Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

尻尾の中の霊夢(1)

2010/04/02 11:27:02
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 境内に寒い風が吹いた。
 一部の妖怪や妖精が、「いっちょやるか」と準備運動を終えた季節。
 博麗神社に一匹の狐がやってきた。

「失礼する、霊夢」

 この狐、尻尾がたくさん在った。
 名を八雲藍という。

「めずらしいのが来たわね」

 いつもの衣装に身を包み、さらにその上にどてらを羽織った霊夢は、感慨なく口にした。
 さすがに寒いのか、いつもの縁側ではなく、居間のコタツに足をつっこんでいる。
 その姿を見咎めたのか、藍は眉を顰めた。 
 
「なんだその巫女にあるまじき姿は」
「これ、暖かいのよ。いいでしょ?」
「そうじゃないだろう。もし他の人間が神社に訪れて、その姿を見たらどうする」
「別に見られたっていいじゃない。減るものでもないし」

 そういう問題ではないと、再び口を開こうとした藍だが。
 その台詞を飲み込んだ。
   
「まあいい。それも今後の課題だ」

 代わりに、そう言葉する。
 その台詞を霊夢は怪訝に思ったようだが、促してきた。

「そんなところに突っ立ってないで、あんたもコタツに入れば。暖かいわよ」
「ありがとう。だが私はいい」
「そ。じゃあ座りなさい。お茶淹れてくるわね」
「いや、それも」
  
 断ろうとするも、霊夢はすでに立ち上がっていた。
 そのままお茶を汲みに行ってしまったので、藍はコタツに足を入れることなく、正座をして待つことにした。
 しばらくして戻ってきた霊夢から湯飲みを貰い、礼を告げる。
 湯飲みを傾けて、一息つく。霊夢の入れたお茶は美味だ。お茶の申し子。そう思わずにはいられない。
 対面に座る巫女を見て、藍は本題を切り出した。

「霊夢」
「ん?」
「紫様が冬眠なされた」
「ふーん」

 どうでもよさげな相槌をうって、お茶を啜る霊夢。
 自分の主が聞けば、おそらくおどけた様相を見せながらも、その胸中では割と悲しむだろう。彼女はこの巫女を大層可愛がっていた。
 それが巫女に伝わっているかはともかく。
 藍は若干告げる言葉に重みを含ませて、続けた。

「私は紫様から言伝を授かってきたのだ。この冬、博麗神社に住み込みでお前の面倒を見るようにと」 
「は? 何言ってるの? 聞いてないわよ、そんな話」

 訳が判らないという口調で、霊夢。今言ったのだから、当然の反応だ。
 藍は淡々と答える。

「博麗大結界の維持管理は、八雲に連なるものと、博麗に連なるものの仕事だ。八雲にしか出来ぬこともあり、博麗にしか出来ぬこともある。共同で行わなければならなこともある」
「ええ、そうね。それがなに?」
「紫様が冬眠をなされれば、その仕事量は私とお前に負担されるわけだ。必然、仕事量は多くなる」
「毎年面倒よね。なんとかならないのかしら」
「だというのに、去年の冬、お前はその仕事を何度かさぼったな」
 
 少しだけ視線に力を込めて、霊夢を見やる。
 巫女は視線をあからさまに逸らせ、言ってきた。

「わたしの出来るところはちゃんとこなしたわよ」
「確かにその通りだ。だがそれは博麗にしか出来ないところだけだ。そのほかの部分は、すべて私が受け持つことになった」
「紫ってば、優秀な式を持って羨ましいわね。きっと今年も頑張ってくれると思うわ」

 わざとらしく褒め称える巫女。
 藍はかぶりを振るった。

「煽てても駄目だぞ。今年は去年の反省を活かし、お互い平等に行くことになった。それがお前の成長の手助けにもなる」
「そんなこと言われてもねぇ」
「判らない所もあるだろうが、それは私が教えよう。逆に、私がお前から教わることもあるだろう」
「藍、貴女は立派な式よ。わたしが教える事は何も無いわ」

 霊夢の言葉を流して、藍はきっぱりと告げた。

「故に、明日から紫様の冬眠が明ける日まで、私はここに住み、お前のさぼり癖を矯正しつつ世話をすることになったのだ。よろしく頼む」
「ありがたい話だけど、却下ね」 

 巫女の反応は早かった。  
 だがその反応は予め想定していたことで。藍は用意していた答えを述べる。

「判っている。何もただでとは言わない。私が滞在する期間。日用雑貨から食材まで、すべて私が出そう。掃除洗濯炊事の家事全般も、すべて引き受ける。だから霊夢、お前はただ結界の管理に専念してくれればいい」

 条件を提示する。
 めんどくさがりな巫女なら食いついてくるはずだと、藍は踏んでいたが。
 返ってきた答えは、予想していないものだった。

「それでも駄目よ。あんた、わたしを腐らせる気?」

 意外な台詞ではあった。
 怠けられるところはとことん怠ける。自分の主と似たような面を持つこの巫女なら、条件を飲み込むと思っていたが、しっかりした一面もあるようだ。
 藍は少しだけ巫女の印象を改め、提案した。
 
「ならば半々でいこう。これなら文句はあるまい?」
「あるっての。その前に、わざわざ住み込む必要が無いじゃない」
「そうでもしなければ、怠けるだろう。突然なのは重々承知しているつもりだ。だがそもそも原因はお前にあるということを、忘れてもらっては困る。それにこれを機に、私もお前から学びたいことがあるのだ」
 
 告げれば、霊夢はめんどくさそうな顔をしながらも、なお食い下がった。

「あのねぇ。そもそも妖怪が神社に居て良いわけないでしょ。少ない参拝客が、さらに減っちゃうわよ。困るじゃない」

 だからとっとと帰りなさいよと、霊夢。
 野良犬でも追い払うような仕草だ。

「私が参拝客の前に姿を現さなければ済むことだろう。それに例え見られるような愚を犯したとしても――まあ在りえないが――私は狐の妖怪。相手を化かすことぐらい、造作も無い。むしろ信仰集めの手伝いをしても構わないくらいだ」
「いや、それっていいのかしら? 妖怪が信仰を集めるのって……」

 巫女は腕を組んで唸ったが。
 藍は続ける。

「神と妖怪に、厳密な区別などないんだよ。人ならざるものは、神にもなれば妖怪にもなる。結局は見るものの主観でしかない。現に虎の妖怪が神の代理として働いているのを知っているだろう?」
「まあ、それは置いとくとして。わたし、あんたの変化の術に不安があるわ。その不安が、あんたをこの博麗神社に置いては駄目だって言ってるの」
「ほう」

 再び予想だにしないことを告げられ、藍はピクリと片眉をあげた。
 この人間は、今何と言った。
(殊もあろうに、この私の術に不安を覚えるだと?)
 笑止。
 この温厚な狐も、その言葉にはすこしだけカチンと来てしまった。この巫女は、一体自分を何だと心得ているのか。
 この金色の尻尾が、目に入らぬのか! 

「悪いね、ちょっと耳が遠かったようだ。先の台詞を、もう一度言ってくれないか? 聞き間違いでなければ、私の変化の術に不安があると、そう聞えたのだが。いやまさか、私を前にしてその台詞を吐ける人間なぞ居まい?」

 温厚な笑みを保ちつつも、一歩後ず去ってしまうような気配を放つ藍。
 だが霊夢は平然と告げた。

「聞き間違いじゃないわよ」
「それは私への挑戦と受け取ってもいいんだな?」
「ちょっと待っててね」
「あ、こら待て。霊夢っ」

 言い残して、霊夢はコタツから抜け出して、部屋から出て行ってしまった。  
 むすっとした表情の藍だったが、結局霊夢を待つことにした。
 腕を組んで、目を瞑る。ちょっとあの我が侭巫女をぎゃふんと言わせねば気がすまない。
 戻ってきた霊夢は、寒い寒いとコタツに潜ってから、藍に告げた。

「ちょっと変身してみてよ」

 藍は口の端を吊り上げ、立ち上がった。

「いいだろう。お前の望むものなら何だって化けてやる。だがもし私の術を認めたのなら、その時は当然私の言葉に従ってもらうからな」
「まあ、仕方ないわね」

 巫女の言質をとり、藍は頷いた。

「何に変化すればいい? 無理難題を吹っかけてくれて一向に構わないぞ」

 例え海に化けろと言われても、藍には造作も無いことだった。
 実際に海に変化するのは無理だ。この場合、藍が変化をするのではなく、霊夢を化かすのである。言い換えれば、幻覚を見せる。
 変化というのは、自分が化けるか、もしくは相手を化かすか。そういうことなのだ。
 巫女は平坦に言ってきた。

「そうねぇ。じゃあその帽子をとって、尻尾と耳を隠してよ」
「なんだ、張り合いの無い。そんなことでお前の不安が消せるのか? それともそれは私への侮辱か? その程度の術もできない狐だと、そう言いたいのか?」
「そう突っかからないでよ。いいからやってみて」 
「ふん」

 鼻を鳴らして、藍は変化の術を行使した。幾度も繰り返した術に、なんら違和感は無い。
 どろんと変身して、そこにいたのは絶世の美女だった。老若男女、加えて妖怪さえも虜にできるだろう美女である。
 彼女は笑みを浮かべながら、口を開いた。

「どうだ」
「見事ね」

 暢気な反応をしてくる。
 藍は腕を組み、霊夢を見据えた。子供を宥めるように、言う。

「当たり前だ。そもそもお前は私を何だと思っているんだ。自分から言うのも久しいが、私は九尾の」
「はい」
「こーん!」

 霊夢が投げた油揚げを、藍は大妖怪の名に恥じぬ速さで咥えた。
 耳と尻尾が飛び出た。
 
「……」
「……」 

 もぐもぐ。
 きっと油揚げに、罪は無い。だってこんなにもおいしいのだから。
 藍は努めて真面目な表情を保ったまま、口を開いた。
 活路を、開かねばならない。

「霊夢、お前は事を甘く見すぎている。博麗大結界の管理は、おそらくお前が考えていることよりも、ずっと重いものなんだよ」
「いきなり話を戻したわね」
「結界の果たす役割、それがどれだけの者の命を支えているのか。今一度胸に手を当てて、訊いてみるんだ」
「食べながら言われても」
「耳に聞こえずとも、判るだろう。この郷に住む者達の声が」

 藍のありがたい説法がはじまった。
 だが霊夢は我関せずと、コタツでぬくぬくしていた。
 しかし、近寄ってきた藍が耳元で念仏でも唱えるように延々と続けるものだから、ついには声を荒げる。

「あーもううっとおしい! 表に出なさい、弾幕で白黒つけてやるわ!」
「いいだろう」

 頷く。
 結果から言えば、軍配は藍に上がった。
 始終コタツで身体を訛らせていた霊夢は、藍の最初からトップギアの大人気ない弾幕についていけなかったのだ。
 なんだかんだいってここは幻想郷。結局は弾幕でもの言わすだろうと踏んでいた藍の思惑通りだった。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
こーんw
2.奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
これもちろん続きますよね?
楽しみにしてます。こーんw
3.名前が無い程度の能力削除
ktkrこーんw
4.名前が無い程度の能力削除
藍しゃまかわいいよ藍しゃま
5.名前が無い程度の能力削除
かわいすぎてつらい