霧が立ち込める湖の畔。
気ままに遊ぶ妖精達の輪があった。
その輪の中で氷精が何かを思いついたかのように、あっ、と声を上げる。
「ねえねえ、大ちゃん、大ちゃん」
「なあに、チルノちゃん?」
声を掛けられたのは黄色いリボンが特徴的な妖精だ。
彼女は微笑みながら、呼びかけてきた氷精に向き直る。
氷精は彼女の傍によって、手で互いの身長を比べ、
「大ちゃんってば、大妖精って言う割におっきくないよね」
「えっ……?」
「あたい知ってるよ。人里で誰かが言ってたんだ。そういうのって――」
*
日の光も届かぬ地下にある図書館。
本に囲まれた環境下で暮らす主従がいた。
本棚に囲まれて読書をしていた紫の魔法使いは、ふむ、と意味深に呟き。
「ねえ……小悪魔?」
「なんでしょうか、パチュリー様」
声を掛けられたのは執事服に身を包み、背と頭に蝙蝠の羽を生やした悪魔だ。
彼女は微笑みながら、呼びかけてきた魔法使いの傍に立つ。
魔法使いは立ってから、傍に立つ彼女を見上げて、
「貴女って、小悪魔っていう名前の癖に小さくないわね」
「えっ……?」
「貴女知ってる? 知識人は皆こう言うのよ。そういうのって――」
「――名前に偽りありっていうんだって!」
「――名前に偽りあり……ってね!」
その日を境に。
湖の畔からは大妖精と呼ばれた彼女の姿は消え――
――図書館からは小悪魔と呼ばれた彼女の姿は消えてしまった。
*
雨が降りしきる夏の幻想郷。
丘の上にそびえる一本杉の根元に、幹を挟んで背中合わせに座る人影があった。
大きくない大妖精と、小さくない小悪魔の二人だ。
二人とも急な雨に降られて雨宿りをしているようで、ずぶ濡れの衣服は樹の枝に掛けて、さらしとドロワーズ姿だ。
寒そうに震える二人だが、互いにどこか気まずそうにしている。
最初に口を開いたのは小悪魔のほうで、
「あ、あの……よかったら雨が晴れるまで、お話……しませんか?」
「えっ、あ……う、うん。私でよかったら!」
きっかけを得て嬉しそうに大妖精が応える。
二人は幹を挟んだままに会話を始め、
「災難でしたね……。まさか夕立に会うなんて」
「うん……。でも雨宿りできる場所が見つかってよかったね」
「ええ……この辺りは初めて来たのですが、見つかってよかったです」
「あ、あなたもなんだ。私もこの辺りまで来たのは初めてで」
会話相手との共通点を見つけて嬉しそうに大妖精が声を弾ませる。
会話相手の嬉しそうな声に小悪魔は微笑み、
「そうなのですか。ここには……ご旅行か何かで?」
「ううん……違う。皆と顔を合わせられなくなっちゃって……」
「あっ……ごめんなさい。嫌なことを聞いちゃって……」
「ううん、大丈夫。……あなたは?」
「私も……そうですね。ご主人様に合わす顔がなくて……」
二人とも押し黙るが、互いに共通点を持っていることに興味が惹かれてか、同じタイミングで肩越しに振り返る。
視線が合うとは思ってなかったのか、二人とも目を丸く見開き、
「あっ……。そ、そういえばお名前聞いてなかったですね」
「そ、そうだね。私は大……っ」
問われた大妖精は口を噤んで首を振ってから、
「私の名前はダイ、妖精のダイちゃんって言ったら私のことだよ」
「ダイちゃん、いい名前ですね。私の名前は小悪……っ」
自己紹介を返そうとした小悪魔は口元を手で押さえて、息を呑み、
「私の名前はコア。ご主人様にはこぁって呼ばれていました」
「こぁっ。可愛い名前だね」
ふふふ、と自己紹介を交わして微笑みあう二人だったが、何故か同じタイミングで俯いてしまう。
意を決したように互いに顔を上げて、
「「嘘……」です」
同じ言葉を口にして、再度二人は目を見開いた。
「私の本当の名前は大妖精。おっきくないのに大妖精……」
「私の本当の名前は小悪魔。ちいさくないのに小悪魔……」
悩みの種まで似通っていたことに、驚きが隠せない様子の二人は視線を逸らすように前を向き直る。
しかし示し合わせたかのように、二人は背中を幹につけたまま、外周沿いに擦り寄っていく。
腕と腕が当たる距離になると、互いに顔を突き合わせて笑った。
「そ、その……ダイちゃんは暖かいですね」
「こぁも……とっても暖かいよっ」
えへへ、と照れくさそうに二人は頬を掻く。
「名前って……難しいですね」
「うん……変えられたらいいのにね。でもそんなことできないし……」
そうですね、と悲しそうに頷いた小悪魔は、あっ、と何かを思い出したのか素っ頓狂な声を漏らす。
どうしたの? と驚いた様子の大妖精に対し、彼女は笑みを見せながら、
「本で読んだことがありますよっ。人間達はある儀式を経て名前を変えることがあるって」
その言葉に、大妖精は、おぉっ、と感動の声を漏らして、
「ほ、本当に!? ど、ど、どうやるの?」
「ええ、それは――結婚です!」
「結婚!」
興奮した様子の小悪魔は一息。
「その儀式を経て、お嫁さんの苗字はお婿さんの苗字になるのです。例えばダイちゃんがお嫁さんで、私がお婿さんだとすると――小悪魔の小を得て、大妖精は小妖精になるのです!」
小悪魔の言葉に衝撃を受けたのか、わなわなと震えだす大妖精は、つまり、と呟いてから、
「こぁがお嫁さんで、私がお婿さんだったら――大妖精の大を取って、小悪魔は大悪魔になれるっていうこと!?」
「その通りです!」
清々しいまでに断定的な小悪魔の返答に、大妖精は感激の涙を流しながら彼女の胸に顔を埋めるように抱きついた。
小悪魔は最初こそ、驚きに目を丸くしたが、すぐに目尻に涙を溜めると自分に抱きついてくる大妖精を抱きしめた。
大妖精は小悪魔の腕の中で泣きじゃくりながら言う。
「結婚! 結婚しよ……こぁっ!」
「はい、喜んで……ダイちゃん!」
「こぁがお婿さんで、お嫁さんで……」
「ダイちゃんがお嫁さんで、お婿さんで……」
「こぁは大悪魔に……!」
「ダイちゃんは小妖精に……!」
ぽろぽろと大粒の涙を零す二人は、顔を突き合わせて、
「結婚して、こぁが大悪魔になっても……こぁって呼んでもいい?」
「はい、いいですよ。私も……ダイちゃんが小妖精になっても……ダイちゃんって呼んでもいいですか?」
うん! と大妖精が頷いて、二人は再度抱きしめあった。
大きくない大妖精が消え、小さくない小悪魔が消えて。
雨が降りしきる中、一組の夫婦が生まれた、ある夏の日の幻想郷。
おめでとう、お幸せに!
ありだと思います
末長くお幸せに!
でも、
「今日から私は小妖精だよ!」
「こよーせい?なんかへん」
「今日から大悪魔とお呼びください!」
「でも、大悪魔っていうほど大きくもないわね」
ってなりはしないかな…
お幸せに!!
「看板に偽りあり」が正しいと思う・・・・・・
……お幸せに!
作者さん今度一緒に大こぁについて語り合いながら結婚しましょう。
おめでとう。
・・・もし離婚したらこぁは俺の元にk(ry
こぁがこあになってるところがあるのが残念です。
作品として提出するなら推敲するべきでしょう。
‐‐ここまで建前
でもやっぱり結婚はめでたいね!おめでとう!
‐‐ここまで社交辞令
大妖精を欲しがってる人はいないのでもらっていきますね!
ところがそう上手くはいかない。
なにせ大ちゃんは人妻だからな
祝福しよう、おめでとう
結婚しても夫の方はそのままなんじゃ……
そんな細かい事はこの際どーでもいっかw
結婚おめでとう!