「ねえ、一輪。これ見てよ、これ」
「一体どうしたのよ、水蜜」
水蜜が私に見せてきたのは天狗の新聞だった。毎日頼みもしないのに寺の前に置かれているものである。
新聞にはいろんな妖怪達が写真付きで紹介されていたが、その中で私と水蜜の写真が大きく載っていた。
「これって……前に天狗に撮られたやつ?いきなり寺の中に入ってきたと思ったら」
「そうみたいね。それより記事を読んでよ、というより見出し」
「見出し~?……え」
私達の写真の上には写真と同じく大きく見出し文が書かれているのだが、私の見出しの上には……
「『大空に咲く花』って……誰よ」
「誰って、どう考えても一輪よ。その後に『親父』と付いてるんだから間違いないわ」
「大空に咲く花のような親父、という意味ではないの?」
「誰得ですか、それ」
正直、信じられなかった。
命蓮寺、いえ、この幻想郷でも地味さでいえば一二の自信があるこの私を捕まえて『花』なんて……
『花』というなら、それこそ『白い蓮の花』ような姐さんの方が相応しいと思うのに。
「ちなみに聖は『ガンガン行く僧侶』でした」
「悔しいけど姐さんを的確に表しているわ」
姐さんのあの行動力のおかげで私達はここにいるわけだけどね……
「水蜜はどうだったのよ」
「え、私?私は……これ」
『惨憺たる大海原』
私の記事の隣に水蜜も同じように紹介されていたが、これって……
「本当、天狗は上手い二つ名をつけるよね。私にピッタリだもの」
「水蜜……」
惨憺たる。
痛ましいや見るに耐えないほど無残と言う意味である。
それはこの子の過去や心の中の嵐を表しているようにも見えた。
「でも少し嬉しいのよ。私のことを『海』と言ってくれたから」
「そうね、記事を読んでも、この幻想郷にない海を思い出させてくれる貴重な妖怪と書かれているわ」
「そうじゃなくて……一輪が『空』で私が『海』ということ」
「それは……」
『大空に咲く花』『惨憺たる大海原』……なるほど、確かに『空』と『海』だ。
私、というか雲山は入道の妖怪。空に大きく広がり、まさに空を表す妖怪と称されてもおかしくはないだろう。
「でも、それは私ではなくて雲山よ」
「雲山だけじゃなく、一輪も『空』なの」
「どういうこと?」
水蜜は話を続ける。
「空と海って、とても近いものだと思うの。本当は凄く離れているのにね」
海底の船幽霊と入道雲の頂上にいる私……本来なら決して出会うことはない二人だろう。
「海の中にずっと捕らわれていた私に船を与えて、私を海から進ませてくれたのは聖。でもね」
水蜜はじっと私の眼を見る。水蜜の瞳の中には私の瞳が映っている。まるで海に映る空みたいに。
「一輪、船が空を進むためには何がいると思う?」
「聖輦船は普通に空を飛べるじゃない」
「普通の船の話よ」
風?それは空を飛ぶ船に限った話じゃない。海の上を進む船だってそうだ。
羽?馬鹿な。船に羽はいらない。
「お手上げよ。正解は何?」
「正解は……『雲』。船が空を進むには『雲』でできた海が必要なの」
「雲海。やっぱり私じゃないわよ。私じゃなくて雲山、いえ、雲海と呼んだ方がいいのかしら」
私の力じゃない。私は『雲』でも『空』でもない。
「その雲海を創っているのは誰?操っているのは誰?頼んでいるのは誰?」
「ちょ、ちょっと水蜜」
「船を守っているのは誰?ずっと私を守ってくれたのは誰?私を励ましてくれたのは誰?
……一輪はもっと自分を信じてもいいと思う。貴女と雲山で、『守り守られし大輪』なのだから」
私は何も答えられなかった。
でも、水蜜が何を言いたいのかはわかった。私がいなくても、雲山がいなくても、それは『私達』ではないのだ。
そして水蜜は『私』に今、お礼を言っているのだと。
「あのね、一輪。海の底から出てくる時、最初に見えたのは私を引っ張りあげてくれた聖の手だった。
でも、海の上に出た後、真っ先に見えたのは……とてつもなく広い『空』なんだよ」
ああ、ようやくこの子の言いたいことが全てわかった。
『私』という一輪の花でも愛してくれる人がいるのだ、と。
「ありがとう」
水平線で向かい合う海と空みたいに私達は同じような顔でお互いに感謝を伝えた。
「一体どうしたのよ、水蜜」
水蜜が私に見せてきたのは天狗の新聞だった。毎日頼みもしないのに寺の前に置かれているものである。
新聞にはいろんな妖怪達が写真付きで紹介されていたが、その中で私と水蜜の写真が大きく載っていた。
「これって……前に天狗に撮られたやつ?いきなり寺の中に入ってきたと思ったら」
「そうみたいね。それより記事を読んでよ、というより見出し」
「見出し~?……え」
私達の写真の上には写真と同じく大きく見出し文が書かれているのだが、私の見出しの上には……
「『大空に咲く花』って……誰よ」
「誰って、どう考えても一輪よ。その後に『親父』と付いてるんだから間違いないわ」
「大空に咲く花のような親父、という意味ではないの?」
「誰得ですか、それ」
正直、信じられなかった。
命蓮寺、いえ、この幻想郷でも地味さでいえば一二の自信があるこの私を捕まえて『花』なんて……
『花』というなら、それこそ『白い蓮の花』ような姐さんの方が相応しいと思うのに。
「ちなみに聖は『ガンガン行く僧侶』でした」
「悔しいけど姐さんを的確に表しているわ」
姐さんのあの行動力のおかげで私達はここにいるわけだけどね……
「水蜜はどうだったのよ」
「え、私?私は……これ」
『惨憺たる大海原』
私の記事の隣に水蜜も同じように紹介されていたが、これって……
「本当、天狗は上手い二つ名をつけるよね。私にピッタリだもの」
「水蜜……」
惨憺たる。
痛ましいや見るに耐えないほど無残と言う意味である。
それはこの子の過去や心の中の嵐を表しているようにも見えた。
「でも少し嬉しいのよ。私のことを『海』と言ってくれたから」
「そうね、記事を読んでも、この幻想郷にない海を思い出させてくれる貴重な妖怪と書かれているわ」
「そうじゃなくて……一輪が『空』で私が『海』ということ」
「それは……」
『大空に咲く花』『惨憺たる大海原』……なるほど、確かに『空』と『海』だ。
私、というか雲山は入道の妖怪。空に大きく広がり、まさに空を表す妖怪と称されてもおかしくはないだろう。
「でも、それは私ではなくて雲山よ」
「雲山だけじゃなく、一輪も『空』なの」
「どういうこと?」
水蜜は話を続ける。
「空と海って、とても近いものだと思うの。本当は凄く離れているのにね」
海底の船幽霊と入道雲の頂上にいる私……本来なら決して出会うことはない二人だろう。
「海の中にずっと捕らわれていた私に船を与えて、私を海から進ませてくれたのは聖。でもね」
水蜜はじっと私の眼を見る。水蜜の瞳の中には私の瞳が映っている。まるで海に映る空みたいに。
「一輪、船が空を進むためには何がいると思う?」
「聖輦船は普通に空を飛べるじゃない」
「普通の船の話よ」
風?それは空を飛ぶ船に限った話じゃない。海の上を進む船だってそうだ。
羽?馬鹿な。船に羽はいらない。
「お手上げよ。正解は何?」
「正解は……『雲』。船が空を進むには『雲』でできた海が必要なの」
「雲海。やっぱり私じゃないわよ。私じゃなくて雲山、いえ、雲海と呼んだ方がいいのかしら」
私の力じゃない。私は『雲』でも『空』でもない。
「その雲海を創っているのは誰?操っているのは誰?頼んでいるのは誰?」
「ちょ、ちょっと水蜜」
「船を守っているのは誰?ずっと私を守ってくれたのは誰?私を励ましてくれたのは誰?
……一輪はもっと自分を信じてもいいと思う。貴女と雲山で、『守り守られし大輪』なのだから」
私は何も答えられなかった。
でも、水蜜が何を言いたいのかはわかった。私がいなくても、雲山がいなくても、それは『私達』ではないのだ。
そして水蜜は『私』に今、お礼を言っているのだと。
「あのね、一輪。海の底から出てくる時、最初に見えたのは私を引っ張りあげてくれた聖の手だった。
でも、海の上に出た後、真っ先に見えたのは……とてつもなく広い『空』なんだよ」
ああ、ようやくこの子の言いたいことが全てわかった。
『私』という一輪の花でも愛してくれる人がいるのだ、と。
「ありがとう」
水平線で向かい合う海と空みたいに私達は同じような顔でお互いに感謝を伝えた。
村紗と一輪の友情を二つ名を使ってうまく書けてたと思います。
あまりに短いからもっと見てみたい!
それこそ海と空のようにでっかく!
空と海は繋がっています。何も邪魔するものはありません。
ムラ一補給完了。
村紗と一輪もそんな関係で互いに繋がり合ってるんだろうなあ。
次回作も期待してます!!
ひさびさにいいムラいちを補給できました
良かったです。