Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

パッド長っていう使い古されたネタがまるで悪の代名詞のように扱われるからその流れに乗ってみた

2010/04/15 11:42:21
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十六夜咲夜の胸は小さい。
それは彼女と親しい者の間では周知の事実であって、本人もまた認めていることである。
しかし胸の大小とは、細身で比較的背丈が高く、端正で目鼻立ちも通った彼女の魅力を語る上では大した意味をなさないのもまた事実なのである。
むしろ胸が大きければ、その完璧なプロポーションも崩れてしまっただろう。まさに神の気紛れである。

そんな彼女が、胸を気にしているのではないかという疑惑が流れたのは、鬼が定期的に幻想郷の人妖を集めた異変のことだった。
メイド服の胸元が、変に盛り上がっていた。そしてまことしやかに囁かれはじめた、十六夜咲夜のパッド疑惑。
容姿が優れている者ほど、コンプレックスもまた強い。酷い噂にもなると、咲夜は巨乳を憎んでいるとまで言われていた。
だが当人は、噂が耳に入っても微笑んでいるだけで、それに対する発言は一切しなかった。

人の噂も七十五日という。
咲夜を中傷する噂も囁かれることもなくなり、真相もまた、いつしか闇の中へと消えていったかに思われた。






















「お前、パッド入れてたのか?」























鬼という種族は嘘が大嫌いで、当人たちも素直で包み隠さずに物事を言ってしまう。
それは彼らの美点でもあり、最大の欠点でもあった。
もうすっかり風化しきっており、誰も話しの種にしなかった話題を踏み抜いてしまった萃香は、周りの空気にしまったと口を手で塞いだ。
今年最後の花見だというのに、一瞬で博麗神社境内の空気は凍りついた。

「凄いですよこの天人。スコップにもなるんですワーオ」

竜宮の使いの周りのみ空気は普段通り流れていたが、萃香は視線を泳がせて周りに助けを求めた。
そして合わせるようにしてぎこちなく会話を始めるが、宴会の空気はすっかり乱れてしまった。
萃香はすっかりしょげてしまった。豪快なペースも鳴りを潜めてしまって、見ていて痛々しい。
素直な発言は常に良いとは限らない。時に鋭い刃となって他人を傷つけてしまう危険も孕んでいるものなのだ。

「いまならもう一人ついてきて3980円。天界も広くしないといけないですからねワーオ」

無表情でそう語る竜宮の使いはそろそろ宴席から追い出したほうが良いかもしれない。
酒がすっかりまわってしまった天子は抵抗できずになすがままにされていたが、どうしても空気が硬い。
先ほどまでは上機嫌だったレミリアも、今は苛立ちを隠せずにいた。
誰しもが微妙な空気に不味い酒を啜っていると、レミリアの酌をしていた咲夜がすくりと立ち上がった。

「胸に詰め物をしているのかと聞かれましたが、はいこの通り」

咲夜が胸元を開くと、ハトが一匹二匹、三匹と。
一体今までどこに詰めていたのか不思議な数羽が、はらはら落ちる桜の横を羽ばたいていく。
咲夜なりの気遣いにほっと息を吐いた者も数名。ようやく宴会の空気も元へと戻ったが、レミリアの機嫌だけは最後まで戻らなかった。





「誤解されるようなことをしていたお前が悪い。私の従者ともあろうものがそのような噂の的となるなんて紅魔館の恥以外何物でもないと知れ!」
「申し訳ございませんでした。お嬢様」
「もういい、寝る。反省をしろ」

 紅魔館に戻ってから、レミリアは咲夜のことをわざわざホールで叱り付けた。
 メイド長ともあろうものがそのような失態をするなどと、他の者に示しがつかないという理由である。
 しかしいくら怒っても表情一つ変えず頭を下げ続ける咲夜。
 自分が空回りしているだけのように感じたレミリアは、余計に腹が立って手をあげようとしたが、それは大人気ないと自制した。

 レミリアが部屋に戻ったのを確認して、掃除へと戻る咲夜。
 叱られたからといって仕事をしなくてもいいという道理はないのだ。

「でも普通にやってたら間に合わない、か」

 仕方がないと時を止めつつ、掃除に洗濯に食事作りにと励む。
 大勢働いている妖精メイドなんていうのは名ばかりで、紅魔館の運営全般は咲夜が担っていた。そいつらに手伝わせたほうがよっぽど能率が悪い。
 はずだった。

 行く部屋行く廊下。その全てでゴミが一カ所に纏められている。
 誰の仕業かはピンとこなかったが、あっという間に掃除が終わってしまった。いつもよりも数時間は早い。
 美鈴が気を利かせてやってくれたのか、と思ったけれど、彼女はそこまで手際は良くない。
 精々手伝ってくれていたとしても、説教の時間から換算しても数部屋が精一杯だろう。
 もちろん妖精メイドたちなんて数に数える必要すらない。
 パチュリーは図書館で引きこもって本を読んでいるだろうし、小悪魔は図書館の掃除にいつも追われている。
 となると、外部からの侵入者を疑うのがもっともベターな考えに思えた。

 時を止めた咲夜はそのまま紅魔館の門前へと出向き、美鈴に侵入者が居たかと聞く。
 しかし美鈴は首を傾げて、誰も見ていませんと言った。
 彼女に知覚されずに紅魔館に進入できるのは、隙間を使う八雲紫か、時を止める自分自身のいずれかか。
 わかった、ありがとうと言いつつ、咲夜は紅魔館へと戻った。
 見回ってみても、どこも荒らされている様子はない。
 レミリアの部屋に出向いても、扉が開いた形跡はなかった。(中に入ることはない。逆鱗に触れるだろうから)
 さてどうしたものかと、咲夜は自室の扉を開ける。仕事はまだまだ残っているが、食事の支度に入るには早すぎた。
 
「あら?」

 ベッドにデスクにクローゼット。それだけが置かれた殺風景な部屋では、便箋は嫌に目立った。
 宛名のないそれを開くと、丸っこい文字で霧の湖まで来てほしいと書かれている。
 きっとこの差出人こそが、紅魔館で掃除をしていった者なのだろう。
 時計をちらりと確認すると、まだ二時間ほどは余裕がある。十分に行って帰ってこれるどころか、弾幕ゴッコになっても数回こなせる。
 薄手のスプリングコートをクローゼットから取り出して粗雑に羽織る。
 服などメイド服に、寒さしのぎにコート一枚あればいい。咲夜は自身の容姿には、さほど興味がなかった。



 朝陽が霧の湖に反射してきらきらと水面を輝かせていた。ダイヤモンドが沈んでいるのではないかと見紛うほどに。
 しかしもう少し経てば霧が立ち上り、透き通った水面は見えなくなる。
 ああなるほど、早起きは三文の得とはこのことを言うのかと、咲夜は一人得心していた。非常にのんびりとした、穏やかな思考である。 
 さて、とと辺りを見回してみても、呼び出した当人はどこにも居ない。狐にでも化かされたのかと少しだけ悲しくなった。
 
「このお手紙をくれたのは誰ですか?」
「お、来てたんだね悪い悪い。私さ」

 中空から声が響く。しかし幻想郷ではこれぐらいのことは日常茶飯時で、驚くことはない。
 ぷかぷかと立ち上り始めた霧が急速に集まって、人型を取りはじめたところで、咲夜は呼び出した主に思い至った。

「あらら、珍しいこともあるもので」
「いや、その、ね」

 朝陽のようにニコニコ笑っている咲夜に、萃香は頬をぽりぽりと掻いて口ごもった。
 
「先ほどの宴席のことでしたら、私は気にしていませんよ?」
「う、うん」

 その言葉に嘘はないと萃香にはわかっていても、もじもじとしてしまって上手く謝ることができなかった。
 いつもこうなのだ。人の嫌がる部分までズケズケ言うくせに、いざ謝るとなると上手く言葉が出てこない。
 きっと呆れられているのだろうなと、上目遣いで咲夜の表情を窺うと、柔らかく微笑んでいるだけで責める表情はしていなかった。

「ごめんな! 変なこと言って!」
「ああいえ、あれは私の見栄によるもので」

 見栄という言葉に、萃香は敏感に嘘の匂いを感じ取った。鬼は嘘が嫌いだ。嘘に対しても敏感だ。
 しかし咲夜への負い目がある手前、そこの揚げ足を取るわけにもいかずに、結局もにょもにょと手をこねた。

「ほんとは全然違うんですけどね」

 がっくりと力が抜けて転びそうになる萃香が恨めしそうに咲夜を見ると、くすくすと笑いながらすみませんと頭を下げた。
 宴会の異変のときとは、明らかに彼女の本質が変化していることを、萃香は肌で感じ取っていた。
 以前の咲夜はこのような冗談を言うような性質ではなかったし、悪く言うならば、他人を近づけようとしない好かない女だった。
 しかし今は、おどけた表情で胸元からハトを出すような、洒落のわかるメイドなのだ。

「もし良かったら話してくれないか? 鬼は約束を守るよ。絶対に」
「悪魔も契約を守るそうです。種族柄、どうしてもそれを破れないんだとか」
「鬼だってそうなのさ。私は知りたい。お前ほどの人間が、どうして嘘を吐いてまで? 胸に詰め物をするコトに何の意味がある?」

 はて、と咲夜は頬に手を当てる。理由は今考えているとでも言いたいのだろうが、萃香はそれもまた嘘なのだと見抜いていた。
 このメイド、とんだ奇術師だと舌を巻く。以前のようにギラギラと敵意をむき出しにしていたほうがよっぽど扱いやすいというのに。
 人間はこれだから、面白い。

「いいでしょう。私の胸の中に収めておくには些か大きすぎることなので。胸が小さいからって意味じゃないですよ?」
「わかってるよ」

 下手な冗句に萃香は苦笑いした。そこのセンスに関してはもう少し磨いてもらわなければ笑えない。
 咲夜は滑ってしまったことに気づいて、慌てて胸ポケットから『職場で人を和ませる百の小ネタ 著者八雲紫』を取り出して開いた。

「くっ、そんなベタベタな道具を仕込むなんて……!」
「本題に入りましょうか」
 
 すっかりペースを乱された萃香へと、咲夜は悪戯めいた笑みでこたえた。
 確かに紫のギャグセンスは世代が三個ほどズレていて笑えないのだ。誰もそれを指摘せずに本を出版する辺りが一番面白い。

「それで詰め物のことなんですが」
「詰め物」
「主人に出すためなんですよ」
「草履かよ!」

 生暖かくなったパッドを差し出してメイド長に取り立てられる。
 そしてロリ巨乳のレミリアは、派手好きで南蛮の――大体合ってた。

「って嘘でしょ!?」
「はい」
「はいじゃなくて。なんでそこで冷静なのよ」
「場を和ませようと思いまして……。どうぞ」
 
 そう言って咲夜は『歴女になるための基礎知識 著者八雲紫』を手渡そうとした。

「いや天丼ネタはいいから! 紫がだんだん可哀想になるからやめてあげてよ」
「ちなみにこの本によると、沖田総司はヒラメ顔だったそうです」
「いちいち夢壊しにくるなぁ!」
「それで詰め物なんですが」
「……!」

 ごくりと萃香は生唾を飲み込んだ。ついに、十六夜咲夜のパッド疑惑の真相が語られようとしているのだ。

「あれ、実は肉まんなんですよ」
「え」
「ちょっと小腹が空いちゃったから、胸元に詰めておいたら胸が大きくなったぞーって」
「ほ、ほんとにそんなくだらない理由なの?」
「はい」
「何か深い理由があったとかは?」
「ないです。噂があったのは知っていますが、事実があまりにもくだらないので言い出せなくって……」
「そ、そーなのか……」
「誰にも言わないでくださいよ? 恥ずかしいんですから」
「う、うん」
「それではそろそろ、洗濯をしなければいけない時間なので失礼致します。掃除を手伝っていただきありがとうございました」

 会釈をして、紅魔館へと歩を進める。萃香は唖然とした表情でその背中を見送らざるをえなかった。
 
「お母様……」

 レミリアには母の記憶が殆どなかった。
 ただ幼い頃に、女性らしさに溢れた豊満な胸に包まれていたことだけは、遠い記憶の残滓にあった。
 五百年生きてきたとはいえ、その道のりは決して平坦なものではなかった。
 今では強妖に数えられるようになったとはいえ、ハンターや他の妖怪に狙われて逃げ惑う日々。
 弱音は決して吐かぬと決めて過ごしてきたが、眠りについているときだけ、その緊張が緩んでしまう。
 母の温もりを探してしまうのだった。

 ただ一人、咲夜だけが主の弱さを知っているのだった。
 そして咲夜だけが、胸の詰め物の意味も知っている。


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電気羊
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いい話……なんだよな?
というか衣玖さん何やってんだよwwwwその天人はセット販売なんて無理だから。

さて、3980円っと……
2.名前が無い程度の能力削除
天人買いたいんですがどこに電話すればいいんでしょうか
3.名前が無い程度の能力削除
この咲夜さんは実に瀟洒ですな。
4.奇声を発する程度の能力削除
衣玖さんのインパクトが強すぎる…
そして、咲夜さんwwwwww
5.名前が無い程度の能力削除
イクさん書きたかっただけだろあんたwww
6.名前が無い程度の能力削除
きさまっ!
7.名前が無い程度の能力削除
これはいい咲夜さん
8.名前が無い程度の能力削除
これが咲夜の真実か・・・
いい話だ
なぜプチなんだ・・・
9.名前が無い程度の能力削除
みんな優しいな…
MVPは衣玖さんに。
10.名前が無い程度の能力削除
衣玖さんwwwww
11.名前が無い程度の能力削除
羊は相変わらず天の邪鬼だな
12.名前が無い程度の能力削除
あなたの書く咲夜さんの軽やかさが大好きです。
13.名前が無い程度の能力削除
我々は争わなければならないのか…