Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

はるですよー

2010/03/23 14:40:33
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冬という名の季節が、終わりの合図を鳴らし始めると、

雪解け水が川を流れ、蕗の薹が顔を出し始める。

冬眠していた寝ぼけ顔の動物たちに、木々はおはようと声をかけ、

二度寝を決め込む者に、穏やかな風が頬を撫でる。

鳥たちは謡い、花は太陽というスポットライトの下で踊り、妖精が空高く跳び舞う。

そんな春の兆しが、幻想郷に訪れていた。



「はるですかー?」

「はるなのかー」

「はるだとおもいますよー」


此処は「全ての起点である終点」と呼ばれる博麗神社。

ここには楽園の巫女が住んでおり、彼女に惹かれる人や妖怪達の集まり場にもなっている。

周りを見渡すと、仄かに色づいた木々が神社を取り囲んでいる。

毎年綺麗に咲く桜の蕾も、先が割れ始めていた。

あと数日もしたら花見と称して、満開の桜の下で三日三晩も続く宴会が開かれるだろう。


そんなまだ芽吹き始めた桜の木の下に、一人の妖精が立っていた。

春を告げる妖精、リリーホワイトである。

リリーは数ある木の一本に手を当て、声を掛ける。

しかしその様子は何処かおかしかった。


「は・る!」

「はるるー?」

「はる~……」


むぅ、と難しい顔をしてなんとか声を出そうとしているようだった。

声は震え、恐々と肩を張り、結果それは声というよりも囁きのようになってしまっている。

目の前の大きな桜の木。その木は周り木のどれよりも大きく、幹には何枚も御札が貼られている。

しかしそれは、芽をつけず一人冬に取り残されていた。


「んー……はるでしたー?」

「勝手に春を終わらせないでほしいわね」

「ほえ?」


突然、リリーは後ろから声を掛けられた。

振り返ると、頭に大きな紅いリボン、服も紅と白を基調とした巫女服を着た少女が立っている。

この神社に住む巫女、博麗 霊夢だ。

箒を持っているところを見ると、境内の掃除の為に出てきたのだろうか。


「あんたたしか……リリーだっけ?」

「はい~春を告げる妖精、リリーホワイト、ですっ!」


リリーは、めいいっぱいの笑顔で自分の名前を言い放った。

抱きしめたくなるような、そんなぽわわんとした雰囲気に、

霊夢はついつい箒の先端で、リリーのおでこを突いてしまった。


「い、痛いです! 何するですかー!」

「ごめん、余りにも可愛くてつい、ね?」


突かれたおでこを小さな両手で押さえるリリーの頭を、霊夢は撫でた。

リリーは涙目な上目遣いで霊夢睨もうとするが、優しい手つきについ頬が緩んでしまっている。

どうやら頭を撫でられるのは、大好きなようだ。


「ところで、こんな所で何してるの?」

「春を告げに来たのですよ~?」

「そういえばあんた、毎年"はるですよー"って言いながら、この辺飛び回っていたわね」

「はい~。此処はいつも春が満ち溢れてます~」


そういうとリリーは大きな桜の木の方へ向き直した。

そして両手を広げ、木へ呼びかける。


「はるーはーるー出でよはる~」

「何してるのよ」

「この子の春を起こしているんですよ~?」

「春を起こす? あぁそういう事ね」

「今年はお寝坊さんです。毎年一番早くて、一番大きくて、一番綺麗に咲いているのに~」


リリーはまだ木に向かって、はるーはるーと言っている。

幹を掴んだり叩いたり、キスをしたりするが、桜は一向に咲く気配がなかった。


「リリー。その木はね、もう咲くことは無いわ」

「はるー?」

「枯れたのよ。冬のうちにね」


霊夢も桜の木に手を当てる。

霊夢が生まれるずっとずっと前から、此処にある桜の木。

彼女にとっても、この木は思い出深かったのだろう。

リリーにも聞こえないような小さな声で何かを呟いていた。


「お寝坊さんじゃないです?」

「えぇ」

「でも、春なんですよ?」

「悲しいけれど、いくら呼びかけても……起きる事は無いのよ」

「そんなこと無いです! 去年もこの子は満開だったです! 寝るときだって私を優しく包んでくれていたです!」

「あんた春の間、此処で寝ていたのね。通りでよく見かけたわけだわ……」


木を見上げると、妖精の胴ほどもある太い枝がある。

おそらくそこで寝ていたのだろう。


「桜さんに元気が出るように沢山歌います!」

「だからね……」

「私がんばります! 起きてくれないのは、きっと春をちゃんと告げられていないからです。がんばって練習します!」

「はぁ……勝手にしなさい」


霊夢はその場に背を向けて離れた。

おそらく境内の掃除に戻ったのだろう。

残されたリリーの目には、決意の光と……少しの涙が溜まっていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 





「……あんた、まだ居たの」

「霊夢……さん?」


太陽が西へと沈みかけている時間、大きな影がリリーを隠す。

影の主である霊夢の手には、箒はすでに無かった。


「春とは言ってもこの時間になるとまだ寒いわ。こんな所にいたら風邪引くわよ?」

「おかしいんです……背中がとても、冷たいのですよ。どんどん冷たくなっていくです……」


リリーはまるで壊れた人形のように、木の幹に背を預け座り込んでいる。

声も、ずっと春を告げていたせいか、枯れてしまっている。

これでは風邪を引かなくても、一週間は春を告げる事はできないだろう。


「はる……ですよー。はるなんですよ? 起きないと、めってされちゃうんですよ?」


霊夢は俯くリリーから視線を外した。

必死になって起こそうとした桜の木を見上げ、

そして霊夢は気が付いた。


「リリー……よくがんばったわね」

「がんばっても、でも、この桜さんは起きてはくれなかった……です」

「何言ってるのよ。あれを見てみなさい」

「あれって……あっ」


一番太い枝の先。

奇跡か、リリーの想いがそうさせた必然なのか。

そこには一つだけ、桜の花が咲いていた。

最後の想いの欠片。5枚の薄い花びらが、夕日を反射している。

でもそれは弱弱しく、だけど最後の力で精一杯咲いていた。


霊夢は、リリーを抱きしめた。

涙で崩れた顔を、胸に隠すように。

リリーの悲しみを、半分でも自分の中へと移せるように。

震える体を、ぎゅっと強く抱きしめて。


「リリー。まだ寒い?」


霊夢の胸の中で、小さく頭が横に振られるのが分かる。


「暖かい……です」

「これからは、私が枝になってあげる。私が生きている間、あんたの布団になってあげる」

「霊夢さん……」

「だから今日はもうおやすみなさい。そしたら明日また、笑顔をみせてくれるわよね?」

「……はぃ」


胸に預けられているリリーが急に重くなる。

安心したのか、霊夢の言葉通り寝てしまったようだ。

霊夢はリリーを抱っこしようと顔をあげた。

そして、ふと目を木へと移すと、そこには一本の線があった。


「これは……懐かしいわね」


それは霊夢が6歳の頃に付けられた傷。

さらにその下には5歳の頃に付けられた傷もあった。

そしてその隣に、先代の博麗の巫女の名前が彫られた線もあった。

かなり薄くなっていたり消えていたりするが、その隣にも線はあるはずだ。


「長い間お疲れ様。そして……ありがとう。ずっとこの子を守ってくれて。私達を見守ってくれて」


風が流れた。

霊夢の髪の毛が横なぎにはためく。

霊夢にはまるで桜の木が、風邪を引くからさっさと家へ帰れと言っている様に思えた。

事実そうなのかも知れないし、違うかもしれない。

だから彼女は、後は何も言わず立ち上がった。一枚の御札を取り出し、裏に一言添えると、

すでに何枚も桜の木の幹に張られている御札達の横に貼り付けた。

そして、桜の木に背を向ける。

振り返らずに、

ただまっすぐに、その場を後にした。











過去の楽園の巫女を最後まで見送った桜の木。

まだ幼い、現在の博麗の巫女の背中を見送った桜の木。

その最後の、たった一輪の桜の花が、

春の風に吹かれ、古い御札と新しい御札と共に、茜色の空へと舞い飛んでいった。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 










その年の春。

少しだけ例年よりも暖かかった春は、無事に過ぎ去った。

夏が来て、秋が来て、冬が来て……

また彼女はやって来るだろう。

そしていつものように元気な声で歌うのだろう。

力強く、優しく、桜のような綺麗な声で。




「はるですよー♪」
母校の桜の木が無くなったと聞いて悲しいこじろーです。

リリーって可愛いですよね。妖精の中でも一番好きです。
大ちゃんもかわいいしゾフィー(ゾンビフェアリー)も可愛いし、あぁもう我が妖精になりたい! でもなれるのは妖精じゃなく魔法使い。うぼぁ。

それではまた将来にお会いいたしましょう。またにてぃ~♪



「私は春の妖精! 仮面リリーブラックRX!! ギミ゙バ、ミ゙ダガ、ア゙ イ゙ ガー♪」
「ホワイトちゃん、私の服を着て何やってるの~?」
「ブラックちゃん!? あ、えとこれはそのぉ……キングストーンフラ○シュ」
「きゃ、まぶしっ!」
こじろー
http://maira001.blog113.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
凄く優しい気持ちになれました。

はるですよー♪……私にも春が来てほしいorz
2.名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー けど後書きがwww
3.ぺ・四潤削除
ああ、暖かいな……心が癒されました。

私にも……春が……はる……来るといいな……orz
4.名前が無い程度の能力削除
春ですな。まごうことなく、春ですな。
5.名前が無い程度の能力削除
ぽっかぽかだよ
6.ずわいがに削除
>抱きしめたくなるような、そんなぽわわんとした雰囲気に、
構わん、抱き締めろ、強くだ!

おいぃ、これマジで胸があったかくなる話じゃないですか…おぃぃ
7.こじろー削除
>はるですよー♪……私にも春が来てほしいorz
我には嫁(二次元)が居るからすでに春は来ている!
か、悲しくなんかないもんね!

>イイハナシダナー けど後書きがwww
リリーも妖精だから悪戯が好きなはず。しかもかわいい。

>私にも……春が……はる……来るといいな……orz
我には嫁(妖夢の半霊)がいるヵらスデにハルはキていル!

>春ですな。まごうことなく、春ですな。
現実世界にもはやくリリー来てほしいな~
夜が寒いから主に布団の中に来てほしい

>ぽっかぽかだよ
心まで温まっていただけたなら幸いです♪

>構わん、抱き締めろ、強くだ!
GATOCHU ZERO STYLE!!

>おいぃ、これマジで胸があったかくなる話じゃないですか…おぃぃ
さて、桜が咲いたぞー。続きを書いてみようかな