「そこは私の指定席だぞ! 勝手に座るな!」
博麗神社で行われていた宴会の最中。そんな大声が居間に響いた。
声の主は、酒のせいか顔を真っ赤にした魔理沙で、その方向にいたのはアリスである。
「きゅ、急に何言ってるのよ魔理沙」
「うるさい! お前に言ってるんじゃない!」
そう言って、のしのしとアリスの方に近づく魔理沙。
なんだどうしたと宴会に参加していた者たちの注目を集めながら、アリスの前に立つ。
「こらっ! そこは私の場所だぞ!」
怒鳴りつけるはアリスの膝の上の寄りかかる人物。
泥酔状態で、半分つぶれてしまっている状況の霊夢だった。
「んあ? なに魔理沙?」
ほとんど開いていない目を魔理沙に向けながら霊夢がそう聞く。
「だから、そこは私の席だって言ってるだろ! どけよ~」
そう言って強引に霊夢を押しのけようとする魔理沙。
しかし霊夢のそれに抵抗するように、アリスの服をつかんで離さなかった。
「ちょっと、霊夢! どこ掴んで、って魔理沙! こら、やめなさい!」
二人に膝の上の取り合いをされて、もみくちゃされるアリス。
しかし魔理沙と霊夢はそれに意を介さずに取り合いを続ける。
「私が先にいたんでしょうが~」
「うるしゃい! 私のばしょだ~」
きゃーきゃー、もみくちゃ。音にするとそんな感じの戦い。はっきりいって迫力のかけらもない。
そしてそんな酔っ払い同士の場所とり合戦は、ほんの十秒ほどで決着がついた。
魔理沙がアリスの服をつかんでいた霊夢をぺい、とひきはがして、アリスの上にポンと座ったのだ。
「えへん。私の勝ちだぜ」
満足そうな笑みを浮かべて座る魔理沙に、ため息をつくアリス。そして、あう~と床に突っ伏す霊夢。
この瞬間、アリスの膝の上という領地は魔理沙のものになったのだった。
しかし、霊夢はすぐにむくっと起き上がると、再び近くにいた人物の膝によりかかった。
「次はあんただ~」
「あらあら、私かしら霊夢?」
霊夢が次によりかかったのは紫の膝だった。
「あら、紫だったのか」
「ええそうよ。私」
そんな感じに二言三言交わす霊夢と紫。
なんだか慣れているような雰囲気を二人から感じ取れたりするのは気のせいではないだろう。
「こんなに酔っちゃって大丈夫?」
「大丈夫じゃないからあんたの膝の上にいるんらろ?」
「はいはい。気持悪くなったら言うのよ」
「……うん」
さすさすと霊夢の背中をなでる紫に抱きつく霊夢。
慣れている雰囲気はやはり気のせいではなかった。
そんな自分の近しい人に甘える魔理沙と霊夢という珍しい光景は注目を集めた。
普段からは想像もつかない甘えんぼな二人の様子は、まわりに影響を与えるのには十分だったのだ。
そして、その雰囲気が宴会に参加した人妖全体に広がるのにそんなに時間はかからなかった。
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「あの、咲夜さん? どうして私の膝の上に座るんですか?」
「……たまにはいいじゃない」
「門番の上に座る従者の上に座る私! これぞカリスマ!」
「じゃあ、フランは美鈴のせなか~!」
「パチュリーさま~」
「小悪魔抱きつかないで暑い」
「あの、幽々子様……。そんなに抱きつかれると」
「いや?」
「嫌じゃ、無いです……」
「藍しゃま~。あったかいです~」
「ほらほら橙。酔いすぎだぞ」
「萃香ってさ、いい抱き心地なんだよね~」
「でも、天子は固いぞ。どことは言わないが」
「あんたもでしょ」
「私をひざに抱くと幸せになれるよ、レイセン」
「はいはい分かったわよ。早く来なさい」
「永琳の膝の上なんて何年ぶりかしら」
「さあ。数えるのが面倒なくらいあったから覚えてないわね」
「……何照れてるんだよ、慧音」
「いや、照れてなんかないぞ、妹紅。うん照れてなんかない」
「なんで二人ともわたしに寄りかかってくるんですか?」
「いやあ、もみじのもふもふ具合がなんともいえなくて。ねえ、にとり?」
「そうですよね、文さん。もふもふしてる椛がわるいのよ」
「あの、お二人とも。ちょっと苦しいです」
「ほら早苗が苦しいってさ。諏訪子離れなさいよ」
「嫌だよ! 神奈子が離れなよ!」
「ほら、パルスィ。もっとこっち来なって」
「ほんと、あんたのその強引さも妬ましいわ」
「かー」
「にゃー」
「こいしー」
「はいはい。いつも通り肩はお空、ひざの上はお燐、背中はこいしね。ってこいしは喋りなさい」
「勘違いするなよご主人。べ、べつにご主人のひざの上がいいって訳じゃないからな!」
「でも、私はナズーリンがいいです」
「! あうう」
「じゃんけんで勝ったら聖のひざの上。それ以外は肩によりかかる。それでいいわね、一輪、ぬえ」
「いいわ。姐さんは渡さないわよムラサ」
「わたしが膝の上だかんね!」
「あらあら」
「さあ、リグル。あなたがどうしてもって言うのなら、ひざの上に乗せてあげないでもないわ」
(顔を真っ赤にしながらも素直になれない幽香さんもいいなぁ)
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「いいわね」
そうぽつりと呟いたのは、事の原因の一人でもある紫だった。
すうすうと寝息を立はじめた霊夢を膝枕で寝かせ、宴会を見ながらそう呟く。
「なにがいいのかしら?」
その呟きに返したのは、これまた原因の一人であるアリスである。
霊夢と同じように寝てしまった魔理沙を、これまた紫と同じように膝枕している。
アリスの問いかけに、紫はクスッと笑って答える。
「膝の上に乗せる人がいる。膝の上に乗せてくれる人がいる。これって良い事じゃないかと思ってね」
紫は、宴会の様子を楽しそうに眺めながらそう答えた。
そんな紫の答えにアリスは一瞬驚いて、そしてくすりと笑う。
「紫からそんな言葉が聞けるなんてね」
「なによ、それ」
「紫が言うには珍しい言葉だってこと」
「あらやだ、失礼しちゃうわ」
そう言ってわざとらしく頬を膨らませる紫。
そしてその後、眠る霊夢の横顔を見ながら、アリスにこう問いかけた。
「でも、いいことでしょう?」
そう言って紫は、眠っている霊夢の髪をやさしく、かつ嬉しそうに撫ではじめる。
そんな紫と霊夢のすがたを見て、アリスは妙にたくましいアホ毛の神様を思い起こた。
そして、それを思い起こした自分が少し恥ずかしくなって、少し頬を染めながら紫にこう答えた。
「そうね。いいことだと思うわ」
そして、すうすうと寝息を立てる魔理沙の髪を、アリスもやさしく撫でることにしたのだった。
「かー」
「にゃー」
「こいしー」
一瞬スルーしちまったww
神奈子様に乗っかられたら確かに苦しそうだwww
守矢家は一人と二柱揃って団欒してこそ輝く。
どういうことなのww
だから、てゐちゃん、俺のひざの上に……
良すぎる