水のせせらぎが大地を潤していく。
妖精達が歌い、踊っている。
全ての命が息づいている…。
一人マヨヒガで主を待つ。
昨日も今日も明日も。
私の式は独り立ちし
気心の知れた者も
長い年月の中で散り散りになった。
最早ここに在るは私一人…
しかしてそれでも主を待つ。
…八雲紫が消えた。
外からの流入と中からの流出が
微量ずつといえども幻想郷に影響を与えていたからだ。
次第に幻想と現実の境が曖昧になり
幻想郷はその存在の危機に直面していた。
気付いた時には既に遅かった。
この流れは止められない…
妖精はその数を減らし、自然はその質を貶めていく。
幻想郷が希薄になっていく…!
その事を最も嘆いていたのは紫様に他ならない。
誰よりもこの世界を愛していた我が主。
その気になれば幻想郷を潰す事さえ出来たのに。
その力で幻想郷を生かす事に決めた。
内側から幻想郷に力を貸す事で…
力を失いつつある幻想郷。
境界を操作する程度の能力。
幻想郷を潰す事が出来るほどの力。
…そして八雲紫は幻想郷と同化した…
最早ここに在るは私一人。
寂しくないと言えば嘘になるが
気まぐれで、何時帰って来るとも知れない主を待つ。
もう帰って来ない事は解っているけれど…
…その時 風が頬を撫でた…
(…藍…)
紫様?紫様!?
「紫様!!」
声を上げ、顔を上げる。
しかしそこにはいつもの幻想郷が広がっていた。
草花が咲き誇っている。
水のせせらぎが大地を潤していく。
妖精達が歌い、踊っている。
全ての命が息づいている…。
私の命も。
頬に残る暖かい感触。
その時紫様が微笑んだ気がした…。