ある晴れた日の正午を少し過ぎた頃、綿月邸の昼休み。
誰かが、私の部屋のドアをノックした。依姫だろうか、兎たちの誰かだろうか。
「どうぞ」
返事をして、こちらからドアを開ければ、そこにいたのは我が家の門番の一人。
いつもは明るいその表情は憂いを帯びており、どこか思い詰めているようだ。髪の毛も、若干傷んでしまっている。
そういえば、最近顔色があまり良くなかったな、休みを取らせてあげた方がいいかしら、とか思いつつ部屋に招き入れて椅子を勧めた。
「と、豊姫さまよりも先に俺が座るわけにはいきません」
あらあら生真面目。正式な場ではないのだから、椅子に座る順番なんて別に気にしないのに。
まあ、ここで「気にしなくていいわよ」と返してしまえば座る、座らないで押し問答が始まってしまうだろうから、言われた通りに先に座った。
「それにしても、あなたの方から訪ねてくるなんて珍しいわね。どうかしたの?」
依姫や時々やってくる兎たちのために用意しておいたお菓子を差し出しながら問いかければ、彼はうつむいて黙り込んでしまった。
うむむ、やっぱり悩み事だろうか。
「あの…」
「なあに? なんでも言ってごらんなさいな」
「依姫を下さい」以外なら。おどけながらそう付け加えておいて、私は彼の次の言葉を待つ。
さあ、なんとくるのだろう。
「その…俺、恋をしてしまったみたいなんです。どうすればいいんでしょうか…」
「あら、いいことじゃないの。相手はどなた?」
すごく気になる。結構な年月生きてきたつもりだけれど、やっぱりこういう話にはいつまでも弱い。
「そ、それはちょっと」
頬を染めた彼は、相手が誰なのか教えてくれない。むう、残念だ。
けれど、ここでしつこく食い下がってしまうと、きっと彼は話を打ち切ってしまうに決まっている。
ここは大人しく引き下がっておこう。
「じゃあ、せめてどんな方なのかは教えてちょうだいな。そうじゃないと、どうしようもないわよ?」
引き下がりつつも、質問は忘れないけど。
「あー…その、ええと」
一度話し始めれば、後は楽だった。
柔らかそうな髪と童顔の愛くるしさ。訓練への熱心さ。素直な性格。
相手の美点を、熱く、優しく、彼は語ってくれた。
彼の想いの深さが、伝わってくる。
そして同時に私の頭に浮かぶ一つの影。
「…押しに弱いから、俺がフォローしないとって思うんですが…あ、すいません豊姫さま。俺、ずっと喋りっぱなしで」
「いいのよ。こういう話は乙女の大好物ですもの」
「それで…俺、どうしたらいいんでしょうか」
「あら、答えはもう出てるじゃない」
告白、してしまえばいいのよ。
にっこり笑ってあまりにも簡単に私が言ったからだろうか。彼は目を丸くして、大袈裟なくらいにぶんぶんと首を横に振る。
「そ、そんな、おっ俺…その、初めて会った時高圧的な態度をとってしまって…あいつは普通に接してくれているんですが、内心どう思われてるか…」
言い淀む彼に私はたたみかけた。
「うだうだしてるうちに、誰かに奪われてしまうかもしれないわよ?」
きっと、今の私は笑みを浮かべ迷い人を見つめる意地悪な魔女。
ねえ、どうするの?
再三の魔女のけしかけに、彼は覚悟を決めたのか、快活に笑って立ち上がる。その表情はどこか晴々としていた。
「豊姫さま、俺、告ってきます! 当たって砕けてきます!」
「ふふ、幸運を祈ってるわ」
一礼して、勢いよく部屋を飛び出していった彼に後ろから手を振って。これは面白いことになりそうだと、私は一人にんまりと笑う。
「お姉様ぁーっ!! そこで門番たちが口付けしてたんですけど!? あの二人って両方男ですよね!? どっちかが男装の麗人とかじゃないですよね!?」
真っ赤な顔をした依姫が絶叫しながら部屋に飛び込んでくるまでに、大して時間はかからなかった。
誰かが、私の部屋のドアをノックした。依姫だろうか、兎たちの誰かだろうか。
「どうぞ」
返事をして、こちらからドアを開ければ、そこにいたのは我が家の門番の一人。
いつもは明るいその表情は憂いを帯びており、どこか思い詰めているようだ。髪の毛も、若干傷んでしまっている。
そういえば、最近顔色があまり良くなかったな、休みを取らせてあげた方がいいかしら、とか思いつつ部屋に招き入れて椅子を勧めた。
「と、豊姫さまよりも先に俺が座るわけにはいきません」
あらあら生真面目。正式な場ではないのだから、椅子に座る順番なんて別に気にしないのに。
まあ、ここで「気にしなくていいわよ」と返してしまえば座る、座らないで押し問答が始まってしまうだろうから、言われた通りに先に座った。
「それにしても、あなたの方から訪ねてくるなんて珍しいわね。どうかしたの?」
依姫や時々やってくる兎たちのために用意しておいたお菓子を差し出しながら問いかければ、彼はうつむいて黙り込んでしまった。
うむむ、やっぱり悩み事だろうか。
「あの…」
「なあに? なんでも言ってごらんなさいな」
「依姫を下さい」以外なら。おどけながらそう付け加えておいて、私は彼の次の言葉を待つ。
さあ、なんとくるのだろう。
「その…俺、恋をしてしまったみたいなんです。どうすればいいんでしょうか…」
「あら、いいことじゃないの。相手はどなた?」
すごく気になる。結構な年月生きてきたつもりだけれど、やっぱりこういう話にはいつまでも弱い。
「そ、それはちょっと」
頬を染めた彼は、相手が誰なのか教えてくれない。むう、残念だ。
けれど、ここでしつこく食い下がってしまうと、きっと彼は話を打ち切ってしまうに決まっている。
ここは大人しく引き下がっておこう。
「じゃあ、せめてどんな方なのかは教えてちょうだいな。そうじゃないと、どうしようもないわよ?」
引き下がりつつも、質問は忘れないけど。
「あー…その、ええと」
一度話し始めれば、後は楽だった。
柔らかそうな髪と童顔の愛くるしさ。訓練への熱心さ。素直な性格。
相手の美点を、熱く、優しく、彼は語ってくれた。
彼の想いの深さが、伝わってくる。
そして同時に私の頭に浮かぶ一つの影。
「…押しに弱いから、俺がフォローしないとって思うんですが…あ、すいません豊姫さま。俺、ずっと喋りっぱなしで」
「いいのよ。こういう話は乙女の大好物ですもの」
「それで…俺、どうしたらいいんでしょうか」
「あら、答えはもう出てるじゃない」
告白、してしまえばいいのよ。
にっこり笑ってあまりにも簡単に私が言ったからだろうか。彼は目を丸くして、大袈裟なくらいにぶんぶんと首を横に振る。
「そ、そんな、おっ俺…その、初めて会った時高圧的な態度をとってしまって…あいつは普通に接してくれているんですが、内心どう思われてるか…」
言い淀む彼に私はたたみかけた。
「うだうだしてるうちに、誰かに奪われてしまうかもしれないわよ?」
きっと、今の私は笑みを浮かべ迷い人を見つめる意地悪な魔女。
ねえ、どうするの?
再三の魔女のけしかけに、彼は覚悟を決めたのか、快活に笑って立ち上がる。その表情はどこか晴々としていた。
「豊姫さま、俺、告ってきます! 当たって砕けてきます!」
「ふふ、幸運を祈ってるわ」
一礼して、勢いよく部屋を飛び出していった彼に後ろから手を振って。これは面白いことになりそうだと、私は一人にんまりと笑う。
「お姉様ぁーっ!! そこで門番たちが口付けしてたんですけど!? あの二人って両方男ですよね!? どっちかが男装の麗人とかじゃないですよね!?」
真っ赤な顔をした依姫が絶叫しながら部屋に飛び込んでくるまでに、大して時間はかからなかった。
俺、男なんだけどなぁ・・・まぁいいか・・・
ベーコンレタスにそんな意味があったとは知りませんでしたww
腐女子の素質を持つお姉さんも耐性のないよっちゃんもかわいいなあ!
読み返してみて「いいのよ。こういう話は乙女の大好物ですもの」ああ、なるほど……