退屈は人を殺すというけれど、天人も殺すんじゃないかって思うよ、実際。
毎日酒飲んで桃食って昼寝してって、きっと多くの人間は望んでいることだろうけど、私はそいつらに向かって中指を突き立てたい。
こんなものの、どこがいい。どこが良いんだって頭を掴んで地面に擦り付けさせたい。謝れよ、私に対してさ。
飲めよ歌えよとしている他の天人たちと、私はどうしても馴れ合う気になれなかった。
かといって地上の人妖の宴会に進んで混ざる気にもなれないんだけど。
とかいう私の話相手なんて、たまに天界で飲んだくれてる鬼と、仕事のついでに私のところに寄る竜宮の使いぐらいのもんで。
かといって私から彼女らと馴れ合いたいって望んだわけじゃないし、かといって拒絶するほど偉くもないつもりだ。それぐらい弁えてる。
ただ退屈が憎い。憎くて堪らない。地震を起こしたのも退屈だったからだし、本当に頭がおかしくなりそうだ。
「あ゛-----------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
天界の端っこに立って、雲海を見下ろして叫んだけど、この声がどこまで届いているのかを考えたら虚しくなった。
それでも喉が枯れて、ギシャギシャの金属が擦れ合わされるみたいな声しか出なくなるまで叫んだ。
桃が傷んだ喉に沁みたけど、痛いぐらいが退屈には丁度いい薬だった。
好き好んで天人になったわけじゃなくて、親のついで。オマケ。
苦労したことなんてなかったけど、人並みの生活に憧れなかったというわけでもない。
普通に汗をかいて、普通に誰かを好きになって、普通に死んで。
天人の体は汗をかかないし、そもそも、汗をかきはじめたりなんかしたらそれは天人の寿命なわけで。
汗を流す心地好さよりも、汗をかいてしまう恐れのほうが、よっぽど強い。
まぁ、なんだっていうんだそれが。
結局、生きるにせよ死ぬにせよ、退屈極まりないことには変わりない。
じゃあ、死ぬということが身近に感じられるような連中だったら、毎日が充実してるのかな?
風邪引いたり怪我したりするだけであっさり死んじゃうよな、人間とかはさ?
でもあくせく働いて、稲の出来に一喜一憂してるのを眺めていてもよく、わからない。
なんなの?
考えたって仕方ねーやって、私は天界を降りて幻想郷に繰り出した。
月はちっとも顔を出していなくて、星屑が今にも降ってきそうな晩だった。
そろそろ春も近づこうかって言う時期。雪はほとんど消えていたけど、風は肌寒かった。
ただぼんやりとした不安だけが、とかいって自殺した文豪が居たとかなんとか?
私もそういう理由で、誰も居ない新月を闊歩しているんだろうね。
目的地なんてないしさ。退屈凌ぎって言う割りには、その退屈の正体だってよくわからないんだ。
ここらへんは幻想郷のどこらへんなんだろうね? 大きな湖があるけど、詳しくないから。知らんしさ。
「あ゛-----------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
喉がねじ切れそうなぐらいに大きく声を張り上げると、眠っていた鳥たちが驚いて飛び立った。知るか。
この静寂が嫌いなんだ。しゃらしゃらとか風が草木と鳴らすぐらいで、穏やかすぎて耳が痛くなるよ。
といっても、私の声はすぐに暗闇に吸い込まれてしまって消えていった。
もう一回声を出してやろうか、誰かの迷惑になったらそれはそれで、面白いしさ。
「うるさい!」
ほら、早速来なすった。
セミショートの金髪に紅いリボンに黒いワンピース。背丈の肩よりちょっと高いぐらいってところ。
口元から覗いてる犬歯とか、よく見なくたって妖怪なんだろうけど、大して力のある妖怪には見えなかった。
「ねむー」
あくびをしたその妖怪は、さっきのうるさい! の声色とは全然違ってた、っていうことは他にも誰か居るのかと思ったら、のっしのっしと妖精さんがやってきた。
「あんたね! さっき怒鳴ったのは!」
少女特有のキンキンの高い声。頭に響いてちょっと痛い。
ってか妖精の癖になんなんだろう、この尊大な態度。腹が立つなぁ。
「で、お姉さんはなんで夜中に叫んだりしてたの」
金髪のほうがちょっとは話がわかりそうだった。
何かしら喚き散らしてる妖精を抱き上げて口を抑えて場を混乱させないようにしてる。
「退屈だから、じゃ理由にならない? なんならあんたたちと弾幕(やりあって)もいいんだけどね」
「やだ」
挑発に乗ってこなかった。なぁんだ。
せっかく妖怪と会ったんだから、気晴らしでもしようと思ったのに。
「だってお姉さんはさ、退屈なだけなんでしょ? だったら弾幕じゃなくてもさ、他にも楽しいことってあると思うよ」
「あー?」
「チルノもなんか言ってあげたら?」
「ごほごほっ。あーあーあー、あたい最強。で、あんた誰?」
「比那名居天子」
名乗ったところでまぁ、知らないんだろうけどさ。
「ふーん。あたいはチルノっていうの、こっちはルーミア」
妖精のほうがチルノで、裾を摘んで会釈してるほうがルーミア、だってさ。
取るに足らない連中で、私の退屈を紛らわせてくれるとは到底思えないけど。
「でさ、あんたさっきからなんで表情が変わらないの? おにんぎょ?」
言われてはっとして、私は自分の頬に手を当てた。
そういえば、最後に笑ったのっていつだっけ? というか、感情が動いたのって最後はいつだったっけ?
退屈退屈、それだけは言ってたけどさ。
「笑えるわよ。ほら、イー」
「笑えてないじゃん」
「笑えてないね」
唖然とした。
笑い方をすっかり忘れていて、頬が変な風にヒクヒクするだけだった。どうして誰も、指摘してくれなかったんだろう。
考えなくたって簡単なことだった。鬼はいつもヘラヘラ笑ってお酒を注いでくれるだけだったし、衣玖は衣玖でいつも困った顔をしていた気がする。
えっと、あれ?
退屈な私は、この世界の一体どこに立って居るんだろう。
笑ってもないし泣いたりもしてないし、どこに向ければ良いかはわからない怒りは常抱えてたけど、叫んだところで解消されるわけでもないし。
誰かしらに喧嘩を売って、それで――それで? えっと、なにが変わったっけ?
「ほらほら、こうやって笑うんだってば、イー!」
能天気に笑ってる、チルノっていう妖精は、そりゃ私に比べたら力は弱いし。
っていうか、最強だって言ってたけど、比べるまでもないでしょ。なんせ私は天人だし。
でも、私は自分のことを最強だって口が裂けても言えなかった。
最強だなんて、子供のときに頭を浮かぶ無根拠な万能感でしょ。バカバカしい。
でもバカバカしいって言い捨ててる癖して、どうして、なんで、とてつもなく羨ましいんだろうね。
「え、笑おうって言ってるのに、どうして泣くの? ねぇ、なんか悲しいことでもあったの? ねぇ、ねぇったら」
衣玖が笑うようになった。
「最近明るくなりましたね」
だなんて言って笑うから、私もまぁね、って嘯いてから桃を齧ってる。
鬼が話を聞きたがるようになった。
「で、あんたはどう思うんだい?」
私からも酒を注ぐようにしたら、時折訪ねてくるようにもなった。
博麗神社の宴会にも、こないだ参加してきた。
どうやって話しかけたらいいんだろうと思って立ち竦んでたら、顔色の悪い魔法使いが私の手を引っつかんで、
「前の私見てるみたいで気分悪いのよ」
とか言って、引っ張り込まれた。
自分が思っていたよりもずっと臆病だったと知ったのもこのときだった。
宴会は私にとっての、酸っぱい葡萄でしかなかったんだ。
「天子、蛙って凍らせると面白いって知ってた?」
「ねぇそれって、できるのって冷気操れる奴だけじゃ……」
背丈も力も全然違うけど、友達って呼べる存在もできた。
チルノには会いに行けばいつでも会えるし、ルーミアは決まったところにはいなかったけど、不思議と、会いたいと思うと会えるのだ。
退屈は人を殺すと思う。
それは間違いないけど、人生を退屈にしているのも、また自分自身であることに気づくまでに、結構時間がかかった。
「ねぇ二人ともさ、ミスチーのところ行かない? またツケになるけど」
「いいね、さんせー!」
「ちょっとチルノ。蛙はどうすればいいの!」
「水に浸けとけば勝手に生き返るよ!」
ま、ほんのすこし私が変わっただけ、たったそれだけの話でした。
毎日酒飲んで桃食って昼寝してって、きっと多くの人間は望んでいることだろうけど、私はそいつらに向かって中指を突き立てたい。
こんなものの、どこがいい。どこが良いんだって頭を掴んで地面に擦り付けさせたい。謝れよ、私に対してさ。
飲めよ歌えよとしている他の天人たちと、私はどうしても馴れ合う気になれなかった。
かといって地上の人妖の宴会に進んで混ざる気にもなれないんだけど。
とかいう私の話相手なんて、たまに天界で飲んだくれてる鬼と、仕事のついでに私のところに寄る竜宮の使いぐらいのもんで。
かといって私から彼女らと馴れ合いたいって望んだわけじゃないし、かといって拒絶するほど偉くもないつもりだ。それぐらい弁えてる。
ただ退屈が憎い。憎くて堪らない。地震を起こしたのも退屈だったからだし、本当に頭がおかしくなりそうだ。
「あ゛-----------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
天界の端っこに立って、雲海を見下ろして叫んだけど、この声がどこまで届いているのかを考えたら虚しくなった。
それでも喉が枯れて、ギシャギシャの金属が擦れ合わされるみたいな声しか出なくなるまで叫んだ。
桃が傷んだ喉に沁みたけど、痛いぐらいが退屈には丁度いい薬だった。
好き好んで天人になったわけじゃなくて、親のついで。オマケ。
苦労したことなんてなかったけど、人並みの生活に憧れなかったというわけでもない。
普通に汗をかいて、普通に誰かを好きになって、普通に死んで。
天人の体は汗をかかないし、そもそも、汗をかきはじめたりなんかしたらそれは天人の寿命なわけで。
汗を流す心地好さよりも、汗をかいてしまう恐れのほうが、よっぽど強い。
まぁ、なんだっていうんだそれが。
結局、生きるにせよ死ぬにせよ、退屈極まりないことには変わりない。
じゃあ、死ぬということが身近に感じられるような連中だったら、毎日が充実してるのかな?
風邪引いたり怪我したりするだけであっさり死んじゃうよな、人間とかはさ?
でもあくせく働いて、稲の出来に一喜一憂してるのを眺めていてもよく、わからない。
なんなの?
考えたって仕方ねーやって、私は天界を降りて幻想郷に繰り出した。
月はちっとも顔を出していなくて、星屑が今にも降ってきそうな晩だった。
そろそろ春も近づこうかって言う時期。雪はほとんど消えていたけど、風は肌寒かった。
ただぼんやりとした不安だけが、とかいって自殺した文豪が居たとかなんとか?
私もそういう理由で、誰も居ない新月を闊歩しているんだろうね。
目的地なんてないしさ。退屈凌ぎって言う割りには、その退屈の正体だってよくわからないんだ。
ここらへんは幻想郷のどこらへんなんだろうね? 大きな湖があるけど、詳しくないから。知らんしさ。
「あ゛-----------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
喉がねじ切れそうなぐらいに大きく声を張り上げると、眠っていた鳥たちが驚いて飛び立った。知るか。
この静寂が嫌いなんだ。しゃらしゃらとか風が草木と鳴らすぐらいで、穏やかすぎて耳が痛くなるよ。
といっても、私の声はすぐに暗闇に吸い込まれてしまって消えていった。
もう一回声を出してやろうか、誰かの迷惑になったらそれはそれで、面白いしさ。
「うるさい!」
ほら、早速来なすった。
セミショートの金髪に紅いリボンに黒いワンピース。背丈の肩よりちょっと高いぐらいってところ。
口元から覗いてる犬歯とか、よく見なくたって妖怪なんだろうけど、大して力のある妖怪には見えなかった。
「ねむー」
あくびをしたその妖怪は、さっきのうるさい! の声色とは全然違ってた、っていうことは他にも誰か居るのかと思ったら、のっしのっしと妖精さんがやってきた。
「あんたね! さっき怒鳴ったのは!」
少女特有のキンキンの高い声。頭に響いてちょっと痛い。
ってか妖精の癖になんなんだろう、この尊大な態度。腹が立つなぁ。
「で、お姉さんはなんで夜中に叫んだりしてたの」
金髪のほうがちょっとは話がわかりそうだった。
何かしら喚き散らしてる妖精を抱き上げて口を抑えて場を混乱させないようにしてる。
「退屈だから、じゃ理由にならない? なんならあんたたちと弾幕(やりあって)もいいんだけどね」
「やだ」
挑発に乗ってこなかった。なぁんだ。
せっかく妖怪と会ったんだから、気晴らしでもしようと思ったのに。
「だってお姉さんはさ、退屈なだけなんでしょ? だったら弾幕じゃなくてもさ、他にも楽しいことってあると思うよ」
「あー?」
「チルノもなんか言ってあげたら?」
「ごほごほっ。あーあーあー、あたい最強。で、あんた誰?」
「比那名居天子」
名乗ったところでまぁ、知らないんだろうけどさ。
「ふーん。あたいはチルノっていうの、こっちはルーミア」
妖精のほうがチルノで、裾を摘んで会釈してるほうがルーミア、だってさ。
取るに足らない連中で、私の退屈を紛らわせてくれるとは到底思えないけど。
「でさ、あんたさっきからなんで表情が変わらないの? おにんぎょ?」
言われてはっとして、私は自分の頬に手を当てた。
そういえば、最後に笑ったのっていつだっけ? というか、感情が動いたのって最後はいつだったっけ?
退屈退屈、それだけは言ってたけどさ。
「笑えるわよ。ほら、イー」
「笑えてないじゃん」
「笑えてないね」
唖然とした。
笑い方をすっかり忘れていて、頬が変な風にヒクヒクするだけだった。どうして誰も、指摘してくれなかったんだろう。
考えなくたって簡単なことだった。鬼はいつもヘラヘラ笑ってお酒を注いでくれるだけだったし、衣玖は衣玖でいつも困った顔をしていた気がする。
えっと、あれ?
退屈な私は、この世界の一体どこに立って居るんだろう。
笑ってもないし泣いたりもしてないし、どこに向ければ良いかはわからない怒りは常抱えてたけど、叫んだところで解消されるわけでもないし。
誰かしらに喧嘩を売って、それで――それで? えっと、なにが変わったっけ?
「ほらほら、こうやって笑うんだってば、イー!」
能天気に笑ってる、チルノっていう妖精は、そりゃ私に比べたら力は弱いし。
っていうか、最強だって言ってたけど、比べるまでもないでしょ。なんせ私は天人だし。
でも、私は自分のことを最強だって口が裂けても言えなかった。
最強だなんて、子供のときに頭を浮かぶ無根拠な万能感でしょ。バカバカしい。
でもバカバカしいって言い捨ててる癖して、どうして、なんで、とてつもなく羨ましいんだろうね。
「え、笑おうって言ってるのに、どうして泣くの? ねぇ、なんか悲しいことでもあったの? ねぇ、ねぇったら」
衣玖が笑うようになった。
「最近明るくなりましたね」
だなんて言って笑うから、私もまぁね、って嘯いてから桃を齧ってる。
鬼が話を聞きたがるようになった。
「で、あんたはどう思うんだい?」
私からも酒を注ぐようにしたら、時折訪ねてくるようにもなった。
博麗神社の宴会にも、こないだ参加してきた。
どうやって話しかけたらいいんだろうと思って立ち竦んでたら、顔色の悪い魔法使いが私の手を引っつかんで、
「前の私見てるみたいで気分悪いのよ」
とか言って、引っ張り込まれた。
自分が思っていたよりもずっと臆病だったと知ったのもこのときだった。
宴会は私にとっての、酸っぱい葡萄でしかなかったんだ。
「天子、蛙って凍らせると面白いって知ってた?」
「ねぇそれって、できるのって冷気操れる奴だけじゃ……」
背丈も力も全然違うけど、友達って呼べる存在もできた。
チルノには会いに行けばいつでも会えるし、ルーミアは決まったところにはいなかったけど、不思議と、会いたいと思うと会えるのだ。
退屈は人を殺すと思う。
それは間違いないけど、人生を退屈にしているのも、また自分自身であることに気づくまでに、結構時間がかかった。
「ねぇ二人ともさ、ミスチーのところ行かない? またツケになるけど」
「いいね、さんせー!」
「ちょっとチルノ。蛙はどうすればいいの!」
「水に浸けとけば勝手に生き返るよ!」
ま、ほんのすこし私が変わっただけ、たったそれだけの話でした。
私も、自分からアクション起こさないとなぁ…orz
ああ、私も彼女たちに出会って今の自分を変えて貰いたい