縦のカギ。
1.おくうがよく出してるよね。
おっきな星を、ばーって回すやつ。
2.私は閉じてて、お姉ちゃんは開いてるの。
3.私の二枚目のスペルカードよ。
日本語では「偏執病」っていうんだって。
4.恥ずかしがり屋さんなんて、お姉ちゃんかーわいー!
5.私の最後のスペルを、もうちょっと強くしたスペルね。
地獄の薔薇に責めさいなまれるがいいわ!
6.お燐の名字ね。読むのが難しいわ。
7.枕元に立っちゃうぞー!
8.おくうの得意技ね。火力は二番目らしいわ。
9.私のフルネーム。お姉ちゃんなら、当然分かるわよね?
10.私が持ってないものよ。だって、無意識には勝てないんですもの。
11.よく分かんないけど、おくうがよく言ってる言葉ね。
ヘルズ○○○○ー! って。
12.あら、もう言っちゃったわ。空のあだ名ね。
13.私たちが住んでるここ。
14.私が持っている、私なりの哲学。嫌われ者の○○○○○○。
15.私たちの種族名ね。
16.人間と○○○○。地上では上手くやってるみたいね。
17.ペットの火車の名前。
18.地獄極楽、ほにゃららら! っておくうが言ってたけど……なんだっけ。忘れちゃった。
19.お姉ちゃんの名前。勿論名字も含めてね?
横のカギ。
1.一枚の絵を見せて、それが何に見えるかを試すテスト。
私の六枚目のスペルカードでもあるわ。
2.地獄でちくちく。痛そうなお山。
3.お姉ちゃんが最近ハマってるよね。○○○○術、って。
4.私の二つ名、っていうのかな? それよ。
5.泥棒さんが貸してくれた本に載っていたわ。産まれる前に夢を見るらしいわね。
「ブウウ――ンンン……」って……何のことかしら?
6.私の持つそれよ。意識はこれに勝てないわ。お姉ちゃんが私に勝てないようにね。
7.お姉ちゃんの上司さん、だっけ? 閻魔さまの。
8.これを解放すると、なんだかぽけーってしちゃうんだけど……。
9.私の四枚目のスペルカード。これの間は、落ち着いていられるんだけどね。
10.地霊殿の○○○は長くて長くて、歩くだけで疲れちゃうわ。
11.おくうの名字ね。これも読むのが難しいわ。
12.お燐の五枚目のスペルね。妖精たちが復活するんだもの、びっくりしちゃった。
13.地上にいるそうね。天使もいるって聞いたけど、こっちはどんなに怖いのかしら……?
14.私たちの遊び道具。○○○○ごっこ、って、もう言わなくても分かるよね。
15.お燐がよく使っている○○○フェアリー。あれ、実は普通の妖精さんらしいのよね。
◆
「……何これ」
朝目覚めて、コーヒー牛乳でも飲もうかとリビングに向かうと、テーブルの上に置いてあった紙切れ一枚。
手に取って見てみれば、いくつかマスが塗り潰された、後のマスには何も書かれていない格子状の表。
紛れもないクロスワードパズルだ。
はて、これはいったい何だろうと視線を下にずらせば、そこにはかわいらしい丸文字でこう書いてあった。
『おねえちゃんへのメッセージです。ちゃんと解いてね♪』
たった一行だけの短い文章。それでも何が言いたいのかはよくわかる。
そう。妹はこのパズルを私に解け、と言っているのだ。
そういえば、と思い返す。最近のこいしは珍しく外にも出かけず、家にこもって地べたにくっ付いていた。
何をしているのかと問えば、慌てた様子で「お姉ちゃんは来ちゃだめ!」と私を牽制する始末。
何も実害はないので、まぁ放っては置いたけれど……そうか、あれはこのパズルを作っていたのか。なるほど。
納得したところで、改めて紙面に目を向ける。15×10マスの、そこまでは大きくないパズル。それでも黒マスは少し多い。
見た目は不格好だが、初心者なりに頑張ったのだろう。心を読めずとも、そこに相手がいなくともそれくらいは分かる。姉ですもの。
……まぁ、それほど忙しいわけでもありませんし……たまにはこうした遊びに興じてみるのも、悪くはないかもしれませんね。
近くの引き出しから鉛筆、消しゴム、メモ帳を取り出し、私は椅子に座っていそいそと妹の挑戦に応じることにしたのだった。
◆
今一度、問題文をざっと眺める。
とりあえず、しっかりと基本は押さえているらしい。内容も私たちに関することばかりで、解けないこともなさそうだ。
このヒントを使ってマスを埋めていき、アルファベットの書かれたマスを並べればこいしからのメッセージが現れるというわけね。
「ふむ。とりあえず……ぱっと分かるところだけ、簡単にリストアップしていきましょうか」
縦2、6、9、12、13、15、17、19。
横2、3、4、6、7、11、14、15。
ざっとこんなものか。案外埋められるものなのね。
けれどこれでは全然足りない。やっぱり、少しは頭を使う必要がありそうだ。
「他に分かりそうなのは……スペルカード、でしょうかね。縦の3は文字数的にも、多分弾幕『パラノイア』。へぇ、偏執病っていうのね」
ぱらのいあ、と紙に書きこむ。まぁ、間違っていてもまた消せばいい。時間制限もないし、やり直しはいくらでも聞くのだ。
「5のヒントは地獄の薔薇……なんだ、そのままじゃない。『ローズ地獄』ね。
8の場合は多分……『メガフレア』、じゃないかしら。五文字だからたくさんあるけど、二番目って言ってるしね」
かりかり。鉛筆を滑らせる音が朝の部屋に響く。
その間にも思考は絶やさない。続けて次の問題に移る。
「穴埋め問題は簡単ね。11は『トカマク』。14は『フィロソフィ』――哲学、という意味ね。18は当然、『メルトダウン』でしょう」
すぐ横に答えが書いてあるのは、いったいどういうつもりなのだろうか。いや、解きやすいから何も問題はないんだけど。
あるいは、解いてもらいたいからかもしれないわね。でないと作った意味がない。問題は、解かれるからこそ意味があるのだから。
まぁ、今はこいしの意図よりも解くことを優先しましょう。
そっちの方が、今もバレていないと思っている、あの物陰に隠れている妹も望んでいることでしょうしね。
◆
「――疲れたっ!!」
ずべり、とテーブルの上に突っ伏す。もうだめだ、何も考えられない。朝から頭を使い過ぎた。
それでも必死に力を振り絞り立ち上がる。そうだ、私はコーヒー牛乳を飲もうとしていたんだっけ。糖分も取らずに無謀なことをした。
冷蔵庫の扉を開き、中から雪印製のコーヒー牛乳を取り出す。冷え冷えの紙パック。口を開けて、中身を空のコップへと注ぐ。
一時期、何故か大量に幻想郷にきたらしい。まぁ、消費者である私たちには関係のないことだ。ただ飲むだけである。
八分目まで注ぎ終えた時点で、私は紙パックを冷蔵庫にしまう。そして右手のコップに口をつけ、一気にごくごくと飲み始めた。
途端、口腔を満たす程よい苦味と甘味。互いが互いを引き立てて、見事な調和を描き出す。口の中で生み出される小さな宇宙。
私はそれを飲み下す。ごくりごくりと、喉を鳴らして嚥下する。喉越しすっきりな味わい。渇きは既に潤された。
そのまますっかり全部を飲み干して、ことりと音を立ててテーブルの上にコップを置く。
やはり朝はコーヒー牛乳に限る。おかげで頭もすっきり目覚めた。
さて、と再度紙に目をやる。そこには空白を埋め尽くしたクロスワードパズル。気合で乗り切ったが故に、朝から疲弊してしまったのだ。
頭の体操、にしては少しハードすぎたけれど、それなりに楽しめたことに違いはない。いやはや、面白い趣向だった。
にしても、よくもまぁこんなものを作ったものだ。こいしに会ったら褒めてあげないとね。
と、そこで気付く。そういえば、こいしからのメッセージ、とやらを見るためにこれを解いていたんだっけ。すっかり忘れていた。
確か、アルファベット順に文字を並べ直すんだっけ。よし、やってみるとしよう。
「えーっと……『お』、『ね』、『え』、……っ」
私は思わず目を見開く。
キーワードを並び替えて、ようやく現れた妹からのメッセージ。
「おねえちゃん、だいすき」。
お姉ちゃん、大好き、だなんて。
そんなこと。
そんなこと、わざわざ、回りくどく言う必要ないじゃない。
「……あっ、は、はは、あっははははは!」
なんだ、こんな、なんて、いじらしくて、あいらしくて、かわいらしい、迂遠で真っ直ぐなメッセージ。
おかしすぎて、笑いがこぼれる。腹がよじれて、痛くなる。真っ直ぐすぎて、締め付けられる。
胸から溢れ出てくる想い。私は衝動に抗わず、素直に妹の名を呼んだ。
「こいし。――こいし! いるんでしょう? 出てきなさい!」
「……え、あれ……? ど、どうして私がいることが分かったの?」
戸惑った様子で、おずおずと姿を見せるこいし。私に居場所を見つけられたことが、予想外だったらしい。
馬鹿ねぇ。そんなの、分かるに決まっているじゃない。
だって私は、あなたのお姉ちゃんなんですもの。
「いいから。……ほら、こっちへ。おいでなさい」
「え……あ、うん」
とぼとぼとこいしは歩を進める。私も妹に歩み寄り、ぶつかりそうになるくらいの近い距離でぴたりと立ち止まる。
そうして、ためらわず、ぎゅうっと力強く抱き締めた。
「!? ちょっ……お、お姉ちゃん、いきなり何?」
「いいから。このまま、しばらく抱っこさせて」
「え、で、でも……」
「それとも、私に抱かれるのは……嫌?」
「う、ううん! 別に……嫌じゃないっていうか……そのぉ……」
もごもご口ごもるこいし。何を言いたいかなんて、言わずとも分かる。
だって、私は覚りなのだから。ましてや、お姉ちゃんなのだから。分からないはずが、ないのだ。
だから、人差し指を立てて、こいしの口元に近付けた。
「……言葉なんて、いらないわ。それはあなたも、充分分かっているでしょう?」
「…………」
私の言葉通りに口をつぐむこいし。
それでいい。黙っているだけでも、想いは伝わってくるのだから。
どくんどくん。妹の心臓の鼓動。私の心臓の鼓動。二つが溶け合って混ざり合い、どちらがどちらなのか分からなくなる。
どっちだっていい。結局は、同じなのだから。
ぎゅうっと、体を締め付けられる感触。こいしが腕をまわして、私に抱きついているのだ。
私はさらに抱き締める力を強め、ぎゅうっと、ぎゅううっとこれ以上ないくらいに密着する。
全身から伝わってくる温かみ。それはとても柔らかく、優しく包み込んでくれるような気がして。
コーヒー牛乳の甘ったるい香りが、またどこかから匂ってきた。
こいしちゃんかわいらしいです^q^
姉妹可愛いです
間接キスに頬を緩めながらコーヒー牛乳を堪能するのが理想です
そしてクロスワードという試みに感動しました
めっちゃ悶えましたw良い!!
二人で一緒にコーヒー牛乳にして飲めばいいと思うよ!
さとりさまと一緒にコーヒー牛乳をごくごくしたい
素直にいえないこいしちゃんかわいいです
賞味期限が心配ですが
そんなことより俺もさとりさま大好きです。
あっま甘じゃのう!