「振り返ってみれば」
「ん?」
「え?」
「遠くまで来たものだな、と」
「なによ、急に」
「脈絡もなく」
「脈絡。って、言いにくいわよね。舌噛みそう」
「リリカは猫舌だからね」
「猫舌、関係あるの?」
「猫の舌は短いから、だろう」
「いいえ、姉さん、長いからよ。絡まるんだから」
「舌は長い方がいいに決まってる。大は小を兼ねる」
「過ぎたるは及ばざるが如し」
「長い物には巻かれろ」
「小さな親切」
「受け取る方がハイリスク。早口言葉だってそうじゃない」
「リリカ、短絡的な返事は、姉さん感心しないな」
「あら、リリカはちゃんと考えてるわよ。考えるのが早いのよ。そのかわり、舌が短いの」
「閻魔様にちょん切られないように? フムン、それなら確かに短いでしょうね」
「やめてよ、説教なら前に聞いたわ。本人から」
「知ってる」
「知ってる。リリカは抜けてるところがあるから、姉さん達心配で心配で」
「メルラン姉さんに言われるとすごく悔しいわ」
「やめてよ」
「いやよ」
「照れさせたいの? やぁん、もう、リリカったら」
「なにが、やぁん、よ。そうやって勝手に解釈するの止めてよね。なにが、リリカったら、よ」
「まぁまて、今のはリリカがそうさせたんだ」
「違うわよ」
「だから、そうやって脊髄反射的に返事するの、姉さんは感心しないな」
「しらないわよ」
「感心、しない、な!」
「わ、わかった、わかった。急に怒鳴らなくても良いじゃない。ルナサ姉さんはきっと癇癪玉で出来ているのね」
「爆竹ね。黒いし、そうだったの、姉さん? わあびっくり」
「いまここで点火してやってもいいんだぞ二人とも」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「遠慮するな」
「じゃあ、止めない。そのかわり華々しくお願いね、ルナサ姉さん」
「楽しみだわ。きっと、線香花火みたいなんでしょうね。それとも大玉かしら? あは、み、みてみたい、はやく、姉さん」
「何が早くだ。端役? 失礼な。姉さんは気分を害したぞ。立腹だ。なだめる方法は一つだけだ。持ち上げ、崇め、誉めろ、妹たち」
「リリカ、団扇とってきて」
「秋扇なんてみっともないものは、ルナサ姉さんの部屋にしかないわ」
「じゃ、姉さんが自分で浮かべばいいのよ。そうよね? きっとそれがたった一つの冴えたやりかた」
「……嘆かわしい。長女に対してこの仕打ち、この言動。清く正しく逞しい妹たちは、私の記憶の中に去ってしまったようだ」
「逞しくはあるわね」
「リリカ、怒るわよ」
「なんでメルラン姉さんが怒るのよ」
「逞しいだなんて、酷いわ。まるで、太ってるみたいじゃない」
「姉さん姉さん、ルナサ姉さん、そういう意味で言ったんだとしたら、悪いけど姉妹止めるわ」
「だれが。太るポルターガイストなんて聞いたこともない」
「それは可笑しいわ、ルナサ姉さん。世の中を自分の常識だけで判断するのは、音楽的ではないわ」
「姉的でもないわね」
「じゃ、言えるか? 肥満する騒霊はいますと、閻魔様に誓って言えるか?」
「論理のすり替えよ、ルナサ姉さん。居るとは言ってない。いるかもしれない、と言ったのよ」
「紅茶切れた」
「可笑しい、それは可笑しいぞ、リリカ。例えばダージリンがここにあるとする。そして、あっち、台所に、アールグレイがあり、この二つの因果関係がオレンジペコだ、というようなものよ」
「なにいってんの」
「姉さん感心しないなぁ!!」
「感心しないこうちゃー!!」
「あーもうはいはい悪うございました」
「悪うございましたこうちゃー!!!」
「うるっさいわよダラホッ!」
「ねぇぇぇさん感心」
「わかったから! もういいわよ!」
「もういいわよこうちゃー!!!!!」
「リリカ、紅茶だ」
「なんでわたしが」
「ねッえーッさッあーんッ!!!」
「わかった、わかった、わかったわよ。この姉にしてこの妹あり。きっと私は海からやって来たんだわ。はみ子なんだわ。もうやだこの姉妹」
「悲しいことを言うんじゃない。私達は姉妹だよ」
「姉妹こうちゃ」
「判ってるわよ。ただ自らの苦境に今更気付いたことを嘆いているだけ」
「嘆くのはだめだ。嘆くのはだめだ」
「なに? ルナサ姉さんは私をどうかしたいの?」
「ポルターガイストは恨み辛みではなく、なんらかの力が働いて形作られる。なんらかの力とは、邪悪なものでもいいし、清らかなものでも良いし、単なる運動でも良い。右から左に流れる力、上から下に落ちる力、熱いところから冷たいところへ移動する力、そして、響く力、だ。それはたとえば形作る姿を変えることが出来ないように、固定的で、必然的、因果的な作用によってできる」
「フムン」
「騒霊が肥満しないのは、だからさ。太ると言うことは体型が変わる、外見が変わる、形象が変わると言うこと、それはつまり、必然的な力の作用がねじ曲げられる、因果が変わると言うことだ。因果が私達だ。
嘆く、悲観する、嫌になる、そういう気持ちは、因果にとって悪い。因果を嫌うということは自分をねじ曲げると言うこと、自身を否定することで、それは因果自体である騒霊にはダイレクトに影響する。気をつけろ、リリカ、背景が透けて見えるぞ。嘘だ」
「ルナサ姉さんの欠点は、嘘つけない所ね。まるで竜骨」
「なんだ?」
「お堅い、ってことよ。はい、スクリュードライバー」
「まてなんでアルコールだ」
「アー、アー、アールコーオルーアルアルアル」
「だって、アールグレイ無かったんだもの」
「だからといって……珈琲でいいじゃないか」
「こーしー」
「苦いの嫌い」
「おまえなぁ、なんで長女の気持ちを蔑ろにするんだ」
「なにってるのよ。私が飲めなかったら別々のを用意しなきゃいけないじゃない。姉妹の絆を分断させる気?」
「ね、姉さんそういう発言をされると心苦しい」
「ぐびぐび、ぐ、ぶふっ! やだなにこれお酒じゃない。リリカったら、昼間っから何考えてるの?」
「メルラン姉さん、私思うの。自分のネタはきちんと自分で落としなさいって」
「姉さん、リリカが反抗期よ」
「姉さん正直一蓮托生にも程度があると思うんだ」
「リリカ、姉さんが姉さんが、死んじゃった」
「いきなり飛んだわねメルラン姉さん。大丈夫、ルナサ姉さんが言うには、私達は変わらず美しい姉妹のまま、だそうよ」
「お前何聞いてたの?」
「ほらちょっとアルツハイマー入ってるところなんかいつもの姉さんじゃない」
「姉さん感心しないな」
「そのネタもいい加減飽きてきた感じ、ね、リリカ」
「ちょちょっとメルラン姉さん、この十年突っ込まないでいたのになんでいま前振りも無く普通にやっちゃうのよ!? ストックだったのに」
「お前ってそんなことばっかりだよな……」
「ほんとうに姉として将来が心配なのだわ……」
「……ふざけんじゃねぇ、ふじゃけんじゃないわおう」
「あ、かんだ」
「……ッ! ちょ……! 笑い殺す気か!?」
「リリカ、次女として私はあなたを折檻しなければならないようだわ……」
「意味わかんない! 私姉さんたちの言葉がわからないよ!」
「……ッ! あ、そろそろ時間だ」
「え?」
「あらほんと」
「よーし今日も宴会奏だ」
「演奏宴でしょ」
「演奏会! 二人とも春が長いからってさあ……」
「無駄口はあとだ。いくぞ! プリズムリバーちんどん屋、出撃!」
「撤退!」
「再出撃!」
「あ、帽子忘れてた」
「再々出撃!」
ちゃららーらーらーららーらーらららーらーららら……
「ん?」
「え?」
「遠くまで来たものだな、と」
「なによ、急に」
「脈絡もなく」
「脈絡。って、言いにくいわよね。舌噛みそう」
「リリカは猫舌だからね」
「猫舌、関係あるの?」
「猫の舌は短いから、だろう」
「いいえ、姉さん、長いからよ。絡まるんだから」
「舌は長い方がいいに決まってる。大は小を兼ねる」
「過ぎたるは及ばざるが如し」
「長い物には巻かれろ」
「小さな親切」
「受け取る方がハイリスク。早口言葉だってそうじゃない」
「リリカ、短絡的な返事は、姉さん感心しないな」
「あら、リリカはちゃんと考えてるわよ。考えるのが早いのよ。そのかわり、舌が短いの」
「閻魔様にちょん切られないように? フムン、それなら確かに短いでしょうね」
「やめてよ、説教なら前に聞いたわ。本人から」
「知ってる」
「知ってる。リリカは抜けてるところがあるから、姉さん達心配で心配で」
「メルラン姉さんに言われるとすごく悔しいわ」
「やめてよ」
「いやよ」
「照れさせたいの? やぁん、もう、リリカったら」
「なにが、やぁん、よ。そうやって勝手に解釈するの止めてよね。なにが、リリカったら、よ」
「まぁまて、今のはリリカがそうさせたんだ」
「違うわよ」
「だから、そうやって脊髄反射的に返事するの、姉さんは感心しないな」
「しらないわよ」
「感心、しない、な!」
「わ、わかった、わかった。急に怒鳴らなくても良いじゃない。ルナサ姉さんはきっと癇癪玉で出来ているのね」
「爆竹ね。黒いし、そうだったの、姉さん? わあびっくり」
「いまここで点火してやってもいいんだぞ二人とも」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「遠慮するな」
「じゃあ、止めない。そのかわり華々しくお願いね、ルナサ姉さん」
「楽しみだわ。きっと、線香花火みたいなんでしょうね。それとも大玉かしら? あは、み、みてみたい、はやく、姉さん」
「何が早くだ。端役? 失礼な。姉さんは気分を害したぞ。立腹だ。なだめる方法は一つだけだ。持ち上げ、崇め、誉めろ、妹たち」
「リリカ、団扇とってきて」
「秋扇なんてみっともないものは、ルナサ姉さんの部屋にしかないわ」
「じゃ、姉さんが自分で浮かべばいいのよ。そうよね? きっとそれがたった一つの冴えたやりかた」
「……嘆かわしい。長女に対してこの仕打ち、この言動。清く正しく逞しい妹たちは、私の記憶の中に去ってしまったようだ」
「逞しくはあるわね」
「リリカ、怒るわよ」
「なんでメルラン姉さんが怒るのよ」
「逞しいだなんて、酷いわ。まるで、太ってるみたいじゃない」
「姉さん姉さん、ルナサ姉さん、そういう意味で言ったんだとしたら、悪いけど姉妹止めるわ」
「だれが。太るポルターガイストなんて聞いたこともない」
「それは可笑しいわ、ルナサ姉さん。世の中を自分の常識だけで判断するのは、音楽的ではないわ」
「姉的でもないわね」
「じゃ、言えるか? 肥満する騒霊はいますと、閻魔様に誓って言えるか?」
「論理のすり替えよ、ルナサ姉さん。居るとは言ってない。いるかもしれない、と言ったのよ」
「紅茶切れた」
「可笑しい、それは可笑しいぞ、リリカ。例えばダージリンがここにあるとする。そして、あっち、台所に、アールグレイがあり、この二つの因果関係がオレンジペコだ、というようなものよ」
「なにいってんの」
「姉さん感心しないなぁ!!」
「感心しないこうちゃー!!」
「あーもうはいはい悪うございました」
「悪うございましたこうちゃー!!!」
「うるっさいわよダラホッ!」
「ねぇぇぇさん感心」
「わかったから! もういいわよ!」
「もういいわよこうちゃー!!!!!」
「リリカ、紅茶だ」
「なんでわたしが」
「ねッえーッさッあーんッ!!!」
「わかった、わかった、わかったわよ。この姉にしてこの妹あり。きっと私は海からやって来たんだわ。はみ子なんだわ。もうやだこの姉妹」
「悲しいことを言うんじゃない。私達は姉妹だよ」
「姉妹こうちゃ」
「判ってるわよ。ただ自らの苦境に今更気付いたことを嘆いているだけ」
「嘆くのはだめだ。嘆くのはだめだ」
「なに? ルナサ姉さんは私をどうかしたいの?」
「ポルターガイストは恨み辛みではなく、なんらかの力が働いて形作られる。なんらかの力とは、邪悪なものでもいいし、清らかなものでも良いし、単なる運動でも良い。右から左に流れる力、上から下に落ちる力、熱いところから冷たいところへ移動する力、そして、響く力、だ。それはたとえば形作る姿を変えることが出来ないように、固定的で、必然的、因果的な作用によってできる」
「フムン」
「騒霊が肥満しないのは、だからさ。太ると言うことは体型が変わる、外見が変わる、形象が変わると言うこと、それはつまり、必然的な力の作用がねじ曲げられる、因果が変わると言うことだ。因果が私達だ。
嘆く、悲観する、嫌になる、そういう気持ちは、因果にとって悪い。因果を嫌うということは自分をねじ曲げると言うこと、自身を否定することで、それは因果自体である騒霊にはダイレクトに影響する。気をつけろ、リリカ、背景が透けて見えるぞ。嘘だ」
「ルナサ姉さんの欠点は、嘘つけない所ね。まるで竜骨」
「なんだ?」
「お堅い、ってことよ。はい、スクリュードライバー」
「まてなんでアルコールだ」
「アー、アー、アールコーオルーアルアルアル」
「だって、アールグレイ無かったんだもの」
「だからといって……珈琲でいいじゃないか」
「こーしー」
「苦いの嫌い」
「おまえなぁ、なんで長女の気持ちを蔑ろにするんだ」
「なにってるのよ。私が飲めなかったら別々のを用意しなきゃいけないじゃない。姉妹の絆を分断させる気?」
「ね、姉さんそういう発言をされると心苦しい」
「ぐびぐび、ぐ、ぶふっ! やだなにこれお酒じゃない。リリカったら、昼間っから何考えてるの?」
「メルラン姉さん、私思うの。自分のネタはきちんと自分で落としなさいって」
「姉さん、リリカが反抗期よ」
「姉さん正直一蓮托生にも程度があると思うんだ」
「リリカ、姉さんが姉さんが、死んじゃった」
「いきなり飛んだわねメルラン姉さん。大丈夫、ルナサ姉さんが言うには、私達は変わらず美しい姉妹のまま、だそうよ」
「お前何聞いてたの?」
「ほらちょっとアルツハイマー入ってるところなんかいつもの姉さんじゃない」
「姉さん感心しないな」
「そのネタもいい加減飽きてきた感じ、ね、リリカ」
「ちょちょっとメルラン姉さん、この十年突っ込まないでいたのになんでいま前振りも無く普通にやっちゃうのよ!? ストックだったのに」
「お前ってそんなことばっかりだよな……」
「ほんとうに姉として将来が心配なのだわ……」
「……ふざけんじゃねぇ、ふじゃけんじゃないわおう」
「あ、かんだ」
「……ッ! ちょ……! 笑い殺す気か!?」
「リリカ、次女として私はあなたを折檻しなければならないようだわ……」
「意味わかんない! 私姉さんたちの言葉がわからないよ!」
「……ッ! あ、そろそろ時間だ」
「え?」
「あらほんと」
「よーし今日も宴会奏だ」
「演奏宴でしょ」
「演奏会! 二人とも春が長いからってさあ……」
「無駄口はあとだ。いくぞ! プリズムリバーちんどん屋、出撃!」
「撤退!」
「再出撃!」
「あ、帽子忘れてた」
「再々出撃!」
ちゃららーらーらーららーらーらららーらーららら……
が、最後まで読まされてしまったので文句は言えない。
そして、面白かったので文句は無い。
流石は東方SS界の異端児、ルドルフとトラ猫氏っす。
しかし落ち着いてしまえば騒霊ではなく、オチが付かなければ落語ではなく
オゥチ! と叫べばアメリカーン。
「HAHAHA! ナニイッテルンディスカー」「姉さんこそ何言ってるのよ」「放っておけリリカ。こいつなりの精一杯なんだ」
今日も元気にトテチテター♪
例えるならば
≪無邪気で移り気な子猫ちゃん×3、ただし中身は黒猫型宇宙人≫みたいなっ!
氏は、絶対に神林読者だ。
20フムン賭けてもいい。
ノイズはさておき、騒霊ズ、無駄なテンションの高さが素敵です。