お前ぐらいの相手がもっと居てくれれば良かったんだけど」
「―――」
 勇儀の言葉にその娘、水橋パルスィという娘は何も言わず口元を歪めた。変形の笑みであった。
「相変わらず……。おっと先へは進ませないわ」
 笑みを消し勇儀から離れた地点を向いたパルスィの瞳がぎらりと光ると、
「あっ!?」
 自らの力で姿を消して楽に進んできた鈴仙の、姿が声が場に現れ出る。
「良い眼をしているわね、あなた。潰してしまいたくなるほどに」
「この波動……!」
 身構える鈴仙とパルスィを見て勇儀は、ひとり先へ進むことにした。
 それに邪魔は入らなかった。




 奪われた腕の存在を勇儀はずっと感じている。
 自分の一部である。感じ取れないわけがない。
 その感覚は今、こう言っていた。
 すぐそこに腕はあると。

 柱の最上部に勇儀はたどり着く。
 そこはひたすらに平たかった。装置的なものも、内部への穴も、何もなく。
 あるのはひとり、メディスンのみ。
「やっと来たわね」
「ああ、来てやったよ」
 先にある何かを知り、緊張しながらも静かに待っている。そんな表情のメディスンに、
 先にある何かを知り、胸を躍らせて待っている。そんな表情の勇儀が言う。

 メディスンは勇儀の腕を持っていた。
「まずはこれを返すわ」
 メディスンは立つ所を変えることなく勇儀の腕を勇儀に投げる。
 凡庸な勢いで飛んでくるそれを掴んだ瞬間、勇儀の内に衝撃が走った。
 腕には、雄渾極まりない内力が込められていた。
 その力を正道で手に入れたにせよ、邪道で手に入れたにせよ―――敵としたとき愉快なものであることに違いは無い。
「楽しい目に逢っていたようだな、我が腕よ。ずるいぞ、私にも味あわせろ」
 言って勇儀、戻った腕を元の位置に合わせて一秒待ち、動かしてみた。
 腕は離されていたことが無かったかのように、いつもの力と精確さで動いた。
 これで全力で戦う事に差し障りは無くなった。
「では勝ち負けを決めようか?」
「決める? もう決まっているわ。私の勝利は」
 メディスンは剣を振るうようにその何も持たない手を振り抜き、言った。

「点火ッ!」


 途端に山を背負ったような重みが勇儀の身にかかり、
 柱が大地震よりも強烈な揺れをし、
 天井に向かって急上昇を始め、

 天井を突き破り天空を目指した。





 ―――星々が間近にある。
 その星々を目指し、飛んでいく光が無数にあった。
 柱の中から飛び立った、船。その光だ。

「……石を破り天を驚かすペン! 石破天驚ペン!」
 服は多少傷ついたものの身は傷ついていないメディスンが高々と空を指し示して吼える。
 そう、メディスンらが立つそれは、柱ではなくペンだった。
 この世に何かを記すためのペンなのだった。
「これが勝利?」
 メディスンが傷ついていないのならば当然こちらも。
 無傷の勇儀が、飛んでいく光を見ながら言った。
 メディスンはにっこりと笑い、
「そうよ、これが私の勝利、これが私の人形解放計画!」



 ……メディスンはずっと考えていた。
 閻魔に説教をされた時から、ずっとだ。
 人形について、人について、心について、世界について。
 どうすればこの場所の生き苦しさを吹き飛ばせるのか。



「ある時、星を見て思ったのよ。
 息苦しいなら外に出ればいいんだって」
 そのメディスンの言葉を、東風谷早苗は神と共に聞いた。



「ここは息苦しいところだわ。
 人形にとっても、人間にとっても、妖怪にとっても、神様にとっても。
 システムが硬直してしまっているんだもの!」
 そのメディスンの言葉を、鈴仙は鞭を避けながら聞いた。



「そうだね。生きていても死んでいても、自由にはなれない所だから」
 その勇儀の言葉を、藤原妹紅は竹林の中で聞いた。



「だから外に、大地というものが無い外に出れば。システムの力が及ばない外に出れば。
 きっと大きい心になると思った。他力に縛られることが無くなれば、他人を縛ろうとする気持ちも無くなると」
 そのメディスンの言葉を、四季映姫は法廷で聞いた。



「いま星を目指して飛んでいるのは、それと同じ気持ちを抱いた人々よ。
 ―――このペンを見ている人、この声を聞いている人!
 この世界が息苦しいと感じているあなた! 
 このペンを目指して歩いて、そしてここから星を目指して飛び立ってみて!」
 そのメディスンの言葉を、鍵山雛は厄を見張りながら聞いた。



「えっ? ……もしかしてここでの会話、広範囲に届いてるの?」
 その勇儀の言葉を、伊吹萃香は人里で聞いた。



「でなきゃ示せないでしょう?
 私の目的は人形解放。
 人間妖怪神人形、人の形を持つ全てのものに心の自由、可能性を示すこと!」
 そのメディスンの言葉を、ヤマメは旧都の酒場で聞いた。



「私がやったことで、若い私が、引きこもっていた私がこれをやったことで、
 力がある自分ならばもっと上手くやれるんじゃないか、
 力無い自分でもやれるんじゃないかと希望を持ってもらうこと!」
 そのメディスンの言葉を、八雲紫は神社で聞いた。



「出来るかな? ……どれだけ広く声を響かせても、そう変わる物ではないと思うのだけど」
 その勇儀の言葉を、博麗霊夢は空で聞いた。



「こんにちは世界と言う事から始めるのよ。
 ……たとえすぐには結果が出なくても、たとえ天がこれを無かったことにしようとも、
 あったという事実は消えはしない、諦めることもない。
 今より良い未来のために!」
 それを聞いて勇儀は思った。
(毒だ。この言葉は甘い毒だ)
 土蜘蛛や鬼が……勝者に踏み躙られてきた者達が大好きそうな言葉だ。
 だから協力者を集められたのだろう。

「さっ、代表としての話はこれで終わり」
 メディスンは両の掌を見せつけるような構えを取った。
「ここからは個人的な活動。私は、星熊勇儀と戦いたい」
 倒して世に力を示す、というつもりではない。
 勝って勇儀に何かを要求する、というつもりでもない。
 ただ戦いたい。
 今この瞬間、戦っておきたい―――
 そのためにわざわざ腕を持って待っていたのだ。
「受けて立とう」
 勇儀は拳を作り、左足を少しだけ前に出した。
 強い相手と戦う。そのために勇儀はここへ来た。


 もはや待つことは要らない。
 両者は同時に相手を目指して走りだす。


 メディスンの掌が千発放たれ、勇儀の拳が千度繰り出された。
 勇儀の蹴りが二千回放たれ、メディスンの蹴りが二千回迎撃した。
 ふたりの位置は目まぐるしく変わり、ふたりの力は淀みなく流れ、もはやそこではふたりは一つのものだった。

(水だ)
 勇儀は思った。
 力を受け包むもの、時に硬く時に柔らかなもの、つい心が引き寄せられてしまうもの。
 それがメディスンの拳だった。

(火だわ)
 メディスンは思った。
 掴むことの出来ないもの、備えなく触れれば傷を負うもの、つい心が引き寄せられてしまうもの。
 それが勇儀の拳だった。


 ふたりの動きは足場を離れ、空中にと移行した。
 掌と掌の打ち合わされる結果の爆発が、空中を彩る花となる。
 その花は空中から地面にと咲いていき、しかし地面に移ってほんの僅かで枯れてしまう。
 ふたりは距離を取り、力を己の中から外に噴出させるための準備に入ったからだ。

 勇儀は力を両手に集め、熱として撃ちだす心。
 メディスンは力を頭部に集め、熱として撃ち出す心。

 ―――。
 ―――。

 大声と共に放たれた熱は、メディスンの胸を撃ち貫き、
 口を一文字にして勇儀に突進したメディスンは、熱を受けながらも頭を勇儀に触れさせた。

 解放。









「……」
 勇儀は背中を大地につけ、夜を見ている。
 星を、そして星を目指すものを、そのための道具を、見ている。
 そして心の中でメディスンに問う。
(思うか―――)
 これまで、メディスンと似たような事をしたものが居ないと、メディスンは思っているだろうか。
 これまで似たような事があって、それでも今は現状なのだ。
 ……メディスンは知っているだろう。
 そのくらいも解らない能力で、どうして人を動かし、形に出来るものか。
(若さゆえ、だ)
 解っていて、それでもやった。諦観を希望で振りほどいてやった。
 若者特有の力だ。

 なんて羨ましい。

 勇儀は目を閉じる。
 そして勇儀は目を開く。
 自分も一つ、何かをやってみようか。そう思った。
 勇儀の顔に浮かぶ笑みは、苦笑だ。
「毒に中てられたらしい」
言葉は毒。若さは毒。ゲームは毒。酒は毒。
さてその毒で何をするか。
レドジス
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