マスタースパークという奥義がある。
凶悪なまでに無慈悲な破壊力を持った、巨大な虹色怪光線(巫女談)を放つ技で、その威力は、一度解き放たれれば受ける術も止める術もなく、それこそ、ぺんぺん草一本残らないほどの力でもって広範囲を一度に撃滅する、まさに必殺技である。
……そのはずなのだが。
「う~……あいたたた……」
「美鈴」
「ひゃいっ!?」
むくっ、と体のあちこちを焦がしながらも起きあがった紅魔館の門番は、目の前に佇むメイド長を前に、起きあがると同時に地面の上にびしっと正座して変な声を上げた。
「全く」
「うぅぅ……」
「まぁ、いいわ。今回は、フランドール様のお相手と言うことで、それなりの名目が、後付ではあるけれど持てたわけだし」
はぁ、と彼女――メイド長の十六夜咲夜はため息を一つ。
そして、それを見て、門番――紅美鈴は、恐る恐る、視線を上げる。
「それで、その……お仕置きですか……?」
「だから、いいって言ったでしょ。
それよりも、美鈴」
「は、はい?」
「私、あなたに聞きたいことがあるわ」
「え? 何でしょう?」
いつも通りに怒られずにすんだとわかったのか、安堵の表情を浮かべながら、よいしょと美鈴が立ち上がる。
「あなた、どうして、毎度毎度、あのマスタースパークの直撃食らってあっさり復活できるの?」
その術を使うのは、とある場所に住まう黒白の魔法使い。
性格悪し、他人の迷惑など顧みないゴーイングマイウェイな輩である彼女は、この館を訪れる際、『ちゃんとアポイントを取れば、それ相応の扱いをする』と言っているにも拘わらず、真正面から警備隊をぶちのめし、門を破壊してやってくるのである。
そして、そんな彼女の餌食となっているのが、美鈴を初めとした警備部隊であり、とどめにいっつもマスタースパークを食らうのが、この美鈴なのである。
「えっと……どうして、と言われても」
「気になって気になって仕方がないのよ。っていうか、あれを食らって十五分で復活とかあり得ないでしょ」
「……知りたいですか?」
「知りたいわね」
それを知ることが出来たら、弾幕勝負でも、もっと強くなれるかも、などと考えながら咲夜は視線を送る。
わかりました、と美鈴はうなずき、言う。
「これのおかげです」
どん。たゆん。
「……はい?」
「ですから、これのおかげです」
どん。ぷるるん。
「えーっと……」
咲夜の視線は美鈴の胸部へ。
しばし沈黙。
「それが何の関係があるの……?」
「何と言いましょうか……。ほら、人間……って、私は人間じゃないですけど、ともあれ、生き物は生命力を持って生きていますよね?」
「え、ええ」
「私の場合、この部分にそれをためておくことで、攻撃を受けた時に素早くHPを回復できるようにしてあるんです」
「…………………そーなの?」
「はい」
素晴らしい笑顔だった。
もう、意味もなくその場に押し倒してやりたくなるくらいに美しい、花のような笑顔だった。
「あとは、直撃の時に致命傷を避けるためにオーラを展開して、ダウンしたら回復を待つのみです」
「……そこから?」
「ここからです」
どん。たゆん。
「………マジ?」
「私って、嘘つくような人ですか?」
あり得ん。
速攻で、咲夜はそれを否定した。
この、『お人好し』という言葉が服を着て歩いているような輩が他人を騙すという行為に手を染めるだろうか。あんまり関係ないかもしれないが。
まぁ、ともあれ。
「そ、そう……わかったわ……。ありがとう……」
「咲夜さんも、耐久力をつけるためには、毎日の牛乳をお勧めします」
「そ……そう……ね。考えとくわ……」
「お嬢様」
「何? 咲夜」
その日の夜のことである。
いつものように、館の主、レミリアの元を訪れた咲夜の手の上にはティーの入ったカップが載ったトレイ――ではなく。
「本日から、お飲み物をこちらに変更することにしました」
「……牛乳……?」
どん、とテーブルに置かれたのは、誰が見ても牛乳である。朝一しぼりたての、とっても美味しい牛乳なんです、とのこと。
しばし、レミリアはそれを見つめ、その視線を目の前の相手に戻してみた。
彼女は思いっきり、その場で牛乳飲んでいた。
「……えーっと……。
ねぇ、咲夜。いや、別に牛乳が嫌いってわけじゃないのよ? でも、何で牛乳なの? しかも、何であなたまでそれ飲んでるの?」
「お嬢様。ゲージ九本を目指して、共に頑張りましょう」
「いや、ゲージ九本って何っていうか、何その憐れみのこもった視線。しかもどこに向けてるのよ」
「同じ悩みを持つものとして」
「それはわたしにケンカを売っているようねっていうかお願いだから無理矢理牛乳飲ませないでちょうだいげふぅっ!?」
「明日は苺牛乳です」
「……あのー、隊長」
「何?」
「……その……あんな嘘ついていいんですか?」
「たまには、私だっていたずら心出すんだよ」
館の中から聞こえる、『紅魔館、牛乳宣言!』というわけのわからない声に顔を引きつらせる門番隊のメンバーの言葉に、にこやかに美鈴は笑う。
「でも……後で怒られますよ……?」
「大丈夫」
何が大丈夫なんですか、とツッコミ入れようとした彼女に。
「だって、半分、真実だもの」
大きいことは正義です。
凶悪なまでに無慈悲な破壊力を持った、巨大な虹色怪光線(巫女談)を放つ技で、その威力は、一度解き放たれれば受ける術も止める術もなく、それこそ、ぺんぺん草一本残らないほどの力でもって広範囲を一度に撃滅する、まさに必殺技である。
……そのはずなのだが。
「う~……あいたたた……」
「美鈴」
「ひゃいっ!?」
むくっ、と体のあちこちを焦がしながらも起きあがった紅魔館の門番は、目の前に佇むメイド長を前に、起きあがると同時に地面の上にびしっと正座して変な声を上げた。
「全く」
「うぅぅ……」
「まぁ、いいわ。今回は、フランドール様のお相手と言うことで、それなりの名目が、後付ではあるけれど持てたわけだし」
はぁ、と彼女――メイド長の十六夜咲夜はため息を一つ。
そして、それを見て、門番――紅美鈴は、恐る恐る、視線を上げる。
「それで、その……お仕置きですか……?」
「だから、いいって言ったでしょ。
それよりも、美鈴」
「は、はい?」
「私、あなたに聞きたいことがあるわ」
「え? 何でしょう?」
いつも通りに怒られずにすんだとわかったのか、安堵の表情を浮かべながら、よいしょと美鈴が立ち上がる。
「あなた、どうして、毎度毎度、あのマスタースパークの直撃食らってあっさり復活できるの?」
その術を使うのは、とある場所に住まう黒白の魔法使い。
性格悪し、他人の迷惑など顧みないゴーイングマイウェイな輩である彼女は、この館を訪れる際、『ちゃんとアポイントを取れば、それ相応の扱いをする』と言っているにも拘わらず、真正面から警備隊をぶちのめし、門を破壊してやってくるのである。
そして、そんな彼女の餌食となっているのが、美鈴を初めとした警備部隊であり、とどめにいっつもマスタースパークを食らうのが、この美鈴なのである。
「えっと……どうして、と言われても」
「気になって気になって仕方がないのよ。っていうか、あれを食らって十五分で復活とかあり得ないでしょ」
「……知りたいですか?」
「知りたいわね」
それを知ることが出来たら、弾幕勝負でも、もっと強くなれるかも、などと考えながら咲夜は視線を送る。
わかりました、と美鈴はうなずき、言う。
「これのおかげです」
どん。たゆん。
「……はい?」
「ですから、これのおかげです」
どん。ぷるるん。
「えーっと……」
咲夜の視線は美鈴の胸部へ。
しばし沈黙。
「それが何の関係があるの……?」
「何と言いましょうか……。ほら、人間……って、私は人間じゃないですけど、ともあれ、生き物は生命力を持って生きていますよね?」
「え、ええ」
「私の場合、この部分にそれをためておくことで、攻撃を受けた時に素早くHPを回復できるようにしてあるんです」
「…………………そーなの?」
「はい」
素晴らしい笑顔だった。
もう、意味もなくその場に押し倒してやりたくなるくらいに美しい、花のような笑顔だった。
「あとは、直撃の時に致命傷を避けるためにオーラを展開して、ダウンしたら回復を待つのみです」
「……そこから?」
「ここからです」
どん。たゆん。
「………マジ?」
「私って、嘘つくような人ですか?」
あり得ん。
速攻で、咲夜はそれを否定した。
この、『お人好し』という言葉が服を着て歩いているような輩が他人を騙すという行為に手を染めるだろうか。あんまり関係ないかもしれないが。
まぁ、ともあれ。
「そ、そう……わかったわ……。ありがとう……」
「咲夜さんも、耐久力をつけるためには、毎日の牛乳をお勧めします」
「そ……そう……ね。考えとくわ……」
「お嬢様」
「何? 咲夜」
その日の夜のことである。
いつものように、館の主、レミリアの元を訪れた咲夜の手の上にはティーの入ったカップが載ったトレイ――ではなく。
「本日から、お飲み物をこちらに変更することにしました」
「……牛乳……?」
どん、とテーブルに置かれたのは、誰が見ても牛乳である。朝一しぼりたての、とっても美味しい牛乳なんです、とのこと。
しばし、レミリアはそれを見つめ、その視線を目の前の相手に戻してみた。
彼女は思いっきり、その場で牛乳飲んでいた。
「……えーっと……。
ねぇ、咲夜。いや、別に牛乳が嫌いってわけじゃないのよ? でも、何で牛乳なの? しかも、何であなたまでそれ飲んでるの?」
「お嬢様。ゲージ九本を目指して、共に頑張りましょう」
「いや、ゲージ九本って何っていうか、何その憐れみのこもった視線。しかもどこに向けてるのよ」
「同じ悩みを持つものとして」
「それはわたしにケンカを売っているようねっていうかお願いだから無理矢理牛乳飲ませないでちょうだいげふぅっ!?」
「明日は苺牛乳です」
「……あのー、隊長」
「何?」
「……その……あんな嘘ついていいんですか?」
「たまには、私だっていたずら心出すんだよ」
館の中から聞こえる、『紅魔館、牛乳宣言!』というわけのわからない声に顔を引きつらせる門番隊のメンバーの言葉に、にこやかに美鈴は笑う。
「でも……後で怒られますよ……?」
「大丈夫」
何が大丈夫なんですか、とツッコミ入れようとした彼女に。
「だって、半分、真実だもの」
大きいことは正義です。
と言う事は、半分の真実はやっぱり!
ってことでいいんでしょうか。
レ「げふぅ!?」