Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

『春はまたやって来るから』

2006/05/31 09:52:20
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ある晴れた日の幻想郷――


桜は疾うの昔に散り、今では青々とした葉が暖かい日差しに照らされ揺れていた。

風はどこか懐かしい匂いを運んで来るような暖かく心地よいものだった。

そんな麗らかな5月のある日。




――幻想郷の春は終わりを告げようとしていた。







   ◆   ◆









――春の終わりを私は誰より早く感じ取った。


それは決して気温の変化からではなくあくまで私の本能からだ。

私は春の妖精 リリー・ホワイト 春の訪れを知らせるだけの存在。

今年も春の間、春の訪れを幻想郷中に知らせて回った、おそらく幻想郷の端から端までくまなく知らせて回ったから春の訪れに気がつかなかった人はいないだろう。

春が終わる時は私が消えなくてはならない時でもある。

私は春が始まったときに生まれ、終わるときに死ぬ、およそ三ヶ月程度の生である。

もっとも一年経てば再び生まれるので別に己の短命さを呪った事はない。

一年程度ではこの幻想郷は大して変わらないだろうし……。


だけども度々、ふとした考えが頭をよぎる。






私は何のために春を伝えているのだろう、と。









春は私が伝えなくても誰もが気付く事が出来る。

冬より気温が暖かくなり、身を切るような寒さから適度に心地よい気温に変化する。 

葉を落としていた草木は芽生え、花を咲かす。 

眠っていた生き物も外に出てくる、人間も同様だ。

そう、誰もが春の訪れには体が反応する物だ、なにも私が知らせる必要性はない。

私は必要ない存在なのであろうか?

それを認めてしまうと私の存在意義すら否定される事になってしまう……。


……しかし


そもそも誰も自分の存在意義なんて知ってる人なんているのだろうか?

人間――……いえ、貴方は何故生きているの?と聞かれたら誰も答えられないし、未だかつて答えを出した人はいないだろう。

それはタブーに近い問題……ああ、そうそう風の噂によると自分の存在意義を知った者は発狂してしまうそうよ。まあ、なんでそんな人が出たことを知ってるのかが矛盾する点なんだけどね。

それほど答えの出しにくいものであるという一つの戒めだろう。


まあ、どにしろ、私はあと少しで消える事となり、再び春に春を知らせるために生まれてくる、深く考えるだけ野暮だ。

深く考えるのは止めよう、うん、そうしよう。


そんな事を考えながら空を風の向くまま気の向くまま飛んでいた。




   ◆   ◆





上昇気流にのっていたら冥界にたどり着いた。

かつては見事なな花を咲かせていた桜は散っていた。地面にまったく桜の花びらの跡が無かったのを見ると庭師がちゃんと掃除をしているのが分かった。

ふと館の方を見ると、主と庭師が縁側で話していた。ちょっと聞いてみよう。

「よーむー」
「どうかしました?」
「今日の晩ご飯何~?」
「いえ、まだ決めてませんが……幽々子様は何がよろしいでしょうか?」
「そうね……梅雨の季節に食べるものって何かしら?」
「う~ん、そうですね、例えばカビの生えにくい物とか……」
「まあ、カビが生える前に全部食べちゃうけど」
「そうですね、むしろ幽々子様ならカビが生えても――」
「……妖夢、いっぺん死んでみる?(はぁと」


その後辺りに弾幕が展開され始めたので私は急いで私は冥界を後にした。

うーん、梅雨の季節料理って何だろう?

そんなことを思いつつ再び風に身を任せた。




   ◆   ◆




ゆっくりとした風にのっていたら次は神社にたどり着いた。

もちろん既に桜は散っている、しかし階段の隅に土にかえりかけの桜の花びらが残っていた。どうせ隅々まで掃除をしなかったのだろう……。

境内の方を見ると霊夢と魔理沙が何か話していた

「なあ霊夢?」
「なに?」
「なんか最近蒸し暑くなってきたな」
「そうね春もそろそろ終わるかしら」
「そうだな……」
「そろそろ夏服に変えた方がいいかしら……」
「ちょっと待て、お前夏服なんて持ってたっけ?いつもその腋丸出しで…って痛い!」
「腋丸出し言うな!」
「つぅ…じゃあ何が変わるんだよ?」
「生地よ、生地」
「なんだそれだけか、てっきり袖から意味無く冷風が出たりするのかと思ったぜ」
「……その案貰ったわ。こんど霖之助さんに作ってもらおう」
「……無茶言うぜ」


私は神社を後にした。

衣替えか……。

まあ、私はこの服しか持ってないけどね。まあ春の間だけだし。









   ◆   ◆








「ちょっと、そこのアンタ!」

その様な声が聞こえたのは湖を通り過ぎようとした時だった。

私が声のした方向に目を向けると、一匹の妖精がこちらを見ている。

彼女の名前はチルノ、氷精である。

「アンタ、春の妖精でしょう?」


さらに続けてその氷精はこう言った。



「お願いだから夏にしないで!」



……しばしの沈黙が流れた。


話をまとめてみよう。

どうやら目の前の氷精は何か勘違いしているみたいだ。

私はたしかに春の妖精である、だけど私は『春を呼び、夏を終わらせる能力』という大それた能力などは決して持っていない。

私はまるで小川を流れる葉っぱのごとく移り変わる季節に流されて生きる事しかできない妖精だ。

季節や自然などは私みたいな一介の妖精ではどうしようの無いほどのモノで、『春が来て、そして終わる』と言う事は決して曲げる事の出来ないことなのである。

しかし、その氷精はどうやら私が季節を春にし、また春を終わらせていると思っているらしい。


しばらく考えた後、私は彼女に、私は決して春を終わらせたり、夏を呼ぶ能力は持っていない事を説明した。



「ふ~ん」

そう一言言った後、彼女は「出来ないのか……」と呟いて軽いため息をついた。

どうしてそんなに夏が来る事を嫌うのか理由を聞こうとしたが止めておいた。

なぜなら、いくら何でも氷精に向かって「あんたってなんで暑いの嫌いなの?」とか聞くのは少し頭の弱いことだと私が判断したためだった。

夏はとても暑い季節らしい、なんでも一年で最も暑いと聞く。

もっともこれも噂で聞いた程度の物なのであるが……。


そう言えば、私は夏という季節を経験したことがなかった、私は春の終了と共に消えてしまうので経験した事の無いのは当たり前の事だった。同様の理由でもちろん秋や冬もである。


そこで、私は彼女に夏や秋、冬とはどのようなものなのか聞いてみる事にした。


「他の季節はどんなだって?……そうかアンタ、春の妖精だから、他の季節の事は知らないのね……」

彼女は納得した様子でうんうんと頷いた後に

「レティと同じか……」と、呟いた。

駄目?と私が聞こうとした瞬間

「良いわよ!私が他の季節について教えてあげる!」

彼女は嬉々とした表情でそう言った。どうやら教えて貰えるらしい。



まず私は夏について聞いてみた。

「う~ん、夏ね~……まず暑い!暑すぎるのなんのって!私が凍らせても簡単に溶けちゃうし、私自身も調子悪くなるわ。最悪な季節ね」

まあ氷精だから仕方ないだろう。暑い所が好きなホッキョクグマがいたら大変だ。

「だけど……」
チルノはそう一言付け加えて

「そんななかで冷たい物を食べたり飲んだりするのは最高ね。もっとも私は一年中そんな感じだけど、夏だけは別格ね。あとリグルも元気になるし――ああ、リグルってのは私の友達で虫の妖怪よ。夜リグルの周りに行くと蛍っていうの?なんか光る虫が集まってきて綺麗だったわ」と言った。

なるほど、ただ暑いってわけではないのね……。少し夏に対しての考えが変わった。



では秋はどうなのか聞いてみた。

「次は秋ね。秋…あき…特になし!あえて言うなら食べ物がおいしくなる季節!あと葉っぱが赤くなったり黄色くなったりする!聞いた話によるとそれは『こーよー』っていう名前らしいわ」

紅葉ねぇ……、私も噂には聞いた事があるけど本当に葉っぱが赤くなったり黄色くなったりするのだろうか?と私は毎度ながら思う。

今ではこんなに葉は青いのに……。

葉も私と同じくただ季節に流されるモノなのだろう、そう思うと私が消えなくてはならなくなるシグナルを発する青い葉に親近感を覚えた。



じゃあ冬はどうなの?と聞いてみた。

「最後は冬ね。冬は最高の季節よ!みんな寒い寒いって言って嫌うけど、私は一番好き!張りつめたキンキンとした空気の中を雪がはらはらと落ちてくるの。雪は知ってるよね?春にもいくらか残ってるし。その雪がいっぱい!い~っぱい!降ってきて世界を真っ白に染めるの!あと雪合戦とかも楽しいわよ、雪合戦って言うのはまず雪をすくってボールみたいに丸めて……」

聞く話によると楽しい季節なのであろう、チルノは今や興奮して雪合戦についての必勝法を語ってた。

雪か……、私が生まれるときも見られるけど

「――だから冬は最高なのよ!」

どうやらようやく冬についての論説は終わったらしい。

「で、他に聞きたい事ある?」

冬について述べたチルノは満足そうに胸をはってこう言った。



「!?」

だが私の方を見た瞬間チルノの顔が一変した。

それもその筈、私の体は消えかかっていた、既に感覚も無い。

そろそろお別れの時間が近づいているって事がハッキリと分かった。

時間切れか……。

そして、だんだんとその感覚の無い部分が増えて体は殆ど透明になってしまった。

チルノはそんな私を悲しげな顔で見つめている。

涙は流していなかったが少し我慢しているようなそんな感じに見えない事もなかった。

もしかしたら私もチルノから見ればそんな顔に見えたのかも知れない。

そんな顔をしないでよ、これで一生さよならじゃないのだから……。

でもこの子は来年も春を受け入れてくれるのかしら?

そんなことを思っていた。

すると――

「それじゃあまたね!」

いよいよ私が消えようとした時、チルノはそう言ってくれた。






……







ええ……








「また春に会いましょう――」






――こうして春は終わりを告げた。

      Spring is over

              See you next spring ――  
 






5月の終わりと共に作品集プチ7も終わりです。
ずっとギャグしか書いてなかったのでシリアス難しいです……練習せねば……。

で、季節は既に梅雨らしいです気象庁はだましだましまだ春とか言ってますけどね。五月の時点で梅雨入りとは五十年間で三回くらいしかなったらしいです、レアですねぇ。そのぶん夏が去年より暑くなる事が懸念されます。体の溶けやすい方、もしくは日光に当たると何故か灰になってしまう方はお気をつけてください。
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コメント



1.氷月削除
ちるのは毎回こうゆう役回りでかわいそうだよね…