咲夜には夢があった。
小さい頃のささいな憧れ。フランドールやパチュリーに読んでもらったおとぎ話。
幼い咲夜は灰かぶり姫だとか、白雪姫に眠り姫。きれいで優しいお姫さまが出てくる物語が好きだった。
咲夜はその頃から、つまり紅魔館に来た時からメイドだった。自分がお姫さまになれないことはよく分かっていたように思う。
むしろ、偉大なる吸血鬼、レミリアの従者であるということに幼いながらも、誇りを感じていた。レミリアにふさわしい存在になるべく、日々努力を重ねることに充実と喜びを感じていたのだ。
より完璧に、より瀟洒に。レミリアの隣に立つ従者として、誰にも負けないように。
それが咲夜のアイデンティティだった。もちろん、それは今も変わらないのだけど。
それとは違う。もっと夢見がちな部分で、咲夜は憧れていたのだ。
“お姫さまだっこ”に。
今、思えば恥ずかしい夢だけれど。
「どうしようかしら」
「お嬢様のお望みのままに」
博麗神社の花見に参加したレミリアに付き添った咲夜は瀟洒に微笑む。
時刻は朝。どこか柔らかな朝日がきらきらと降り注いでいる。
花々の香り、暖かな風。よく晴れた春らしい陽気はとても気持ちが良い。人間である咲夜にとっては。
しかし、吸血鬼であるレミリアにとってはこのような天気は大問題。
いつもの宴会であるならば、こうして太陽が昇るより先に席を辞して帰宅していたはずだったのだが。いつも以上に人妖が多く集まったお花見、もとい宴会は、それはそれは盛り上がりを見せていた。
当然、レミリアもそれを黙って見ているような性格ではない。むしろ率先して、盛りあげていく方だ。昨夜も霊夢との飲み比べだの、他の勢力のトップとの従者自慢だの、いつだって中心ではしゃいでいたように思う。
咲夜はそんな主人を愛おしくも、誇らしくも、思いながらそれを見守っていた。
だが、それはそれとして。盛り上がりに乗りすぎたレミリアは完全に帰るタイミングを逸してしまった。共に来ていたフランドールは途中で眠ってしまい、美鈴に背負われて帰っていったし、パチュリーも今日はアリスの家に泊まるのだと言って、適当な時間には姿を消していた。
だから、身内では咲夜とレミリアだけが博麗神社に残っていたのだが。
ここまで晴れあがった空の下、レミリアが飛んで帰るのは難しい。
いつものように咲夜が後ろから日傘を差すだけでは防ぎきることができないように思われた。特に、大きな翼を覆うことは不可能に近い。
どうしようと悩んでいると、霊夢が夜までうちにいればいいじゃない、と眠たげにあくびをしながら面倒臭そうに呟いた。咲夜がいれば、片付けも楽だし、などと嘯いてはいたが、その申出自体はありがたいものだった。
しかし、こんなことで当主が館を空けるわけにはいかない、とレミリアは言い張る。
当主も何も、昼間はどうせ眠っているだけだ。館にはフランドールもいるから心配ないのでは、というようなことを咲夜は進言したのだけれど。
霊夢の所に泊まりたくない、という気持ちも理解できないわけではないのだ。
基本的にお嬢様育ち、西洋育ちのレミリアはどうも日本式の文化には疎いところがある。
それは紅魔館の住人全員に言えることなのだが。
特に誰よりもレディであれ、と厳しく躾をされてきたレミリアはそれをひどく気にしている。外見も性格も幼いところのあるレミリアだが、ことマナーに関しては右に出る者がいないほどの完璧さを誇っている。
だが、日本文化に関しては、そうもいかない。
畳での作法だとかなんとか、知らないことばかりだ。普段、それなりには役に立つ親友の知識人、パチュリーもそのあたりには弱い。
人一倍プライドの高いレミリアは、お気に入りの霊夢の前で恥をかくことを嫌ったのである。
いつでも、紅魔館の威信を気にかけるレミリアが咲夜にとっては誇らしい。
整った顔立ちをしかめて、うーん、と唸っていたレミリアは、やがていいことを思いついたというように、犬歯を見せて笑う。
「咲夜が抱っこしてくれればいいのよ」
「抱っこ、ですか?」
「ええ。私が日傘を持って、咲夜が私を抱っこすれば日には当たらないでしょう?」
「はあ……」
咲夜は澄まし顔で微笑む。なるほど、いい考えかもしれない。
小さな子どもと変わらない体躯のレミリアを抱いて飛ぶくらい、普段から鍛えている咲夜ならば、造作もない。見る者に、従者に抱っこされる主人という少しばかり子どもっぽいイメージを与えかねないけれど。
「それでは、失礼しますね」
レミリアに向き直っての両腋の下に手を差し入れる。そうしてぐっと力を入れてレミリアを抱き上げる。左手は背中に、右手はお尻のあたりに。何度かゆらゆらと身体を揺らし、位置を調整する。
蝙蝠のような羽根が必要以上に折れ曲がらないように細心の注意を払いつつ、咲夜はレミリアを抱っこした。
「ちょっ、ちょっと、咲夜?」
「なんでしょう?」
「どういうつもりよ、これ!」
「抱っこです」
慌てたような動揺したような声でレミリアは抗議する。今、レミリアの幼い両腕は咲夜の頭のあたりにある。ちょうどいい所にあったのか、両サイドをひと房ずつとって三つ編みにした部分を掴んでくる。
はて、何か、問題があっただろうか。
咲夜は考えるけれども、これといった過失は見当たらない。
「抱っこって言ったら、お姫さまだっこでしょう?」
「お姫さま、抱っこ……」
「もう、こんな抱き方じゃ子どもだと思われちゃうじゃないか」
憤慨したように咲夜の髪を弄ぶレミリアは頬を膨らませる。
お姫さまだっこ。
どこか甘酸っぱい響きを持つその言葉に咲夜の意識が奪われていたせいで、これと言って髪の毛の処遇については突っ込みきれない。
紅魔館に帰ったら、編み直さなければならないだろうが。
「ほら、やり直し」
ふわり、と羽根を広げて咲夜の腕から逃れたレミリアはもう一度咲夜に向き直る。
そうして肉食獣のように不遜な笑みを浮かべて、小さな胸を張った。
「ん」
「それでは、失礼して」
今度はふわふわしたスカートがめくれ上がらないように、余計な皺がつかないように気をつけながら、膝関節の裏に右手を差し入れ、左手で背中を支える。
よいしょ、と小さく掛声をかける咲夜。薄手の絹製のドレスは肌に優しく、抱き上げた腕に気持ちがよかった。これは咲夜の功績。日々の洗濯で細心の注意を払っているからこそだ。
「うん、いい感じだわ」
咲夜の腕の中にちんまりとおさまったレミリアは満足げに笑う。その存在感こそ大きいけれども、思っていたよりもずっと軽い身体が愛おしい。
お姫さまだっこをしていると、先ほどまでの抱っことは違い、すぐそばにレミリアの顔がある。見慣れているはずなのに、ドキドキしてしまう。肩近くに回した手に柔らかな髪が触れる。
よく物語の中では、王子様が平然とお姫さま抱っこをしているけれども、これは早々平静でいられるものではない。
しかし、そこは完璧で瀟洒なメイドを自負する咲夜であるから、なんとかいつも通りを装うことが出来たのだが。
いつの間に手にしていたのか、日傘を開いているレミリアは、もういつでも出発できるくらいの状態だ。
「じゃあ、帰りましょう、咲夜」
「はい、お嬢様」
状況自体は芳しくない。
だが、敬愛する主を胸に抱いて、気持ちのいい春の陽気を飛んでいく。
それは、咲夜にとって、この上もない幸福だった。
雨だ。
さほど激しい雨ではない。せいぜい小雨。しとしとと微かに建物に水滴があたる音。
咲夜は大きな洗濯籠を腕いっぱいに抱えて、廊下を闊歩していた。
かつ、かつ、かつ、という規則正しいヒールの音が人のいない廊下によく響く。
ここのところ、どうも雨が続いているせいで、洗濯物が溜まってしまう。優先的に手入れをするレミリアやフランドールのものはともかく、咲夜自身も含めたメイドの衣料をすべて干すのは難しい。
これだから、梅雨と言うのはいやなのだ。
晴れたら、晴れたら、と考えているうちに、ごまかしが効かないほどに溜まってしまったわけなのだけれど。こんな情けない状態をレミリアに知られるわけにはいかない。
そんな使命感に駆られつつ、少々の苛立ちを含ませて、咲夜は歩く。
決して、走ることはしない。有事の際はともかく、メイドだってばたばたと走るのはマナー違反だ。
「……あれは」
暗めの緋色を基調とした内装、蝋燭の明かりが取りたてて多く置かれているというわけでもなく、薄暗い廊下のなか、ひときわ目立つ色がある。
どこかのお化けのようにぼんやりと白っぽい何かが床に落ちている。
ぱっと見はシーツか何かにも見えないこともないのだけれど、その上を彩る鮮やかな紫色が、そうではないことを主張している。
「楽しいですか、パチュリー様」
廊下に倒れ伏せていたのはパチュリー。動かない大図書館。紅魔館が誇る知識人だ。
だが、息使いに合わせて微かに動く背中以外は、まるで微動だにしない。
初めて見た時は驚きもしたけれど、今となってはそうそう珍しいことではないと知っている。咲夜は困ったように一度ため息をつく。
「……、そう見えるのなら、一度視力の検査をすることをお勧めするわ」
「あいにく、視力には自信がありますので」
パチュリー様とは違いますわ、などと嘯きながら、青い顔をしたパチュリーを抱き起こす。ふう、とひと心地ついたようにため息をつくパチュリー。
「そろそろ屋敷内で行き倒れるのはどうかと思うのですが」
「しかたないでしょう。いちいち小悪魔を連れて歩くのも面倒だし」
概ね図書館に引きこもっているパチュリーは体力がない。たまに紅魔館を散歩と称して歩きまわっては途中で力尽きることも珍しくはない。
大抵は小悪魔あたりが回収するのだけれど、こうして咲夜が発見、保護することも多々ある。
もう少し運動をしたらどうか、とも思うが、屋敷内でこの有様では外に出たらどうなるかなんて容易に想像できる。運動をすれば力尽き、だからと言って運動をしなければ体力がつかない。そんな負のスパイラルだった。
「咲夜」
「はいはい、お部屋でよろしいですか」
「そうね。少し休むわ」
咲夜の腕で抱き起こされた状態のまま、パチュリーはそっと瞳を閉じる。洋服ごしに伝わる熱に少し眉を寄せながら、膝の裏に手を差し入れて、咲夜は小さな知識人を抱き上げた。
やわらかな服の上からでも分かる骨ばった身体は細い。ともすれば折れてしまいそうなほど。咲夜よりもずっと長い時を生きていて、膨大な知識量を持つ、偉大な魔女だけれど。こうして、抱き上げてしまえば、普通の少女と変わりがない。
否、今の状態ならば咲夜にだって、容易にパチュリーを殺すことが出来てしまう。
魔力は強力、肉体は脆弱。それがパチュリーだ。
「いつも悪いわね」
「いえ」
それをきっとパチュリーも分かっていて。それでいてこんな風に無防備なさまをさらしてくれるのは一重に信頼ゆえ。
気難しい魔女がここまで、心を許してくれること。
咲夜はそれを密かに誇りに思っている。
「フランお嬢様?」
先ほどまで、ふわぁ、とあくびを繰り返していたフランドールががくん、と頭を揺らす。
眠たげに細められた瞳は、今にもくっついてしまいそう。うー……とぐずるように唸っているけれども、押し寄せる睡魔には敵わないようだ。
「もう、フランったら」
「仕方無いわよ、いつもなら昼寝をしている時間だもの」
そんなフランドールを見て、紅魔館の屋根の上に並んで座ったレミリアとパチュリーが口々に言う。そんな二人がフランドールを眺める瞳は優しい。
「随分、はしゃいでいらっしゃいましたからね」
起きだしてからのテンションの高さはもう言葉にならないほどだ。ぴょんぴょんと飛び跳ね、けらけらと笑い、必要以上に動き回っていた。
パチュリーによれば、今日は流星群が来るのだという。それを聞いたレミリアとフランドールは瞳を輝かせた。たくさんの流れ星が降り注ぐ夜。咲夜だって、少しわくわくしてしまう。
是非、それを観測しようということで、こうして屋根の上に並んでいたのだけれど。
長いこと閉じ込められていたフランドールは、流れ星そのものを見るのさえ初めて。
だから、余計に起きだしてからのはしゃいでいたのだろうけれど。
それがよくなかったのか、いざ始まろうという今になって、船を漕ぎ始めたのだ。
「あれが、デネブ、アルタイル、ベガ。夏の大三角と呼ばれる星よ、レミィ」
「えー、分かんない。どれなの、パチェ」
「だから、あれだってば」
天気は晴天。月は見えないけれど、その分、星々の瞬きがより輝いて見える。
夏の夜独特の、不思議な匂いが辺りに満ちていた。
パチュリーとレミリアがきゃいきゃい言いながら夜空を指差しているのにも参加しないで、フランドールは咲夜の膝の上。やがて、小さな寝息をたてはじめた。
「お嬢様」
「ああ、寝ちゃったのね」
「はい。どうしましょう?」
夢の中で天体観測でもしているのか、幸せそうな顔で寝入った妹の姿にレミリアは柔らかな視線を向ける。慈しむような、愛おしむような、そんな表情。普段の不遜な表情からは想像もつかない優しげなその表情を、咲夜は好きだった。
「悪いけれど、ベッドに運んでくれる?」
「かしこまりました」
瀟洒に一度頷いて、起こさないように注意を払いながらそっとフランドールを抱え上げる。ひざの裏に手を差しこんで、肩に手を回す、お姫さまだっこだ。
小さな身体は完全に寝入っているために、すっかり力が抜けていて、普段よりも重く感じる。
だが、その重さだとか、眠っているが故の子供体温だとか、そういうものがとても愛おしいと咲夜は思う。
すうすう、と寝息を立てる表情はあどけなく、吸血鬼相手にこういうのはどうかとも思うけれど、まるで天使のような寝顔だった。
色こそ違えど、レミリアとよく似た質の金髪が腕をかすめてくすぐったい。
「フランをよろしくね、咲夜」
「はい、お任せください」
相変わらず、楽しげに星を眺めているレミリアとパチュリーを後に残し、フランドールを胸に抱いた咲夜は静かに、できるだけ振動を加えないように、下へと降りていく。
安らかな眠りを妨げないように。
フランドールは咲夜にとって仕えるべき相手だけれど、今この瞬間だけは、ただ幼子のようで。
ただただ、愛おしかった。
「お疲れ様です、咲夜さん」
「ああ、お疲れさま、美鈴」
今日一日の仕事を終えて、ため息とともに食堂へ向かう。
そこでにこにこと笑って、チャーハンをかきこんでいたのは美鈴だった。
仕事内容はまったく違う二人だが、こうして仕事終りの時間が合うことは珍しくない。
自分の分の皿とスプーンを用意した咲夜は美鈴の正面に腰を下ろす。テーブルの真ん中に置かれた大皿から自分が食べる分だけ、チャーハンを取り分けた。
「あれ、それしか食べないんですか?」
「ちょっと夏バテ気味でね。美鈴はよく食べるわね」
「体力勝負ですから!」
にかっと笑って、ぐっと力こぶを作るような動作をする。流石に本気で見せようとしているわけでもなく、二の腕が盛り上がることはなかったけれど。
どこかコミカルな美鈴に咲夜はくすくすと笑ってしまう。仕事中はともかく、美鈴のこういう明るい性格を咲夜は好ましく思っている。
それこそ、小さい頃にはよく遊んでもらったものだ。
おままごとにおうまさんごっこ。力強い美鈴にはよくだっこだのおんぶだのもしてもらっていた。
「咲夜さん?」
「え?」
「どうしたんですか? ぼーっとしちゃって」
口元にスプーンを当てて美鈴は首を傾げる。いちいちとぼけた仕草をするのはもはや癖なのか。形の整った眉は心配そうに寄せられていた。
「ああ、ちょっと懐かしいことを思い出してね」
「懐かしいこと……、ですか?」
「ええ」
チャーハンを口に運びながら咲夜は、美鈴と遊んだ時のことを懐かしく語る。それを聞いていた美鈴も、少しずつ頬を綻ばせていった。
「あの頃の咲夜さんは可愛かったなあ」
「どういう意味よ」
「あ、もちろん今だって、可愛いですよ?」
少しむっとした顔で咲夜が睨みつければ、美鈴は慌てて手と首を横に振る。長い髪がぶんぶんと揺れるほどの勢いに、咲夜は怒りを持続させることなど出来やしない。
「あの頃、咲夜さん、お姫さまだっこが大好きでしたよね」
「な……っ」
「王子さま役を仰せつかるのは、いつも私で、実はお嬢様に嫉妬されてたんですよ?」
今だから言える話ですけどねー、と笑いながら語る美鈴に咲夜は絶句する。
確かにおぼろげながら、お姫さま抱っこをねだったのは覚えているけれど、あえてこうして指摘されると恥ずかしいことこの上ない。
しかも、レミリアがそんな風に考えていたなど初耳だ。
珍しく動揺する咲夜を見て、楽しそうな美鈴を見ているのが癪で。精一杯の虚勢を張って、何事もなかったかのようにため息をついてみせる。
「まあ、今じゃお姫さま抱っこをする側よ」
「ああ、そうですよね」
レミリア、パチュリー、フランドール。幼いころは自分よりもずっと大きく感じていた三人の身長を追い越したのはいつのことだったか。
気がつけば、お世話の一環として三人を抱き上げることも珍しくなくなっていた。
「ね、ね、咲夜さん」
「美鈴?」
いたずらっぽく瞳を輝かせた美鈴がテーブルのコーナーを曲がって、咲夜の前に歩いてくる。その挙動の意味が分からず、咲夜は眉間にしわを寄せた。
未だに、美鈴の皿にはチャーハンが残っている。美鈴に限って、食べ残しをするはずもない。いったいどういうことなのだろうか。
「ちょーっと、失礼しますね」
「え? ちょっ、ちょっと、美鈴?」
ふわり、と近づいてきた美鈴は咲夜の反論もなんのその。軽やかな動作で咲夜を抱え上げた。
お姫さまだっこ。
「わー、やっぱ大きくなりましたね」
「な、何を」
動揺する咲夜の目の前には柔らかな緑の丘、そして、優しく微笑む美鈴の顔があった。
同じぐらいの身長でのお姫さまだっこという不安定なはずの体勢なのに、不思議と安定感があるのは一重に美鈴の力ゆえか。
「たまには咲夜さんもお姫さまだっこされたいかなー、なんて思いまして」
「なにそれ」
「とりあえず、暫定的には私が咲夜さんの王子さまですからね」
まだ、お役御免というわけではないですよね?と首を傾げる美鈴は、楽しそうに笑う。
確かに、小さい頃、咲夜に王子さまが見つかるまでは、美鈴が咲夜の王子さまになる、なんてふざけた約束をした覚えはある。だけど、そんなのとっくに忘れていたと思ったのに。
恥ずかしさなのか、照れくささなのか、なんだかよく分からない気持ちのまま、頬が赤く色づくのを感じる。小さい頃はそんなことなかったのに。
「馬鹿」
「嫌でしたか?」
「……別に、いいけど」
よかったと笑う美鈴の顔を見ていると、怒るのも馬鹿らしくなる。
むしろ、こうして抱きかかえられていると、恥ずかしさと同じくらい安心感もあるのだ。
他の誰にも見られない今ならば、こうしてお姫さま抱っこをされているのも悪くない。
なんだか楽しくなってきた咲夜は自らの腕を美鈴の首の後ろへ回す。
ぎゅうっと、より密着度が増して、お互いの体温を強く感じる。夏で、暑くてしかたがないはずなのに心地よい。
本当の王子様とお姫様のように見つめあった美鈴と咲夜は、気がつけば揃って微笑んでいた。
お姫さまだっこ。
するのもされるのも悪くない。
凄く良かったです!
>申出時代
もしかして: 申し出自体
これはいい紅魔館。
いやぁ…しかしなごむわぁ…
咲夜さんはかわいいし、言う事ないすよ。
終始2828させていただきました
家族だねぇ……