「あら、いらっしゃい」
魔理沙がアリスの家を訪れるのは、もはや定番になりつつある。
最初はおずおずと――と言ってよいかわからないが、盗賊のように何かをゲットするために来ていた魔理沙も最近では落ち着いたもので、くつろぎにきているパターンがほとんどだ。
魔理沙曰く、そういった無形のサービスをゲットできるのだからいいのだとか。
確かにアリスはお人よしなところがあって、来るものは拒まない。
しかもお茶ぐらいは出す。
そういったところは、霊夢とよく似ているところであって、魔理沙は博麗神社のほうにもよく足を運んでいる。
いまでは、だいたい半分半分ぐらいの割合といったところであった。
「今日も来たぜ」
「残念だけど特に出せるものはないわよ」
と、いいつつも魔理沙が来るだろうなと思っていたアリスは、甘いお菓子を作っておいたりする。
お菓子をかわいらしい籠目のお皿に出して、紅茶を人形たちに持ってこさせた。
しばらくは歓談。
最近は異変もなくてマッタリ調子だとか、霊夢がのんべんだらりと過ごしているだとか、そういった他愛のない会話をおもしろおかしく話す魔理沙。
アリスはたいして興味もなさそうに、しかしながら聞いてないわけではなく、優雅にお茶を楽しんでいる。
「ふぅ……満腹だぜ」
「ほら口元にお菓子ついてるわよ」
頬のあたりにくっついてるのをアリスはぬぐってあげた。
魔理沙は、おうと小さく言って少しだけ恥ずかしがっているようだったが、アリスはこの程度のことで動揺したりはしない。
「なーに紅くなって。この程度のことを恥ずかしがってるの」
「違うぜ。べつに恥ずかしくなんかなってないぜ」
「ふぅん。本当かしら」
「本当だぜ」
身を硬くして、全身をカァっと紅葉させている魔理沙。どうも最近、妙なご様子。
なにかあるのかしらとアリスは思うが、無理に聞き出そうとは思わない。
「ま。いいわ」
アリスはそこで立ち上がった。
魔理沙はアリスを見上げた。
「どこに行く気だ」
「ちょっと香霖堂に物をとりにいこうと思って。約束していたのを思い出したのよ」
「私がここにいるのに外に出かけるっていうのか」
「魔理沙は別にここにいてもいいわよ。本当にちょっとの時間だし、そのあいだは上海たちが相手してくれるから寂しくないわよ」
「人形に慰めてもらうほどおちぶれちゃいないぜ」
「どうかしらね。案外、お人形さんを抱っこしながらじゃないと眠れないんじゃない?」
「違う……」
「あっそ。じゃあ行ってくるからおとなしくお留守番してるのよ」
「勝手に漁るぞ」
「はいはい」
アリスはすぐに出て行ってしまった。
魔理沙は閉じられたドアをしばらく見つめていた。
ぷくう。
頬がふくらんだ。
「せっかく遊びにきてやってるのに……まったく、アリスのやつ」
「サミシー?」
上海がいつのまにか目の前を飛来していた。上海は腕を前のほうでたたんでいるいつものキュートな格好だ。
魔理沙は帽子を深くかぶった。
「べ、べつにそんなことないぜ」
「サミシガッテルンジャネーノ」
「ちがうって言ってるだろ」
「ホントーカナー」
「本当だぜ」
上海は丸いテーブルの中央に柔らかく着地する。
どうやら魔理沙のお相手をするつもりらしい。魔理沙もすぐに了解したが、人形相手に話しかけるなんてと少し恥ずかしい気持ちもあって、そのまま無視していた。
上海はじーっと見つめている。
物も言わずにじーっと見つめている。
じーーーーーーーーーーっ。
「だーっ! なんだよ。なにか言いたいことがあるのかよ」
「オアイテ、マカサレタ」
「お相手って言ってもな……」
上海は純粋なまなざしで魔理沙を見つめている。
吸い込まれそうな瞳である。
「ナヤミガアルンジャネーノ」
「べつにそういうわけじゃないんだがな」
魔理沙はしばらく無言のままだったが、やがて意を決したように口を開いた。
おそらくは人形だから話してしまっても問題ないと考えたのだろう。
「実をいうと私は霊夢のことが好きすぎて神社によく通ってるんだがな」
「フムフム」
「最近はアリスのこともなんだか妙に気になりだして……、その自分の心がよくわからんというか、微妙に分裂している気がするんだよな」
チラ、チラと扉のほうを確認しながら魔理沙は話す。
アリスに聞かれると恥ずかしいのだろう。
魔理沙の心境を一言で表すとするなら、心にしめるアリスの割合が、このごろ上昇を続け、ようやく霊夢と等価になってきたという感じである。アリスは霊夢と似ているところがあってもしかすると霊夢が好きという感情の派生的な形で好きなのかもしれず、なんだかもうわけがわからない状態らしい。
上海は腕を組んで、コクコクとうなずいだ。なるほど承知したといった風情。
「上海は人形のくせにわかるのか。偉いな」
「ダマレ、コムスメ」
「なん……だと」
「カンタンナコトジャネーノ。ドッチガスキナノカ、ムネニテヲアテテミロ」
「そうはいってもなぁ」
「フタリ、オモイウカベテ、ドッチガドキドキスルカ、タメシテミロ」
上海に言われるがまま、魔理沙は胸に手をあてて想像してみる。
霊夢の顔。
アリスの顔。
両方とも思い浮かべて、どちらがドキドキするのか試してみた。
「な、なんだかハズいな。あ、言っておくが上海……いま話したことはアリスには言うなよ」
「オフレコー」
どうやらわかってくれたらしい。
魔理沙もほっと一安心である。
それから、また再びドキドキテストをしてみた。
心臓の鼓動は一定だ。
「よくわからんな……。安心って意味ではアリスのほうが安心感はあるかもしれんがなぁ」
「アリスハ、ニンゲンジャナイガナ」
「まあそりゃそうなんだが……、霊夢はわりと斬って棄てるような厳しい一面もあるが、アリスはああ見えてけっこう甘いからな。もちろん霊夢も本質的には甘いんだが……、どっちかというとアリスのほうが甘い気がする」
「マリサゲンテイ」
「私限定? そんな馬鹿な……平等と公平の観念を重んじるところは霊夢そっくりだぞ」
「アリス、マリサノコト、ニンギョウサンミタイ、イッテタ」
手のかかるお人形さんみたい――
冗談めかしてそんなことを言われた覚えが魔理沙にはあった。
「確かにそんなことを言われた気がするが、だけど、それで、どうして?」
「カワイインジャネーノ」
「ば、馬鹿。そんなわけあるか」
真っ赤になって、手をわたふたさせる魔理沙。
アリスがいないから、いつもより少女度数が高い行為もなんなくこなせるようである。
上海の小さなな肢体を両の腕を優しく掴み、もふもふともて遊ぶ。上海はされるがままである。
こんなところは人形っぽさを残している。
にっこり微笑を浮かべたままで、かわいらしいところはさすがアリスのお人形だけのことはある。
「ソレデ?」
上海が続きを促した。
どうやら霊夢とアリスのどちらが好きなのか言わせたいらしい。
「もしかすると始めて会ったときに比べると、ずっとアリスのことが……、その、す、好きなのかもな」
「ダンテイシロ」
「アリスのことが好きだよ!」
魔理沙は目をつぶって叫んだ。
もちろんその前にドアのほうを確認することは忘れなかった。前にアリスが魔理沙の家を訪れたときはとても恥ずかしい本を見られてしまったが、そういう公開処刑的な恥ずかしい思いを二度とは味わいたくなかったのである。
「こうして口にだしてみると、もやもやした想いが案外、形をなしていくもんだな。感情は雲で、それが凝固していくみたいな感じか」
「モットアツクナレヨ」
「あー。わかったよ。アリスのことが大好きだよ。かわいいし、綺麗だし、お菓子作るのうまいし、好きなんだよ……キュンってなっちゃうんだよ! ちくしょうべらんめぇ!」
アリスの家中に響き渡るぐらいの大声であった。
ちょっと我に返り、シンと静まった部屋のなかで、魔理沙は小さく息を整える。
「マリサハヤレバデキルコダナ」
「ハァハァ……、ふぅ、なんだかすっきりしたぜ。ありがとうな上海」
「イイッテコトヨ」
「で、でもそろそろアリスも帰ってきそうだしな。そろそろ別の話でもしてようぜ。あ、あともう一度確認するが、今言ったことは絶対に内緒だからな。まだアリスとは友達でいたいんだ」
「ソウダナ……、ソロソロ、アリスモカエッテクルダロウ。スグチカクニイル」
「へぇ。どうしてわかるんだ。やっぱりアリスの人形だからかしらん」
魔理沙が上海の頬をつつく。上海は腰に手を当ててえっへんと偉そうな態度になった。誇らしげな顔つきである。
「シャンハイ、アリス」
「上海アリス?」
「カンカクキョウユウシテル」
「へー」
魔理沙が無言のまま立ち上がり、無言のままドアを開けてみると、無言のまま扉のすぐ近くで固まっているアリスがいた。
……じゃなきゃこの人形マジやべぇだろ色々と;ww
それで結婚式はいつでしょうか。
ま、まあ、上海的にはそりゃ、霊夢よりアリスが好きでいて欲しいのは判らなくもないが(笑)
何故上海がこれほどの攻撃力(攻め的に)を持っているんだ(笑)