Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

犬の願い

2006/05/07 07:06:12
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少女は十六夜の晩、仔犬を拾った。

仔犬は酷く飢えていて、疲弊した顔は闇よりも冥い。

しかしその双眸は血よりも赤い紅を宿し、鋭かった。

少女は仔犬に遅い夕餉を振舞う事にした。

仔犬は出された食事に手を付けようとはしない。

怯えきったその目はナイフの様に尖り、少女を睨んでいた。

少女は仔犬を叩いた。力いっぱい何度も叩いた。

その度仔犬は悲鳴を上げてのた打ち回り、だが眼光は緩む事は無い。

打ち据える音が響く。仔犬の悲鳴が響く。

ぼろぼろになって横たわる仔犬の前に、少女はもう一度スープの皿を差し出す。

仔犬は食器と少女を交互に睨み、やがて貪る様に食べ始めた。

新しく生まれた復讐のために。生き伸びてその喉笛を食い千切るために。

少女はうんと頷いた。何があったかは知らない。何に恐れているかはわからない。

しかし恐れるだけでは生きてはいけない、私が新しい理由になろう。

恐れるだけの子犬に、少女はもう一度生きる理由を与えた。

紅い瞳に気概を宿した仔犬の快復は早かった。

少女は仔犬を躾けた。完璧であるように。瀟洒であるように。

執拗に。徹底的に。その牙が哀しみを忘れぬように。

能く躾けられ能く学んだ犬に、少女は多くを任せる事にした。

犬は快く従った。任された万の仕事を完璧にこなした。

常に少女の横に付き、行儀正しく瀟洒に振舞った。しかし決して尻尾は振らなかった。

見え透いた慇懃無礼に、少女はうんと頷いた。

犬の時間は短かった。美しい毛並みはやがて艶が抜ける。

変わらぬ物は、一対の紅だけだった。

犬は病床に伏せながらも、見苦しく鳴く事も無く節度良く振舞った。

十六夜の晩に犬は返事をしなくなった。

水も飲まず、食事も摂らない。少女は犬を抱き上げた。

尻尾を振れと少女は言う。犬はそれに従わなかった。

雄弁なる紅に、少女は己が見た運命の訪れを悟った。

それでも少女は、嘘でもいいから尻尾を振れと叫んだ。犬はやはり従わなかった。

温度無き少女の腕の中。犬は静かに息を引き取った。

犬の復讐は終わった。少女は頷かず、温度無き犬をじっと見つめていた。


最近活気付いているプチ創想話。
こんなの投稿して怒られやしないかと恐れつつ。

と、言うわけでみんながあんまり犬犬言うもんだから、別アプローチ!
駄文を書き連ねる程度の能力
コメント



1.削除
涙腺がーぁーぁー
2.名無し妖怪削除
GJ!
3.床間たろひ削除
その誇り高き狗の、魂の安らぎを願いつつ……
それでもその狗は、少女の腕に抱かれ幸せだったと信じつつ……

良い生涯でしたw