ひどい雪だった。
流石に魔女でも体が冷える、そんな天気だ。
こんな日にわざわざ呼びやがって、あいつめ。
それでも断らずに来る私も私だけど。
「魔理沙ー?」
「お~う?お~上がれ~。すげぇ雪だな」
部屋の真ん中には小さなコタツがあった。
「ふぅ、あったか~い」
今まで魔理沙が使っていたのだろう。
中は丁度よく暖かくなっていた。
口の辺りまで布団をかけて冷え切った手を揉む。
あぁ生き返る。
「コタツもいいわね・・・」
「おお、アリスもコタツに目覚めたか」
独り言のつもりだったが丁度部屋に戻ってきた魔理沙に聞かれてしまったようだ。
聞かれても問題ないけれど。
魔理沙の注いでくれたお茶を受け取りながら答える。
「うん、暖炉も捨てがたいけど、こういうのもいいわね。背中が寒いのだけはちょっといただけないけど」
「ああ、んじゃこれ使え」
そう言うと魔理沙は、部屋の隅に無造作に落ちていた半纏を拾ってこっちに放り投げた。
おっと。
湯のみの口を庇いながら、私はそれを受け止めた。
「ありがと。気が利くのね」
「まぁな」
投げてくるのはいただけないけど、それは言わないでおこう。
そんな事で喧嘩にでもなったらたまらないからね。
大雪の中に追い出されたくもないし。
「で、だ。今日呼んだのは他でもない、アリスにコタツの良さを教えるためだぜ」
「…なによそれ?」
「それでだ、こんなのを作ってみたぜ!」
魔理沙は炬燵の向かい側から勢い良く身を乗り出して、私の額に何かを張ってきた。
「なによこれは」
私はそれを剥がして眺めた。
ピンク色の可愛らしい付箋には『コタツ検定・初級』とだけ書いてあった。
わけがわからない。
「あ!おい、付けてろって」
魔理沙は私の手からそれを奪い取るとぺいっとまた額に張ってきた。
「炬燵を愛するものに送る称号だぜ。初心者のアリスには初級の称号をあげるぜ」
「はぁ、どうも」
「なんかキョンシーみたいだぜ」
張った本人が言うな。
やっぱり取ってしまおう。
私は付箋を剥がすと上海に渡し、コタツの上の新聞紙で作ってあるくずかごに捨てさせた。
「おい、とるなよぅ」
ぷく~と魔理沙は頬を膨らませる。
私はそれを上海に突かせた。
ぷしゅ~と空気が漏れる音がした。
「うへぇ~止めろよぅ」
くすぐったかったらしい。
魔理沙は変な声を上げて悶える。
どうも今日のこいつはテンションがおかしい。
どこかそわそわしているような気がする。
それに、コタツのよさを教えるというのが今日呼ばれた理由らしいが、それが本命とは思えない。
「あなた、何か企んでない?」
「まさか」
そう答えた彼女の笑顔には、大きく悪だくみと書いてある気がした。
「そうだ、面白い本が手に入ったんだが、読んでみるか?」
魔理沙が本を差し出す。
話を切り替えようとしてるのは見え見えだが、問い詰めても意味は無いだろう。
私は大人しくその本を受け取ることした。
パチュリーの図書館で同じものを見た気がするのは、多分気のせいでは無いだろう。
ぐるるる~
なにやらすごい音がしたのでページをめくる手を止めて魔理沙を見る。
彼女は私の視線に気づくと、左手でお腹を押さえ右手で頭をかき照れくさそうに笑った。
「あ、悪い。いやな、朝から何も食べて無いんだ」
「何?断食中なの?」
「そういうんじゃなくてだな・・・」
「人間ドックでもあるの?人間ってのは本当に面倒ね」
「いや、サラリーマンじゃないんだから。だからそういうんじゃないってば…」
今は3時前、つまり魔理沙は朝食と昼食を抜いていることになる。
落ち着きが無かった理由はこれか。
目の前にはお盆の上に山積みにされた蜜柑がある。
それを一つ手にとって魔理沙にすすめてみたが、彼女は軽く右手を振って断った。
「いや、蜜柑も魅力的だけどさ・・・」
「なんなのよ?」
「なんというか・・・そうだなぁ」
う~ん、と魔理沙は腕を組んで唸る。
「アリスはさぁ、コタツの中で食べると一番美味いものってなんだかわかるか?」
即答する。
「知らないわ」
「いや少しは考えてくれよぅ…」
魔理沙は唇を尖らせてそう言ったが、見当もつかないものは答えようもない。
コタツの上には蜜柑があった。
「蜜柑かしら?」
「コタツに蜜柑、それもアリだな。中級に認定してやるぜ」
ぺたっとまた額に付箋を張られた。
今度は多分「コタツ検定・中級」とでも書かれているんだろう。
剥がすのはもう、どうでもいい。
「だけど、まぁ、70点ってところだな。上級はまだやれないぜ」
腕を組んで得意げに魔理沙は採点をする。
別に欲しくないのだけど。
「じゃあ100点はなんなの?」
一応尋ねてやる。
「よく聞いてくれたな。ふふっ、それはだな・・・」
別に聞かなくてもいいんだけどね、あなたがいかにも言いたそうな顔してたから。
こちらの気遣いなどつゆ知らず、魔理沙はある食べ物の名前を言う。
「アイスだぜ」
「…アイス?」
冬に最も相応しくない名前を聞き、顔をしかめる。
その反応が面白かったのだろう、魔理沙は気持ちよさそうに続けた。
「ふっふっふ、驚いたか?アリス」
「驚いたも何も。だって冬よ?大雪なのよ?それなのに・・・」
アイスを食べるなんて馬鹿げている、と反論しようとしたところ、突き出された魔理沙の右手がそれを遮る。
「お前の気持ちは良くわかる。そんなもの冬に食うもんじゃない、そう言いたいんだろ?だけどそうじゃないんだな、これが」
「いやでも嘘でしょ?」
「だから嘘じゃないんだってば」
むすっとまた魔理沙は脹れる。
「実際に食べないとわからないのかもね」
「そういうと思ったぜ」
もう機嫌は直ったらしく、魔理沙はここからが本題だと言いたげな顔をした。
「だからな、今日はアイスを用意してるんだ」
外は雪が積もっているし、気温も恐らく氷点下だろう。
雪の中に入れて放置しておけばアイスクリームくらい簡単に作れるだろう。
そういう意味では冬にアイスは合ってるのかもしれない。
「へぇ、楽しみね」
「だろ?でもまぁ焦るな。おやつは3時だぜ。まだ時間がある。ゆっくり待つとしようじゃないか」
時計を見るとおよそ2時半を指していた。
「そうね…もしかしてあなた、そのためにご飯抜いてたの?」
「おう!極限までお腹を空かせたほうが美味いにきまってるからな」
「呆れた」
「なんだよー」
元気良く答えたかと思ったらまた膨れた。
コロコロとよく表情がかわる。
見ていて飽きない子だ。
「たかだかお菓子でしょ?そこまでしなくてもいいんじゃない?」
「むぅ、美味い物を食べるんだぜ?空腹じゃなきゃ料理に失礼じゃないか!」
魔理沙がコタツを叩いた。
ぺちん、と迫力のない音がした。
「そういうものなのかしら?」
「そういうもんだぜ」
「ミカンでも食べない?」
「…むぅ、アリスは意地悪だぜ」
コタツの中は相変わらず暖かかった。
そのせいか、心地よい眠気が襲ってきた。
「ねえ魔理沙」
「なんだ?」
「コタツについて一つわかったことがあるの」
「うん?」
「入ってると眠くなる。3時になったら起こしてちょうだい」
「おう、まかせとけ」
横になると寒そうだったのでコタツの天板に突っ伏して目を閉じた。
好都合だぜ。
魔理沙がそう呟いたのは私の耳には届かなかった。
「…ふぁ?」
目が覚めると魔理沙の顔があった。
「あぁ、起きちゃったか。グッドタイミングだぜ」
段々と意識がはっきりしてくると口の中の違和感に気づいた。
「にがっ!」
薬のような変な苦味が口の中を支配していた。
「あぁ、やっぱり苦いか。まぁ、お茶でも飲めよ」
こいつに言いたいことは色々あるけど、まずは口を清めるのが先だ。
緑茶の渋みが全然感じられなかった。
それくらい酷いものを飲まされたのだろう。
お茶で一息ついて魔理沙を睨む。
「あんた一体何したのよ?」
「何って、これからアリスにコタツ検定上級を伝授するんだぜ」
「何のことよ?」
「まだ寝ぼけてるのか?アイスだろ?」
全く話が繋がらない。
アイスとはアイスクリーム、もしくは氷菓のことだろう。
どちらにしても甘いものだ、苦いわけが無い。
「つまり、失敗したわけね?アイス」
「何言ってんだ?成功だぜ。いや、正しくはこれから実験して判断するんだけどな」
「なんなの?あんたんちでは苦いアイスを楽しむわけ?」
魔理沙は眉を寄せ、何言ってんだおまえという表情をする。
「んなわけ無いだろ?今飲ませたのはアイスの素さ」
「素…?10倍濃縮バニラエッセンスとか?」
そのくらい苦かった。
そんなもの飲んだとき無いから想像だけど。。
「いや、違うって。この薬は『アリスアイス』って言うんだ。アリスをアイスにする魔法のお薬だぜ」
そう説明する魔理沙の手には小さな瓶が握られていて、中には茶色い液体が半分ほど入っていた
体を氷にでもする薬だろうか?これといった変化は特に無い気がするけど。
氷………?
一匹の寒い奴が頭に浮かんだ。
「つまり…私は馬鹿妖精になると?」
「いや、チルノ関係ないから。お前ってたまに天然だよな」
失礼な、誰が天然よ。
魔理沙は呆れたという代わりに大きなため息を一つつき説明を続けた。
「いいか、この薬は飲んだ奴をアイスに変えるんだ。といっても融けたりするわけじゃない、体には何の影響も出ない。
だけど舐めるとアイスの味がするようになるんだ」
なるほど、わからない。
「アイス味って何よ?」
普通はバニラ味とかストロベリー味とか言うんじゃないのだろうか。
「それは食べてからのお楽しみだ。これがこの薬の面白いところだぜ」
ためしに自分の指を舐めてみた。
さっき食べた蜜柑の味もするが、指を舐めてるな、という感じの味で、別にアイスではない。
代わりにコタツの毛が舌に絡んできた。
「別に変わってないわよ?失敗したんじゃない?」
口の中に指を入れ異物を探す。
でもやっぱり指の味しかしない。
指の味っていうのも変だけど。
「飲んだ本人にはわからないんだぜ」
ニヤリと魔理沙は笑った。
「ちなみにアリスが甘くなるほど甘くなるんだぜ」
「日本語になってないわよ」
「そのまんまの意味だぜ。まぁそのうちわかるだろ」
そういうと私の腕をぺろりと舐めた。
しかしどうやらイメージしてた味と違ったらしく魔理沙は額にしわを寄せる。
「アリスぅ、ちゃんと甘くなってくれよ。これじゃモナカアイスの皮のほうが甘いぜ」
「いや、甘くなれとかわかんないから。生まれて初めて頼まれたからそんなこと」
具体的にはどうすればいいのだろう。
「ほら、なんていうか、ときめき?胸キュン?的な?」
胸キュンとはまた古い。
本人も効果を説明できないらしい、頭の上に疑問符が浮いている。
「それよりも変なとこ舐めないでよ?」
「い、言われなくても舐めないぜ!」
顔を真っ赤にして噛み付くように反論してきた。
そういえばこの子、変なところでウブだったわね。
どうも魔理沙が望んだ結果と違うらしく、不満顔で舐め続ける。
「あんまり甘くないぜ。やっぱり五倍希釈だったのが良くなかったのか?」
こいつは元々あの五倍苦いのを飲ませるつもりだったのか。
「そう思うならなんで薄めたのよ?」
そう聞くと、魔理沙は頬をかきながら照れくさそうに言う。
「いや、だってホラ…効果もイマイチわからんのにアリスに変なもん飲ますわけにいかないんだろ。それにめちゃくちゃ苦いし」
なら飲ませないでよ、とかいろいろ突っ込む所は多かった。
なのに、気遣ってくれたのね、とか思いながら顔を赤くした私は…ただの馬鹿なんだろう。
「お!?今めちゃくちゃ甘くなったぜ。その調子だぜアリス」
嬉しそうに魔理沙は告げる。
「なっ!?」
私はそんな彼女から顔をそむけた。
「照れるなって。いや、もっと照れろ。そうすれば甘くなる」
「照れてなんて無いわよ!」
「いや照れてるな。これは嘘を付いてる味だぜ」
ぺろっと私の腕をひと舐めし、意地悪そうに魔理沙が笑う。
「どんな味よ………?」
「わざとらしいメロン味だぜ」
もう一度指を舐めてみる。
相変わらず少ししょっぱいだけだ。
「やっぱりわからないわ」
「だから飲んだ本人には効果が出ないんだってば」
「本当は適当に嘘付いてるんじゃないの?」
「そんな事無いぜ、ちなみに今はヨーグルト味だな、すきっ腹にしみるぜ」
「知らないわよ!そんなん」
もういい、無視して本の続きを読もう。
それからどれくらいたっただろうか。
時計を見ると実際十分も経ってなかったがとても長く感じた。
飽きもせず腕をちろちろ舐め続ける魔理沙。
本の続きを読んでみたものの魔理沙に食べられているほうの腕は使えないわけで、代わりに上海に本をめくってもらっている。
だけどどうもこの状況では集中して読めない。
読書を諦めて魔理沙を見る。
まるでミルクを味わう仔犬のようで、なんというか微笑ましい表情だ。
「くすっ」
「なっ、なんだよ…」
思わずふき出してしまうと魔理沙は唇を尖らせる。
「なんとも幸せそうだなと思ってね。なんだかおっぱい飲んでる赤ちゃんみたいで。ふふふふ」
「うっせ、笑うな」
「ごめんなさい、言ったらそうにしか見えなくなっちゃった、あはははは」
目の前にある彼女のくせっ毛の金髪を撫でる。
柔らかな感触が、指の間を流れるのが心地よい。
「む~~~」
顔を紅潮させて魔理沙がうなるがそれでも彼女は舐め続けている。
ふてくされてやめると思っていたがそうではないようだ。
やめられないほど美味しいのかもしれない、なんて思うのは自画自賛に入るのだろうか?
「さっきより甘くなってるな…なんていうか優しい味がする」
「そうなの?」
「ああ、最初はなんていうか、カキ氷のシロップみたいな作り物っぽい味だったけどな」
「うん…」
「だけどさ、段々そういうのが抜けてきて…なんて言うかな?あぁこれがホントのアリスの味なんだなって…」
「…本当の私の味ってなによ?」
「アリスはシャイだからな。味まで恥ずかしがり屋でなかなか表に出てこなかったぜ」
「…むぅ」
けらけらと魔理沙が笑う。
「でもまだ美味くなるはずだぜ、だからもっとがんばってくれ」
「…違うでしょ?魔理沙」
「え?」
「頑張るのはあなたよ」
「な、何をだよ」
「いい?あの変な薬を作ったのはあなた。なら今の私はあなたが作ったデザートでしょ?」
「う、うん」
魔理沙は顔を真っ赤にしてうなづいた。
考えてみれば今の表現はかなり恥ずかしいものだった気がする。
だけどいまさら取り消せないし、ペースはこちらのものなのでそのまま続ける。
「お菓子っていうのはね、砂糖を加えないと甘くならないのよ」
「そんな事知ってるってば」
「だからねパティシエさん」
魔理沙を見つめる。
彼女も目を泳がせながらだけど見つめ返してくれた。
「だからあなたが私を甘くしてちょうだい」
「甘くするって…どうするんだよ………」
「魔理沙が思った通りにしてくれればいいのよ」
「うぅぅ………」
魔理沙は耳まで真っ赤になって、ちょっとだけ涙目だった。
悶えたりこっちをちらっと見たり髪をかきむしったりしたが、やがて観念したように大きく一呼吸して―――
「アリス!」
抱きしめられた。
「…好き」
「…うん」
「だ、大好き」
「…私もよ」
私の胸に顔を押し付けているので魔理沙の顔は見えない。
そのために抱きついたのかも知れない、なんて冷静な思考はできなかった。
「ほ、ほら、次はアリスの番だぜ」
「え?」
「私だけに恥ずかしい思いさせる気かよ?」
「い、いや、私もよって…」
「あんなのノーカンだぜ!はっきり言ってくれ」
今度はこっちが真っ赤になる番みたいだ。
魔理沙は顔を上げ、こちらを見つめながらがっちりと抱きついている。
逃げ場はない。
「わ、私も大好きよ」
「うんうん」
言った。
確かに伝えた。
だけど魔理沙は次の言葉を期待しているらしく目をキラキラさせている。
でも頭は全然回らなくて、口はしびれたように動かなくて、そんな余力は無かった。
「あ、あのね」
恥ずかしさに耐え切れなくなって、魔理沙の胸によりかかる。
ちょうどさっきと逆のかたちになった。
「もう勘弁してください」
「よく頑張ったな。よしよし」
小さい子をあやすように魔理沙は私の頭をなでた。
さっきとは何もかも逆だ。
やっとペースを握れたと思ったのに…
「じゃあ代わりに態度で示してもらうぜ」
そう言ってまた私の腕に口を付けた。
そしてそのまま何も言わず味わっている。
「………ねぇ魔理沙。今の私どんな味?」
「上品なバニラみたいな味…さっぱりしてるのに深みがあって、優しくて………これがホントのアリスなんだろうな。どんな料理人でも再現できないな」
「そう…ありがとう」
「どういたしまして、ってのも何か変だな」
「そうね、そうかもしれない」
どちらからともなく笑いが漏れた。
そしてまた魔理沙は私の腕を舐め始めた。
とても幸せそうに舐め続けている。
そんな彼女を見ているとなぜか心が落ち着く気がした。
ぐるるるるるるるるるるるる
アイス―――というか私だけど―――を味わう前より大きな音が魔理沙のお腹から鳴っている。
「成功だけど失敗だな、この薬は…」
薬の効果はとっくに切れていて、もうアイスの味はしないらしい。
「味は変わっても舐めてるだけだからな。腹は膨れないとは、盲点だった」
味覚は満足するけれど、食べているわけじゃないから余計にお腹がすくらしい。
「嘘発見器としては大成功だったみたいだけどね」
「そんなののために作ったんじゃないぜ…」
魔理沙はむくれたが、すぐに笑顔に変わった。
「だけどホントのアリスが味わえたからな。満足だぜ」
「はいはい、お粗末様でした」
「しかし食えば食うほど満たされないとはな…アリスは罪深いぜ」
「…全然上手いこと言えてないわよそれ」
先ほどまで魔理沙に食べられていた腕を見る。
ずっと吸い付かれていたせいですこし赤くなっていて、なんだかキスマークみたいで照れくさかった。
「だから照れなくていいぜ。あ~お腹すいて死にそうだぜ。アリスぅ、なんか作ってくれ~」
「じゃあお鍋なんてどうかしら?」
「お、いいな。コタツで鍋は最高だな」
よほどお腹がすいているのだろう、変な笑顔でよだれを垂らしているその姿は危ない人だった。
「ならキムチ鍋にしてくれ」
「嫌よ。辛いのは苦手なの」
「えー、ビールにはキムチ鍋だぜ。これだけは譲れない」
そういえば魔理沙はビール党だった。
私はワイン派。
苦いものも苦手なのだ。
「しょうがないわね。そのかわりあんまり辛くしないわよ。後、私はワイン飲むからね」
「おう、だけど一杯目は付き合ってもらうぜ」
「はいはい」
きっと一杯だけでは済まされないだろう。
魔理沙のお腹が今までより大きい音を立てた。
もう限界みたいだ。
「だけど鍋は時間がかかりそうだな。ミカンでも食べて待ってよう」
「あらダメよ」
魔理沙の手が届くより先に、上海がミカンの篭を奪い取る。
「なんだよー!」
「『極限までお腹を空かせたほうが美味いにきまってる。空腹じゃなきゃ料理に失礼』でしょ?おとなしく待ってなさい」
「むぅ、しょうがないぜ」
そして上海を連れて台所へ向かう。
辛いものは好きじゃない。
だけどビールは丁度いいかもしれない。
「いただきまーす!」
コタツの上にはぐつぐつに煮えた鍋。
キムチの臭いが食欲を誘う。
「うめぇぇぇぇ!あ、わりぃ。乾杯忘れてた」
鍋にがっついて、ジョッキに手を伸ばしたところで魔理沙はそう言ってこちらに向けた。
私もコップを手に取る。
「かんぱ~い!」
カツンと小気味良い音が響く。
「ぷは~!やっぱこれだぜ!!」
一気に半分ほど飲み干し、泡のひげをぬぐいながら魔理沙は満足そうに息を吐いた。
「でもなんか変に苦い気がするな」
「ビールなんてどれも苦いわよ」
「そうなんだけどさ。まぁいいか、苦くなきゃビールじゃないしな」
そしてまたビール片手に鍋をつつく。
「あ、そうだ。さっきの薬さ、見かけなかったか?まだ残ってたはずなんだけどな」
「ごめんなさい、知らないわ。それより飲んで飲んで」
「お、どうもー。んじゃアリスにも」
苦手なのは知っているはずなのに、構わず私の空いたコップにビールを注ぎ足してきた。
「あのね、デザートも準備してあるのよ?」
「おぉ!それは楽しみだぜ。んじゃ腹八分目くらいで余裕を残しておかないとな」
「甘いものは別腹っていうから大丈夫じゃない?」
「それもそうだな」
「それに今日のはお腹に溜まるものじゃないし」
「ほう、何作ったんだ?」
「それは見てのお楽しみよ」
私は悪戯っぽく言って魔理沙のジョッキにビールを注いだ。
一本目のビール瓶が空になった。
「あなたたち、新しいの持ってきてちょうだい」
私は空の瓶を人形達に持たせて台所に飛ばした。
台所では数体の人形達が働いていた。
彼女達は主の命令通り、空の瓶をテーブルに置くと小さな体で器用にカンヌキを操っていた。
かぽっ
新しい瓶を開けると、彼女達は別の小さな瓶の中身を移し、炭酸が抜けないよう静かに菜箸でかき混ぜた。
それが済むと、皆で満タンのビール瓶を抱え、コタツで待っている主の所へ慎重に飛んで行った。
残されたのは大きな空の茶色い瓶。
そしてその隣に並んだ、茶色い液体が入っていた小さな空の瓶。
いろんな意味で甘い!
そんな印象を受けました。
阿求 あずき○ー
レミリア ハー○ンダッツの蓋
見てるこっちが恥ずかしくなるなこれはwこたつにアイスは最高だZE
尊敬します。
俺もアリスなめたい