「月の光が眼に痛いわね」
漆黒の夜空を照らす禍々しい青い月。
「虫唾が走るわ、こんな夜は……ねぇ」
不気味な、寒々とした光が世界を照らしている。
「貴方はどう思う……狩人さん?」
敗者を見下ろし傲然と彼女は言った。
月の光に鮮やかな青銀の髪。
幼いが、それでいて妖しさと妖艶さすら滲ませる美貌。
何よりも眼を引くのが背の一対の蝙蝠の羽と、まるで血の様に赤いその瞳。
彼女こそが永遠に紅き幼き月 吸血鬼レミリア・スカーレットであった。
「ふふ、それにしてもわざわざ夜に襲撃してくるなんて」
たった今打ち倒し、屈服させ、膝をつかせた狩人に舐めるような視線を送る。
「よっぽど腕に自信があったの? まあ舞踏の相手としては悪くなかったわ」
レミリアが微かに笑みを浮かべる。
この目の前の狩人は馬鹿正直に、月の浮かぶ夜に何の策も無く襲撃して来た。
仲間も連れずに、策も弄さず愚直なまでにまっすぐに、己の力だけでレミリアを滅そうとしてきた。
人間より圧倒的に上位の種族に対し、その身一つで戦いを挑んだ。
必勝を期すでも無く、むしろ敗色濃厚でありながら決して引かずに最後まで戦い抜いた。
そして打ち倒された、勇敢である。だが人々はそんな狩人の事を口をそろえてこう言うだろう。
「馬鹿ね」
と、レミリアが口にする。
だが彼女の表情には侮蔑も、馬鹿にするような嘲笑も浮かんでいなかった。
「だけどそういう考え、嫌いじゃないわ。
人間なんて卑怯で小賢しいだけだと思っていたけれど……お前みたいな、好むべき馬鹿もいたのね」
少しだけ感心したような口調。
そのままレミリアは一言も発さぬ狩人をしばし眺める。
美しい娘だ。街を歩けばたいがいの男が振りかえるであろう。
戦いによって薄汚れてしまっているがその美貌には何の支障もない。
美しい銀の髪、鍛え上げられ均整のとれたその体。そして何より……
「お前、処女でしょう」
口の端を吊り上げ、浮かべた笑みは凄まじい威圧と生物が持つ本能的な怖れを呼び覚ます。
「分かるわ、恥じる事はないの。それはきっと美徳だから」
その笑みは捕食者の笑み。
「だからというわけではないけれど、ねえ……私貴方の事を気に入ってしまったの」
何者も逆らう事許さず。
抗う事もあたわず。
ふわりっとレミリアは狩人の傍へと降り立つ。
「女の血を吸う趣味はなかったのだけどね、何故かしら、貴方の血はとてもおいしそうだわ」
そう言って、おそらく恐怖からであろう、もはや微動だにしない哀れな獲物の美しい銀の髪をなでる。
その手が下がり、その頬を撫で、首筋をくすぐり止まる。
「ふふ、いい顔ね、たまらない」
レミリアが狩人の両肩を抑える。
「恐れなさい、平伏しなさい。
我こそが永遠に紅き月 レミリア・スカーレット!
その姿は虹色の冥界、神の威光すら霞む、何よりも紅き絶対者」
勿体つける様に、見せつける様にその牙をゆっくりと獲物の首筋へと近く付けていく。
そして………
「お嬢様、人形相手になにやってんすか」
「め、美鈴、何時から!!」
「初めからです」
「いやぁぁぁぁ!?」
カリスマブレイクするわな、そりゃ
皆に弄られカリスマを削り取られた寂しさを紛らわせるためにwww
そんなオチ…
やられましたorz