「ほのぼのしたい」
何を言うてるんやこいつは。
思わず言語に乱れが起きた魔理沙は、煎餅を紫の口の中に突っ込んだ。
「ふぐ……こんな固いものを無理矢理口の中に入れるなんて……いじわる」
「あーあー聞こえない」
頬に手を当てていやん、と声をあげる紫。
魔理沙は大きな声で棒読みしながらお茶をすすった。
ここは神社。主人は不在である。
居るかと思って訪ねたら居なかった、それがこの二人の共通点である。
霊夢が帰るまで二人で会話でもしよう、とお茶を入れ煎餅をかじっていた矢先に冒頭のセリフ。
はあ、と魔理沙が溜息を吐こうとしたその時、ピーッというけたたましいホイッスルが鳴った。
慌てて振り向くと、体操服にブルマという、紫が笛を口にこちらを見ていた。
「このままじゃギャグよ!ほの点マイナス1」
すると魔理沙の口から「ほ」という文字が書かれたブロックが飛び出した。
「うわああああなんじゃこりゃああああ!」
「ほのぼのとギャグの境界を操りました。それはほの点。持ち点は10、0になればギャグ体質になるから」
「そうか、わかった。紫、頼む、死んでくれ」
「はい殺伐。マイナス1」
「うええっ!!」
明らかに自分のせいじゃないのに減っていく点。
魔理沙は理不尽さを感じずにはいられなかった。心で泣いた。
「……わかった、わかったよ。付き合えばいいんだろ」
「物分かりがよくて助かりますわ」
「具体的に私は何をすればいいんだ」
「ほのぼのすればいいのよ、ほのぼの」
そう言われても、と顔をしかめる魔理沙。ほのぼのって何だろうな、と思いつつ、お茶をすする。
ふは、と息を吐き、煎餅をかじるように食べて、口を尖らせた。
「プラス0.5ね」
「……まじか」
横を見ると、スーツを着て赤い眼鏡をつけた紫が座っていた。
0.5と書かれたチョコが渡される。怖いが食べなければもっと怖い。
もぐもぐ、口を動かしつつ魔理沙は思う。
じゃあずっとこうしてりゃいいのか。
そして、同じ動作を繰り返してみた。
「単調!マイナス1」
「げふっ、私が何をした!」
「何もしてないから減点したのだけど」
そういう意味じゃねーよ。
思わず口の悪くなった魔理沙は、心を精一杯落ち着けて、考える。
ほのぼのとは何をすればいいのだろうか。
ちらっ。
横を見た。
エプロンつけた紫が微笑んでいる。
何かを期待するように。催促するように。笑って、魔理沙を見ている。
ああ、何がしたいのかわかってしまう自分が憎い。
血涙を心で流しながら、口をおずおずと開く。
「……お、お」
「マイナs」
「お母さん!」
半ばヤケクソだったのは言うまでもない。顔は真っ赤だ。
ふふ、よく出来ました。そう言って魔理沙を抱き寄せて撫でる紫。
魔理沙はちょっと泣いた。本当に。
「でもこんな少女捕まえてお母さんはないわよねぇ、マイナス2」
「えふぁっ、ちょ、ま、増やす気ないだろ!?」
「そんなことありませんわ」
胡散臭い笑みをこれでもかと浮かべながら、三角巾を被った自称少女は扇を口にあてる。
いよいよもって勘忍袋の緒が切れたほの点5.5の魔理沙は、八卦炉を片手に紫に突き付けた。
「ほのぼのなんて要らないだろ。私たちの日常は、これだ」
「そうね、その通り」
ぱちん、と扇を閉じて、それから微笑む。服はいつの間にか戻っている。
八卦炉からは今にもレーザーが飛び出そうにも関わらず物おじしない。
そんな様子に、魔理沙が眉をひそめた時、紫は、にやり、とした笑みに変わった。
「なら、ほの点、要らないわよね?」
「は?っ、ま、まりっ!?」
ぼろり、と口から「ほ」が落ちる。
「や、やめ、ありぃっ」
「ああ、ほのぼのの世界にギャグが満ちる……」
「それパクリ、がぁっ」
三個目が口から落ちる。
何故口なのか、それがそもそもほのぼのではないのは、わかってやってるのだろう。
紫はいつだってお茶目だ。
「ふふ、なんて情けない顔なのかしら?」
「くっそぉ、……じゃふっ」
「ああもうめんどくさいわね、全部出ちゃえ」
「てぃす!?」
魔理沙が正義を叫び終えたところで「ほ」が一気に全部落ちた。
ほの点、0である。
「くっ、丸焦げにしてやる!逃げるなよ!」
ひどい屈辱を感じた魔理沙はぐいぐいと目尻の涙を拭い、改めて八卦炉を構えた。
「もちろん。必要ありませんもの」
「このっ、何処まで私を馬鹿にすれば……」
あくまでも余裕たっぷりな紫に向かい、集束する光を解放しようとした時。
「マスタースパれいったぁああ!」
上からたらいが振ってきた。
何で帽子があるのにこんなに痛いのかと魔理沙は思った。
「ドリフね」
「何でだよ、何でたらいなんだよ……!」
「ドリフだし」
「ばかやろう!」
また涙目になった魔理沙可愛い。
くすくす、と楽しそうに笑う紫の横には、いつの間にか大きな水槽。
誰の良心なのか中身はただの水である。
そしてその淵の上には、今にも落ちそうな魔理沙がいる。
服はスクール水着だ。
「え、何で、え?」
それににじり寄る紫。不思議な力で自分では動けない魔理沙。
「や、やめろ、押すなよ、絶対押すなよ」
「どーん」
「ゆかりぃっ!?」
紫の手は非情にも魔理沙を突き落とす。
彼女にはたった一つの選択肢しかなかったのだから。
見捨てられた魔理沙はもがもがと暫く水中で暴れて、端になんとか手を伸ばし、はい上がる。
「ふざけんなおい!」
「振りでしょ?ほら、手」
「何がだよ全く……」
「えい」
「うなぁああ!!」
そして支える振りをして再び落とす。
二段階の振りであった。
「……というように、外の世界ではこんなにギャグが過酷なのよ」
「もうやだ……」
普通の服に戻った魔理沙は、膝を抱えて顔を伏せていた。
その横で、少しやり過ぎたかしらと思いながらも反省はしていない紫。
「それにしても、霊夢遅いわねえ」
「……どこで油売ってんだろうな」
そこでようやく頭をあげると、むすっ、とした顔を膝の上に乗せて、呟きに返す。
その頭を撫でる。
触るなスキマ、と手を跳ね退けられる。
と思ったら、いつの間にか紫の膝の上に居た。
「……何だよ」
「ほのぼのしましょ?」
「……」
魔理沙はそのまま黙りこんで、何も言わなくなった。
抵抗するのが面倒だったのかもしれないし、意外と居心地がいいのかもしれない。
ただし、頬は、ちょっと赤くなっていた。
「……すさまじいわね、あれ何だったのかしら」
「紫の暇潰しでしょ。ったく、人の神社を何だと思ってんのか」
「あら、邪魔しなかった癖に」
「巻き込まれたら嫌だもの」
途中でアリスと会って話をしていたものの、随分前から帰っていた霊夢。
二人はいつ出たらいいのかなあ、と考えつつ木々に隠れてそっと溜息を吐いた。
おまけ
「どうしよう」
「じゃあ私から行くわ」
「いやいやここは私が」
「え?じゃ、じゃあ私が」
「「どうぞどうぞ」」
「って紫!あんたいつの間に」
「てへ」
「霊夢もつられてんじゃないわよ」
「いや何か急に神様から思し召しが」
「嘘つけ」
「あっ、霊夢!遅いぜ、もうお腹いっうひゃぁあああ!」
「……あ、ほの点返すの忘れてた」
「見事なたらいね」
「美しいたらいだわ」
「お前ら絶対泣かす……」
1行目でもう諦めたよwww馬鹿野郎www
でも、とっても楽しそうでした!
紫さまは何でも似合うスタイルですよね。
しかし紫+魔理沙がナイスコンビな話も以外と少ない気がするなあ。
次は「ギャグしたい」でお願いします。一体どうなる。