魔理沙はよくうちに泊まりに来る。お互い一人暮らしで、しかも、長年の付き合いで腐りきった縁だからか、本当に気がねがない。勝手知ったる他人の家。
もともとこいつは、そういう奴だ。
図書館の本を盗み過ぎだろう。あれは借りてるだけだぜ、と言うが死ぬまで借りるのなら、半永久所有で、盗んだと言っても差し支えはないだろう。
盗まれた相手が、長命で気長に構えているから良いものの。実力行使に出られたら大変ではないのだろうか。
…………まぁ。当人らがいいならそれでいいのだろうけれど。
「なあ霊夢。布団こっちに敷いてもいいか?」
一応客なのだし客間に布団を敷くべきだけれど。家主である霊夢と布団を並べて寝るつもりらしい。
「別に聞かなくていいでしょ」
聞いても別に、こちらの言うことを聞いてくれない。
断っても無理やりそのまま居座るだけだ。あくまでこいつらしい手段である。
最初のうちは断っていたのだけれどばかばかしくなって、最近では為されるがままになっている。
「少しはこっちの話も聞いてほしいんだけど」
「聞くまでもない。そういう間柄だと私は思ってるんだぜ」
「そうね」
これもいつものやりとり。
同じことを戯れに繰り返す。言葉の端々は微妙にニュアンスは違うけれど、大意は同じ。
これもいくつかの戯れの中に消えていく、些細な記憶の一部。
いつか、そんなこともあったな、と思い出す程度の話。
なんとなくそんなことを思って、ろうそくの明かりを吹き消して布団に入る。やはり、入りたての布団の中は少し冷たい。手足を縮こまらせた。
「なぁ霊夢、そっち行っていいか?」
なんですと?
これはいつものことではない。
こんなセリフは過去にはなかった。どういうこと?
聞き間違い?いやむしろ寝言じゃ
「あの、霊夢、そっち行っていいか?………その、寒いから、さ」
聞こえなかったと思ったのか、もう一度言いなおしてくれた。
聞き間違いでも寝言じゃなかった。こいつは大変なことを言い出した。
寒いからって、そんなこと言っちゃいけない。
迂闊にそんなことを言えば、朝チュンだぞお前。
すごい誘い文句にしか聞こえないぞ。
本人は顔を赤くするどころか、むしろ青くさせている。寒いのだ。
そのつもりはさっぱりない。ないったらないのだ。
「……………………………………………………いいわよ」
予想外のことに動転する、頭と胸をどうにか鎮めて平静な声を出す。
語尾が震えていなかっただろうか。ちょっと心配だった。
「へへっ、ありがと霊夢」
布団にもぐりこんでくる。
冷たい外気とともに、あったかい魔理沙の体が触れてくる。
「礼を言われるようなことじゃないわ、こっちも寒かったし」
嘘じゃない、でも本心ではないが。
魔理沙は寒がり。
それに寂しがりだ。
家族と一緒に暮らしてきたのだ。ずっと誰かと一緒に暮らしてきた。
勘当されて、一人暮らししている今、寂しくないわけがない。
「あったかー」
「こら、あんまりくっつくな」
「霊夢はあったかいなー」
「あんたが冷たいだけでしょ」
それにあまえたがり。
霧雨の、道具屋の主人の娘。かなりかわいがられていた。その娘をこうして勘当しているのだから、並大抵のことではなかったんだろうと思う。神社は里からは離れているからおぼろげにしか当時のことは分からなかったけれど、里では大変なことだったんだろうと思う。
霖之助さんが道具屋を開いたのは自分のためともう半分は魔理沙のためだと思う。
人里の道具屋として様々なモノを取り仕切っている霧雨が、生きていくためには必要だったから。
でないと、勘当されて、ようやく自由になれたと思った先、生きるためにそこへもどらないといけなくなってしまうから。
向日葵みたく、豪奢に笑う、魔理沙の笑顔が見れなくなる。笑ってくれたとしても、その笑顔は前とは違う。心が折れてしまったのだから決定的に違うのだ。
私も魔理沙のそんな姿は見たくなかった。
霖之助さんの判断は間違っていない。
こうして今も、変わらずに笑ってくれている。
里では無表情だと揶揄される私。笑うことが苦手な私にとって、無防備に笑いかけてくれることでどれだけ心を潤してくれているのか。この子自身は分かっているんだろうか。
…………………言っても栓ないことだし、首を傾げられそうだから、言わないけど。
しかし、こちらの気も知らないで無邪気に笑っているところを見ると、頬をつねりたくもなってくるものだが。
「いひゃい、へぇむ……」
「あんまり寄らないで、流石に暑いわ」
だれに言うわけでもない言い訳をする。
一人用の布団である、やはり二人だと狭い。それなりに体は触れていたのに、さらに体をくっつけてきた。瞬間的に心臓が跳ね上がる。幼馴染にどきりとするとかないわ……。バレたらからかわれるに決まっている。
悟られまいと蹴飛ばして布団から追い出す。
「ううっわたしは寒いぜ……」
懲りずにもぞもぞ再び布団に入ってくる。そこは反省したのか、距離を少し開けている。
「ならこれでどう?」
「お?おお、これなら大丈夫だぜ」
手を、繋いだ。
少し体温の低い魔理沙の手と、自分では普通だと思う体温。温かくもなく冷たくもない平温。
繋いで体温が移ったのか少し暖かくなった。
離れ過ぎず、近付き過ぎず。
二人を繋ぐのはお互いの手。
「これぐらいがちょうどいいのよ」
「暑過ぎず、寒過ぎず、だな」
「ん」
誰かのぬくもりを感じて眠る。
それはとても安心できること。
たまに魔理沙はこうして、神社に来る。
魔理沙より長いこと一人暮らしをしている私にとっては、一人の時間は当に慣れ切ったもので、寂しさを感じることはあまりなかった。
でもこうして。魔理沙の手を握ると、握り返してくれる。だれかがいる。一人ではないと実感する。
「ん?」
「手はでかいんだなって」
「そりゃなー成長期だし、まだ伸びるんだぜ。成長ってのは端っこから始まるんだ、だから手足から大きくなっていって、背が伸びるんだぜ、っていうか霊夢もでかい方だと思うんだけどな」
「成長期だもの」
同じ答えを返す。なんとなくおかしくなってくすくす笑いあう。
何か言ったら反応してくれる。隣に誰かいるあったかさ。一人じゃないこと。
悪くはない。
「おやすみ」
「おやすみだぜ」
この二人いつか一線を越えてしまえばいいのにとか思ってしまう。
また新たなレイマリ作家が増えて嬉しいです。
ところでこの二人はどんな格好(服)で寝てるんだろう……
砂糖の甘さとはまた違った甘さが、これがまた、もうね!
ただ一人称なら呼び方や言葉遣いも全文統一しないと。
そして誤字報告
×霖之介 ○霖之助
2様>レイマリはジャスティスですよね!この二人は友達以上○○未満です、気持ちを自覚するまでが長いですね。自覚する前に周囲にダダ漏れて砂糖吐かれることは間違いありませんw
3様>こんなに褒めて頂けるとは思っていませんでした。ありがとうございます!
ぺ・四潤様>付かず離れずの距離感を意識したのですが、伝わっているといいです。
新参者ですがよろしくお願いします。
魔理沙…キャミソール(ネグリジェ)・ドロワーズ 霊夢…襦袢・ドロワーズだと思います。そういえば幻想郷ではパジャマってあんまりイメージしにくいですね。不思議です。
5様>砂糖控えめです!体に優しい低カロリー、砂糖吐くこともありません!
単に甘い話を書けないだけなのですorzまだまだ精進せねばいけません。
ご指摘・誤字報告ありがとうございます。
修正しました。