Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

まじこる☆りぐるん

2006/05/05 04:32:30
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第一話 「去らば、バタフライストーム!」


 ごく普通の蟲の王リグルは、いつものように蟲復興のアピール活動を行っていた。
朝の早起きサービスを小まめにこなし、駄賃として砂糖水を貰う日々。蟲の有用性も人間たちに理解され始めた頃だった。

 今日も今日とて、早朝から村の各家庭を走り回っている。
 妙な声を上げて飛び上がる人々に、面白半分とお愛想半分で笑顔を向けた。
「こりゃ、かなわんな」
 常連さんはいい人だ。いつも口では良いことを言っているが、表情が強張っている。それはつまり蟲が嫌いだという事なのだろう。それでも早起きができないからと、毎朝私に依頼をしてくれる。
「いやー、それが効くんですよね」
 見よう見まねで接客の口上を述べてみた。それで大体の人は笑う。相手をする意味を込めて私も笑う。
 ……人間の考えはまだよくわからない。気持ち悪がられて服の中に篭ってしまった蛍を抱いて、私は住処へと戻った。森に戻ったらまた慰めてあげよう。この子達は繊細で傷つきやすいから。
 胸元にいる蛍が細やかに蠕動している。だからショックを隠しきれないのだろう。私はそっと、その子の翅を撫でてやった。周りの蟲たちも似たようなものだ。私に付き従って併走しているが、すぐにでも暗い木の洞に潜り込みたいに違いない。
「みんな、おつかれさま!」
 明るく笑ってやる。それで蟲たちが、どうこう思うわけでもない。私の作り笑顔は、あっという間に苦笑に変わった。人間の作法が染み付いてしまったようで、どうにも勘が狂ってしまう。
「……まあ、いいさ」
「ああ、それでいい」  
 頭上から返事が来た。
 見上げると、雲の間に人影がひとつ。
「お前はそのままでいいのさ」
 森に住む魔女。
 金の髪を湿り風に揺らし、ただこちらを睥睨している。
「だからこそやりがいがあるってもんよぉ~」
 人影がふたつ。
 山に住む巫女だ。
 唐突に現われた二対の二色は、また唐突に煙を噴出した。
 わけのわからない。
 二色たちはぐるぐると円を描いていく。
 こちらの目を塞ぐつもりか。直球勝負を好む奴らの、らしくなさに私は警戒を強めた。
 取り合えず皆を逃がさなければならない。そう思って振り返った私の目には、ぽろぽろと死んでゆく仲間が映っていた。
 殺虫剤だ。殺虫剤に周りを包囲されてしまっている。
「貴様らぁ!」
 叫んでしまって思考から怒りを追い出した。何よりもまず冷静にならなければ生き残れない。考えなければならないのは、まず、直ぐにでも、ここから脱するということ。そのためには多少の犠牲は止むを得ない!
 ごめん、紋白蝶のみんな。君たちもきっと残りの仲間を生き残らせて、再び繁栄させてあげるから。だから、ここでは死んでくれ。
 スペルカードの発動によって蝶たちは、自分の意志とは関係なく人間たちに襲い掛かる。人間は急に襲ってきた蟲によって、飛行軌道を余儀なくずらされた。それによってできた隙間に、他の仲間たちを殺到させる。
 逃げ切れたか?
 蟲たちが森へと逃げ飛んでいく様を確認し、それから視線で人間を切り返す。この無闇矢鱈に仲間を殺していった馬鹿共は、未だに蝶の弾を避け続けている。「こんな簡単なもの」とか「パターンにもほどが……」とか、そんな下らないことをいって避けている。だから、こいつらは、何もわかっていない馬鹿なのだ。
 紋白蝶たちは殺虫剤に撒かれて徐々に弾幕としての機能を果たさなくなっていった。にやにやと締まらない顔で、二人はこちらに向き直る。
「その程度のおつむで、弾幕ごっこか? ろくに物を知らないってのは、可哀想だな」
 だから可哀想なのはお前たちだ。蝶たちの献身の意味を、朝露ほどにも感ぜられないのだからな。
「……なぜ」
 聞いた。仲間の敵を討つために。
 曇天を背負うは異形の人間。血も涙もない巫女と魔女によって、蟲たちはことごとく殺されていった。 
「なぜ?」
 話がわからないといった風に聞き返してくる。
 いちいち説明なんかしてられるか。
「ああ、なぜってな」
 金の魔女のほうは合点がいったらしい。”馬鹿な”私にもわかり易いようにと、やんわりと説明をしてくれる。
「なぜって、邪魔だからさ。妖怪と人間は共存できない」
 ……ああ、ほんとうに、わかりやすい。
 本当に。本当に。わかりやすい。
 だから私は、もうすでに決めてしまった。
 スペルカードを手に取る。これを宣誓してしまえばまた仲間が死ぬ。でも知ったこっちゃない。こいつらを殺せなければ、私たちは皆あいつらに殺される!
「蠢符!」
 スペルカードの宣誓。それを受けて、山の巫女がひひと笑う。卑しい表情だ。
「ナイト・バグ……」
 目の前が白くなった。
 急に息ができなくなる。視界が霞む、目が痛い。反射的に体がくの字に折り曲がった。思わず息を深く吸ってしまう。それだけで、意識が消えそうになった。
「くひひひひ、いい気味ね」
「……これで最後だ。なぁに、心配するな。すぐに仲間に会えるぜ」
 人間が手に何かを持っている。その細長い筒から信じられない勢いで毒が噴き出してきた。
 確か殺虫剤は二メートルもあれば、ほとんど効果が無くなるはず。しかしこれは、その三倍以上は噴き出している。
「なんだ? 新型か?」
 ポケットサイズの兵器の秘密に近づいたのか、二人の人間は意外そうにした。感嘆を漏らしながら顔を見合わせる。
「まあ、そういうこと」
 笑い混じりに言ってのける。そうして噴出口を簡単に、こちら側に向けた。
「魔理沙ぁ。早く、早く。早く殺しちゃおうよぉ~」
 上乗りになった処刑スタイル。どう足掻いたって、そもそも足掻きようがない。両足に手がしっかりと地に縫い付けられる。地縫いとか言ったか。狩られる熊と同じように、私も同様の運命を辿るのか。
 駄目か……私は天寿を受け入れる。そうして、その瞳を閉じた。
 瞬間。
 地から湧き上がる影がひとつ。
「変身!」
 装着されたベルトが、影を一回り大きく包んでいく。
 ライダーベルトだ。天の道を行く者に与えられる力の象徴。これを持つ者は、時すら止める能力を持つという。
 噴射されたゴキジェットプロをすんででかわし、風に舞うはオオムラサキの翅。
 魔理沙の持つ殺虫瓶を、手首ごと奪い去る。出血と激痛で動けなくなった魔理沙を尻目に、霊夢の元へ。噴出口がこちらを向くまでのほんの数瞬に、魔理沙の手首を投げつける。腕の角度が自分へとゼロになる事を見越し逆算したかのように、照準が合った瞬間に霊夢の殺虫瓶が弾き飛ばされた。
「ニンゲン! ニンゲンニンゲンニンゲン、ニンゲェェェェン!」
 子貝川にたゆう下妻の蝶。オオムラサキの妖蟲だ。
 怒りに身を任せ、力任せに魔理沙の頭を踏み蹴る。片腕を抑えてじたばたとしていた魔理沙だったが、もうそれきり動かない。
「リグル、怪我は?」
 変身を解除して、シモンちゃんが振り向く。問いに私は頷く事しかできなかった。それでも、視線が合っただけでも、私には充分だった。助かったことの安堵と、シモンちゃんへの頼もしさで気が抜ける。だから魔理沙が再び立ち上がってきたときに、不覚にも私はひるんでしまった。
「……やってくれたな」
 右腕の先が不自然に盛り上がっている。定形を持たない肉の塊は、ぞわぞわと蠢いて。そして。
「くひヒヒひ。魔理沙の腕あぁ、すぐに戻るのぉ。ひひ、ひひひ」
 背後に霊夢がいた。
 シモンちゃんからほんのすぐ側。肩と肩が触れ合えるほどの距離。
 なのに、どうして。どうして霊夢の腕はあんなに伸ばせるのだろう。
 訳のわからないままシモンちゃんが崩れ落ちた。それと共に霊夢の腕が短くなっていく。
 だからわかってしまったのだ。
 霊夢の腕(シモンちゃん)が伸び縮みし(なに?)たんじゃなくて、(ありがとう、シモンちゃん)シモンちゃんの体で霊(ふふ。あたりまえ)夢の腕が隠れていたって事を。
 事を!
「シモンちゃん!」
 霊夢が腕を振った。雨が降る。シモンちゃんの血に混じり、曇天からも雨が降っている。青いシモンちゃんの血が頬を伝い、すぐに透明な流れに戻った。きっと天も泣いているのだろう。この、無残に散らされた、オオムラサキの翅のように。
「リ、リグル……。逃げなさい」
 シモンちゃんが倒れてゆく。美しい羽をおのずの血に染めて、雨に打たれて地に伏せる。悲しいことに、私にはそれが捨てられた塵のように見えた。
 だからもう、ニンゲンなど見えない。私の心にはもう何も入ってはこない。単にぬかるみ続ける水溜りに、足を取られていくだけだ。
「シモンちゃん。ありがとう……」
 不細工な手つきでベルトを外す。シモンちゃんの肉で滑って上手く外れない。
 離れた場所から失笑が零れた。きっとどこかのニンゲンなのだろう。名前は? 住んでいる場所は? 外見は? そんなもの、覚えてるはずがないじゃないか。大事なのは二つ。あいつらは二匹いた。そして、……。
 轟々と轟く豪雨の中で、ベルトを嵌めて身に付け着た。
 これで完璧。二度と外すなんてことはない。
 復讐を胸に、力を手に。
 もうずっと、離れることなんてない。これからもずっと、シモンちゃんと離れることなんてない。
 世界も水も太陽でさえ、私には必要がなくなった。
 切り離された世に、ただ独りで立ち続ける私に、未練などない!
 
「変身!」 
 
 そうして、私は破滅を宣言した。
 頤から落ちる雨に一粒、混じった泪がいつまでも留まる。










(まじこる☆りぐるん 第一話・完!)
     次回予告!

 人類を守ろうとした霊夢と魔理沙。しかしそれは同時に、妖怪たちを相手取る戦いの幕開けでもあったのだ!
 一方シモンの敵を討ち損じたリグルは、単身で村へ乗り込む。そこにあったのは見せしめとして殺され、晒されている常連のお客さんだった!
 嘆き悲しむリグル。どうしてヒトは仲間にこんな残酷なことができるのだ。
 そうした様子をこっそりと観察する影があった。
 命令を無視してまでも、妖怪たちと話し合おうとする謎のメイド咲夜とは!

 次回 まじこる☆りぐるん 第二話
     「戦いの序曲」

 あなたの心に、まじこる☆あーっぷ♪
博麗の氏子
コメント



1.削除
リグルスレから歩いてきました。正直、やりすぎた感が……。