Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

写真越しに見える景色

2010/03/25 22:15:38
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珍しく、射命丸文が人や妖怪を撮らずに、風景を撮っていた。
 紅魔館の屋上に上り、湖の方を向いて気ままにシャッターを押していた。そこには辛辣なコメントを残す新聞記者としての文の雰囲気は全くなかった。
「珍しい事もあるもんだ」
 少し興味の湧いたレミリアは、白い日傘を広げ屋上に上る。文はレミリアに気が付くと、気持ちの悪いほど、屈託の無い笑顔を向けた。
「どうもこんにちは。屋上、借りています」
「あなたが写真家になったなんて聞いていないわよ?」
 吸血鬼という強大な妖怪を目の前にしても、全くひるまない。それは強さでもあり、ひいては厚かましさにつながる。
「いえいえ、これは新聞記者としての仕事ですから」
 文はそう言って空を見上げ、青く澄んだ空や、千切れて様々な表情を魅せる雲を撮っていた。
「でも、ネタ帳も出さず、文字一つ書かない新聞記者なんて私は知らないけれど」
 レミリアがそう反論すると、文は少し困った様子で再びカメラから顔を離した。
「もう、あなたには関係ないですよ」
「ここは紅魔館の敷地内よ。関係無い事は無いわ」
 まったく理論は通っていないのだが、それが逆に、私は引かないわよ、というレミリアの強い意思を感じさせた。
「秘密です」
「話しなさい」
「嫌です」
「なんで?」
「どうしてもですよ」
 それだけを言って、文は逃げようとした。しかし意固地になったレミリアは誰にも止められない。
「レミリアストーカー!」
「わ、わ、不意打ちは卑怯です……」
 どうも逃げられる状況ではない、と文は分かると、しぶしぶ要求に応じた。レミリアとしては、もう少し派手に暴れられる事を期待していたが、存外におとなしい文に若干拍子抜けしてしまった。
「なによ、そんなに素直になっちゃって。気持ち悪い」
「むう、そんな事を言うんだったら、話しませんよ」
「嘘よ、嘘。今咲夜に紅茶の用意をさせるから」
 こうして、紅魔館の屋上で、珍しいお茶会が始まった。

「なにこれ?」
 机の上に広げられたのは、全て風景を撮った写真だった。しかし、映した場所が異なる。
「これは永遠亭の竹林、これは、冥界。これは、博麗神社ね」
 あとは特にない。そして紅魔館。特にこれと言った共通点は見いだせなかった。
「まあ、そうやって風景の写真を撮っているわけです」
「こんな得にもならない写真を?」
 レミリアにはさっぱり見当がつかなかった。写真たちは本当に、他愛の無い風景ばかりで特別記事にするようなものではない。他人のアルバムを見ている方がよほど暇がつぶせる、と思えるほどだ。
「それで、一体何のために?」
 レミリアがそう尋ねると、文は少し苦笑いを浮かべた。
「これは、ある人の見ていた景色を追っているのですよ」
「はあ?」
「その人はすごく面白い人でねえ、今だから言いますけど、私も結構好きだったんですよ。だから、好きな人の見ていた風景を私も見てみたいと思いましてね」
 それを聞いて、レミリアは再び写真に目を落とした。じっと見つめる。
 そのうち、ああ、とレミリアは納得した。そう言う事か。
「なるほどね。あなたも可愛らしい所があるじゃない」
「自分でも何やっているんだろう、って思いますよ」
「生き物が映っていないのはなんで?」
「だって、その人の瞳に、私以外の人が映っていたら嫉妬してしまうから」
「まさか」
 レミリアは思わず笑った。文はバツが悪そうにしていた。
「……というのもありますが、一番大きな理由は、人妖は変化しすぎてしまって、再現が出来ないからです。景色だけならまだ可能ですから」
 レミリアはそこまで聞いて、紅茶を少し口にした。
「それでこの写真をどう使うのよ?」
「さあ、まだ決めていません。ただ、あの人が歩んだ道を行き、あの人が何を考えていたのかを妄想しているのです」
「でもあなたは、新聞記者として、ここにきている」
「そうでないと、その人に失礼な気がするんです。情けない事に、私はその人の前で、新聞記者としての自分しか見せていませんでした。だから、例え夢の中だろうが、妄想の中だろうが、私は新聞記者でなくてはいけない。実を言うと、本当の私を見せるのが少し怖いんです。そして、この場所が最後です。これから帰って新聞を作らないと……」
 文は優しく笑った。レミリアには、その笑顔が弱々しい物とは思えなかった。全てを受け入れて、なおも歩み続ける者が見せる、世界一強くて優しい笑顔だった。
 まどろっこしい、難しい子だ、とレミリアは思う。
 紅茶が無くなると、レミリアは咲夜を呼びつけて代えを持ってくるように命じた。今ここで、文を帰すわけにはいかない。
「今も新聞記者のつもり?」
 レミリアが尋ねる。
「そうですよ」
 文も楽しそうに言葉を紡ぐ。
「そうだ、これからこの紅魔館も撮るんでしょう?」
「ええ」
「じゃあ、さっそく撮りましょう。新聞の見出しは私が考えてあげる」
 文はしばらく考えた後、ぺこりと頭を下げた。
「遠慮しておきます」
 むうっとレミリアがわざとらしく頬を膨らますと、文はあはは、と笑った。その笑顔は眩しい太陽の下で、さらに輝いて見えた。
「この紅魔館ぐらい、新聞記者としてではなく、射命丸文として、写真を撮ったらどう? 最後なんだし」
「ううん、しかし……」
 文は恥ずかしそうにそう言った。
「いいじゃない。私が許すわ」
 その言葉に、文はしばらく茫然と立ち尽くした後、少し震えながら嬉しそうにカメラを持ちあげた。
「では、では、失礼します」
 そして文は、おもむろにレミリアとのツーショットを撮った。

「ああ、今タイトルを思いつきました」
 写真を撮り終え、ひとしきり笑った後、文は声をあげる。
「レミリア、ストーカーされるって見出し」
「なにそれ。まあ間違ってはいないけど」
 レミリアと文はいつまでも屋上で幸せそうに笑っていた。

 後日紅魔館に新聞が届いた。たった一部だけの号外だった。
 そのいくつかの写真と共に同封された紙面には、筆者は新聞記者としてではなく、射命丸文としてクレジットされ、内容も手で書かれたものだった。
 宛先はもちろん。
お読みいただいてありがとうございます。
文が新作の主役ということで、何か一つ文が主役で書いてみようかと思い書きました。
最初考えていた構想と、全く違うものになりましたが……
suke
[email protected]
http://aporocookie.blog119.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あやれみ・・・!?
どこかできいたような、きかなかったような・・・・・・
2.ずわいがに削除
文レミ!そういうのもあるのか!
なんかすっきりさっぱりした情景が浮かんで良い気分
3.名前が無い程度の能力削除
なんかいいなあ。
こういう雰囲気は好きです。