Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

キスから始まる物語

2010/04/12 19:34:29
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 『性的な意味じゃなく』『幻想郷グルメレポート』『控えめで大胆なキス』の一連の流れの〆となります。既読推奨です。

 読んでいない人のための簡単あらすじ。
『キス魔の霊夢に紅茶味のアリスは複雑な気持ち』






 博麗神社の昼下がり。
 お茶をすすりながら霊夢は呟く。

「そろそろアリス分の摂取時ね」
「ふざけんな」

 その横頭に蹴りが入った。
 霊夢の手から湯呑みが吹っ飛び、地面に落ち、中身が零れる。

「うわああああお茶ぁあああ!!」
「やかましい」

 霊夢の横で氷精もびっくりの冷ややかな視線を向けるのは、何を隠そう霊夢の運命の人であるアリスだ。
 運命の人、というのは数ヶ月前に起きた事件の際に服用した永琳の薬で判明したのだが、アリスは断固認めていない。
 ちなみに今日も神社通いの日である。
 そしてお茶菓子を台所から運んできた際にとんでもない呟きが聞こえて、蹴りを浴びせたのだ。
 とん、とお茶菓子を置いて、呆れたように隣から少し距離を空けて座る。

「何が摂取時よ、馬鹿じゃないの」

 むっとして、その距離を霊夢が詰める。

「だって仕方ないじゃない」
「仕方なくないわよ」
「いーでしょー」
「嫌っつってんの」

 空ける。
 詰める。
 二回程繰り返して、柱に当たった。痛い。
 隣でにやにやと笑う霊夢。それを見て、溜息と同時にいらいらが募り始める。
 最近、心境が劇的に変化したせいか、ともすると怒鳴り散らしたくなるくらい感情のコントロールがきかないのだ。
 生きてきて、こんな状態に陥ったのはまだ幼かった頃以来ない。自分が操れなくて、人形を操れるわけがないから。

「ちょっとだけだからさ、ね?」

 しかし霊夢はそんなアリスの事情なんてお構いなし、とばかりに口を近づける。
 故に、アリスは限界だった。メーターが振り切れている。
 どうしてわかってくれないのか。気持ちの通わないキスなど辛いだけだということを。
 もういやだ、やめて。精神がかたかたと悲鳴をあげる。ひびは既に、亀裂に変わっている。
 それは唇が触れるまで数センチというところで、爆発してばらばらに砕けた。

「ッ、いい加減にしてよ!!」

 ぱん、という鋭い音が神社に響く。
 左の頬に紅葉をつけた霊夢は、何が起こったかと言わんばかりの表情だ。
 アリスは喉の奥が熱くなるのを感じながら、構わず続けた。

「迷惑なの!うざったいの!好きでもないことを強いられて、自分勝手に私を使って……、私は霊夢の玩具じゃない!!あんたなんか大嫌い、二度と顔なんて見たくないわ!!!」

 はぁはぁ、と吐く息が熱い。呼吸がしづらい。叩いた手がひりひりする。心が痛む。
 やってしまった。
 勢いで全てぶちまけた後は、中に何も残らない。ただ頭の熱が体を動かしている。
 アリスはそれを感じながら、唇を噛んで縁側を降りた。
 そして、もうこれ以上ここにいられない、といわんばかりに、地面を蹴って空に舞い、消えた。

 対する霊夢は、ぽかんと開けていた口をぎゅっと結んで、スカートを握りしめた。
 何よ、いつもしてることなのに、今日に限ってあんなに怒らなくたっていいじゃない。どうお仕置きしてやろうかしら。
 そう思おうとしても、ただ頬の痛みがきつくなるだけで、段々思考が弱まっていく。まるでそれが言い訳みたいに。
 ふと気付くと、頭の中は、先程のアリスの顔と声がこびりついていて離れなくなっていた。

「……アリス、泣いてた」

 苦しそうに、怨嗟を吐く様に叫ぶ顔が涙に濡れて、いつも澄ましたそれがぼろぼろで台なしになっていた。
 冷静なアリスが取り乱すのは楽しいから好きだ。ちょっとした悪戯心が湧く。
 そのはずなのに。それなのに。

「全然、面白くない……」

 『迷惑』『うざったい』『大嫌い』の言葉が、跳ねるように頭をぐるぐると動き、飛び回ってぶつかって出ていかない。
 目頭が熱くなるが、ぐっと耐えて、アリスのことをただ考えた。

 初めはほんの遊びのつもりだった。暇潰しの思いつきだった。
 この前言った言葉だって、ちょっと大袈裟な表現を使っただけのつもりだった。食欲的な意味で。
 でも真っ赤になる顔が楽しくって、また見たくって、段々紅茶味なんてどうでもよくなって、ただアリスと触れ合う口実になっていった。
 それすらも気付かなかった。自覚したのは、ついさっき、もっといえば今だ。
 だってこんなにも心がからっぽで、前じゃ考えられないくらいアリスのことばかり考えてる。
 取り返しのつかないことをしてしまったのだと、わかっても遅い。
 果たしてこの感情の名前が何というかは知らないけれど、手足の先まで冷えた体はすくんで、アリスの所へ行くという選択肢を選ばない。
 泣くことは許されない。私が泣いていいことじゃない。私は泣くべきじゃない。私がそういう感情を抱くこと自体が間違いだったのだ。
 霊夢は自分にそう言い聞かせ、ただ下を向いて服を握りしめていた。

 そんな霊夢のかわりに、ぽつり、ぽつりと雨が境内を濡らす。
 いっそこの中に身を晒して泣いて『これは雨だ』と言い訳してしまいたい。
 真っ赤に跡のついた頬よりも、心がじくじくとみみずばれみたいに痛む。いっそ切り裂いて潰してしまいたい。
 そう思う度に喉奥から何かがせりあがってくるような感覚を抑えていると、神社に人の気配がした。

「……誰」

 こつり、こつりと靴の音が鳴り、一息置いて、声が返る。

「雨宿りをしにきたただの通りすがりだ」

 『通りすがり』は淡々とそう言うと、濡れた体で霊夢の横に座り、放置されたお茶菓子をつまんだ。
 霊夢は俯いたまま、何の反応も示さない。いつも通りの対応をしようとしても、体が石みたいに動かなかった。

「さっきアリスに会ったんだけどな、声をかけたのに無視と来たもんだ。ひどいよなあ」

 よりによってその話題を。霊夢の頭が怒りやら悲しみやらで熱を持つ。でも口は開けない。今開いたら溢れてしまう。
 『通りすがり』はそれを見て、困ったように溜息をついた。

「私な、お前が初めてアリスを食べるって言った時驚いたよ。こう、ばりばりっといくのかと思ってな。まさかキスだったとは」

 どうりであんなに動揺していたのか、と今更ながらに納得する。
 そしたら、アリスの真っ赤に照れた顔が浮かんできて、また泣きそうになる。だからなんとか頭を白くしようとした。

「でもさ、あの時食欲って言ったろ。あれって、私思うんだ。本当は、食欲とは似てるけど少し違う感情、つまり相手を自分のものにしたいとか一つになりたいって欲?なんつーかな、そういうのだと思う」

 でもそれは、頭を金づちで軽く叩かれたような感覚に陥ったことで、失敗した。
 私は、初めから、アリスが欲しかった?玩具じゃなく、暇潰しじゃなく。
 そう思った霊夢の、服を握りしめていた手が緩む。

「しかもアリスと一緒に居る時のお前ときたら楽しそうだよな。何気にアリスが来る前にさりげなく身嗜みに気を遣ったり、お茶のいい奴使ったり。私の時とは大違い」

 私にも気を遣えオラ、と霊夢を小突きながら、『通りすがり』は言う。
 霊夢は、無自覚で行っていた自分の行動を思い出して、今まで存在していた自分がどろどろに崩れるのを感じた。

「こういう感情を何ていうか、知らないだろう、お前は。教えてやるよ」

 語調強く、そう言われて、霊夢は顔をあげる。
 情けない顔、と笑われるが、気にしない。ただ顔だけで続きを促した。
 すると、彼女は真剣に、目を見据えながら、口を開いた。
 得意の星屑の弾丸で、霊夢を打ち抜くように、真っ直ぐ、高々と。

「『恋』だよ。お前はアリスに恋してるんだ」

 それは、霊夢の幼なじみの持つスペルカードにもついている、名前。
 彼女はいつもこう語る。

『甘酸っぱくて、しょっぱい想い。完全に手に入らない心に焦がれ、一つになろうとする。それが恋だ。それをどう相手に伝えるかは自由だけど、私は真っ直ぐ、光の速さでお届けするぜ』

 と。
 そこでようやく名前が当て嵌まった。その『恋』という感情が全身に行き渡り、暖かくなって、我慢していたものが今にも溢れそうだった。
 私は、恋する相手に、何て不躾なことをしてきたのだろうと、喉が気持ちのがらくたでつまった。
 思わず隣の『通りすがり』の服を握りしめて、寄り掛かろうとする。
 しかし、その手はそっと、優しく退けられた。

「おっと、泣き顔見せて泣きつく相手は私じゃなくて、もっと相応しい奴がいるだろう?」

 にっとした笑みで言われた言葉を、霊夢は瞬時に理解した。
 ぐっと鳴咽を飲み込み、強張った顔で無理矢理な笑みを作って返す。
 そして、雨の中に飛び出し、浮いた。

「魔理沙!」
「ん?」
「ありがと」
「おう」

 魔理沙が返事を返す頃には、霊夢は既に姿を消していた。
 それを確認して、どっと安堵の息を吐く『通りすがり』兼魔理沙。
 こきこきりと肩と首を鳴らし、楽しそうに笑う。

「ほんとあいつらめんどくせえ」
「そう?少女らしくていいと思うけれど」
「……それ、年の奴が言うセリフだぜ」

 胡散臭い声に後ろを向けば、いつの間にか紫が居間でお茶をすすっていた。
 魔理沙は魔法で濡れた衣服を変えると、靴を脱いで居間へ行き、反対側に腰を置く。
 お茶はちゃんと用意されている辺り気がきくなあと思うが、これは神社のお茶であるということを忘れてはならない。
 ことり。紫が湯呑みを置いた。

「魔理沙、あれあなた詭弁もいいところじゃないの」
「そりゃ最初の食欲の下りはな。でも急に『恋』してるって話に持ってけないだろうが」
「ほんと、口だけは回るわね」
「お前に言われたかない」
「あらごめんなさい。それに、アリスはほっといてよかったの?」
「霊夢から動かした方がいいと思ったからな。だいたい、霊夢が悪い」

 ひいきね、と紫は笑い、再びお茶をすする。
 ずずっ。ぷは。
 今度は少し不満そうな魔理沙が話しかけた。

「つーか、博麗の巫女は平等じゃなくていいのか?てっきりその話をしに来たのかと思ったんだが」
「平等でなければなりませんわ」
「じゃあ」
「彼女は、特別がいようといまいと関係ない。公の場でひいきもしない。ルールを破れば平等に罰する。故に博麗の巫女なのよ」
「……」
「だから、いいの」

 そうか、と魔理沙は困ったように笑い、湯呑みを持った。
 ずずっ、ず、はあ。

「うまくいくといいが」
「両想いって確信してるから、けしかけたんでしょ」
「まあな」

 不安なら、覗く?
 その紫の提案を断って、魔理沙はお茶を飲む。
 ことり、音がふたつ重なった。

「で、朝帰りするにコインいっこ」
「やだ、それじゃ勝負にならないじゃないの」

 くすくす、ははは。
 ほんのり好きだった相手の幸せを願って、二人は笑う。
 その声は悲しみに振る雨に混じって、霧のように掻き消された。


 ***


 アリスは乱暴にドアを開けると、濡れた服を人形に持たせ、体を拭いてから寝巻に着替えた。
 その間無言で、無表情に。
 そして、ベッドにダイブする。

「ッ、あ~!もう、何てことを……」

 枕に頭を押し付けて、足をじたばたさせながら、アリスは悶える。
 いつもだったら冷静で、キスなんてされるがままでいられるはずなのに、積もり積もったものが爆発してしまった。

「やっぱ、好きなのかなあ」

 ぽつり、と零れた言葉は枕に吸い込まれる。
 とりあえず体を起こして、雨のせいでどことなく湿気た壁にもたれ掛かると、枕を抱きしめて顎を置いた。
 ふと霊夢の顔を思い出せば、びっくりして声も出せないような間抜け面が浮かんでくる。
 霊夢が悪いのよ、と笑おうとしたら、同時に申し訳なさが込み上げてきて、溜息と一緒に零れた。
 きっと、好きだと認めるのは簡単なのだと思う。自分の行動にも、容易に説明がつく。
 でも、この感情が好きという名前だと認めたくない気持ちが、プライドがアリスの心を支配していた。

「初恋は、自分より背の高い男の子、って決めてたんだけどな……」

 何一つ満たしていない相手、それを雰囲気に流された上でなんて、情けない。
 そういうものが、アリスを阻害していた。

「それに、今更、好きって認めてもね」

 ただでさえ暇潰しとしか思われてないのに、突き放してしまった。
 あまつさえ、二度と顔が見たくないなんて、吐き捨てて。
 そっか、もう会えないのか。
 そう思うと、胸がずきりと痛んで、苦しくて、吐き出すように声が零れる。

「……やっぱり、好き、……好きなの、好き……」

 強がりが解けて、本音が溢れ出す。
 運命の人だなんて言葉が嘲笑うかのようにアリスの頭の中を飛び回る。
 何も間違ってないじゃないか。まるで半身がひきちぎられたような痛みがこびりついて取れないのだから。
 枕を落として、胸を掻きむしっても、取れないその痛みがひどくもどかしい。

 お茶を飲んでほっとする霊夢。
 日なたでだらしない寝顔をさらす霊夢。
 饅頭を幸せそうに食べる霊夢。
 酔っ払って絡んでくる霊夢。
 私の作った料理をいちいちあれが美味しいここが美味しいという霊夢。
 私をからかって楽しそうにする霊夢。
 時々だけ優しく触れてくれる霊夢。

 いろんな霊夢がアリスの頭をよぎっては消えて、その度に吐き気がした。
 もう二度と、という喪失感から来るものだった。誰も何も埋めることなどできない穴。
 会いたい、どうしようもなく恋しくて、焦がれ死んでしまいそうだ。
 それでも泣こうとはしなかった。泣いてしまえば苦しみが流れる。
 この苦しみだけが霊夢とアリスを繋ぐ、最後の糸のような気がしたのだ。

 その時、扉の開く音がした。
 人影。周りに付き添う人形は、そう、確か、出迎えの人形。
 会えないと思った矢先の、想い人。

「れい、……む」
「情けない顔ね」

 そう言ってのける霊夢はびしょ濡れで、人形が自動的に持ってくる着替えを受け取ろうとはしない。
 額に張り付いた髪の隙間には、人のことを言えない位情けない瞳。声に至っては、寒さ以外の何かで震えていた。

「顔見たくない、って、いったじゃない。聞こえ、なかった?」
「知らないわよ、私が見たいんだから、見にきたの」

 いつも通り悪態を吐くアリスと、いつも通り自分勝手に振る舞う霊夢。
 お互いの声は震えていて、そして顔も合わさない。
 しとしと、ざあざあ。時に弱く、時に強く。まるで心を表すように音を変える。
 そうやって雨の音が気になるほど静寂に満ちた空間。

 それを初めに破ったのは、霊夢だった。

「ごめん」

 水面を揺らす露の様に、落とされて広がる声。
 それを聞いたアリスは、信じられないとでも言うような目で、顔をあげた。
 大体霊夢がここに来る自体からおかしいのだが、まさか謝るなんて。
 ちょっぴり嬉しくて、悲しくて、でも急に怒ったのはこっちなのだから罪悪感が沸き上がって、ぐちゃぐちゃでまた胸が苦しくなった。
 でもどうして、霊夢が謝るのだろう。怒った理由なんて、わかるはずないのに。
 もしかして、私が霊夢を好きだとばれて、それを断りにきたのか。
 さっ、と血の気が引く。心臓がどきどきと恐怖に鳴る。指先が冷えに冷えて、生きた心地がしない。
 しかし、そんなアリスの疑問も、次の言葉で解消される。

「アリスに、大嫌いって言われたけど、あのね、うん、私は、わたしは、アリスが、……好きだから。だから、ごめん。……変、よね」

 ああ、だから謝ってるのか。アリスは納得してから、固まった。心臓すら止まるかと思った。
 好き?どういうこと?私わからない。
 予想の斜め上から降り懸かって来た現実から逃げようとする思考に、さっともやがかかる。
 それがはっきりして、浮かびあがったのは、魔理沙の言葉。
 空に浮かんで、霊夢から逃げてすぐ、飛んできた魔理沙からすれ違い様に言われた言葉だ。

『お前もそろそろ逃げずに素直になった方がいいんじゃないか?』

 雨に紛らせたつもりだったんだろうけど、アリスにはきちんと届いていた。
 やっぱり魔理沙への考え方改めなきゃ。ありがとう、あんたは確かに恋色魔法使いよ。

 そうして、ぐっと息をのみ、アリスは痺れたように感じる舌をいきり立たせて動かした。

「霊夢、」
「ごめん……アリス……」
「さっきの大嫌いは、あの霊夢のこと。私、霊夢、……好き、です。私も、好きなの」

 うまく言語化できず、しまいには消えてしまいそうな程小さくなり、そっと、俯く。
 頭が破裂しそうな程痛いし、体が熱い。所々弾けたような音さえする。
 初めに言った霊夢はどれだけ勇気が要っただろう、と思いながら、アリスは再び顔にこみあがる熱いものを感じていた。

 言われた霊夢はというと、おかしな夢でも見ているような表情で固まっている。
 冷たい言葉を予想していた。それなのに、返ってきたのは、アリスも同じ気持ちだということ。
 そう理解すると、バルブが緩むように、あっという間に我慢していた涙がとめどなく溢れ出し、鳴咽が零れる。
 足元はふらふら覚束ないながらも、アリスを目指して一歩ずつ踏み締めて進む。

 それに気付いたアリスは顔を上げ、霊夢の泣き顔を見て余計堪えられなくなり、一気に涙を溢れさせた。
 頬を濡らす塩水を厭わず、四つん這いで手探りするように距離をつめて、ベッドを進む。
 端でようやく、相手の体に触れ合う。
 ああ、夢じゃない。幻想じゃない。ちゃんと、ここに居る。
 それを確認してから、抱きしめあって、そのままアリスの方にどさりと倒れた。
 お互いに端正な顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、強く強く腕に力を込めて、思いきり泣いた。
 いくらベッドや相手の服に染みを作ろうが関係ない。恥も外聞もかなぐり捨てて、相手の存在に喰らいつくように、ひたすらに咽ぶ。
 しまいには何故泣いているのかわからなくなるくらい、生涯分とも言えるほどに泣きあかした。

 息が苦しく、まともに喋れなくなってから、ようやく泣くのをやめる二人。
 おそるおそると顔を見合わせあって、ぷっ、と吹き出した。

「へんな、ひっ、かお」
「っく、ようかい、みたい、ひっく」

 声すら枯れるほど、嫌なことも全部涙と共に流したアリスと霊夢は、しばらく下手くそに笑っていた。
 それも終わると、精魂尽きたような体の気怠さに従い、意識を手放した。
 最後に、触れるだけのキスを交わして。


 ***


「……賭けを間違えたな」
「何にせよプラマイゼロよ」

 翌日、アリス亭にやってきた魔理沙と紫は、幸せそうに眠る二人を見つけた。
 ただし、服が濡れたままの。
 どうやら霊夢の水気をアリスも吸い取ってしまったようだ。

「こりゃ、風邪確実だな。いくら霊夢でも」
「看病が必要ねえ」

 顔を見合わせ、笑う姿は幸せそうで。

「おこぼれくらい貰っても罰当たらないよな?」
「ええ、閻魔様もお許しになると思うわ」

 きっと起きて、朝一番に霊夢はくしゃみをする。
 そしてつられた様に、アリスがくしゃみをする。
 どちらも悪化して、いずれは寝込む。誰かの手を借りなきゃいけないくらい、人形のコントロールができないくらいに。

 その時は、またちょっかいをかけてやろう。
 それまでは、二人っきりで。

「じゃ、行くか」
「神社でお酒散らかしすぎちゃったし、片付けなくちゃね?」
「げっ」

 笑う声の背中で、ばたり、と扉が閉まる。
 ベッドの二人は、まるで同じ夢でも見ているように、口元を揺らした。



 終わり。そして、始まり。
「……」
「……」

 無言で向き合う二人。
 その顔の距離およそ数cm。
 ぷるぷると震えていた霊夢が、やがてくぅっと顔をそらした。

「やっぱダメ!無理!」
「今まで散々ひどいのやってきておいて……」
「だって、意識したら、アリスが可愛くて、恥ずかしくて……見てられない」

 口を尖らせながら、目をそらして、顔を染める霊夢。
 何これ。いつの間にこんな可愛い生き物になったの。
 アリスは鼻を押さえて上を向いた。鼻血を我慢するためである。

 まさか霊夢がキスできなくなったなんて、誰が想像しよう。
 フレンチはともかく、触れるだけのものさえ、である。

「くう、大体、アリスが、すればいいのよ」
「えっ、む、無理よ無理!そんなことできるわけないじゃない……霊夢、可愛いすぎるんだから」

 いっちゃったといわんばかりに顔を手で覆って、紅くなった顔を隠すアリス。
 何これ。ロマンティックが止まらない。誰も止めなくていいけど。
 霊夢は額を押さえて空を見上げた。雑念を振り払うためである。

 こういうわけで、お互いキスができなくなってしまったのだけれど。

「あのバカップル……」
「何回あのやり取りするのかしらね」

 ずっとこの調子で、今や神社は糖分過多の空間。
 実はその範囲内に居て、緑茶をすする魔理沙と紫は、ただただ溜息を吐くしかなかった。


 ***


終わりました。展開がちょっと急ですね。
余った魔理沙は私めが美味しく頂きました。

ちなみに魔理沙は霊夢とアリスが仲良くなってから、自分の気持ちに気付いたような感じです。

思えば「アリスが食べたい」という一言を携帯に打ち込んだのが始まりでした。
もし全作品通して見て下さった方がいらっしゃったら、感謝感激雨あられ。

それでは、お読み頂き、誠にありがとうございました。


追記4/13
※大変申し訳ありませんが、諸事情により『ミルクティーの作り方』を削除させて頂きました。コメントをいただいた、そして読んでいただいた皆様にはお詫びを申し上げます。
南乃
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様でした!
なんなんだこの後書きは…甘すぎる!!ブラックコーヒーをぉぉぉぉぉ!!!

もっと広がれレイアリの輪!
2.玖爾削除
「アリスたべたい」の文字を見たときはナニを始めるつもりなんだと思いましたがw
円満に〆がついて一安心です。ホントなんなのこの可愛い巫女。
3.奇声を発する(ry in 霊アリLOVE!削除
もう、最高としか言えません!!!
甘すぎて如何にかなっちゃいそう…

もっと広がれ霊アリの輪!!!!
4.名前が無い程度の能力削除
最初の霊夢の壊れ具合も良かったけど間違いに気づいてボロボロ泣く霊夢も可愛いです。
5.名前が無い程度の能力削除
アリスが主食の霊夢は甘々でしたw
いいぞもっとやりなさい!!!
これ以上先に進んでもいいのよ
6.名前が無い程度の能力削除
完結おめでとうございます! レイアリは良質なSSばかりで、作者様方には頭が下がる一方ですわw
もっと広がれレイアリの輪!
7.名前が無い程度の能力削除
俺に言わせればまだまだ糖分だ足りないなぁ!MAXコーヒーを飲ませてもらおう!!
とりあえず霊夢が皆にキスした事件についてアリスが今更ながら怒るというシチュを…(殴

なにはともあれもっと広がれレイアリの輪!!
8.キリト削除
ただ一言
グッジョブ
コレ以外の言葉は不要!
9.名前が無い程度の能力削除
なにこれ可愛いw

良いもの見させてもらいましたm(_ _)m

アリスが食べたい その一言から始まったこの話…まだラストまで行っていないハズだ!
結局アリスを食べてないじゃないかキャッキャッウフフ的な意味d(夢想転生
10.ぺ・四潤削除
意識しだしたら恥ずかしくなった霊夢可愛いww
本当に何この可愛い生き物達はwww
今度は今までの仕返しとばかりにアリスが強引に行くんだ!!!
11.名前が無い程度の能力削除
金欠だが祝儀の準備をしなければな。
12.名前が無い程度の能力削除
一通り読ませてもらった感想をば。
ありがとう。脳内妄想が止まらん。もう結婚すればいいのにね

最近レイアリが増えてきて嬉しいかぎり。貴方様に敬礼!
13.多色刷五線紙削除
「アリスが食べたい」 なるほど、この一言が始まりですか。
たった一言だけでここまでの霊アリを書ききった貴方に賛辞を。GJ!!
14.名前が無い程度の能力削除
これはいい!
15.名前が無い程度の能力削除
幸せ
16.名前が無い程度の能力削除
幸せ
17.Yuya削除
良いレイアリをありがとうございます