「美鈴、美鈴」
「おや妹様。どうされましたか」
いつものように門番の任に就いていた美鈴のもとへ、日傘を差したフランドールがやってきた。
少し急いできたようで、肩で軽く息をしている。
「フランは先ほど、大変なものを見てしまいました」
「ほほう。それは一体なんですか」
芝居がかった口調はいつものお約束。
美鈴に先を促されたフランドールは、ごくりと息を呑んでから口を開いた。
「……えっとね。さっき私が、お姉さまの部屋に遊びに行ったら―――……」
◇ ◇ ◇
「…………」
「…………」
無言で立ち尽くすフランドール。
彼女の視線の先には、同じく無言でその場に佇むレミリアの姿があった。
ただレミリアがフランドールと異なっていたのは、彼女はカーペットの上でお姉さん座りをしていたということ、そしてその膝の上には、健やかに寝息を立てている銀髪メイドの頭が乗っていたということである。
そう、つまりは。
「……ひざまくら、か」
「あ、う」
フランドールが歪な笑みを浮かべて呟くと、レミリアは急にわたわたとし始めた。
頬を紅潮させ、口を金魚のようにぱくぱくと開閉させた後、ようやく言葉を発する。
「ち、ちがうのよ。フラン」
「何がちがうのかな」
「いや、だからね。咲夜がね、『最近疲れがたまってるんです』とか『お嬢様のお膝が恋しいです』とか頻りに言ってくるもんだから、つい、その」
「ふーん。へー。ほーう」
「うぅ……」
にやにやと笑うフランドール。
レミリアは顔全体を真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯いた。
◇ ◇ ◇
「……いやー、あのときのお姉さまの動揺っぷりたらなかったね。もうプーックスクスって感じ」
「前から思ってましたけど、妹様って結構性格悪いですよね」
「なんか言った?」
「いえ、何も」
◇ ◇ ◇
「じゃあお姉様、私そろそろ行くね」
ひとしきり姉を弄った後、せっかく寝ている咲夜を起こしてしまうのも忍びないということで、フランドールは部屋を後にしようとした。
するとそのとき、レミリアの弱々しい声がフランドールの背中に投げかけられた。
「ま、まって。フラン」
「? なに?」
「いや、あの……できればこのこと、他の皆には言わないでほしいんだけど……」
「? なんで?」
「い、いやだって、ほら、私がいつもこんな風に咲夜を甘やかしてるって思われたら……あ、いや、いつもじゃないのよ! 今日は本当にたまたまで」
「ふんふん、それでそれで?」
「だ、だから……なんていうか、主人としての沽券というかプライドというか、そういうのに関わるっていうか……」
「わかったよ。お姉様。私誰にも言わないよ」
「本当!? フラン」
「本当だよ。だから安心して。お姉様」
「ありがとう、フラン。愛してるわ」
「私もよ。お姉様」
◇ ◇ ◇
「……というわけだったんだよ」
「私、妹様のそういうところ好きですよ」
「もちろんここに来る前に、パチュリーと小悪魔にも詳細に伝えてきたよ」
「ええ、それでいいと思いますよ」
にこやかに会話を交わす二人。
そこには微塵の罪悪感も存在してはいない。
「ところで、美鈴」
「はい」
「なぜ私が最後にここに来たのか、もう分かっているよね?」
「……と、言いますと?」
首を傾げる美鈴に、フランドールはにやりと笑って応えた。
それはまさに悪魔の笑み。
―――小一時間後。
「……へぇ。真っ昼間から太陽の下でお昼寝とは、暢気な吸血鬼もいたもんだぜ」
「……うるさいわね。今日は見逃してあげるから、とっとと行きなさい」
運がいいのか悪いのか、こういうときに限って出現する泥棒ねずみに対し、美鈴はしっしっと追い払うように手を振って応じる。
彼女はもう片方の手で日傘を差しており、その膝の上では―――小さな吸血鬼が気持ち良さそうに寝入っていた。
「じゃあ悪いけどそうさせてもらうぜ。下手に暴れて、そこのお嬢さんの逆鱗に触れたら事だからな」
にししと笑うと、魔理沙はそのまま門の上を飛び去っていった。
その影を遠くに眺めながら、美鈴は自分に言い聞かせるように呟く。
「……ま、今日くらいはいいわよね。咲夜さんもちゃっかり休んでるみたいだし……」
「……美鈴」
「え、い、妹様!? 起きてらしたんですか」
膝の上から聞こえた呟きに、思わず美鈴は声を大にした。
フランドールはにやりと笑って言う。
「……今、魔理沙見逃したね」
「う」
「……あとで、お姉さまに言っておくね」
「え、ちょっ、そ、それはいくらなんでもひどくないですか!? だって妹様が―――」
「……なに?」
フランドールの目の奥が紅く光る。
美鈴は観念したように溜め息を零した。
「……なんでもないです」
「うむ。では私はもう少し寝ます。フランドールは昼に弱いのです。なぜなら吸血鬼だから。ぐぅ」
そう言い残して、フランドールは再び夢の中へと落ちていった。
今やすっかりあどけない寝顔で、すやすやと寝息を立てるのみ。
「もう……しょうがないなあ」
美鈴は苦笑混じりに呟いて、その金髪を優しく梳いた。
たまにはこんな一日があってもいいかと、そんな風に思いながら。
了
ほのぼのまったりでこの止まらない2828を
どうすればいいんだーーーッ!!!
ぐぅ。
フランは可愛いだけにあらず!
小悪魔なフランが愛らしい!
それにしても皆イイ性格してますね。
私、まりまりささんのそういうところ好きですよ。
最高やな!
レミ咲きゃほう