ごくりっ……。
息を呑むような光景が私の目の前に広がっていた。
待て待て待て!
おかしいだろ? どうしてこいつが此処にいる!?
玄関に入った瞬間から、何者かの気配を感じてはいた。
私はてっきり慧音かと思っていたんだが……蓋を開けて、いや、戸を開けてびっくり。
そこに居たのはなんと、永遠亭の姫様その人だったのだ。
それだけでも驚愕に値すると言うのに、あろうことかこいつは気持ち良さそうに寝息を立てているのである。
──信じられない。
私は我が目を疑ったが、何度目を擦ろうとも、何度頬を抓ようとも、輝夜は依然として我が家のちゃぶ台を独占していた。
怒り心頭である。
腹わたが煮えくりかえるとは、こういった時に使う言葉だろう。
そう、その筈だった。
少なくとも、普段の私ならば。
だけど無防備な輝夜の寝顔を前に私が思った事は、怒りとはもっともかけ離れた感情だった。
──綺麗だ。
食い入るように輝夜の寝顔を見詰めている事に、自分自身でも気付いていた。
だけど止められない。どうしてか、輝夜の異様なまでの美しさを否定出来ない自分がいた。
こんなのはおかしい! こいつはあの輝夜だぞ!?
憎くて憎くて憎くて憎くて。
殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて仕方ない。
そんな輝夜を相手に、私は一体何を血迷っているというのか……?
どんなに心の中で輝夜を罵倒しようと、普段なら止まる事を知らない憎しみが、今は全くといって良いほど湧き上がってこない。
そもそも何故心の中で罵倒する必要があるのだ?
此処は私の住まいで、こいつは侵入者で……だから怒鳴り散らしてやれば良いのだ。
だけどそれをしないのは、輝夜を起こしたくないと思う私がいるという事か?
それに先程から私は声を発するどころか、瞬きすら出来ずにる。
輝夜の、とても同じ人間とは思えないほど(月の民と言っているのだし、実際違うのかもしれないが)透き通るような白い肌に思わず溜め息すら零れそうだ。
きっと触れたら相当柔かいのだろう。
そんな難くない想像が浮かぶと同時に、触れてみたい、という感情が頭をもたげた。
恐る恐る輝夜に近付く私。
最早相手が憎き仇であることなど月の裏側まで飛んでいってしまったようだ。
再び、息を呑む。
どうして私はこんなにもドキドキしているのだろう?
ちゃぶ台の上で輪を作るように腕を組み、その中に半分だけ頭を埋めるようにして眠る輝夜。
横顔を覗かせ、穏やかな寝息を立てているすぐ側に腰を下ろしながら私は思った。
──本当に、寝てるんだな……。
こんなに近くで、私がその寝顔を覗き込んでいるにも関わらず、輝夜は一向に目覚める様子は無い。
また、規則正しい寝息は決して狸寝入りをしているようでも無かった。
──ちょっと……だけなら。
まるで吸い寄せられるかのように、その陶器のように白い肌に向かって私の指はゆっくりと伸びていく。
しかし、ほんの僅かな距離の筈なのに、震える指は中々目的の頬へと辿り着かない。
──本当に……良いんだよな?
ここまで来て、急に私は後ろめたくなってきた……。
伸ばし掛けていた指を静止させて、私はふと考える。
許可無く頬に触れられたら、きっと輝夜は怒るだろう。
何せ相手がこの私だ。こんな事して許してくれそうなのは、幻想郷中を探しても慧音ぐらいのものだろう。
『怒らせたところで、何の不都合がある?』
声がした。
他にも誰か居るのかと、慌てて辺りを見渡すが影一つ見つからない。
不気味に思ったが、しかし、その声が聞き覚えのあるものだと言う事に気が付くのに、さほど時間は掛からなかった。
そう。声の正体は私自身だった。
心の声、とでも言うのだろうか?
冷静さを装ったもう一人の自分が、戸惑う私の背中を押しているように感じた。
そしてその声の言葉に、私はもっともだと思った。
今更輝夜を怒らせたところで、一体なんだと言うのだ。
むしろ好都合ではないか。きっとその時私は普段の私を取り戻せるだろう。
そして何時も通り愉悦の時を──心踊る殺し合いへと、この身を投じれば良いのだ。
そう腹を括った私は、輝夜の頬に向かってもう一度その指を伸ばした。
ぷにっ。
「──っ!?」
息を呑むのは、これで何度目だったろうか?
想像を絶する頬の柔らかさに、まるで雷に打たれたかのように、私は暫くその場で固まっていた。
コレハヤバイコレハヤバイコレハヤバイコレハヤバイコレハヤバイ……
「んっ……妹紅……。」
ビクッッッッッッ!
「か、かか……! ちが……!(勘違いするな!)」
──起こしてしまったか!?
予め想定していた筈の事態にも関わらず、焦りから言い訳すらまともに私は言え無かった。
「ん……すぅ……すぅ……。」
「寝言……なのか?」
驚かせやがって……。
私は心底安堵すると、今一度、輝夜の前に腰を下ろす。
しかし今ので起きないとなると、もっと悪戯出来るな────はっ!? な、何を考えてるんだ私は!?
ブンブンと頭を振って邪念を追い払おうとする。
だ、だけどまだ輝夜を怒らせるって目的は果たせてない訳だし……
そうやって自分を正当化させると、私はまた懲りもせず輝夜に向かって指を伸ばしていた。
『頬だけでお前は満足なのか?』
再び聞こえた声に私は戸惑った。
なんだ? 何を言っている?
頬以外に触れるところなんて……。
答えは──私の目の前にあった。
輝夜の唇……凄く……やわらかそう。
どくんっ。
一体……どんな味がするのだろう?
ドクンッ。
ひょっとして……凄く甘かったりするのだろうか。
ドクンッ!
……して、みる?
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!
早鐘の様に心臓が脈を打つと、頭までもが白く靄が掛かったようになって、私から正常な判断力を奪っていく……。
それではいけないと、とろけそうになる頭で必死に考える。
何が悲しくて、同性と、しかも輝夜と接吻などしなくてはならない?
少なくとも慧音の方が数倍も数十倍もましだろう?
そもそも私はここ(幻想郷)の住民のように同性でも厭わないような特殊な性癖など持ち合わせてなどいない!
いや、確かに気付いたらここに居て、相当長く幻想郷に居たらしいのだが、そう言う問題では無い!
というか輝夜だって黙っていないだろう。私に接吻などされようものなら、激昂するに決まっている。
どうしてそんなわざわざ怒らせるような真似を…………しても良かったんじゃないか?
ちょっと前の自分がそんな事を考えてたような気がする……が、よく思い出せない。
兎に角ここはやっちまうべきなのか?
何だかそれも妙案のように思えてきた。
大体あれこれ考えるのは得意な方ではないのだ。
そう。此処は私の魂が望むままに、あのやわらかそうな唇を奪ってやればいいのだ。
そうだ。そもそも勝手に人の家に上がり込んで無防備に眠り込んでる奴が悪いのだ。
これでは好きにして下さいと……き、キスして下さいと言わんばかりじゃないか。
よし! そうと決まれば実行あるのみ!
迅速かつ的確に、その上ねっとりと味わうようにしてその唇を奪ってやる……!
そして事が済んだ後でやっとお目覚めになった眠り姫はきっとこう言うのだ。
『ずるい……寝てる隙にするなんて。』
そしたら私は輝夜の奴を思いっきり嘲笑ってやるのだ。
『他人の家で勝手に寝ているからそうなる。それともまさか、月の姫とも在ろう者が、接吻は初めてだったかな?』
と。
……………………。
…………。
……。
「……んなこと言えるかぁぁぁ!!!」
気が付けば私は竹林の中をを全速力で駆け抜けていた。
「…………意気地なし。」
姫様は最初からそのつもりで寝たふりをしていたということでOK?
さて明日のヘルツさんに備えて早く寝ようかなとか思ってたらこれだもんなwww
目が冴えちゃって眠れなくなったじゃないですか全く。
最近どんどん守備範囲を広げていきますねww
は輝夜の誘惑ですよね!
やっぱもこてるはよい。続きもwktkして待ってます
続き期待!
続きが楽しみだ!