Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

いろいろとない話

2010/04/07 00:39:20
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 ※甘いようなそんな感じ。





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 彼女は沈黙を守っていた。
 
 文字通り守るのだ。ここは彼女の部屋、戸を一枚隔てた廊下では彼女のペット達の話し声、歩く音、生活の響きがあったけれど、彼女はそのすべてを聞かずに、おしだまっている。
 瞬きひとつせず(それは目をつぶっているから)、折角入れた紅茶も飲まず、口を噤んで只管、壁にかけた暦に対面し、静かにしている。象牙色のソファは彼女の全身を受けて尚殆ど歪むことがないが、その事実と布地の柔らかさは矛盾しなかった、唯一彼女の軽さ故に。風が吹けば捲れてしまいそうな儚い防備、しかしそれなりに――正確には、四日と四時間ほどは、静けさを守りきっていた。

「今日は何日でしょうか」

 唐突に投げかけられた言葉に、唐突に沈黙は過去へと置き去りにされ、仕方なく彼女は守りを解いた。薄目を開き、その紫色がとらえたのは、暦を背にして笑っている女の子。彼女の妹だった。妹は名をこいしと言い、彼女はさとりと呼ばれていた。

「四月六日です」

「四月一日ですか」

「四月六日です」

 暦とさとりとの間には、彼女の足で五歩半ほどの距離があった。その間に収まった妹との距離は、五歩ほどだった。彼女の声は決して大きいほうではなく、こいしはそれが聞き取れなかったのかもしれなかった。だから、彼女は二度答えた。

「エイプリルフールだからって嘘つかなくていいのに」

「本当に四月六日です」

「またまた、わかってるんだから」

 歩を進めながらも、心の歩みよりは見られなかった。短いやり取りで、きっとこの妹は、自身の言うことなど聞きはしないだろうと、早々に察する。

「じゃあ四月一日です」

「やっぱり四月一日なんじゃない」

「嘘だとは思わないんですか?」

「本当のことに少し嘘を混ぜるから、世の中は複雑になるんじゃない」

「世の中の話をしていましたか」

「これからします」

「そうですか」

「嘘です」

「…………。ところで、何の用ですか」

「あらすげない」

「私は忙しいんです」

 卓上に投げ出されていた本を手にとって、煤けた羊皮紙を忙しなく撫でさする。しかし、開きはしなかった。読むためというよりも、手癖のため。そんな姉の様子を嬉しそうに眺めながら、こいしは一歩近づく。歩むほどに、こいしはさとりを見下ろし、しかしさとりは、こいしと目を合わせることもない。猫を抱くように、膝に本を置いて、ぷいとわざとらしく顔を背けた。

「何かしているようには見えないけど、心をなくしてそうにはみえるね」

「あなたに言われたくありません」

「あらせつない」

「そしてあなたこそ、日めくりをなくしたのでしょう。部屋の」

「なんでわかるの?」

「捨てましたから」

「あらはかない」

「四ヶ月使えば十分です」

 言いながら、落ち着きを取り戻す為の手癖が、より強い焦りを生みかねないことに気付いた。しかも、見ているはずのこいしがそのことに全く触れてこないことが、余計気恥ずかしさを煽る。仕方なく、本を元の場所に戻す。どことなく気まずい。けれど、こいしにはそんなさとりの所作など、まるで見えていないようだった。

「じゃあやっぱり四月一日?」

「五日は誤差の範囲内です。ゴなだけに」

「今の発言は忘れるね。エイプリルフールだもの」

「四月一日では決してありませんがそうしてくださると助かります」

 しかめ面を取り繕いながら、どうしても頬にさした赤みだけはごまかせないことを悟る。ニヤニヤと笑む妹から逃れるように、さとりは脚をたたみ、背もたれに向かって正座した。行儀が悪い事はわかっている。いつもは彼女こそ妹に指摘していた。でも、いいのだ。何がいいかなんてわからないけど。心の中で独りごちる、聴く者がいないから、彼女には独り言が許される。
 こいしは、またも一歩近づきながらも、しかしそれを追いかけるでもなく、僅かに強張っている姉の背中に向かって言った。

「お姉ちゃん好きよ?」

「どういう意味ですか。私は嫌いです」

「お姉ちゃんは素直だから、嘘をつく日には嘘しかつけないのね」

「何度も言うように今日は四月六日で私の言葉は全て真実です」

「はいはい、信じてます信じてます」

 そして、最後の一歩。扉側を向いて、背もたれにしがみついているさとりの隣に、ぽんと腰掛ける。袖が触れ合って、第三の瞳だけが向き合う。閉じた瞳を見つめる瞳、そっぽを向く顔と、それを楽しげに眺める顔。どうしたって互いに素直なままであることに、さとりも気付かないわけにはいかなかった。

「……私が本当のことを言っている、とあなたに認めてもらえても、それこそが本当かどうかがわからないのは、難点ね」
 
 観念したように、さとりは身体を横に向けた。脚を崩し、はぁと息をつく。意地を張るのに、無意識に呼吸を制限していたのかもしれない。苦しさからか、自身への呆れのためか、ようやく妹に向いてやった姉は、けれど些か苦味を含んだ笑いを浮かべていた。

「ねー?」

 しかし、そんなことは瑣末事である。待ち望んださとりの顔を覗き込むようにして、こいしは可愛らしさを装って、小首をかしげた。

「で、やっぱり四月一日なのよね」

「いいえ、本当の本当に、今日は四月一日じゃないですよ」

「そうなの?」

 壁にかかったままの暦を指差す。示す日付は、四月六日。はじめ、さとりが答えたそのままの月日だった。
 それじゃあもしかして本当に嘘でもないのだろうか、と悩み始めた妹に、姉は優しく、諭すように告げた。

「四月一日、あなたは帰ってこなかったから」

「そうだっけ」

「だから暦を捨てたんですよ。あなたが帰ってきた日を四月一日にしてやりたくて」

「あはは、さみしんぼ」

「おもいっきり、大嫌いって言ってやろうかと」

「嘘にしないと口にもできないの? かわいいひと」

 四日と四時間、ついぞ聞かれなかった穏やかな声が、二人きりの部屋にぽつり、ぽつりと落とされていく。
 そして、くすくすと笑いが交わされて、また沈黙が取り戻された頃、ふいにこいしがさとりの髪に指を通した。くすぐったそうに身をよじらせながら、さとりが問う。

「そういえば――こいしこそ、どうして今日が四月一日だと頑なに? 『無意識』以外の返答でお願いします」

「お姉ちゃんがね、嘘をついてそうな顔してたから」

「嘘ぐらいつくでしょう、いつだって」

「つかないよ、私には」

「そうだっけ」

「そうだよ。だからわかったのよ」

「ふーん……」

「あ、なんか企んでる」

 ぴん、と指にひっかかった髪の毛を引く。くいくい、痛くない程度の強さで、気を引くように、髪を引く。しかし姉は、そんな悪戯を気にもとめず、言葉を継いだ。

「さみしかったのよ」

「うそ」

「こいしかった」

「I'm a winner.」

「そういう意味じゃない」

「わかってるよ?」

「それに、どっちも嘘じゃない」

「嘘よ。お姉ちゃんはひとりが平気な人だもの」

 くす、と笑う妹の目の色に、幾許かの寂寥を見つけてしまった。そしてやっと、こいしはさとりの肌自体には、触れそうで触れない距離を保っているのだということにも気付く。
 小さな声を二度繰り返した時のように、何某かの伝える努力をしなければならない。少し考えて、言った。

「確かに平気と言っても嘘にはならないわ」

「でしょう?」

「でも、さみしいのだってこいしいのだって、嘘ではないわ」

「ふーん」

「あらすげない」

「がんばって嘘ついたもの」

「それ、嘘って言うのかしら……?」

「口に虚しいと書くじゃない」

「よくわからないけど」

「それじゃぁまあ、口の虚(うつろ)を埋めましょう」

 あっさりと、柔らかい髪の感触を手放して、肩に手をかけるこいしの指は、思った以上に熱かった。引き寄せて、そして近づいて、息がかかるほどの距離から見える碧い目には、もう喜色以外滲んではいない。
 出した許しに気付いてもらえたことに、内心で安堵しつつ、さとりは悪戯っぽく笑いながら、尋ねた。

「人より余計に舌があって、それで尚口寂しいの?」

「一枚しかないよ。嘘をつくのは今日だけだもん」

「本当かしら」

「確かめてみる?」

「またそんなオヤジみたいなことを」

「親父じゃなくて妹よ?」

「ああいえばこういう」

「そういうところも好きなのよね?」

「どういう発想なの」

 呆れた顔に、満面の笑みが近づいた。近い距離から、更に隔たりを縮めて、それは限りなく零に近づく。
 二人分の重みに、ソファが歪み、数秒の沈黙が訪れた。

「ん。伝わるかなー?」

「……もうしらない」

「あらあどない」

「あられもない、よ」

 少し離れて、にしし、と笑う妹の口を、憎らしそうに眺めるついで。
 睨んだつもりの己の目が、もしかしたら何かをねだっているように感じられてしまって、さとりは小さくため息をついた。
 もう知らない、もう知らない、心はざわめいて、全く静かじゃない。誰も聞かなくても、自身で聞いてしまう告白が、沈黙を遠く遠くに追いやってしまった。


 ああどうも、あられもない。
 おえないほどに、しかたがない。
お邪魔します。主にないのは、ヤマとかオチとかイミとかそのほか。
あと、一日ずれてますが、あまり気にしない。

お読みくださり、ありがとうございます。

 = = = = = = =
おへんじ。みなさま、どうもありがとうです。

>>1さま
ありがとー。

>>2さま
こいさと!

>>3さま
ことばあそび!

>>4さま
キマシタワー!

>>5さま
ベタ甘!
四箱
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
最高でした。
2.奇声を発する程度の能力削除
良いさとこいでした!!
3.名前が無い程度の能力削除
なんて、素敵な。
言葉の妙、と言うべきですね。堪能しました。
4.名前が無い程度の能力削除
きましたわぁ
5.名前が無い程度の能力削除
あっまーい!