作品集60『性的な意味じゃなく』を既読推奨。
読んでいない人への簡単あらすじ。
「霊夢がなんとなくアリスをちゅーで食べたら紅茶味でした」
この作品はキス成分でできています。一部キャラ崩壊、若干パロディありです。気をつけてください。
霊夢は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のアリスを除かなければならぬと決意した。
アリス味があまりにも美味だったものだから、霊夢はあの後何度も足を運んだ。
しかし、あの一件で泣きを見たアリスは着々と霊夢撃退用の人形部隊を製作。
本気を出さないというスタイルはどこにいったのか、コスト5スペルも真っ青の連携と攻撃力である。
加えてアリスが知人たちに頼み込んだ結果、霊夢がアリス亭内に侵入しないような特別な空間が作られた。
まあつまり、霊夢はアリスに振られて、今は完璧な逆切れの最中なのだ。
「許さん、許さんぞぉお! 絶対にアリス味を口いっぱいに堪能してやるんだから!!」
「騒ぐな変態巫女! 神社に帰れ!」
「私のどこが変態なのよ! いいじゃない減るもんじゃないし、唾液的な意味で」
「私の心の残機が減ってるの! いい加減にしないとボムるわよ!!」
珍しくずたぼろな、体が地面と抱擁を交わしている癖に口は変わらずの霊夢。
窓を開けて端正な顔を般若のようにしながら柄にもない大声を出すアリス。
正直端から見れば痴話喧嘩に見えなくもない、などと言う者がいれば、アリスの人形に追っかけ回されるハメになる。
そのため魔理沙はお気に入りのエプロンドレスを裂かれてぐずぐずと鼻をすすっていた。
もちろん我に返ったアリスが優しく裁縫をこなし、フリルが増量された。
「もういいわよ! アリス以上の極味を見つけてやるんだから! 引きこもりの人形遣いなんてぺっ、よ!」
「ひきっ……魔法使いは大体インドアなの! 魔理沙が例外なんだから! それよりそうしてくれるならありがたいことこの上ないわ、しっしっ」
「くぅう!」
押しても駄目なら引いてみろ。誰だそんなこといったやつ。
霊夢は心の中でぺっ、とアリスに唾液を撒き、即座にその場から飛び上がった。
アリスはその後ろ姿をしばらく眺めてから、溜息をつく。
「ああ、静かになっ『幻想郷グル巡り始まるよー! ヒャッハー!』……だめやな予感する」
できれば聞こえない振りをしたかったが、あの様子だと放っておいたら自分に責任が回ってきそうだ。
その場の勢いで追い払ってしまった自分を嘆きたい、あのままオトしとけばよかった。
そう悔やみながら、アリスは留守番を人形に任せて、馬鹿巫女の後を追う。
途中で見失ったが。
***
「というわけなのよ」
「はあ」
月の頭脳は頭痛に悩まされているような表情をしていた。
「確かに先ほど、霊夢に依頼されていた薬をあげたわ。よくわかったわね」
「人形と戦ってる最中に『薬、薬さえあれば……!』とか言ってたから。最初ジャンキーかと思って納得しちゃった」
「彼女にそんな余裕ないと思うけど」
くすくす。
少女達の優雅な会話が場の雰囲気を和やかにする。
誰が何と言おうと少女である。まごうことなく。
「で、どんな薬なのかしら」
「唾液をその人特有の味に感じられる薬」
「あんた馬鹿じゃないの」
「霊夢が頼んだ通りに作っただけよ。対価も貰ったし」
まさに才能の無駄遣い。月まで届け、永琳。
「どうりで鈴仙がそこで頭を抱えているわけか」
「ウサギ味だそうで。しかも鍋」
アリスは盛大に溜息を吐いた。どうやら頭痛もしてきたようだ。
頭痛少女が二人。一人は立ち上がり、一人は口を開く。
「彼女、幻想郷の知り合い全てを味見するって言ってたわ。その暴走を止めることができるのは……」
「なに」
「彼女の運命の味の持ち主」
真剣な顔の永琳。
シリアスっぽいのにさりげなく紛れている嫌な名詞。
だがアリスは空気を読んだ。
どこかで雷が聞こえたような気がした。
「それが、見つからなかったら」
「霊夢の渇きはやまないでしょうね」
本当に、あの巫女は。
どこまで人の残機を削れば気が済むのか。
これが妖怪退治だというのなら妖怪をやめてやる。
「まあ、もう一つ方法がないこともないけど。とにかく此処に連れてくればいいだけだしね」
「教えて。対価は霊夢んちから何か取ってくるから」
「あら、これをするにはあなたもだいぶ苦労すると思うけど?」
そういって、永琳は楽しそうに笑った。
永琳との話を終えると長い廊下を飛び、抜けては竹林の上空へ。
ここは広くて狭い幻想郷。
異変は仕手に相手が揃えば成り立つと同時に目立つから、大体わかるようになっている。
今回のこれを異変と呼ぶには多分未遂で、あまりにも馬鹿らしく、何よりも異質過ぎるが。
風の吹く方で弾幕の光が見えた。
その場所は、紅魔館。
実力者ばかりだし、きっと適応者がいなくたって霊夢を止めてくれる。
もしかしたら繊細そうな住人のことだし、止めてくれるどころか叩きのめしてくれてたりして。
アリスは、そう思っていた。
だから、自分は行かなくてもいいんじゃないか。
その油断は、紅魔館に思いもよらない状況を生んでいた。
***
「美鈴は肉とたまねぎ……あとなんか小麦粉っぽいの。咲夜は食べ物じゃなく苦い。でも高級そう。パチュリーも苦かったなあ、ちょっとコクがあったけど。レミリアはとろけるカラメルとまろやかな口当たり……、プリンだったわよね」
紅魔館、大広間。
霊夢は死屍累々の中央に君臨してメモを取っていた。
咲夜は膝を抱えているし、レミリアは「霊夢ったらベーゼが情熱的すぎるわ……」と熱をあげている。
ちょうどそこにいたパチュリーは「多分私のは珈琲よ、ミルクと砂糖入り」と冷静にメモについて助言を加えていた。
ちなみに門前の美鈴は何事だったんだろうとしきりに首を傾げている。
「プリンは美味しかったけどあのアリスのまるで千年樹の露のような紅茶には及ばないわね。そんな露飲んだことないけど。……さて、次行きましょうか」
「えっ、やだレミリア霊夢のお嫁さんになる!」
キスは時にカリスマすら溶かす。レミリアは今や恋する乙女であった。
そんなレミリアを見て親友は黙っていない。パチュリーは本を閉じると、真剣な顔で、レミリアを見た。
「プリンじゃ無理よ、レミィ。せめてパフェに出世しなきゃ」
「!!」
レミリアの背景に稲妻が走る。
「パチェ、私は何をすればいいの? あとパフェとパチェって似てるわね!」
「焦らない。私がじっくり教えてあげるから」
親友の優しさに、レミリアは涙する。
この恩は必ず返す、そう決意したレミリアとパチュリーの過酷な訓練が、今幕を開けた。
「まずはしゃがみガードで羽をぴこぴこして、うー」
「う、うー!」
「声が小さいッ! そして口でカリスマを語る前に返事の前と後にうーを付けなさいィッ!!」
「うー! はいっ、うー!」
霊夢はというと『パフェに出世しなきゃ』あたりにもう飛び立っていた。
アリスが門前に到着したのは、そこまでの過程が終了して数分後。
何故だか色あせて見えるほど雰囲気を落とした紅魔館がそこにあったのを見て、アリスは何か抗えぬものを感じた。
事態は急を要する。そう理解して、美鈴に霊夢の飛んでいった方向を聞き、再び後を追う。
そのため、咲夜の異常も、パチュリーの変異も、レミリアのカリスマがブレイクしたのも知らずに済んだ。
「れいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむ」
「いいわよレミィ! そのままくるっと一回転! むっきゅん!」
「うー!」
知っていたら、暴走した霊夢の仕業におののいて、行くのをやめただろうから。
***
「チルノ、氷、いやカキ氷。シロップは、あの結局何の味だかよくわからないブルーハワイ!」
「霊夢、あたい今とっても溶けちゃいそうなくらい熱いよ……」
「ルーミア、味しないわね。何でかしら」
「そーなのかー」
「慧音、この懐かしいようで、とろける味わいは……ミルク!」
「う、うう、こんな歴史、なかったことにしてやるぅ……」
「阿求、墨。まずい」
「ひどいです……きゅう」
「文、……阿求とはちょっと違うインクね。鳥の味がすれば面白いのに」
「おおお乙女のチッスは高いんですよ!! うわあああん記事にしてやるんだからぁあああ」
その後も、霊夢による味見という名の凌辱は続いた。
特に里に着いてからは、顔見知りが多いため留まり、あらん限り乙女を頂きまくった。
そしてその騒ぎを聞き付けたやじ馬から知り合いをまた見つけ出し、食べるの繰り返しをしていた。
阿鼻叫喚。
乙女の敵、という言葉が似合う乙女はこれ以上にない。
「これ、フルーツ……?何の?」
「んむんむ、チーズね」
「う、しょっぱ!」
「ああ、お酒の味だわ」
「白玉団子」
「ペロッ……これは青酸カリ!」
地面に崩れ落ちおいおいと泣く者、平然としている者、顔を赤くしている者。
里とその周辺は一時騒然となり、巫女の偽物疑惑が持ち上がり始めた頃。
一人の魔法使いが、姿を現した。
「霊夢」
「……アリス」
追う過程で様々な惨状を見たのだろう、げんなりとしたアリスが、次の獲物を探す霊夢の前に立ちはだかり名前を呼ぶ。
その瞬間、霊夢の動きは止まった。
それはさながら、狂った者が恋人の一言で、一時の正気を取り戻すかのように。
すっと霊夢が振り返り、視線が交錯する。
二人はそのまま無言で、近寄った。
周りの観客は、おお、と歓声をあげる。小説のワンシーンを切り取ったかのようなそれに。
歩みが止まったのは、二人の距離が子供一人分くらいになった時。
アリスが、唇を動かす。
「霊夢、さっきは私が悪かったわ」
「何よ今更……! アリスなんてもう知らないわよ!」
さっと表情を無に整えて視線を投げてくるアリスの言葉を聞き、霊夢は叫ぶ。
「私のこと弄んでおいて、一回切りだなんて……私はただ、自分の欲求に従ってるだけなのに」
突っ込みどころしかない。
アリス、我慢よ。最初の台詞以外は間違ってないわ、何か間違ってるけど。
持ち前の冷静さが、何とかそれを抑えた。だから霊夢はアリスのこめかみに浮かんだ青筋に気がつかない。
「そうね、とにかく、もうやめにしましょ。私の家に来ない?」
「やだ。アリスがくれなきゃ帰らない」
この巫女蹴飛ばそうか。
そんな思考が過ぎる中、霊夢は短い距離を詰めてくる。
アリスは口元に手を当てた。
多分逃げても無駄なんだろう、と思い、覚悟を決めて。
それにしてもこれなんて羞恥プレイ。いや公開処刑。
いつの間にか大衆はかなりの人数になっていた。
泣き崩れていた奴までにやにやしている。ふざけんな代われ。
「アリス……あなたの本当の味は、何かしら?」
鼻と鼻がぶつかる距離。戸惑うことのない唇が、触れる。
里の大人は子供の目をそっと手で塞いだ。
けしからん。そう言いながらガン見している。
そして、アリスの口内を思う存分味わっている霊夢は思う。
「(すごい! 今までの味とはなにかが違う……!)」
霊夢のスピリチュアルな勘が告げていた。こいつはやべえ。
「(甘くてとろけそうで、私が今まで食べた何よりも素敵な味だわ、痺れるほどに意識が遠くな、る……?)」
そのまま、霊夢は崩れ落ちた。
「永琳印の捕獲薬よ」
もちろん人間用。先程、口に仕込んだのだ。
観客は、何が起こったかわからずにざわざわと慌てふためく。
霊夢を人形に持たせ、アリスは、鋭く言う。
「とにかく今見たことは忘れなさい、わかったわね」
そうして、これはただの解決の手段だと、思わせるようにしたつもりだった。
『(照れ隠しだ……)』
しかしまるで逆効果だったのは言うまでもない。
ああ、痴話喧嘩に巻き込まれただけか。
思考全員一致の妙な団結力を見せ、誰もが普段に戻っていく。
霊夢の処分をどうしようかで悩んでいたアリスにはその真意を読み取れず、さっさと飛び立ってしまった。
人里は今日も平和だった。
***
「はい、変な薬の効果消して」
ところかわって、再び永遠亭。
どさり、とござを置くように気絶した霊夢をアリスは投げる。
対して、不思議そうな永琳の顔が出迎えてくれた。
「見たところもう切れてるけど。運命の人、見つかったんじゃなかったの?」
「え?」
アリスはまだ意識を飛ばしただけのつもりだったので、予想外の返答にすっとんきょうな声を上げた。
それで全てを把握したらしい、永琳は人里の大衆と同じような笑みを浮かべた。
アリスも同時に理解する。今回の自分の位置付けが、何かを。
「…………ふふん、何だかんだいって、あなたもお人よしねえ、アリス? しかも運命の味って、運命の人だからこそ感じられるのよ」
でもそうたどり着くとは思っていなかった。
三秒程、停止。把握。
うん、聞かなかったことにしよう。アリスは現実から逃げた。
永琳は楽しそうに追い撃ちをかける。
「つまりあなたは、霊夢の運命の人なのよ!」
「あ、う、ぅ、あああ……!」
アリスは、ひどく赤面した。
***
とりあえず慧音のおかげでこの乙女心をえぐる凄惨な異変はなかったことになった。
だが全く要らない配慮により、霊夢とアリスはそのままにされた。
呪ってやる。神社の裏で。アリスは心に固く誓う。
「あーりーす」
「う、ううう、くっつかないで……」
そのせいもあって、あの巫女が、この通りべったりなのだ。
紫に「人間が異変なんて洒落にならないわ。あと何で私のとこにこなかったの」とお仕置きされた後、永琳が余計なことを吹き込んだのは間違いない。
「うふふ、私の運命の人が妖怪ってのもあれだけど、美味しいから許すわ。ほら、食べさせて?」
こてん、と首を傾げる霊夢。
そのかわいらしい仕種を虚ろな目に映しながら、アリスは、ぽつりと呟く。
「どうしてこうなった」
わーい!続きだー!!!!
もう、立派な霊アリだと思うのですが。
それはともかく次はキス以外でアリスの味を確かm(ry
レイアリはシリアスが似合うとよく言われますが、ほのぼのギャグだってこの通り!
実に甘い紅茶味なレイアリでした。
もうちょっとミルクティーぐらいの甘さがほしいぜw
霊夢壊れすぎだろうwまあ、アリスの味を知ってしまったら仕方がないことか。
「んむんむ、チーズね」⇒ナズーリン
「う、しょっぱ!」⇒船長(潮の味)
「ああ、お酒の味だわ」⇒鬼のどっちか
「白玉団子」⇒ゆゆorみょん
「ペロッ……これは青酸カリ!」⇒メディスン
でしょうか?
ご馳走さまで御座います。
青酸カリとしょっぱい味だけ分かりませんでした。
メディさんと水蜜船長への愛が足りない……っ!
あと青酸カリって体内に入れて大丈夫なんですね、流石は博麗。
おぜうさまは今日もかわいいな