「検証結果です。最初の方はブドウのような味がして五分ぐらいで味がしなくなり、残りの29日と23時間と55分は味がしませんでした。以上です」
「へ?」
「いやだから最初の方はブドウのような……」
「ちがいますよ!いまの『へ?』は『へ?私は最近年でのう。よう聞こえんかったわ。もう一度言ってくれるかのう?』の『へ?』じゃなくて『へ?それで終わり?』の『へ?』ですよ!」
「はい。これで終わりです」
「なんということなの……!予想外ですよ!」
「いや……分かってた結果だと思いますよ」
八雲紫がガムを幻想郷に持ってきて幾何の年がたち、今までガムというものを一ヶ月も噛んだ人はいなかった。
ガムは噛み続ければ何かあると思った。
そこに私は夢があると思った。
だから一ヶ月噛み続けた。
「噛んでいたのは私ですけどね」
八雲紫からガムは外来のものだと聞いていた。
最初はとても不思議だった。
噛んでも噛んでも喉を通る大きさに小さくならない。
むしろ喉を通ることを必死に拒むように彼(ガム)は口内に縛りついてるようだった。
「ガムを三人称で呼ぶ人を初めて見ました」
最初、彼(ガム)は甘い味を口内に振りまく。
しかし次第にその味が徐々に無くなっていく。
今日は町内のマラソン大会なのに何を勘違いしたか、最初から全力疾走をしてすぐばてるランナーのように。
「今の比喩はとても分かりづらかったです」
味が無くなった彼(ガム)を私たちはすぐに捨てる。
噛み続けてると何か吐き気がするからだ。
無味というのは吐き気を催すものなのだなとこの時初めて知った。
「一ヶ月も噛み続けてると慣れますけどね」
しかし私は吐き気を彼(ガム)からのメッセージだと受け取った。
『今私を吐かないと大変な事になる。すぐに私を吐くんだ』と彼(ガム)から聞こえてくるようだった。
私は考えた。
もし彼(ガム)を噛み続けるともしかしたら大変な事になってしまうんじゃないか……と。
たとえば彼(ガム)から魔界の植物が発生して私たちは食べられてしまうのじゃないかとか、彼(ガム)がいきなり爆発して顔面が粉砕してしまうのではないか。
「あなたの発想力には脱帽しっぱなしッス」
「だからそんな事が起これば一面記事になると思ったんだ!」
「いやいやいや!一面記事どころかこれじゃあコラムですら狙えませんよ!」
「椛が寝てる間にガムを飲み込んでしまわないように毎晩、毎晩あなたの口元を見ていた私の苦労はどうなるんですか! 口元を見るのが暇すぎて椛の耳の毛を一本、一本むしり取ってた私の苦労はどうなるんですか!」
「耳が円形に脱毛してたのは、あなたのせいだったんですか!」
「食べ物と一緒にガムを食べてしまわないように、椛のために流動食を毎日作っていた私の苦労はどうなるんですか!」
「流動食って水にご飯入れてただけじゃないですか! あんな斬新でエポックメーキングなお粥食べられるもんじゃなかったですよ!」
「……ひっく……ひっく」
「え? 泣くほどあなた苦労して無いじゃないですか! 泣きたいのはこっちですよ! だからガムを噛み続けることを一面記事にするのは無謀すぎたんです! まだお庭の蟻さんを取材した方が良い記事が書けましたよ!」
「……ぷぷぷ。椛は蟻にさん付けですか?」
「くっ……! そんな事はどうでも良いです! どうするんですか次の記事!」
「くそう! こうなったら夜な夜な椛の口元を見ながらメモをした椛の寝言を一面記事に……」
「うわ! やめてください!」
「えーと……『にとりさんは私の……』」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
そしてあとがきww
ただ
「彼」は三人称のような気がします
ガムを一ヶ月噛み続けて顎が鍛えられた椛に
あちこち噛まれるがいいwww
いやむしろとってもわかりやすかった。
例えが凄く分かりやすかったです!