ポルターガイスト・リリカは、彼女のオリジナルである人間の妹・レイラの守護霊としてこの世に誕生した。
その頭にふさふさのねこ耳をつけて。
「なんだこりゃぁ!?」
それが第一声であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「姉さん、久しぶり」
久しぶりの自宅には、足の踏み場もないほど猫が溢れていた。
久しぶりの妹は、首輪を持って笑っていた。
そして、そのスマイルのままリリカに迫ってきた。
「れ、レイラ? 何なの、この展開?」
「難しい話じゃないわ、姉さんもこの首輪をつけて仲間入りよ」
「いや、意味が分からないから」
「まあまあ、難しい話は後にして、まず首輪から」
表情を崩さず迫るレイラ。
リリカは思わず後ずさりをしたが、猫につまづいて尻もちをついた。
しまった! と思ったときはもう遅い。
おまけに背後は壁である。
ついでに前方は猫である。
しかも自身もねこ耳、胸はぺたんこと来た。
ポルターガイスト・リリカの誕生はピンチシーンから幕を開けたのだった。
「レイラ、落ち着こう。話せばきっと分かるはずよ」
「そうね、じっくり話し合いましょう。ねこ語で」
「せめて人の言葉を使わせてよ」
「駄目よ、姉さんは猫なんだから『にゃう』と『にゃー』しか喋っちゃいけないの」
「そんな無茶な!?」
「にゃー」
「ほえ?」
「にゃーにゃーにゃうにゃー、にゃにゃにゃうにゃー!」
「さっぱり分かんないから!」
怒鳴るリリカの肩を誰かが叩いた。
見ると、ポルターガイスト・メルランであった。
既にねこ耳、ねこグローブ、ねこ尻尾まで完備、おまけに首輪付き。
「メルラン姉さん!?」
「リリカ、諦めなさい。お姉さんでしょう」
「姉さんこそ何飼いならされてるのさ!」
「にゃん☆」
「『にゃん☆』じゃないよ! 人の道からそれた妹を元に戻すのも姉の役目なのよ」
「ならば私は今から、猫の道からそれた貴方を元に戻すわ。姉権限で」
「猫の道なんて入った覚えないから!」
それを聞いてレイラは泣きだした。
「ひどい、別れの日、みんなで猫になろうねって約束を忘れちゃったの……?」
「した覚えないから! 『また会おう』とは言ったけど、猫のねも言っちゃいないから!」
「でもリリカ姉さんが最初に言ったじゃない! 『また皆で会おうね、この家で』って!」
また皆で会おうね、この家で。
また皆で会おう、ねこの家で。
「無理がある!」
「ないもん!」
「無理だらけで正論をはさむ余地がない!」
「にゃー!」
「ねこ語で話すな!」
「にゃにゃーにゃうにゃー! にゃあああああ!」
床の上をゴロゴロ転がりまわって駄々をこねるレイラ。
そしてメルランはリリカの耳もとでささやいた。
「大人げないわよ」
「レイラがね」
「違うわ。リリカ、貴方のことよ」
「黙って猫になることを強要されることが大人なら、一生子供でいい」
「そんなソクラテスみたいなこと言わないの」
「ソクラテスはそんな人だったのか!?」
ソクラテスは猫です。エレンがそう言ってた。
「ともかく、せっかく私達がここまで猫になりきったんだから、貴方も猫になりなさい」
「いやそれはちょっと……と言うか、ルナサ姉さんは?」
「いるじゃない、さっきからここに」
メルランは部屋中徘徊する猫の中から、黒い猫を1匹ひょいとつまみ上げた。
「これがルナサ姉さん」
「姉さん!? せめて人型は保っておこうよ!」
ルナサ猫は関係なさそうにあくびをした。
「リリカも分かるでしょう。ルナサ姉さんは完璧主義者だから、こういうところにもこだわるのよ」
「こだわり過ぎだから! もう原型とどめてないじゃん! 再会もへったくれもないから!」
「それに比べて、耳だけなんて貴方は雑ねぇ」
「だから雑でもいいよ」
その時、レイラがガバッと起き上がった。
「そういうのはよくないにゃ、やっぱり皆ねこになるべきにゃ」
「語尾が浸食された!?」
「さあ、リリカ姉さんもこの首輪をつけて猫になりきるにゃ」
「語尾ににゃをつけて喋る猫がどこにいるのよ!」
「この前、そこの湖にいたにゃ。九尾の狐さんに連れられて帰っちゃったにゃ」
ちぇーん。
「なんてこったい。なんてところに召喚されたんだ、私は」
「幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですね! にゃ」
「なんで語尾つけなおした」
「とにかく、この首輪をつければ姉さんも幻想郷の愉快な仲間達に仲間入りよ」
「語尾」
「面倒になった」
「……そう」
そして問題は首輪に戻る。
「さあ姉さん、そろそろ白黒はっきりしましょう。自分で付けるか、私に付けられるか」
「全然白黒はっきりしてないよ。黒黒だよ、どっちもお先真っ暗だよ」
「黒黒はルナサ姉さんよ、リリカ姉さんならきっといい三毛猫になれるわ」
「レイラ、よく聞きなさい。私が言っているのはそういう問題ではない」
「大丈夫、リリカ姉さんはつまらないところにこだわる人って私知ってるから!」
「余計な御世話だよ、こんちくしょう」
「さあ選んで、白の首輪か黒の首輪か」
「結局、何も分かってないじゃんか」
「そんなぐずぐず言ってると、またルナサ姉さんが怒るよ」
そうだった、リリカやレイラが駄々をこねると、決まってルナサが制裁を下したものだった。
そのような思い出を想起しながら、リリカはルナサ猫の方を向いた。
ルナサ猫は、いつのまにか黒豹になっていた。
「何この展開!?」
「流石ルナサ姉さん、ダーヴィンもびっくりね!」
「あってたまるか、こんな進化論!」
黒豹、とびかかる。
リリカ、組み伏せられる。
お食事の準備は済みましたか?
Yes,Yes,Yes.
「じゃあ多数決をとるね!」
レイラが言った。
その姿は、半ば閻魔様のようにも見えた。
「リリカ姉さんは首輪をつけるべきだと思う人は手をあげて!」
誰も手をあげない。
メルランも、ルナサ豹も、その他部屋中に群がる猫たちの誰も。
「あ、間違えた。リリカ姉さんは首輪をつけるべきだと思う猫は手をあげて!」
全員が前足をあげた。
全会一致で可決されました。
「なにその無駄なこだわり!」
「さあ、リリカ姉さん、首輪をつけようか」
「だから嫌だって!」
ルナサ豹がどいて、代わりにレイラが迫る。
リリカは最後の抵抗に出た。もう負けは近いと分かっていたが、諦めの悪さは天下一の自信がある。
「そんなこといつまで言ってると、胸大きくなれないよ? いつまでもぺたんこだよ?」
「余計な御世話よ、と言うか、もうちょっと大きかったような記憶があるんだけど」
「私が削ってぺたんこにした。製作者権限で」
「え、ちょ、返して! て言うか返せ!」
「大人にならなくてもいいってさっきリリカ姉さん言ってたじゃないの」
「胸は欲しい! 万年まな板は嫌だから!」
「じゃあ首輪つけてくれる?」
「う、うぐぐ……」
「と言うか、もう付けました」
「え、嘘!? いつの間に!」
10個くらい付いていた、いつの間にか。
「て言うか、多いよ! 普通1本じゃないの!?」
「姉さんは聞きわけが悪い子だから、このくらいないと制御面に問題が……」
「首輪つければ解決する問題でもないから!」
「それはともかく、改めてようこそプリズムリバー家へ」
「猫にならないと受け入れられないの!?」
「当主権限よ」
いつの間にか、権力に事欠かなくなっていた末っ子であった。
「それより姉さん達。私ね、この郷に住んでいて分かったことがあるの」
レイラは窓の外、広がる豊かな自然を眺めながら言った。
「この郷は、私達が前住んでいたところより、ずっと緑が豊かなの。
私1人でちょっと探検してみたけど、まだまだ分からないことだらけ。
でも、そのなかで少しだけ分かったことがあるのよ」
そして、レイラは3人の姉の形をしたポルターガイスト、もとい猫の方を振り向いて言った。
「この郷はねこ耳普及度が低すぎる! この素晴らしきアイテムをもっと広めるべきだわ!」
こうして、レイラ・プリズムリバーの幻想郷侵略、もとい『ねこ耳のお友達いっぱい作ろうねプロジェクト』は幕を開けたのであった。
くせっ毛でネコ耳!! たまらねー
メルラン貰ってっていい?
黒猫ルナねぇお持ち帰りさせていただきますにゃ
ネコ最高!
え? これ続くの!?
あんたのレイラへの愛は本物だ
これからも、もっともっとレイラを書くといい
必ず読ませてもらうよ
ちなみにネコミミメルランは俺が貰っていく
いや、むしろ撃ち落とされてもかまわないw
って事でメルにゃんお持ち帰りさせて頂きます。
なんだか続編希望という声をいただきましたが、何にも決まっていませんにゃ。
>01
駄目です。
貰って行くとレイラが泣きます。
>02
ありがとうございますw
>03
どうしようかにゃ
続きは全く考えてなかったにゃ
>04
ネコ最高! ヘーイ!
>05
あら、ありがとうございます。
続編については……あうぅ
ところで、貴公の最新作のあとがきの件ww
見て盛大に驚くやら吹くやら、なんだかありがとうございました。
>06
持っていっちゃ駄目ですよ。
>07
ねこ娘にねこ耳を新たにつけるのは、もはや暴挙ですなw
だが、この末っ子は何をしでかしてもおかしくない。
>08
おかげさまで16作目です。
まあ、シリーズものとかではないんですけどねw
>09
いつかエレン主役に書いてみたいものです。
ふわふわ頭。
>10
やったー、認められたー。
これからも適度に書いていきたいと思うので、その時はよろしくお願いしますです!
だが、メルにゃんのお持ち帰りを許可した覚えはないぞよ。
>11
ただでさえよけられない、あのへにょりレーザーを乱射とかw
猫耳をつけると、なんと言うかワイルドになりますなぁ。
でも、だから持ち帰っちゃらめぇ。
ここまでルナ猫派2人、めるにゃん派3人。
まあ、あたしは猫リリカ派なんですけどね。あのふて腐れ具合が、もう。