※ この話は、作品集プチ57、『ひとりはつらいよ~萃香の受難嫁探しの旅~ -後編-』の設定を引き継いでおります。
でも天子と衣玖がお付き合いを始めた、ということだけご承知いただければ十分かと思います。
私はじっとしているのが嫌いだ。
だから周りからは良く落ち着きがないとか言われるし、天界での暮らしは私にとって本当に退屈極まりないものだった。
そう、“だった”のだ。
今は違う……ううん、これからは違うのだとそんな予感がする。
現に私は、数時間に渡って衣玖と向かい合っていたりするのだが、一向に飽きがこない。
だって衣玖ったら、さっきから赤くなったり青くなったりと、忙しくその表情を変えて何だか見ていて面白いんだもの。
「な、何を笑っているのですか、総領娘様……?」
「ああ、ううん。何でもないの。あっ! それよりまたその呼び方! 名前が良いって言ってるでしょ?」
実は私達、ふとしたきっかけから付き合う事になったんだけど……衣玖ったら中々昔の呼び方から直らない。
お固い性格が災いしたのか何なのか知らないけど、恥ずかしいとかで、どうしても名前で呼ぶのに抵抗が有るみたい。
せめて比那名居と呼んでくれたって良いものなのに。
「その様なことを言われましても……。」
「何? 出来ないの? じゃあ衣玖は私のこと、好きじゃ無かったんだねっ!?」
「そ、そんな事は有りません!」
慌てる衣玖って新鮮ですごく可愛い。
こんなのちょっと前では全く考えられなかった。
だって衣玖ったら、私が幾ら拗ねたり怒ったりしても眉一つ動かしてくれなかったし。
「か、からかわないで下さい……。」
それがまさか、こんなにも優位に立てる時が来るなんて。
いつも堂々としている衣玖の背中が、今は子猫のように丸まっている。
「衣玖が悪いんでしょう? それで、衣玖はわざわざ私を怒らせに来たの?」
別に怒ってなんかいないけど……ちょっと意地悪をしたくなっちゃった。
頬を膨らませたまま、わざとらしくそっぽを向く私に、衣玖はアタフタと両手を振って機嫌を取ろうとしてくれる。
──ホント、恋人になるって凄く新鮮な事なのね。
「総…………て、天子、様……! どうか気を悪くなさらないで──な、何を笑ってるんですかっ……!」
「だって衣玖ったら必死なんだもの……!」
口を真一文字に結んで可笑しいのを我慢するけど、どうしても無理だった。
可笑しすぎて、涙まで出て来てはどうしようも無い。
「…………必死にもなります。だって貴女の事ですから。」
「衣玖…………。」
やだ。今のちょっとキュンとしちゃったじゃない。
「そ、それで? 結局今日は何の話なの?」
また顔を赤くして俯いてしまった衣玖に、助け舟を出してあげる事に……別に、私も沈黙に耐えきれなくなったとか、そんなんじゃないんだからねっ!
「え!? は、はい! それはその……実は仕切り直しをお願い出来ないかと……。」
「仕切り直し? 何の?」
衣玖の言葉に、私は素で疑問符を浮かべた。
一体何を仕切り直すというのかしら……?
「………………告白です。」
「え……?」
別に聞こえなかった訳じゃない。ただ理解出来なかっただけ。
私に思いが伝わって無い事に、衣玖は直ぐに気が付いたようで、こほんとわざとらしく咳をすると、姿勢を正して真っ直ぐ私に向き直った。
顔は相変わらず赤いまんまだけど。
「先日の“あれ”は流石にみっともないので、もう一度……その……告白をですね……?」
“あれ”、とは泣きながら私に告白してくれた時のことだろうか……?
多分それしか考えられないけど……あの時は私も貰い泣きしちゃったし、お互い様ってことで良いと思うんだけどな。
…………それに、衣玖の正直な気持ちが聞けて、私的には大変満足だったし///
私のそんな想いとは裏腹にどうしてもやり直したいのか、衣玖は上目遣いに私を見ている。
せっかく伸ばした姿勢をまた縮こませて、そのうえ小動物見たいな瞳で見つめられても困るんだけど……主に私の理性とかが危うい事に……。
「だめ……ですか?」
瞳をウルウルさせて懇願してくる衣玖に私は軽く目眩がした……ていうかこれ、告白を迫られてるのよね? 私を誘ってる訳じゃないのよね?
そうよ、落ちつくのよ、天子……がっついては駄目。貴女はプリンセスを目指すのよ……! 王子様(衣玖)に護られる、お淑やかなお姫様でいないと──
「……だめ……って言うか、必要ないかな?」
果たして本当にそう?
お淑やかな自分が本当の私なの?
……そんな筈ない。
確かにそんな夢の様な恋もしてみたい……白馬の王子様も、衣玖ならきっと似合うと思うし。
でも結局私には私にしか成れない訳で……。
そしてそれはきっと衣玖も一緒だと思うから。
だから必要ない。
一瞬の気の迷いを払拭するように、私は頭を振った。
だって改まった形式的な告白よりも、これから何十回、何百回と耳元で囁いてくれる愛(好き)の方が良いもの。
堅っ苦しいのも衣玖っぽいけどね。
「必要ない……ですか? しかし──」
「もう! 私が良いって言ったらそれで良いの!」
ちょっぴり強引だったかな?
思い切りそっぽを向いた私だったけど、気になって片目でちらっと衣玖の様子を窺った。
すると衣玖は笑ってた。
あっ……今日初めて見たかも、衣玖の笑った顔──
「……承知しました。」
「その言葉、何だか久々に聞いた……。」
「そうでしたか?」
「そうだよ……最近の衣玖ったら私が何言っても、『駄目です』『認められません』とかしか言わなかったじゃない。」
私が天人に成り立ての頃。当時は良く私の我が儘に付き合って貰ったのを覚えてる。
まだ私が幼かったからだと思うけど。その時決まって衣玖は言っていたのだ──『承知しました』って。
「それは天子様の悪戯が次第にエスカレートしていったからです。」
「だよね~……。」
私だって自覚ぐらいはしている。衣玖には沢山迷惑掛けたって……心配掛けたって。
最初は反発だった。周りに対しての。
不良天人などと呼ばれるのが、気に食わなかったのだ……今だって好きじゃないけど。
でも次第に慣れていって、悪戯自体を楽しむようになって……つまりは退屈だったのだ。
「私の事……我が儘な娘だって、思ってる……?」
ひょっとしたら私と付き合うって言ってくれたのも責任を感じてだったりしないだろうか? 衣玖なら有り得そうで怖い……。
そうだったとしても、衣玖には嫌われたくない。衣玖が望むなら、我が儘な所、少しは見直そうと思う……ど、努力する。
「思ってますよ。」
「そっ……か。そうだよね。ごめん……。」
「どうして謝るのですか?」
「どうしてって……嫌いでしょ? 我が儘な娘なんて。」
私は恐る恐る尋ねてみた。すると衣玖は小さく首を横に振ると、すっと私の手を取った。
優しく握ってくれる衣玖の手はあたたかく、私を安心させてくれた。
「天子……私は貴女の我が儘をこれからは出来るだけ叶えてあげたいと思っています。」
「えっ……?」
思ってもいない言葉に、私はなんて応えて良いものか、咄嗟に判断出来なかった。
「だって私は貴女の恋人ですもの……恋人の願いなら何だって応えてあげたい……そう思うのは不自然じゃないでしょう?」
優しく微笑み掛けてくれる衣玖。
そんな衣玖に私は胸が熱くなるのを感じた。
この想いは何だろう?
胸が締め付けられるようで、それでいてくすぐったい様な胸のときめきは──
嬉しい……?
もちろん。大好きな人が自分を受け入れてくれたんだもの……嬉しくない筈がない。
でも、それともちょっと違う。ううん、何かが足りない……。
大好きな人に……そっか……!
大好き!
愛しい!
あぁ~もうどれでもいい!!
とにかくこれが、人を好きになるって事……恋するって事なんだ!!!
「…………そ、それじゃあ私とデートしてくれる!?」
「もちろんです。」
「私下界に行きたいな! それで甘い物とかいっぱい食べたい!」
「甘味所ですね。人里に行けば直ぐ見つかりますよ。」
「それとお米も食べたい! 昔食べた真っ白なご飯!」
「ご飯……ですか? それなら定食屋とかで良いんでしょうか? それも人里で大丈夫そうですね。」
「こうしちゃいられないわ! 衣玖! 今から行って、デートの下見をしましょう!?」
衣玖の手を引っ張って無理やり立ち上がらせると、私は逸る気持ちのままを伝えた。
もうじっとなんてしていられない。少しでも色んな所を衣玖と回りたい!
「下見って……二人で行っていたらそれはもう──」
「細かい事は良いの! 行くの? 行かないの?」
衣玖の瞳を真っ直ぐ見つめる。
すると衣玖はこれまで以上に優しく微笑むと──
「承知しました。」
私の我が儘に頷いてくれたのだった。
初々しいというのは本当にイイですよね。
最大級のニヤニヤです!
見直せば事足りる
二人が可愛い、それでオレには十分さ
全く……続きが読みたいのばかり書きおるわ
つ、続きを、続きをプリーズ!!
デートの下見ってなんだよ、もう。可愛いなww
もうこの二人は『キスの練習』とか存分にしてくれ。
ちょ、待てぇやぁ、天子も衣玖さんも可愛くモジモジしおってからにこんぐらっちゅれいしょんがぁ~
さて、レイサナマダー?