「あらあら一輪。雲山の上に寝ているの?」
「姐さん。丁度雲みたいなベッドで昼寝にはもってこいなんですよ。今日みたいな陽気だとひなたぼっこしながら寝転がると最高に気持ちよくって」
「私もお邪魔してもいいかしら?」
「もちろん!」
それがいけなかった。
雲山に飛び乗った白蓮は、そのまま突き抜けて地面に顔面から着陸し、清楚な顔立ちに鼻血という最高の化粧をして、笑顔のまま立ち上がった。
「あ、あの姐さん。雲山が」
止せばいいのに、一輪は雲山がぼそぼそと呟いた声を代弁する。
「えっと、心の清い者しか、乗れないんだとか」
「南無三!」
白蓮の機嫌をこれ以上なく損ねてしまった二人は、命蓮寺を追い出されてしまったのだった。
「で、うちに来たってわけ?」
「他に頼れる相手がいなくって……」
「まったく。ただでさえ妖怪の駆け込み寺扱いされて参拝客もいないっていうのに」
「神社なのに寺ってギャグですか?」
「あん?」
「いえ、私でなく雲山がそう言ってまして」
「雲山? その入道?」
「雲山はシャイなので、私がいつも代弁しているんです」
「おっさんじゃん」
「申し訳ない、だそうです」
一輪が霊夢へとぺこりと頭を下げると、雲山は傍らの壷の中でやはり申し訳なさそうにしていた。
妖怪の駆け込み寺扱いという霊夢の愚痴にもあるように、一輪が真っ先に当てにしたのは博麗神社だった。
人間よりもむしろ妖怪の訪問客のほうが多いこと。
また、住んでいるのが霊夢一人であるということも、気を遣う相手が少ないということもあって都合が良かった。
「まぁ今度あんたんところから味噌でもお米でも分けて貰えばそれでいいわ」
「ありがとう。本当に頼る相手がいなくって」
「新参者なんてそんなもんよ」
それに霊夢のさっぱりとした性格もあって、一輪は追い出されてから初めて胸をなで下ろすことができたのだった。
「聖、ちょっといいですか?」
「なんですかムラサ」
「一輪の姿が見えないのですが」
「彼女なら山に味噌を洗濯にいきましたよ」
「山に味噌を洗濯ですか?」
「ええ」
「そうですか。じゃあ今夜はカレーですね」
「そうね」
白蓮が表情を全く変えずに煙に撒くときは、すなわち「南無三」されたということに他ならない。
命蓮寺に所属する限り、白蓮が法律であり、彼女が白といえば白、服が透けろと言えばムラサの服が透ける。
一輪が何をしでかしたかは定かではないけれど、なるべく早く戻ってくればいいのにと、ムラサはカレーに竹輪を入れて追い出された。
「知らなかったんです。白蓮がじゃがいも原理主義者であることを」
「そら竹輪入れたら怒るわよ」
「結構おいしいのに……」
「気分の問題じゃないの? 意外と心狭いわよねあの僧侶って」
当然ムラサが流れ着いた先も博麗神社だった。
全身のマッサージを一輪にさせている霊夢は、あくびをしながらムラサを迎えていた。
「そこそこ。あーそこ気持ちいい。極楽極楽」
「巫女なのに極楽って言ってていいんですか」
「いいのよ眠いし」
糸目の霊夢はそのままうつらうつらと居眠りを始めた。
やれやれと額の汗を拭った一輪は、ムラサに向かってため息を吐いた。
「ムラサはカレーに竹輪でしょ? 私なんて雲山の上でひなたぼっこしてたら姐さんがやってきて、乗れなくて地面に顔打ったから南無三よ? いくらなんでも横暴じゃない?」
「そんなのどうでもいいんだけど、一輪ってやたらマッサージうまいのね」
「姐さんのをよくしてるからね」
「ふーん。私もやってもらおうかな」
「働いてるならね。それよりもご飯炊かないと。夕飯の準備も私がすることになってるのよ」
「あ、それじゃあ肉じゃがにしよう」
「馬鈴薯はどうするの?」
「腹いせにたくさん持ってきた」
見ればムラサの錨には、大きな麻袋が括りつけられていた。
とすれば、命蓮寺では今夜、馬鈴薯抜きのカレーしか振る舞われないことになる。
代わりに星やぬえ辺りが八つ当たりされるかもしれないが、溜飲は下がった。
肉が小指の爪ぐらいの大きさの破片が紛れているだけということを除けば、ムラサと一輪の作った肉じゃがの出来はたいしたものだった。
雑穀入りの米を丼三杯もかっくらた霊夢は、食べたあとに寝ると牛になるという忠告も聞かずに、居間でごろごろ転がっている。
慎ましく茶碗一杯のみを頂いた二人は、空いた皿を洗っている。
「あー極楽極楽。死ぬ」
糸目の霊夢が呟きつつ乙女ブレスを吐いていると、目の前の空間がぱっくりと裂けた。
「ハロー霊夢。元気にしてたかしら。これ、お土産のおせんべ」
「むり」
「無理って……ちょっと無理ってなに」
「あんたの相手かな」
「ゆかりんショック!」
「あんたの発言がショッキングよ。いま客が来てるんだから自重しなさい。他人が見たら腰抜かすわよ」
「嘘。何それ」
「紫、後ろ見てみなさいよ」
「ん?」
紫が隙間から這い出て(このとき尻をしたたかに地面に打ちつけるなどということは、紫の名誉のためになかったということにしておく)
霊夢の指さすようへと振り向くと、ムラサと一輪の両名が口から泡を吹いて卒倒していた。
「先ほどは申し訳ありませんでした」
「本当にごめんなさい!」
「いや、謝られると傷つくっていうか切ないっていうか」
「いいのよこんな奴いつもうさんくさくて馬鹿みたいなことしてるんだから」
頭を下げる二人と、それを横から茶化す霊夢。
紫は口を尖らせたけれど、それ以上は何も言わなかった。
「んで紫今日は何の用事だったのよ」
「え、いやその、霊夢がほら、退屈かなぁ? って思うじゃない」
「あんまし思わないかなぁ」
もじもじとする紫を一息に切り捨て、霊夢は大きなあくびをした。
「ちょっと眠い」
「私が来たばっかりなのに? 寝ちゃうの?」
「んー。まぁちょっとぐらいだったら、相手してもいいけど」
「そう? そうよね?」
霊夢と紫の夫婦漫才を眺めながら、ムラサと一輪は二人に聞こえぬように小声で呟きあった。
「あの二人本当は絶対仲良しだよね。霊夢の表情私のときと違うし。まるでムラサとぬえみたい」
「私とぬえがどうだかは知らないけれど、口で言うほど嫌がってるようには見えないわね。
金髪のほうの妖怪がそれをわかってないみたいで喜怒哀楽激しいのがおもしろいわ」
「そこがムラサとぬえみたいなんだって」
「そんなことはないってば。ぬえは何考えてるかよくわからないしちょっかいばっかり出してきてめんどくさいっていうか。
そう、面倒くさい相手なの。そうなの」
「じゃあそういうことにしておくけど?」
「どうして疑問系にするのよ。そうだったらそうなのに」
「ふーん」
「だからどうして楽しそうに笑うのよ一輪は!」
それぞれの夫婦漫才が一息吐いたところで、紫はとっくに失っている威厳を持って言葉を切り出した。
「こほん、初めまして、命蓮寺のみなさん。私はこの幻想郷の管理者を務めている八雲紫と申します。
妖怪の賢者とも呼ばれていますが、幻想郷ではそんな堅苦しい呼び名は似合わないでしょう。どうぞお好きなように」
「村紗水蜜と申します。命蓮寺の軒の下を借りている身の船幽霊です。いまは訳あって博麗神社に身を寄せていますが……」
「雲居一輪です。同じく今は博麗神社に」
「なるほど。お二方とも美しい女人ですから、きっと命蓮寺も随分華やかな場所なのでしょうね」
「美しいだなんて、言われたことないから照れますね、へへ」
「一輪顔赤くなってるわよ」
「なぬっ。ああああもう頬が熱いと思ったらそんな、はしたない」
「良いではないですか。女性たるもの容姿が褒められて悪い気分になるものなどいないのですから。ね、霊夢?」
「おせんべいのほうが嬉しいかな」
「……」
三人がため息を吐いて、霊夢だけが不思議そうに首を傾げつつも、手は紫の持ってきた煎餅へと伸びていた。
そんなこんなで霊夢はもう寝るらしい。
寂しそうにしている紫を無視して、寝間着に着替えて布団に入ってすぐに寝息をたてる辺り大人物であると、命蓮寺の二人は思う。
紫は所在なさげに手を絡ませてはほどき、また絡ませてはほどき、顔を覗きこんで手を目の前で振ってみて、完全に寝付いているとため息を吐いた。
熟睡していても、ここまで鬱陶しいことをされたら眠れる自信は二人にはなかった。
命蓮寺は六人ともが同じ部屋で寝る。
これは白蓮の提案で、星は嬉しそうに同意して、ナズーリンは嫌々同意した。他の三名は白蓮が言うのなら、である。
一輪やムラサは集団生活に慣れていたため特に不自由を感じることはなかったが、ぬえはそうではなかったらしい。
ごくごく初期のことであるが、ぬえがムラサに対して相談したことがある。
人の気配が傍にあるのも気になるが、夜中に白蓮が起き上がりどこかへ消えることがあり、神経質なぬえは気になってしまうということだった。
何をしているかを探るのも悪いからとそれはうやむやになり、ぬえも慣れてきたのは今では一番はじめに寝息を立て始めるようになったのだが。
「霊夢が寝ちゃった。寂しいわん」
「よくそこまでされて寝れますね」
「この子一回寝付くと起きないのよ。しかも寝起き機嫌悪いし」
「寝かせてあげたらいいんじゃないんですか」
「だって、退屈だし。妖怪は夜に起きているものよ?」
「私は長らく、日が昇る頃に起きて沈む頃に寝る生活をしていたので」
紫と一輪が会話していると、傍らの壷から雲山が少しだけはみ出ていた。
何かを一輪に伝えたいようにムラサには見えたけれども、当の本人は気づいていないようだった。
「この子ったらすぐ私のことをないがしろにするの。胡散臭いとかそんなことばっかりいって」
「それはひどいですね。うちの姐さんは清廉潔白で」
「さっきからあなたは白蓮、ですっけ? の話しかしないのね。うちの式もあなたぐらい私を尊敬してくれたらいいのに」
「ちょっとお二人さん? いいかしらっと、雲山が何か話したいみたいなんだけど」
「うん?」
雑談であると判断したムラサが二人の会話に割り入って、雲山の壷を一輪へと手渡す。
ぼそぼそという呟きと、うんうんなるほどと頷く一輪は紫からしてみれば滑稽に見えた。
「恥ずかしがり屋さんなの?」
「頑固親父のくせにね、いつもこうなんですよ」
紫の質問にムラサが答えると、一輪が急に吹き出した。
「どうしたのよ一輪」
「雲山が、紫さんはとても心が綺麗な人に見えるって言うから」
「あらあら? 入道さんはとっても見る目があるのねん。ゆかりん嬉しいわ」
「そうやってわざと茶化して見せて、純粋で傷つきやすい部分を隠しているように見えるって言ってます」
「!?」
一輪の言葉に、紫の表情が凍り付いたと思った次の瞬間、耳まで赤くなってからすぐに青ざめた。
「なんのことかしら? 私は胡散臭い大妖ですわ?」
「いやいやいやいやいや」
プルプル震えながら扇を口元に当てる紫へと、ムラサが超高速でつっこみを入れた。
さすがにこれはもうフォローのしようがない。
一輪は首を横に振り、ムラサは胸の前で十字を切った。
「いやだからね、そんなことないのよ、ほんとに違うのよ。私だって本当はみんなと仲良くして女の子っぽくしたいけど、
立場も立場だからまともに付き合える相手なんて幽々子ぐらいで、それに他の妖怪は大体自分の部下がいるからその手前まずは面子が先に立つでしょう?
でも霊夢はそういうのじゃなくって、ほら、私にも対等に接してくれるっていうか」
「本人寝ててよかったですね」
「うぐっ」
「お茶淹れてきたわ。一輪も、はい」
「ありがとうムラサ」
あたふたとあれこれと取り繕うとする紫には、もはや妖怪の賢者という肩書きの欠片も残っていない。
曲がりなりにも大妖だとか妖怪の賢者が、このような寂しがり屋で務まるものなのかとムラサは内心呆れた。
白蓮は普段はぽややんとしているし、今日のように訳のわからないことで怒ったりもするけれど、基本的には誰にでも公平であると信じている。
一輪も同様に、白蓮は清廉潔白であり、弱さを持たない聖女であると信じていた。
「だからだから私は本当はもっと威厳があって」
「あの紫さん」
なおも言葉を吐き出し続ける紫に対し、一輪が手でそれを制した。
「雲山の上に乗ってみてもらえませんか?」
「え、別にかまわないけども……」
一輪にとって、紫への提案はほんの遊び心のつもりだった。
白蓮が怒ったのも、それはきっと見聞を広げてこいという親心を包み隠したものであって、、
白蓮は清廉潔白な聖女であると一輪は信じていた。
心の清い者しか雲山には乗れないなどというのは、性質の悪い冗談に違いないと一輪は申し訳ないと思いつつも考えている。
長年背中を預けていたパートナーよりも、心酔した相手の肩を持つのが妖怪の性。
しかしそれが、無根拠で有耶無耶なものに基づいていることも、理解はしている。
これは小さな疑念を杞憂だと確認するための、そしてほんの少しでも疑念を抱いた自分を罰するための儀式。
己のような矮小な愚者には理解に及ばぬ聖人に疑いの目を向けてしまうなど、許されるわけがない。
境内で大きく広がった雲山。
心の清い者しか乗れない雲山には、一輪は乗れて、白蓮は乗ることができなかった。
「あら、ふかふかしてるのね。寝転がったら気持ちよさそうだわ」
そしてその場所に紫は、乗ることができた。
「私も乗ろうっと」
そう言って飛び乗ったムラサはそのまま突き抜けて地面に落下したが、それは一輪にとってはどうでも良いことだった。
ムラサが煩悩だらけなのは百も承知で、むしろこいつが乗れたら思春期の男子だって百人乗っても大丈夫のイナバ物置状態。
出会ってこの方、白蓮は何時も変わらずに心優しく、清らかで、それでいて公平な人物だったはず。
しかし目の前の現実はただただ、無情だった。
「確かめないといけないことができました。私はこれから命蓮寺に戻ります」
「ん? どうしたの急に」
「ムラサ。霊夢さんにはお世話になりましたと伝えておいてください。
紫さんもお世話になりました」
「ん、隙間、使うかしら?」
「時間が短縮できるのであれば、できれば」
ええ、と頷いた紫は、足元へと隙間を作る。
一輪にとっては得体の知れない物であるが、好意であればとその中へと飛び込む決心を固めた。
「またすぐに戻ってくることになるかもしれませんが、行ってきます」
一輪が境内から去り、ムラサはわけがわからないというジェスチャーを雲山へと向けた。
気の小さい頑固親父はおろおろと取り乱しているばかりで会話になりそうにはなかった。
いつのまにやら、紫の姿も境内から霞のように消えていて、寝所からぎえぴーという間抜けな叫び声が響いた。
普段は賑やかな命蓮寺も、今夜に限れば火が消えたかのように静まり返っていた。
隙間を出て門をくぐっても、誰も迎えるものはおらず、灯りもとうに消えているようで。
「まるであの夜のよう」
ぴりぴりと周囲から張り詰める空気が押し迫ってはいなかったけれど、寺の内は諦観で一杯だった夜。
星とナズーリンとは袂を分かち、ぬえはあのときはまだ、親しくはしていなかった頃だ。
三人で蝋燭を囲み、徐々に大きくなる足音と怒号に怯える自分を抱き寄せてくれた。
慕ってくれていたはずの人間たちが矛を向けたきっかけは紛れもなく自分たち妖怪を囲っていたからだというのに、白蓮は咎めることもなかった。
だからこそ、今日まで盲目的に尽くしてきた。
「近すぎていつのまにか、見失っていたのかしらね」
自嘲しつつも、きしきしと鳴る廊下を歩く。
寝所をこっそりと覗くと、ぬえ、星、ナズーリンの三名は既に寝付いているようだったが、白蓮の姿はそこにはない。
ふと、ぬえの言っていた夜中に時折いなくなっているという言葉を思い出しつつ、白蓮の部屋の戸を軽くノックする。
しかし待てども待てども、出てくる様子も人の居る気配もない。
「ああ」
胸元の布を掴む。
白蓮に会いたい、たまらなく会いたい。
けれど会って、何を言えばいいのか。
あなたは俗世間に犯されている、煩悩だらけの聖女からかけ離れた存在なのですかと、そう問えばいいのか。
しかし問うたところで、一体何になるというのだ。
徒に深い部分まで踏み込んで、傷つけてしまう結果が生まれてしまうのではないだろうか。
それは一輪にとって、死よりも恐ろしいことだった。
敬愛している存在に対して矛を向けるというのは、自己を否定することに他ならない。
このままきびすを返し、博麗神社へ戻ってしまえと。
疑念を全て忘れて、ほとぼりの冷めた頃に何食わぬ顔をして戻ってしまえばそれでいいと。
そうすれば、何もかもが元通りになる。
そうだ、帰ろう。
弾かれたように、一輪は命蓮寺を飛び出し、真っ青な月が輝く夜を駆け出した。
博麗神社がどの方向であったかも曖昧で、何もかもが怖かった。
逃げ出したところで、ほんの数日流れたところで、歪みが元通りに直るわけがないのに。
焦がれるほどに会いたいくせに向き合うことを恐れている。
帰りたい帰りたいと切に願って走り続けて、息が切れて足がもつれて倒れこんで転がった。
擦りむいた膝が、じんじんと痛みを伝えてくる。
どこかへ行かないといけないという衝動はあるのだけど、もう一度立ち上がる気にはなれなくて、仰向けに天を仰ぐ。
自分が帰りたかった場所はどこだったんだろうか。
捨てられた子犬みたいな惨めな気持ちで、一輪は月を見つめた。
真っ青で、冷たくって、淡く輝いている月。
時折それを隠すようにして、切れ端のような雲が通り過ぎていく。
「姐さん……」
誰にでも優しい白蓮。
妖怪にも公平に接する白蓮。
けれど妖怪にもということは、同じように人間に対してもあの慈愛を向けていたということだ。
慈愛に向けていた白蓮に対し、矛を向けた人間たちが一輪は憎かった。憎くて憎くて、堪らなかった。
けれども、白蓮は封印される際にも憎しみを持つことはなかった。
ただ、寂しそうに、笑っていただけだった。
だるいと喚く体に、甘えるなと鞭を打って立ち上がる。
捜そう、捜さなくてはいけない。
姐さんを、聖を、聖白蓮を見つけて、文句を言ってやらなきゃいけない。
文句の内容のような瑣末なことは、あとで適当にでっち上げてしまえばいい。
逃避ではなくて、対峙するために、雲居一輪は夜をひた走った。
会いたい人へと会うために、命蓮寺を目指して、転げて泥まみれになろうとも、擦り傷を増やそうとも。
妖怪の種族として、一輪は脆弱だった。
入道使いというのは、戦闘力のほとんど全てを入道に依存しており、人間とさほど変わらない身体能力と妖力しかもっていない。
しかしながら、人間として里に住むには歳をほとんど取らない一輪は異質に過ぎた。
結果として、渡り巫女や旅の尼僧のふりをして留まらずに転々と居を変える生活。
閨を強要され、着の身着の儘逃げ出したことも、片手の数じゃ収まらない。
その頃の凄惨さに比べれば、白蓮と出会ってからはなんと恵まれていたことか。
自分は彼女と出会い、そして命を捧げるために生まれてきたのだと心の底から信じることができた。
それは多少の幻滅で揺らぐものだったか。いいや違う。
転がり込むように門をくぐった一輪は、逸る気持ちを抑えて寝所を覗き込んだ。
鼻ちょうちんを膨らませるぬえ、むにゃむにゃと口元を動かす星に、耳をぴくぴく動かしているナズーリン。
そして、空っぽの布団二つの横には、白蓮の姿があった。
音を立てぬようにすり足で隣まで行き、寝息を立てる白蓮の隣へと膝を立てる。
寝ているところを起こしてまでも問うことか。
問わねばならぬことだとは思うけれども、日を改めても良いのではないだろうか。
そもそもこのように薄汚れた格好で寝所に居るのも憚られる気がして、迷った末に一輪は一度退場しようと立ち上がろうとした。
「ねぇ一輪」
背を向けて歩き出そうとした矢先にかかる、か細く囁く声。
足は凍ったように硬直して振り向くことができなかった。
「ね、一緒に寝ましょう? おばあちゃんのお願い事よ。一人じゃ寂しくって寒くって、眠れないの」
「……」
ぱちん、と鼻ちょうちんが破ける音がした。
土で汚れた上着をいそいそと脱いでからが続かない。
所在なさげにしていると、布団を開けて手招きされてしまってもう後がなくなった。
「し、失礼します。姐さん」
「しっ。みんなが起きちゃうでしょ。」
そう言われても、と一輪は内心慌てている。
確かめたいことがあったとはいえ、添い寝を求められるとは夢にも思っていなかったわけで。
「姐さん?」
「ん? なぁに?」
姐さんは、純粋ではないのですか。
その優しい微笑みの裏には、私たちには見せないものを隠しているのですか。
「ごめんね一輪。私が弱いばっかりに」
「え、ええ? そんな姐さんは」
「だって一輪。今にも泣き出しそうよ」
泣き出しそうだと言われて手で触れると、確かに頬は強張っていて。
不安なのだと、泣いて縋りつくことができればどんなに楽だったろうか。
けれども、泣くよりも大切なことが、ある。
「姐さん。私は頭も悪いし、力もないし、ただの一介の妖怪に過ぎませんけど。
でも、でも姐さんのことを大事に想ってるんです。私だけじゃなくって、ムラサだって、星だって。たぶんぬえもナズーリンもきっと同じです。
だから、姐さんが背負いこまないでください。私はずっと、姐さんにばかり縋っていて、姐さんの気持ちなんて全然知らなくって……。
この言葉だって、もしかしたら的外れかもしれないですけど、でも、私は何があってもどんなことがあっても、姐さんが好きです。大好きです」
整理しきれなかった感情を言葉にすれば、当然、内容も支離滅裂になる。
考えても考えても舌が回らずに、終いの言葉は擦れて言葉にすらなっていたかも怪しい。
だから一輪は、白蓮を抱き締めた。いつも白蓮が命蓮寺の面々にするように、我が子を胸元に抱き包むように。
「これぐらいしか、私にはできません。姐さんが何を抱えているかも、わかりません。
でも、寂しそうに悲しそうにしている姐さんを、私は見たくはないんです。
ただ、それだけのことなんです」
白蓮は何も答えず、ただ、一輪に抱き締められるがままだった。
その胸中を推し量ることは難しかったけれど、その夜を境にして、白蓮が深夜に出歩くということは無くなった。
ムラサは縛り上げられていた。
一輪は結局博麗神社へと戻らなかったため、一晩を明かしたムラサは何食わぬ顔をして命蓮寺へ戻ったのだが、特命を受けたナズーリンの罠によって見事に撃沈。
みんなの食事のランクを落とした罪を償わされているのだった。
「一輪がお咎めなしなのが許せません! ××××で●●●●のくせに!」
およそ乙女が発してはいけない単語を叫ぶムラサを放置しておけば、命蓮寺の看板に著しく傷がつくかもしれないが、それはそれ。
食べ物の恨みはそれほどまでに深いのだ。
「素直に謝ればいいのに。ね、姐さん?」
「全くです」
縁側でそれを楽しそうに眺める二人と、一体の入道。
かすかに湯気の上がるお茶を口に運びながら、お互い立ち入ることのできなかった部分を埋めあっていた。
「ねぇ一輪」
「はい」
「もう一度、雲山に乗ってみてもいいかしら?」
「ええ。何度でもどうぞ」
白蓮は雲山を突き抜けて落ちてしまうかもしれない。
けれども、細い双肩に背負った重荷を、誰かと分け合うことが出来るようになった暁には、清らかな心の持ち主として、雲の上にも立てることだろう。
「はっは! 聖ざまぁないですね! 私をさっさとここから解放しない報いですよ亜qwせdrftgyふじこlp;@」
だがこのキャプテンは駄目だw
鼻血ひじりんシュールすぎるww
あと、やっぱり村紗の服は透けるんだwww
「ひなたぼっこしながら値転がると」寝転がる
「幻想郷の管理者を務めている八雲縁と申します。」紫
「村沙水蜜と申します。」村紗
「雲井一輪です。同じく今は博麗神社に」雲居
こんなにうっかりミスをするなんて……どうしたんですか?
一輪さんに土下座してくる
データ移行の時とか、忘れがちですけど
羊さんの真面目話かなり好きです。
ただ、「良い話」と「台無し」の境を行ったり来たりして、最後を台無しで終わらせないで下さいww
もう、たまらん!
でもこのムラサはが南無三されて当然だww