この作品は「今日はやけに神様に会うわね。でもどうして家の神社の神様は出てこないのかしら。やっぱりあの時の夢想封印がやばかったのかな 」の続編になっています。
そちらから読んでいただけると幸いですが、読まなくてもなんとかなると思います。
「ほらほら雛~見て見て~」
「そんなに走ると転ぶわよ」
「大丈夫、だって私河童だからってうわわわわ」
「ほぉら、言った通りじゃない」
「あいったたた……膝すりむいちゃった」
「まったくもぅ仕方ないわね……ぺろ♪」
「ひゃぁ! 雛いきなり何するのさ!」
「之くらいの傷なら、舐めておけば治るわよ。ぺろぺろり」
「でも前に椛が、口の中は雑菌だらけだから舐めちゃだめっていってたよ?」
「だったらもっと舐めないとね。だって……病気になったら、ずっと看病してあげれるじゃない。うふふ……」
「ヤンデレ!? 雛がヤンデレた!!」
「デレてなんか無いわよ」
「それじゃ残りはヤンだけじゃないのさ」
「確かに私はヤンでるわ。恋という名の病だけど」
「雛……」
「なんちゃって♪ 今日はエイプリルフールよ」
「それは昨日だよ?」
「あら、そうだったかしら」
「嘘だったんだ……嘘、なんだ……」
「ふふ。にとり知ってる? エイプリルフールは昨日なのよ?」
「ふぇ?」
「今日のジュースは、とても甘いの。ん……」
「あ……厄いよ……ひなぁ……」
<- そろそろこの巫女服も買い替えモードね。胸周りが小さくなってきたし、胴回りも……いやそんなはずは無いわ、胴回りは正常のはず……早苗にダイエット方法教えてもらおうかしら。後学の為によ? ->
「う~体中が痛い」
私は唸っていた。
連日続く整体の練習で、全身が筋肉痛になっているのだ。
特に指先は気をつけていないと、すぐに攣りそうになる。
「美鈴の奴、気を操って自らの筋肉をこらせるとか、器用すぎるわ」
あれは筋肉のこりじゃなくて、マッサージすることで血流と一緒に固まった気を流すとかなんとか。
柔らかく張りのあった太ももが、ガチガチに硬くなるのは見てみてちょっと怖かった。
まぁそのおかげで内腿を揉んでも、変な気持ちにはならなかったけど。
「いやいや、変な気持ちってなによ」
まったく私は一人でなにをやっているのだろう。
体中が痛いのに、布団のなかで一人漫才か。
美鈴が使っていた枕を抱きしめて、傍から見たらまるで恋する乙女じゃないか。
女同士、そんな色恋なんて起こるはずもないじゃない。
「ん……美鈴に匂いがする……」
だめだめ、そんなこと口に出したらただの変態じゃないか。
ここ一週間ずっと美鈴の肌に触れていたから、感覚がおかしくなっているのだ。
そうに違いない。
少しだけ寂しいのだ。ずって手の中にあった温もりが無いから。
「寝よう。一日くらい掃除しなくたって神社が崩壊することはないし。地震とか起こらない限り」
※ぴこーん♪ フラグが立ちました。
「ん? 何今の? まぁいいわ。それじゃおやす……」
「霊夢さんいらっしゃいませんか!?」
「……み」
「可愛くて美人で気立てが良くて、腋がレモン味の霊夢さんいらっしゃいませんか!?」
だれかは知らないけれど、夢想封印してやろうかしら。
睡眠を妨害するだけでなく、随分と安い挑発してくれるじゃないの。
でも今は午前11時。良い子は昼寝の時間なのよ。
「お出かけ中なのかな……うーん困りました」
私も困ってる。
帰れ帰れ。整体師の霊夢さんは睡眠中だ。
「お土産に芋長の芋羊羹があるんですけど、いらっしゃらないなら仕方が無いです」
「あら早苗じゃない、そんなに慌ててどうしたのよ」
「霊夢さん! よかった居た!」
整体師の霊夢さんは睡眠中だけど、博麗 霊夢さんは起きています。
決して羊羹に釣られたわけじゃないんだからね!
「とりあえずお布団をお借りしますね」
「はぁ? いきなり何……って、あんたが背負ってるの神奈子じゃない」
早苗の背中には、苦しそうな顔の神奈子が居た。
寝巻きだろうか、可愛い蛇のマスコットがプリントされた服を着ている。
ズボンから上まで、一枚の生地で出来ている。
脱ぐとまるで蛇の脱皮みたいに見えるのかもしれない。
「部屋はこっちですね、おじゃまします」
「しょうがないわね……そっちは私の部屋。客間はこっちよ」
早苗を先導して客間へと行く。
神奈子へ衝撃を与えたくないのか、早苗は少し浮いて移動していた。
さて、客間にはちゃんと布団が用意されている。
ただ一つ問題があるのだけど。
「まぁそれならそれで蹴飛ばせばいいわよね」
「私蹴飛ばされちゃうんですか?」
「あんたじゃないわ。蹴飛ばすのは……こいつよ」
客間に入った私達を迎えたのは、お腹を丸出しにして寝ている紫だった。
妖怪の賢者とかいうこの少女、ことあるごとに私の家に泊まりに来るのだ。
私の家は旅館じゃないぞコラ。
という訳で、布団を占領している紫には退いてもらわないといけない。
「てか、人の寝巻きを勝手に着るんじゃない、この馬鹿妖怪!」
「げふぁ!!」
悪は去った。
「はい、此処に寝かせて」
「い、いいんですか? あの方痙攣してますよ?」
「急患が優先されるは当然でしょ」
「わ、私もいま急患になったわ……」
「あら紫居たの? 野良猫かと思ったわ」
早苗は起き上がった紫を見て、すぐに神奈子を布団へと寝かせた。
神奈子はうつ伏せになって、腰を抑えている。
どうやら腰がそうとう痛いらしい。
「この私から布団を奪ったこの連中は、何をしにきたのかしら?」
「信仰をお願いしに来たわけではなさそうね」
ニ三言、早苗は神奈子と言葉を交わすと、私のほうへやってきた。
そして私の手をとり、ぐっと顔を近づける。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳が、目の前にあった。
「霊夢さんお願いします! 神奈子様を助けてください!!」
「うん、分かったから永遠亭に行け」
何を隠そう、ずっと言いたかったのだ。
明らかに様子がおかしい神奈子を、私でどうしろというのだ。
私は生憎医者ではないし、奇跡を起こすことも出来ないのに。
「……その発想はありませんでした」
「二人とも顔が近いわよ」
「まぁ永琳も薬師であって、医者ではないけど」
「霊夢さんが以前、整体をやっておられたと聞いて急いできたのに……」
「だからそこの緑色。私の霊夢の手を離しなさい」
「一応聞くけど、発症したのは何時?」
「霊夢さんに弾幕で負けた後すぐです」
「無視? 無視なの? 最近の私の扱い酷くないかしら……」
なにか言ってる紫は放っておいて、神奈子の様子を見ることにした。
端っこで膝抱えて泣いてるけど、どうせ嘘無きでしょう。
「神奈子大丈夫……じゃなさそうね」
「恥ずかしいことだが、腰が折れそうなくらい痛くてね。手間を掛ける」
「いいわよ。あんな泣きそうな顔されたら放っておけないしね」
「そこで泣いている賢者はいいのかい?」
「紫だからいいのよ。ちょっと腰を触るわよ?」
「あぁ頼む……ぐっ!」
ちょっと背骨に触るだけで神奈子は悲鳴をあげた。
服越しだから分かりにくいが、どうやら炎症を起こしているようだ。
「う~ん……」
「霊夢さん、そんなに酷いのですか?」
しかめた顔をして唸ったせいか、早苗が心配そうに聞いてきた。
だからそんな泣きそうな顔をしないでほしい。
私は涙には弱いのだから。
「あんた、神奈子の腰触った?」
「あ、はい。腰が痛いから揉んでくれと仰られたので」
「やっぱりね。炎症がかなり悪化してるもの」
「えっと、あの……」
知らないうちに症状を悪化させたという事実に、おろおろと、迷子のように早苗は震えだした。
「私、私が神奈子様を?」
「早苗は悪くないさ。私が頼んだのだから」
「でも……」
早苗の瞳から、雫が流れた。
マッサージすればするほど、悪化していく症状にずっと恐怖していたのだろう。
混乱して、必死になって私の所へ来たに違いない。
「霊夢、私の腰はどうなってしまっているんだい?」
「炎症を起こしているわ」
「ということは?」
「お察しの通り、ぎっくり腰ね」
どうやら整体師の霊夢も、ぐっすり寝ているわけにはいかないみたいね。
「さって、幸いな事にぎっくり腰治療は一通りのレクチャーは受けているわ」
「じゃぁ神奈子様は治るのですか!?」
「でもね、致命的なまでに私には経験がないのよ」
針の準備をしている私の後ろを、早苗は必死に付いてくる。
少し落ち着いてほしいのだが……
私も昔、母親が病気のときに紫にわーきゃー言いながらくっ付いてたっけ。
ん? あのころから紫いたっけ? なんか記憶が曖昧だ。
おっと、今はそんなことよりも、こっちに集中しないと。
「早苗、あんた紅魔館って知ってる?」
「はい。前に信仰をお願いしに行ったら、血吸われかけましたし」
「そこに紅 美鈴って名前の女性がいるから呼んできて。大至急」
「え、えっと……みすずさんですか?」
「めいりんよ。め・い・り・ん。あんたが行ってる間に私は準備してるから」
「分かりました! すぐに行ってきます!!」
「ま、今日は門に立ってるでしょう、ってもう居ない」
とにかくこれで一安心だ。
美鈴なら気を操って痛みを緩和できるだろうし、何よりも横から針治療を見てもらえばいい。
「さて、美鈴が来るまでに準備を終わらせないと」
「その美鈴って人は医者かなにかかい?」
「門番よ」
「も、門番? あいちちち……」
驚いた拍子に腰が動いたのだろう。
枕に顔をうずめて、あうあう嘆いている。
「門番であり、私の師匠なのよ」
「う~……とにかく早いとこ頼むよ。早苗じゃないけど泣いてしまいそうだ」
「冷やしたら多少はマシになるけれど、服脱げる?」
「無理」
即答だった。
ならば切るしかないわねというと、うーうー言いながら拒否られた。
まったく、変な寝巻きなんだから。といいながら氷嚢を腰に当ててやる。
「ひゃぁ! ぴりぴり来るわ~」
「最初から冷やせばよかったのに。マッサージするからよ」
「まさか神様が、ぎっくり腰になるだなんて思わないじゃないか」
「年甲斐も無く、沢山弾幕を張るからこうなるのよ」
「年いうな~」
本当に神様なのかしら、と思う。
ここまで人間にフレンドリーな神も珍しいだろう。
……そんなこと無いのかな?
「よし、準備完了。後は待つだけね」
「霊夢、やばいわ」
「なに、氷が冷たすぎる?」
「冷えて、おし……こほん。お手洗いに行きたくなってきたわ」
何を言ってるんだこいつは。
服も脱げないのに、お手洗いとな。
「どれくらい持ちそうなのよ」
「……朝から行ってないから、今が臨界点って感じかしら」
「そうだ! あそこと下着の間に隙間空ければ……紫!」
「や」
あんたもそこで即答か。
壁で泣いていたと思ったら、いつの間にか着替えてお茶を飲んでるし。
「さっき思い出したのだけど、外界から無理やりこっちに来た誰かさんのせいで、結界の修繕が大変だったのよね」
「う……」
「さらのその誰かさんのせいで、霊夢に蹴り起こされたのよ?」
「その……すまない」
「べっつにーげんそーきょーはーすべてをうけいれますから~? もんだいはないんですのよー?」
こちらを一度も見ることなく、煎餅をガシガシ食べながら文句を言っている。
その頬が膨れているのは、煎餅が詰まってるからではなさそうだ。
私は仕方が無いと、ため息をついた。
布団を汚されるよりはましだ。
「紫、今日一緒の布団で寝ましょ?」
「ピク……でも霊夢は私の事嫌いなのよね? 蹴り飛ばすくらいに」
一瞬反応するも、まだ一押し足りないみたいだ。
でも耳は確りとこちらを向いている。
あれ、紫ってこんなに可愛かったっけ?
「蹴ったのは謝るわ。やりすぎた。でも紫だからあんなことしたのよ?」
「私……だから?」
少し紫から視線をそらし、一呼吸置いてから続けた。
「私の好きな紫なら、許してくれると信じてたから……」
「隙間を空けたわ。さぁ神奈子さん、いつでも出していいのよ。むしろ早く出しなさいさぁさぁさぁ!!」
計画通り。ニヤリ。
まぁ嘘はついてないし、結果よければ全て良しよね。
神奈子も紅くなってプルプル震えてるし、すぐ済むだろう。
あとは美鈴が来たら全てうまく行く……
ガタン
「霊夢さん」
「あ、美鈴来てくれたのね。さっそくで悪いんだけど、神奈子の腰の痛みを和らげ……」
「霊夢さんが好きなのは、やっぱり紫さんだったんですね」
「……え?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次 回 予 告
(BGM 檄!幻想華撃団2)
ずっと無表情で神奈子に針を刺す美鈴。
さらに邪魔だと行って、なんと霊夢を部屋から追い出した。
「なによ……美鈴なんて大っ嫌い!!」
「別に霊夢さんに好かれたくなんかありませんから」
すれ違う幻想乙女達の心。
そして深い悲しみの中にいる霊夢の前に現れたのは一人の現人神だった。
次回、整体師~霊夢~「交差」
幻想桜に浪漫の嵐。
「さようなら、美鈴」
そちらから読んでいただけると幸いですが、読まなくてもなんとかなると思います。
「ほらほら雛~見て見て~」
「そんなに走ると転ぶわよ」
「大丈夫、だって私河童だからってうわわわわ」
「ほぉら、言った通りじゃない」
「あいったたた……膝すりむいちゃった」
「まったくもぅ仕方ないわね……ぺろ♪」
「ひゃぁ! 雛いきなり何するのさ!」
「之くらいの傷なら、舐めておけば治るわよ。ぺろぺろり」
「でも前に椛が、口の中は雑菌だらけだから舐めちゃだめっていってたよ?」
「だったらもっと舐めないとね。だって……病気になったら、ずっと看病してあげれるじゃない。うふふ……」
「ヤンデレ!? 雛がヤンデレた!!」
「デレてなんか無いわよ」
「それじゃ残りはヤンだけじゃないのさ」
「確かに私はヤンでるわ。恋という名の病だけど」
「雛……」
「なんちゃって♪ 今日はエイプリルフールよ」
「それは昨日だよ?」
「あら、そうだったかしら」
「嘘だったんだ……嘘、なんだ……」
「ふふ。にとり知ってる? エイプリルフールは昨日なのよ?」
「ふぇ?」
「今日のジュースは、とても甘いの。ん……」
「あ……厄いよ……ひなぁ……」
<- そろそろこの巫女服も買い替えモードね。胸周りが小さくなってきたし、胴回りも……いやそんなはずは無いわ、胴回りは正常のはず……早苗にダイエット方法教えてもらおうかしら。後学の為によ? ->
「う~体中が痛い」
私は唸っていた。
連日続く整体の練習で、全身が筋肉痛になっているのだ。
特に指先は気をつけていないと、すぐに攣りそうになる。
「美鈴の奴、気を操って自らの筋肉をこらせるとか、器用すぎるわ」
あれは筋肉のこりじゃなくて、マッサージすることで血流と一緒に固まった気を流すとかなんとか。
柔らかく張りのあった太ももが、ガチガチに硬くなるのは見てみてちょっと怖かった。
まぁそのおかげで内腿を揉んでも、変な気持ちにはならなかったけど。
「いやいや、変な気持ちってなによ」
まったく私は一人でなにをやっているのだろう。
体中が痛いのに、布団のなかで一人漫才か。
美鈴が使っていた枕を抱きしめて、傍から見たらまるで恋する乙女じゃないか。
女同士、そんな色恋なんて起こるはずもないじゃない。
「ん……美鈴に匂いがする……」
だめだめ、そんなこと口に出したらただの変態じゃないか。
ここ一週間ずっと美鈴の肌に触れていたから、感覚がおかしくなっているのだ。
そうに違いない。
少しだけ寂しいのだ。ずって手の中にあった温もりが無いから。
「寝よう。一日くらい掃除しなくたって神社が崩壊することはないし。地震とか起こらない限り」
※ぴこーん♪ フラグが立ちました。
「ん? 何今の? まぁいいわ。それじゃおやす……」
「霊夢さんいらっしゃいませんか!?」
「……み」
「可愛くて美人で気立てが良くて、腋がレモン味の霊夢さんいらっしゃいませんか!?」
だれかは知らないけれど、夢想封印してやろうかしら。
睡眠を妨害するだけでなく、随分と安い挑発してくれるじゃないの。
でも今は午前11時。良い子は昼寝の時間なのよ。
「お出かけ中なのかな……うーん困りました」
私も困ってる。
帰れ帰れ。整体師の霊夢さんは睡眠中だ。
「お土産に芋長の芋羊羹があるんですけど、いらっしゃらないなら仕方が無いです」
「あら早苗じゃない、そんなに慌ててどうしたのよ」
「霊夢さん! よかった居た!」
整体師の霊夢さんは睡眠中だけど、博麗 霊夢さんは起きています。
決して羊羹に釣られたわけじゃないんだからね!
「とりあえずお布団をお借りしますね」
「はぁ? いきなり何……って、あんたが背負ってるの神奈子じゃない」
早苗の背中には、苦しそうな顔の神奈子が居た。
寝巻きだろうか、可愛い蛇のマスコットがプリントされた服を着ている。
ズボンから上まで、一枚の生地で出来ている。
脱ぐとまるで蛇の脱皮みたいに見えるのかもしれない。
「部屋はこっちですね、おじゃまします」
「しょうがないわね……そっちは私の部屋。客間はこっちよ」
早苗を先導して客間へと行く。
神奈子へ衝撃を与えたくないのか、早苗は少し浮いて移動していた。
さて、客間にはちゃんと布団が用意されている。
ただ一つ問題があるのだけど。
「まぁそれならそれで蹴飛ばせばいいわよね」
「私蹴飛ばされちゃうんですか?」
「あんたじゃないわ。蹴飛ばすのは……こいつよ」
客間に入った私達を迎えたのは、お腹を丸出しにして寝ている紫だった。
妖怪の賢者とかいうこの少女、ことあるごとに私の家に泊まりに来るのだ。
私の家は旅館じゃないぞコラ。
という訳で、布団を占領している紫には退いてもらわないといけない。
「てか、人の寝巻きを勝手に着るんじゃない、この馬鹿妖怪!」
「げふぁ!!」
悪は去った。
「はい、此処に寝かせて」
「い、いいんですか? あの方痙攣してますよ?」
「急患が優先されるは当然でしょ」
「わ、私もいま急患になったわ……」
「あら紫居たの? 野良猫かと思ったわ」
早苗は起き上がった紫を見て、すぐに神奈子を布団へと寝かせた。
神奈子はうつ伏せになって、腰を抑えている。
どうやら腰がそうとう痛いらしい。
「この私から布団を奪ったこの連中は、何をしにきたのかしら?」
「信仰をお願いしに来たわけではなさそうね」
ニ三言、早苗は神奈子と言葉を交わすと、私のほうへやってきた。
そして私の手をとり、ぐっと顔を近づける。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳が、目の前にあった。
「霊夢さんお願いします! 神奈子様を助けてください!!」
「うん、分かったから永遠亭に行け」
何を隠そう、ずっと言いたかったのだ。
明らかに様子がおかしい神奈子を、私でどうしろというのだ。
私は生憎医者ではないし、奇跡を起こすことも出来ないのに。
「……その発想はありませんでした」
「二人とも顔が近いわよ」
「まぁ永琳も薬師であって、医者ではないけど」
「霊夢さんが以前、整体をやっておられたと聞いて急いできたのに……」
「だからそこの緑色。私の霊夢の手を離しなさい」
「一応聞くけど、発症したのは何時?」
「霊夢さんに弾幕で負けた後すぐです」
「無視? 無視なの? 最近の私の扱い酷くないかしら……」
なにか言ってる紫は放っておいて、神奈子の様子を見ることにした。
端っこで膝抱えて泣いてるけど、どうせ嘘無きでしょう。
「神奈子大丈夫……じゃなさそうね」
「恥ずかしいことだが、腰が折れそうなくらい痛くてね。手間を掛ける」
「いいわよ。あんな泣きそうな顔されたら放っておけないしね」
「そこで泣いている賢者はいいのかい?」
「紫だからいいのよ。ちょっと腰を触るわよ?」
「あぁ頼む……ぐっ!」
ちょっと背骨に触るだけで神奈子は悲鳴をあげた。
服越しだから分かりにくいが、どうやら炎症を起こしているようだ。
「う~ん……」
「霊夢さん、そんなに酷いのですか?」
しかめた顔をして唸ったせいか、早苗が心配そうに聞いてきた。
だからそんな泣きそうな顔をしないでほしい。
私は涙には弱いのだから。
「あんた、神奈子の腰触った?」
「あ、はい。腰が痛いから揉んでくれと仰られたので」
「やっぱりね。炎症がかなり悪化してるもの」
「えっと、あの……」
知らないうちに症状を悪化させたという事実に、おろおろと、迷子のように早苗は震えだした。
「私、私が神奈子様を?」
「早苗は悪くないさ。私が頼んだのだから」
「でも……」
早苗の瞳から、雫が流れた。
マッサージすればするほど、悪化していく症状にずっと恐怖していたのだろう。
混乱して、必死になって私の所へ来たに違いない。
「霊夢、私の腰はどうなってしまっているんだい?」
「炎症を起こしているわ」
「ということは?」
「お察しの通り、ぎっくり腰ね」
どうやら整体師の霊夢も、ぐっすり寝ているわけにはいかないみたいね。
「さって、幸いな事にぎっくり腰治療は一通りのレクチャーは受けているわ」
「じゃぁ神奈子様は治るのですか!?」
「でもね、致命的なまでに私には経験がないのよ」
針の準備をしている私の後ろを、早苗は必死に付いてくる。
少し落ち着いてほしいのだが……
私も昔、母親が病気のときに紫にわーきゃー言いながらくっ付いてたっけ。
ん? あのころから紫いたっけ? なんか記憶が曖昧だ。
おっと、今はそんなことよりも、こっちに集中しないと。
「早苗、あんた紅魔館って知ってる?」
「はい。前に信仰をお願いしに行ったら、血吸われかけましたし」
「そこに紅 美鈴って名前の女性がいるから呼んできて。大至急」
「え、えっと……みすずさんですか?」
「めいりんよ。め・い・り・ん。あんたが行ってる間に私は準備してるから」
「分かりました! すぐに行ってきます!!」
「ま、今日は門に立ってるでしょう、ってもう居ない」
とにかくこれで一安心だ。
美鈴なら気を操って痛みを緩和できるだろうし、何よりも横から針治療を見てもらえばいい。
「さて、美鈴が来るまでに準備を終わらせないと」
「その美鈴って人は医者かなにかかい?」
「門番よ」
「も、門番? あいちちち……」
驚いた拍子に腰が動いたのだろう。
枕に顔をうずめて、あうあう嘆いている。
「門番であり、私の師匠なのよ」
「う~……とにかく早いとこ頼むよ。早苗じゃないけど泣いてしまいそうだ」
「冷やしたら多少はマシになるけれど、服脱げる?」
「無理」
即答だった。
ならば切るしかないわねというと、うーうー言いながら拒否られた。
まったく、変な寝巻きなんだから。といいながら氷嚢を腰に当ててやる。
「ひゃぁ! ぴりぴり来るわ~」
「最初から冷やせばよかったのに。マッサージするからよ」
「まさか神様が、ぎっくり腰になるだなんて思わないじゃないか」
「年甲斐も無く、沢山弾幕を張るからこうなるのよ」
「年いうな~」
本当に神様なのかしら、と思う。
ここまで人間にフレンドリーな神も珍しいだろう。
……そんなこと無いのかな?
「よし、準備完了。後は待つだけね」
「霊夢、やばいわ」
「なに、氷が冷たすぎる?」
「冷えて、おし……こほん。お手洗いに行きたくなってきたわ」
何を言ってるんだこいつは。
服も脱げないのに、お手洗いとな。
「どれくらい持ちそうなのよ」
「……朝から行ってないから、今が臨界点って感じかしら」
「そうだ! あそこと下着の間に隙間空ければ……紫!」
「や」
あんたもそこで即答か。
壁で泣いていたと思ったら、いつの間にか着替えてお茶を飲んでるし。
「さっき思い出したのだけど、外界から無理やりこっちに来た誰かさんのせいで、結界の修繕が大変だったのよね」
「う……」
「さらのその誰かさんのせいで、霊夢に蹴り起こされたのよ?」
「その……すまない」
「べっつにーげんそーきょーはーすべてをうけいれますから~? もんだいはないんですのよー?」
こちらを一度も見ることなく、煎餅をガシガシ食べながら文句を言っている。
その頬が膨れているのは、煎餅が詰まってるからではなさそうだ。
私は仕方が無いと、ため息をついた。
布団を汚されるよりはましだ。
「紫、今日一緒の布団で寝ましょ?」
「ピク……でも霊夢は私の事嫌いなのよね? 蹴り飛ばすくらいに」
一瞬反応するも、まだ一押し足りないみたいだ。
でも耳は確りとこちらを向いている。
あれ、紫ってこんなに可愛かったっけ?
「蹴ったのは謝るわ。やりすぎた。でも紫だからあんなことしたのよ?」
「私……だから?」
少し紫から視線をそらし、一呼吸置いてから続けた。
「私の好きな紫なら、許してくれると信じてたから……」
「隙間を空けたわ。さぁ神奈子さん、いつでも出していいのよ。むしろ早く出しなさいさぁさぁさぁ!!」
計画通り。ニヤリ。
まぁ嘘はついてないし、結果よければ全て良しよね。
神奈子も紅くなってプルプル震えてるし、すぐ済むだろう。
あとは美鈴が来たら全てうまく行く……
ガタン
「霊夢さん」
「あ、美鈴来てくれたのね。さっそくで悪いんだけど、神奈子の腰の痛みを和らげ……」
「霊夢さんが好きなのは、やっぱり紫さんだったんですね」
「……え?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次 回 予 告
(BGM 檄!幻想華撃団2)
ずっと無表情で神奈子に針を刺す美鈴。
さらに邪魔だと行って、なんと霊夢を部屋から追い出した。
「なによ……美鈴なんて大っ嫌い!!」
「別に霊夢さんに好かれたくなんかありませんから」
すれ違う幻想乙女達の心。
そして深い悲しみの中にいる霊夢の前に現れたのは一人の現人神だった。
次回、整体師~霊夢~「交差」
幻想桜に浪漫の嵐。
「さようなら、美鈴」
まぁそれはともかく楽しみです次回も。
にとひなも楽しみにしてま(ry
修羅場とか誤解?とかテンション上がるなあ。
次回予告も上手すぎるw
にしてもお約束すぎる!
だからこそ、ってのもありますが…w
でも霊夢はまだ好きという感情に気がついてないんだぜ?
つまりふりまわさレイム!
>修羅場とか誤解?とかテンション上がるなあ。
SYURABAとは即ち刃である!
いじけゆかりんかわいいよゆかりん
>にしてもお約束すぎる!
お約束ははずせないですよね!
心の隙間に闇ができる。その隙間に入り込んでくるのだぁ!
>昼ドラ的落ちを期待する
たわしコロッケとか、サイフステーキと申したか!
……ありだな(ボソ