木漏れ日が入り、荘厳な雰囲気をかもし出している
妖怪の山に有る森の一角木の上に何者かが立っていた
「……異常なし」
周りからの評価は『生真面目すぎる』とまで言われる
哨戒天狗である狗走椛は木の上から辺りを見渡していた
無言のまま唯ひたすら辺りを見渡し警戒をする
他の哨戒天狗も辺りの警戒をしているが
昼寝したり、おしゃべりしたりしている者が殆どであり
緊張感の欠片も無かった
(他の皆も異常無し、つまり平和ですね)
椛が少し呆れながらも、その場で辺り一帯を警戒していた時
「……むっ?」
そんな椛に高速で近寄る者の姿が見えた
「……ちっ」
椛の視覚に入った瞬間に回りに見えるように舌打ちする
その表情を他の哨戒天狗が確認した瞬間
椛の近くに居た他の哨戒天狗達が慌ててその場から少し離れる
(轟ッ!)
それと同時に、椛が居る周囲に向かって大きな突風が吹き荒れた
その場から離れた者は何とか持ちこたえたが
仕事しないで居眠りしていた者が巻き添えを食らって木から地面に落っこちた
そんな中、突風をまともに受けたはずの椛は
「あやや、こんな所で生真面目な狗を発見してしまいました」
「……不真面目な鴉が此処になんの用ですか?」
突風を起こした人物の顔の数cm手前で盾を構えていた
「いえいえ、進行方向に障害物を見つけたので盛大に吹っ飛ばそうかと思いましてね?」
「なるほど……此方も仕事をしない不法侵入者を『今』見つけました」
「奇遇ですね~」
「はい」
二人がそう言って笑いあってから
『覚悟は良いですね!?』
何時もの様に二人の喧嘩が始まった
・・・
「……あれは何とかならないの?」
「まあ、日常茶飯事じゃからなあ」
『文と椛を傍に置く』
妖怪の山の中ではその意味が
天狗達や一部の妖怪達に十分通用する
「ワシは元気で良いと思うんじゃがな?平和で暇してる他の天狗達にも刺激になるし」
「へぇ、なんだかんだで天魔もしっかり頭領してるんだねぇ」
「萃香殿のように力は無いからの、頭で何とかせんと」
天狗達の頭領である天魔と暇つぶしに山に遊びに来た萃香が
その様子を山の上から覗いて話を始めていた
酒を飲みながらそんな会話をしていた
「ぷはぁ……それにしても、本当に仲が悪いのかなぁ?」
「うん?それはどう言う意味ですかな」
萃香の言葉に首を傾げる天魔
そんな天魔に対して萃香が『まあまあ』と杯に御酒を注ぎ飲ませてから
「喧嘩する程仲が良いって言うじゃないか?」
「喧嘩しかせんけどのう……」
今度は天魔が『どうぞどうぞ』と萃香の杯に御酒を注ぎ、
それを萃香がグッと飲み干して、その場で寝転がった
その姿を見て天魔がコソッと呟く
「まあ、もしあの二人がコンビを組んだら面白そうじゃがな」
その言葉を聞いた萃香が口元をニヤつかせて起き上がる
「……あ~良い事思いついた、天魔!耳貸せ」
「ん?なんですかの」
「いいからいいから……ごにょごにょ」
「……ほほう?それは面白そうじゃ、すぐに手配する事にしよう」
「おお?流石天魔!話がわかる!」
萃香の耳打ちを聞いて、天魔も口をニヤつかせた
二人とも暇だったので大急ぎで準備が執り行われる事になった
それから数日後……
「……不愉快です」
「それは此方のせりふですよ駄犬」
「大方、今までの不真面目さが祟って罰を言い渡されるんですよ!」
「あやや、椛はそんなに酷い事をしてきたんですか?」
「貴方の事です!そんな事も気づかないんですか!?」
「フゥゥゥゥ!」
「カアァアァ!」
椛と文が面向かってお互いににらみ合う
「……お主等本当に仲が悪いな」
『……スイマセン』
そんな様子を見て、天魔が苦笑すると
二人に対して命令を下した
「おぬしら二人、一週間程地下旧都にむかえ」
『……えっ?』
その言葉に文と椛が驚く
「わ、私と椛がですか?」
「そうじゃ、御主と犬走椛の両名に地下に向かう事を命ずる」
天魔が文に声をかけると今度は椛が恐れながら声をかけてきた
「じ、辞退を致したいのですが!」
「却下!お主等二人が暴れた事に対する罰でもある!」
そんな椛の言葉を全力で却下する天魔
「二人とも、明日から暫く謹慎代わりに旧都で頭冷やして来い!以上」
―――
「なんで私がこんな駄犬と……」
「あ~あ……これで一週間気が落ち着く間がなくなります」
天魔からの指示を受けた二人が
他の天狗達が見ている中をトボトボと歩く
「……大体、椛が大人しく倒れてくれていたら!」
「貴方が余計なちょっかいを出さなければこんな事には!」
文と椛が何時もの様に喧嘩をしながら
妖怪の山の道を歩く
「……良いでしょう、今日はとことんやりあいますよ?」
「ええ構いません!今度と言う今度はその首へし折ってやります」
そして、何時もの様に機嫌の悪そうな二人の周りから
他の天狗や妖怪達が姿を消して行く
「……この駄犬」
「……駄目鴉」
そして、二人が何時もの様に隠れ小屋の中に入り暫く経ってから
「椛と温泉旅行!ひゃっほ~い!」
「急いで準備しないといけませんね♪文様」
椛と文が両手を挙げて万歳をする
そして、いつものように文が椛に抱きつく
「一週間!一週間ですよ!?」
「落ち着いてくださいって……一応は御仕事なんですから」
抱きついてきた文の頭を撫でながら
椛も嬉しそうに尻尾を振る
「もう、こんな謹慎なら喜んで向かいますよ♪」
「あはは、不謹慎ですよ?文様」
「……それとも、椛はこんな謹慎嫌ですか?」
笑いながら伝える椛に対して、文が笑顔を向けてると
少しだけ意地悪な質問をする
その質問に、椛が暫く考える振りをしてから答えた
「……愚問ですよ」
「あやや、愚問ですか?」
その答えと共に文の額に一瞬だけ口付けをする
「……一緒に旅行ですよ?嬉しいに決まってるじゃないですか」
「……え、えへへ……椛ごろごろ♪……」
顔が真っ赤になった文が照れ隠しのために
何時もの様に椛に抱きついて頬擦りをする
椛も顔を真っ赤にしながら、そんな文をギュッと抱きしめた
暫くの間、二人ともそのままでいたが
そろそろ、旧都に向かう為の準備をしないといけない時間になる
「わう……そろそろ、準備しないといけませんね」
「そうですね……でも、もうちょっとゴロゴロしても良いですか?」
その言葉に椛は何も言わずに文を抱き寄せた
それから暫くして、準備の為に二人が
お互いに罵声を浴びせながら小屋の中から出てきた
だが、その顔はお互いに真っ赤で嬉しそうであったが
誰もそれを見た者は居ないから、関係が無いのだ
―――
「では天魔様、行ってまいります……この不真面目と一緒なのは嫌ですが」
「あやや?何処にそんな不真面目なものが居るんでしょうかね?では、行って来ますね」
「……お前ら地下で少しは仲良くなって来い」
『……無理』
そして次の日、文と椛の二人がお互いに舌打ちしながら
旧都へと向かっていった
その様子を見ていた他の天狗達が皆
(これで一週間は胃に来る事は無い)
とホッとため息をつきながらその場から去っていった
「此処が地下の旧都……」
人や妖怪達に忌み嫌われた者が追いやられたとされる地
そこには、恐ろしい妖怪達が闊歩していると聞かされていた
無論、椛もそう聞かされていたのだが
「……見た限り普通の温泉街ですね」
沢山の提灯や明かりに照らされたお店
活気溢れた明るい声、昼間から聞こえる謙遜とたまに喧嘩
聞かされていた物とは全く違っていた
「キョロキョロと見渡さないでください、私まで田舎者に見られるじゃないですか」
「ならば地下に降りてすぐに御酒を飲まないでください!これは仕事ですよ!?」
「あやや、これは天魔様へのお土産に相応しいかの毒見ですから立派な仕事ですよ?」
「減らず口を!」
「はいはい、飲めない犬は……」
『お~、来た来た!』
そこまで二人がトゲトゲしく話していると
旧都の入り口付近で何者かが声をかけた来た
(……この酔っ払った声に)
(やけに明るい声の持ち主は……)
二人がトゲトゲしい会話を打ち切り振り向くと
「やあやあ、二人とも待っていたよ?」
御酒が入った瓢箪を口に含んだ幼女の姿がよっと
と言う掛け声と共に、二人の下に置くと
「わう?萃香様ですか」
「あやや?萃香さんじゃないですか」
二人が見知った顔を見た事に驚くが
此処は地下である鬼が居る事が普通なのだと言う考えに至り
「……失礼ながら萃香様、何の御用でしょうか?」
椛がやたら嬉しそうにしている萃香に対して真面目に声をかけると
萃香が、少し渋い顔をして伝えた
「硬いねぇ……もっと気楽に話そうよ」
「それは失礼しました……ですが一応天狗の代表として……」
「まあまあ、石頭の犬は置いて置くとして、萃香さんもこれ飲みますか?」
「文様!」
「おお?流石文!いい物持ってるじゃないか!」
椛が真剣な表情で話をしようとした所で隣から文が口を出すと
萃香が待ってましたとばかりに文から御酒を貰うと軽く飲み干した
「ぷっは~……いや~美味い!」
「あやや、良い飲みっぷり……」
「それで、いったいなんの御用でしょうか?」
流石に手渡した御酒を全て飲み干されるとは思って居なかったので
文が少し呆れるが、それを無視してその隣に居た椛が声をかける
その言葉に萃香が少しにやけると伝えた
「いや、実は天魔にねぇ……」
数時間後、椛と文は旧都の飲み屋の一角で倒れかけていた
天魔からの話を伝える前に、飲み屋に連れて行かれたのは良いが
「旧都の一角の辺りの家の老朽化が激しくなっちゃってね……
でも、鬼だけでやると加減を知らないから困ってたんだよ
それで天魔に頼んだら、生きの良い奴二人送るって言われてね?」
「つまり…うっぷ……地下旧都の居住区の解体を……手伝えと?」
「にゃはは♪その通り」
文が少し苦しそうに伝えると萃香が笑いながら頷いた
「ん~そろそろ文もきつくなって来た?」
「いえいえ……まだまだ」
口ではそういって居るもののかなりの量の御酒を萃香と競っているのだ
いくら天狗といえど鬼を相手に飲み続けるのは分が悪い
そうとわかって文が萃香と飲み続けたの訳は
「それにしても、飲めない天狗って珍しいね」
萃香の言葉に文が振り向いた先には
既にダウンした椛が床に突っ伏していた
「……もみ……そこの狗は生真面目すぎて御酒の味がわかりませんから」
「うわ、人生の半分は損してる計算になるよ」
萃香がそう言って文の杯に酒を注ごうとした時
「…うっぐ……気持ち悪い……」
「お、おいおい大丈夫?」
後ろで倒れていた椛が気持ち悪そうに口元を押さえ始めた
その様子を見て流石の萃香も慌て始める
「……わう…」
「やれやれ、飲む場で潰れるなんて天狗の恥ですね」
その様子に文がやれやれといった様子でため息をつくと
萃香に頭を下げて椛を肩に乗せ始めた
「今日の所はこの駄犬を休ませないといけませんからこれで失礼しますね?」
「へぇ、犬猿の仲って聞いていたけど存外優しいじゃない?」
その姿を見た萃香がにやにやしながら呟くと
文が少しだけ立ち止まって背中を向けたまま伝えた
「……私としては、放っておきたい所ですけど
此処で吐かせたら妖怪の山の天狗全ての恥になりますからね」
文がそう答えると泊まるべき宿に向かって歩きだした
「それじゃあ明日、旧都の入り口で待ってるから遅れないでよ」
萃香が文の背中にそう伝えると、その場で再び御酒を飲み始めた
―――
そして萃香と別れてしばらくして、人通りも少なくなってきた所で
「……文様」
先程まで苦しそうにしていた椛が
何事も無かったかのように地面に立つと
自分を背負っていた文に声をかける
それと同時に、文がその場に座り込んだ
「き、きつかった……」
「わう……ごめんなさい、私が飲めないばっかりに」
座り込んだ文の背中を椛が謝りながら背中を擦る
「ふぅ……ありがとう椛…もう大丈夫です」
「無茶しないでくださいって」
「でも、正直助かりました……椛のおかげで離脱できましたよ」
「飲みすぎですよ……」
気持ち悪そうにしていた文が
背中を擦られて少しだけ楽になったので立ち上がる
しかしその足はふらついていた、その姿を見た椛が文を背負う
「今なら誰も見ていませんよ」
「……そうですね」
旧都には夜の区別は無いが、今の時間は殆ど人通りが無かった
そして、泊まる宿もホテルではなく
安いコテージのような物で人が居ないのが幸いした
「うぅ……椛の背中暖かい」
「しっかりしがみ付いていてくださいね」
文を背中に背負うと、ゆっくりと泊まる場所に歩き出した
揺らして文が気持ち悪くならないようにする為と
「……すぅ……すぅ」
「……おやすみなさい」
もう少し、自分の大切な人を背中に感じて居たかったからである
―――
「あれ?文は?」
「……酒に飲まれて今日はダウンです」
次の日、萃香の下に姿を現したのは椛だけであった
「それに、元よりこのような作業を
あの不真面目鴉にやらせたら終わる物も終りません!」
「そんな事ない気がするけど……まあいいか、予定地に案内するよ」
椛の言葉に萃香が楽しそうに納得すると
解体予定の居住区に案内をする為に移動を開始した
「……これは」
「いや~すごいだろう?」
萃香に連れて来られた場所を見て
椛が思っていた以上に解体する場所が多い事を知った
範囲はまだ想像できていたのだが
「一応わかりやすく立ち入り禁止のロープを張っているけどさ」
「……思っている以上に密集して家が建ってますね」
「地下は……外に比べて狭いからね」
萃香が少しだけ寂しそう言った事は多分事実であり
此処に追いやられた者達の事を悲しんでの言葉である事が伝わってきた
「で、どうやって解体したものか」
「わう、外側を丁寧に解体する事が大事でしょうね」
「……だね、私だとちょっと力加減できないから、少し頼むよ」
「わかりました」
椛の提案に萃香が頷く
そして、解体予定地の外の家を椛が解体し始めた
(わう、家は私が解体していきますが、壊れた材木はどうしましょう?)
(それは大丈夫、火炎地獄の燃料にするから)
(了解しました)
(それじゃあ、解体頼んだよ、私は御酒飲みながら材木を集めて運ぶから)
(……御酒は控えてください)
(硬い事は言いっこなしだよ?鬼は飲まないと働けないんだから)
そんなやり取りがあってから、椛が外の家を丁寧に解体
萃香が壊れた家の残骸を集めて送るという作業が続いた
半日過ぎる頃には、解体予定地の外側の家の一部が解体されて
ある程度なら無茶をして家を壊せる位の隙間ができ始めてきた頃
「うい、今日はこの位にしておこう」
「お疲れ様でした」
萃香が今日の作業の終了を言い渡した
椛がそう言って頭を下げて、その場から去ろうとしたら
「じゃあ、呑みにいこうか♪」
「わう!?」
萃香に引きずられて飲み屋に連れて行かれた
「私は飲めませんよ」
「ああ、それは昨日でわかってるから、まあちょっとだけ付き合いなって
……おーい店主~私に適当に御酒と、この子に食べ物~お願い」
引きづられた椛がそう呟くと萃香が背中を軽く叩きながら
お店の店主に酒と食べ物を頼むと
「……それで?文とは仲が悪いみたいだけどなんでなの?」
これが本題と言わんばかりに楽しそうに声をかけ始めた
椛が泊まっている宿に帰れたのはそれから数時間後の事であった
―――
「戻りました」
「お帰りなさい椛、どうでしたか?」
心身的に疲れきった椛が戻って来ると
そこには、二日酔いから覚めた文が起きていた
「仕事は有る程度片付きましたけど……」
「やっぱり萃香さんに捕まりましたか」
文がそう苦笑いした上でそう呟くと
「少し横になっていてください」
「……すいません」
その言葉に椛が横になろうとして倒れ込こむと
「よいしょっと」
「わう?」
椛の頭に床と違う柔らかな感触がきた
そして、上を向く椛の目線にあるのは頬を染める文の姿であった
「……文様?」
「ちょっとだけなら良いですよね」
文がそう言うと、自分の膝の上に置かれた椛の頭を
優しく撫で始めた
「わう……」
その感触に疲れきっていた椛がゆっくりと目を閉じた
(……仕返し)
薄れていく意識の中、なにやら小さい呟きと共に
一瞬だけ額に何かが当たった気がしたが
頭に来る柔らかな感触と睡魔には勝てなかった
―――
「さて、昨日の分も取り返しますよ」
「ふん……二日酔いで眠っていたくせに」
「お~二人ともやる気はいってるねぇ」
『ふん!』
次の日は文と椛の二人が解体予定地に集まり
「ぱっぱと外壁破壊していきますよ」
「きちんと考えて破壊してください!後片付けも考えているんですから!」
「ちまちまやっていたらどれだけ時間があっても出来ませんよ」
「ですがより効率よく…」
文と椛が口喧嘩しながら、家を解体していく
その様子を見て萃香がにやにやして伝えた
「二人とも仲が良いね~」
『ど、何処がですか!?』
そんな風に色々な事がありながらも
数日間の間、文と椛は地下旧都での解体作業が続いた
そして、地下旧都に来てから数日の事
「随分作業が終ってきましたね」
「よし、後は明日からでも十分だね」
「わう、お疲れ様です」
何時もの様に萃香に挨拶をすると
二人が疲れた体を癒す為に二人が借りている宿に向かって
「お疲れ様でした文様」
「椛もね」
家の中で二人が何時もの様にくつろぎ始めた
「お布団の準備してきますね」
椛がうれしそうにそう言って準備をすると
「晩御飯お粥でも良いですか?椛」
文がそう言ってエプロンを付け始める
二人がそうやってイチャつき始めた時だった
『いや~噂とは全く違う事に驚いたよ』
突然二人に対して見知った者の声が聞こえてきた
その言葉を聞いた二人がハッとして振り向くと
「まさか犬猿の仲と言われている二人がこんな新婚のような生活してるなんてね」
「す、萃香さん!?」
「萃香様!?」
楽しいおもちゃを見つけたような表情の鬼娘の姿があった
その登場に椛と文が完全に固まる
そんな二人を見て萃香が悪戯が大成功した子供のように微笑むと
「こんな楽しい事は私一人で知るのは勿体無いかな?」
「え、ええっ!?」
「それは困ります!」
二人に問いかけるようにそう呟くと
文が顔を真っ赤にして
そして椛が睨みつけるような顔で萃香を見つめた
「う~ん、でも皆に言った方が楽しそうだしな~」
萃香がそう言いながら顎に手を置いて告げた
「あ~でも、それ以上に楽しい事があれば今見たこと忘れるかも?」
「楽しい事?」
嫌な予感がしながら、文が問いかけると
萃香が笑顔で頷いて答えた
「決まってるじゃないか?殴り合いをしようって言ってるんだ
お前ら二人が勝ったら見なかった事にするし」
「……逆に萃香様が勝ったら言いふらす…と?」
「おお?わかってるじゃないか」
椛の言葉に萃香が拍手をしようとした瞬間だった
(ガキン!)
「えっ?」
なにやら激しい金属音と共に萃香は外に飛ばされた
・・・
「渾身の一撃でしたが……」
「大丈夫ですか?萃香さん」
「……いや~驚いた、まさか先に奇襲かけられるとは思ってなかったよ」
萃香が飛ばされた先で、首下を少し擦りながら呟いた
「良いね良いね、少しは暇つぶしが出来そうだよ」
「そのまま忘れてくれるとありがたいんですけどね」
文の言葉に萃香がわらって答えた
「ん~、余計にはっきり思い出してきた『エプロン』とか」
「!?」
真っ赤になりながら、文が萃香に対して攻撃を仕掛ける
「うわっ?危ないなあ」
その攻撃を萃香がスッと避けて地面に降りると
「セイッ!」
「うわわっ!?」
椛が避けた萃香に向かって大太刀を振り回してきた
それを小さく別れて萃香が避ける
「二対一か、ハンデーには丁度良いかな?」
楽しみでならないと言った表情で萃香が笑うと
「文様、天狗の鬼退治ってどうなんでしょうか?」
「むっ?良いですねそれ!私達の秘密と新しいネタの提供で一石二鳥です」
椛と文の二人が萃香の前で構えを取る
「さあ!鬼を退治してみろ天狗のバカップル!」
『だ、黙れ鬼幼女!』
そして、激しい戦いが始まった
・・・
「……随分とボロボロですな?萃香殿」
「酷い目にあったよ天魔」
前から大体一週間程して、天魔の元に萃香がボロボロの姿で現れた
「それで、あの二人にしてやられましたかの?」
「……もう二度とあいつ等二人同時に戦うことはしたくないね」
「ほう?萃香殿にそう言わせるとは」
天魔が驚きながら萃香に御酒を注ぐと
萃香が小さく答えた
「酷いんだよ!?あの二人隙間無く交互に攻撃仕掛けてくるんだから!」
「萃香殿ならその位なんとかなるのではないですかの?」
「それだけじゃない!バッチリのタイミングでのツープラトンとか
アシストとか!こっちの攻撃のタイミングをはずさせたりとか!」
鬼が泣くようなえげつない程の連携であった
「そして極めつけは私のミッシングパープルパワーに対して!」
「ほうほう?」
その時の事を思い出して萃香の目に涙が浮かぶ
「……私の足の小指に全体重かけた大太刀のカウンターあわせられた」
「そ、それは痛い」
文が起こした突風で萃香が少しだけ動きを止めた隙に
その突風に乗った椛が大きく跳び、反動をつけて
萃香の足の小指に振りかぶったのだ
いかに強靭な肉体を持つ鬼と言えど痛くないはずが無い
「もう断言する!あの二人は反発しあうライバル同士だよ」
「ほっほっほ!」
天魔が大笑いして、足に包帯をグルグル巻きにした萃香の杯に御酒を注いだ
「では、作戦は成功ですかの?」
「……ふん!あの二人を仲良くさせる事なんて無理」
「むぅ……そうでしたか」
萃香の言葉に天魔が少し残念そうに伝えると
萃香が小さく呟いた
「……もう、あれ以上は仲良くなれそうに無いからね」
「ん?なにかいいましたかの?」
「御酒御代わり!」
萃香が不機嫌そうにそう伝えると
天魔が改めて御酒を注ぐぎ質問した
「……ところで、あやつら二人は今何処に?」
「ふん、解体が速めに終ったから地獄の釜の中に二人とも放り込んできたよ、いい気味だ!」
「(あやつら無事に帰ってこれるのかのう?)」
「(嘘は言ってないからね?)」
―――
その頃旧都では、萃香が言った通り二人は五右衛門風呂の中に入っていた
「あ、文様……せ、狭くないですか?」
「まあ……今は誰も見てませんから」
貸切の五右衛門風呂の中で少し傷だらけになっている二人が一緒に入る
大きめの釜とはいえ、流石に二人では狭いが
「こうやって抱きしめたら……丁度良いじゃないですか」
「……そうですね」
二人とも、真っ赤になって残りの数日の謹慎を楽しむ事にした
「うふふ……椛もみもみ♪」
「わひゃあ!?」
俺も鑑賞しに……何してるんですか天魔様
でも酔いつぶれない程度に。
ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ------------(血涙)
さてと、熱愛文椛の釜茹で鑑賞ツアーは打ち切られたみたいだし、
熱愛文椛の罵り愛鑑賞ツアーに参加しようかな
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました
ぴょんこぴょんこ飛び跳ねる萃香を想像できて和んだw