Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

フランちゃんとケーキ

2010/03/24 00:30:59
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「咲夜の作るケーキは美味しいわね」

「恐れ入ります」

 地下室で一人、私は咲夜の作ったケーキに舌鼓を打つ。
 咲夜も一緒にどうかと勧めたが断られた。
 人間は夜に食べると太るらしい。
 別に私達、吸血鬼が朝に食べても太りはしないだろう。
 最近、朝遊びの増えた姉が妙な運動をしている場面を何度か目にする機会があった気もするが、たぶん気のせいだろう。
 ともあれ、人間の生態は興味深いね。

 「これには人間が入っているのよね?」

 「正確にはその一部、ですが」

 「ふ~ん」

 私は最近まで人間を見た事が無かった。
 私達吸血鬼の餌という事は知識として持っていたが。
 それがどういったものかと想像していたのだが、姿形はあまり私とは変わらないつまらないものだった。
 これも最近になって気付いたのだが、目の前の咲夜も人間らしい。
 姉や私と大して変わらない形をしていて、妖精にしてはデカイし賢い。
 なので同種かそれに近しい何か、別種の妖怪かと思っていた。
 咲夜の作るケーキは美味しい。
 それは人間が入っているからという訳ではない。
 入っていない他の物も普通に美味しいからだ。
 ただ、やはり私は入っている方が好みである。
 この濃厚な芳醇さは何とも言えない高揚感を私に与えてくれる。

 「ご馳走様」

 「お粗末さまです」

 「少し出かけてくる」

 「フランお嬢様が、ですか?
  珍しいですね。お供いたしましょうか?」

 「アイツと違ってお守りはいらない」

 別に姉を子供と侮辱するつもりは無い。
 実際永遠の子供でいる事を選んだのは他でもない姉自身ではあるが。
 あれはあれで聡明だ。
 咲夜も守りというより体面で侍らせているだけだろう。
 純粋に気に入っているというのもあるだろうが。
 咲夜の同行を断るのもただ私は一人でいる方が好みなだけだ。
 別に多数と戯れるのも悪くは無い。
 しかし、一人はもっと良い。
 何者にも束縛されない、ただ絶対な個を実感できる。
 今の私の心境ならば尚更だ。

 「日の出までには帰る。夜食はいらない」

 「はあ、どちらかで済ませるお積もりですか?」

 「そんなところ」

 咲夜は自分の知る数少ない館の外での私の知り合いを描いたのだろう。
 紅白と黒白。
 私はアイツ等の家にも片手で数える程度だが行った事がある。
 無論、咲夜もそれを知っている。
 だから、そう思ったのだろう。
 でも、それは正解ではない。
 ただ、外で食事を済ませるのは本当なので私は曖昧な返事をした。

 「行って来ます」

 「行ってらっしゃいませ」

 私は紅い館を飛び出した。
 門番は相変わらず居眠りをしている。
 夜、吸血鬼の館に来る者など命知らずの阿呆しかいない。
 門番は私達が眠っている時間を守っていれば良いのだ。
 昼間も寝ているらしいが、私も大抵夕暮れまでは寝ているのでそれが本当かは知らない。
 自分で実際に確認を取るまで、聞きかじりの情報は信用に値しない。
 だから私も今日は確認したくなったのだ。
 私が今まで本当に人間を食べていたのかを。





 「いない」

 忌々しい太陽が姿を隠し清い月明かりが照らす夜、私達の時間。
 だからこそか、この時間が苦手らしい人間の姿は全く見えない。
 その事は前情報としてあったのでそれ程気にはならない。
 それが真実だったという事で、私はまた一つ賢くなっただけだ。
 この先に人里があるらしい事も知っている。
 それは一つしか無いらしい。
 それが本当で咲夜が人間を調理しているのも本当なら、咲夜はそこで人間を調達している事になる。
 ただ見つけるだけなら紅白か黒白で確実なのだが、アイツ等は不味そうで嫌だ。何となくだが。
 ここで今更だが気が付いた。
 咲夜がいたじゃないか。
 アイツは美味そうだ。何となくだが。
 一応姉の物だが少し位なら大丈夫ではなかろうか。
 でも外で食べて来ると言った手前、今帰るのはバツが悪い。
 どうしたものかと悩んでいると眼下に私達と同じ様な姿のモノがいるのが見えた。
 見つけたか。
 眼下のそれに向かって急降下で接近する。
 こういう時は無駄に高い身体能力に感謝する。
 普段は本当に無駄なのだ。
 軽い衝撃波を起こしてしまい少し地面が抉れたが、着地は淑女に。

 「こんばんは。良い月夜ね」

 出会いの挨拶は忘れない。レディですから。
 しかし相手からは返事が無かった。
 それどころか変な表情のままこちらを凝視している。失礼な奴だ。

 「いや、言葉を解せ無いだけかも」

 「いきなり目の前に空から砲弾の様に突っ込んできてその言い様は無いわあ……」

 「あら、こんばんは」

 「……こんばんは」

 一応は言葉も通じる様で何よりだ。
 ただ、今度は半眼で睨んでくる。不躾な奴だ。
 ひとまずこの食べ物候補を観察してみる。
 随分と長い髪をしている。手入れが大変そうだ。全部白髪だから気にして無いのかも。
 もんぺ? 何か野暮ったい。
 色合いはあの紅白に似ている。なら私にも似てるか。どうでもいい。
 私達と似たような姿、でも吸血鬼っぽくないから人間だろう。たぶん。
 分からない事は直接本体に聞いてみよう。

 「たまたま里の近くに来てみれば、これかい……
  で、何の用だいお嬢ちゃん。
  まさかあんな登場の仕方をして何も無しじゃあ、流石に私も怒るよ?」

 「アナタは人間?」

 「はあ? ……まあ、一応そのつもりだけどさ」

 やったあ。当たりを引いた。
 早速味見をしよう。

 「さて、妖怪のお嬢ちゃん。なんでこんな処にいるんだい?」

 「あれ、私が何で妖怪と分かったの?」

 「分からんでか!
  まあ、ともかくだ。こっちの質問にも答えな」

 「人間を食べに来たの」

 「……こんな夜中に人里を襲う気たあね。
  最近の妖怪は決め事も守れないのかしら?」

 「知らないわ。そんな事」

 何か決まり事があるらしい。
 朝しか人間の取引をしていないとか?
 どちらにしろここは里の外。
 そして目の前に現物がいるのだから関係ない事だ。

 「この国には刺身って料理があるらしいじゃない?
  生の肉をそのまま食べるってヤツ」

 「こっちに来てから滅多に食った事無いね」

 「美味しいらしいじゃない?」

 「まあね」

 「私、調理済みの物や加工品しか食べた事無いの。
  だから食べてみたいの。
  人間の刺身」

 いきなり視界が赤い何かに覆われた。
 熱い。
 何かの攻撃か、普段邪魔でしかないがこういった時は頼りになる持ち前の身体能力で一応直撃は避けたが、予期せぬそれに反応は完全に遅れていた。
 迂闊だった。
 そういった積もりではなかったのだが、弾幕ごっこの挑戦と取られたのだろう。
 熱い。
 左腕を見てみると、それは見事に炭化していた。
 成る程、目の前の人間が放った火か。
 人間はナイフ、札や針、星やレーザー以外に火も使う、と。
 私はまた一つ賢くなった。

 「……今のは警告だ。さっさと帰りな、お嬢ちゃん。
  次は腕だけじゃあ、すまないよ?」

 「痛いわね」

 「まさか、無防備で受けるとは思っていなかった。
  そこはすまなかったね」

 「今は弾幕ごっこする気なんて無いの」

 遊びに来たのではない。
 味を観に来た。

 「だったら尚更大人しくっ!?」

 私の目的からこの人間の話をこれ以上聞く必要は無い。
 そのまま無視し、炭化して邪魔な腕をもいだ。
 その様子を見た人間は何故か固まって動かない。
 チャンスかな。
 生物に試すのは初めてだ。
 初めては良い。
 ワクワクする。
 無事な右腕に目の前の人間の『点』を移す。

 「おいおい、何やってるんだアンッ!?」

 そして、握り潰す。
 目の前の人間が発した言葉は声とは言えない音となり、原型が分からない様な物体となり四散した。
 柔らかいお肉以外に白っぽい硬めの個体も混じってる。
 完全に粉砕されているので、元の形とそれが何処にあったのかは分からない。
 それと紅い液体も一緒に飛び散ったが、これも人間の部品なのかな?
 人間って面白い構造しているのね。
 今度機会があったら、裂いて中から確かめてみようかな。
 きゅっとしてどかーん。
 以前の隕石には出来たから人間にもと試してみたんだけど、こういうのも壊せるもんだね。
 今度は姉にも試してみようかな。
 もいだままでは何かと不便なので左腕も生やす。
 にょきにょき。この感触が気持良い。
 さてと、早速食べてみよう。





 「美味しくない~」

 刺身は鮮度が大切らしい。
 これも鮮度は良い方だろう。
 でも、正直あまり美味しいとは感じない。
 あんなに美味しいケーキに本当にこれが入っているのだろうか?
 やはり、私が今まで食べていた物は人間ではなかったのか?
 煮るなり焼くなりすると美味しくなるのかな?
 ひとまず結論、人間の刺身は美味しくない。
 私はまた一つ賢くなった。
 白くて硬い物体は味は薄いが歯応えが堪らない。
 私好みだ。ばりばり。
 でも、これがケーキに入っているとは考え難い。
 そして意外な本命があった。
 紅い液体だ。
 刺身と比べて紅い液体の方は美味しい。
 比べるのが間違っている位に美味しい。
 この何とも言えない芳醇さと濃厚さ。
 家でよく飲む紅茶の味に似ている。
 もしかしたら、ケーキの材料にはこっちを使っているのかも。
 人間の一部、と咲夜も言っていたし。
 確証は持てないが、たぶん合ってる。
 私はちゃんと人間を食べていた、と。
 何か引っ掛かるが、まあ、知的好奇心とお腹は満たしたので良しとしておこう。
 周りに散らばった人間の破片を見渡す。
 そろそろか。
 経験からの推定だったが、思っていた通りの事が起きた。
 それら破片は光を放ち、光その物になったかと思うと寄り集まっていく。
 それは火の鳥の様な形を取り暫くすると、その中から不躾で野暮ったい人間が現れた。
 過程を見ると少し想像とは違ったが、やはり人間は元通りになった。
 そして人間は復元されるやいなや、何故か私に食って掛かってきた。

 「この、なんて事しやがる!」

 「きゅっとしてどかーん」

 「可愛く言ってもダメ!」

 何をこんなに怒っているのだろう?

 「弾幕以前にスペルカードルールも何もあったもんじゃ無いぞ、あれは!」

 「だって、再生するでしょう?」

 「ふざけるなよ!
  普通の人間がバラバラになって再生する訳が――」

 「だってアンタも元通りになったじゃない。私の左腕の様に。」

 「っ! 私は……」

 「人間でしょう。最初に聞いたわ」

 人間は私達吸血鬼に似た様な生物だ。
 ならば特性も似ているのではないか。
 人里にもそんなに多くの人間は居ないらしい。
 人間を食う妖怪はそんな人間の数よりも多いらしい。
 全て本当だと仮定する。
 ならば、どう配給をしているのか?
 簡単だ。
 一匹から何度でも取れれば良い。
 こんな風に。
 私の論は実証された。
 私はまた一つ賢くなった。

 「おいこら待て、人の話を聞け!」

 目的は達した。
 これ以上人間の話を聞いてどうだと言うのだろうか?
 それより重要な事がある。
 家を出る時に日の出までに帰るという約束を咲夜としていた。
 約束は守らないといけない。
 そろそろ夜明けだ。
 だから、早く帰ろう。
 それにグズグズすると朝日に焼かれる。
 はて、本当にそうなのか?
 そういえば私は生まれて此の方、日の光を浴びた事がない。
 実際にそうなるか試しても良いかと思ったが、日の出までには帰ると咲夜に約束していた。
 約束は守らないといけない。
 だから、早く帰ろう。
 今日は珍しく充実した日だった。
 あまり自分から動き回る性分ではないが、楽しかった。
 たまにはこういう日も良いのだろう。
 明日も咲夜に美味しいお菓子を作ってもらおう。
 人間が入っていようが入ってなかろうが咲夜の作るご飯やお菓子は美味しい。
 だから、明日も作って貰おう。
 人間の紅い水が入ったケーキを。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

 っ      よ
  と    い フ
   も   な  ラ
    狂   ら  ン
   気   な    ち
    っ く      ゃ
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             ウ
              フ
             フ
コッパ・テン
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
充分黒いよフランちゃん
なんか、子供の純粋さがそのまま出たみたいな感じですね……。
ドキドキして面白かったです。
相手が相手だったけど、もし違う人だったらどうなったのかな?
2.奇声を発する程度の能力削除
充分狂気ですよ…
いや、でもこれが本来の姿なのかな?
3.ずわいがに削除
ほほほん、この後発展していけば面白そうな話が出来上がる予感。
このフランは狂気というか、純粋に「妖怪」なんですね。