Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

彼女(世界)がハサミに着替えたら

2006/05/02 08:15:00
最終更新
サイズ
5.67KB
ページ数
1



タンタンタンタン タンタンタン!

「これはなんと言う物なのですか?」
「それはハサミと言う物です 具体的には洋裁鋏という物です」
「このハサミというものは両手に一個ずつもって タンタンタタタン リズムを刻むものですか?」
「はいそうです」





 ――運命わー運命わー
 ――境界刻んで 隙間でタンタタ 踊ってタンタン
 ――淡々と切れば良いのです?
 ――短く切れば良いのです 短!





さあ言ってみよう切って妙 今夜の幻想郷は右も左もハサミ祭りだ。
切っ掛けなんて お空の星に 運命が底にあったから
隙間を切るのもハサミの仕事 だって、ハサミってば三途の川を泳いで帰ってきたのよ
本能だけで川を昇って 鮭になる 都合二本 両手で四本
二本の鮭の尻尾のほんの少し上をね? こう、紐で結ぶのよ 二本まとめて
そしてね? 尾びれに穴を開けるのさ? そこに親指と人差し指を入れて閉じたり開いたり?
両手で持って 勢いよく! タンタンタンタン タタタンタン!

小町は思いつきで作ってみたそれで目の前の霊をはさんで切ってみた。

タタタンタン! リズムに乗って鮭が閉じる! 腹身が閉じる! ハサミの気持ち良い音、響いてる!
切れた! 幽霊真っ二つ! サックリサクサク感触が良い 
嬉しくなって 両手のハサミを頭上に掲げた そのまま腰振りハサミも揺らす!
タタタンタンタンリズムに乗って ハサミはリズムを刻むもの リズムは時を刻むもの
だから だから 時すら刻むリズムのハサミが 物を切ってしまうのは仕方の無いことなんだ!
ちょっぴり生臭いのだけどねー?

「小町、何をしているのですか!? 今日も遅いから様子を見に来て見れば、鮭振り回して何をしているのですか!?」
「四季様 四季様 これはハサミです」
「例えそれがハサミだとして、あなたがサボる言い訳にはなりませんよ?」
「四季様 四季様 ハサミは時を刻むもの 私がサボって時を過ごしても切ってしまえば良いのですよ?」
「小町……おかしな影響を受けましたね? サボって現世にかかわりすぎたせいですよ
 貴女は此方と彼方を渡す死の神、本来ならばあの半霊の娘と同じくあまり強く現世にかかわり過ぎてはよくな……」

タンタンタン タタタンタン♪ 四季様も気持ちよく切れました。


少しだけ時間を戻すよ?







「幽々子、これ拾ったんだけど要る?」
「これは……ハサミかしら? でも不思議な形ね」
「そ、この穴にね指を入れて開いたり閉じたりして切るのよ。小さいけど数はたくさんあるから。
 これがあればあの子の仕事もはかどるし、あなたが気まぐれに裁縫するのにも便利じゃない?
 あの子のためにお洋服作ってるの知ってるのよー? ふふふー」
「あー紫、覗いたのね! からかうなんて酷いわよー」
「隙間は何でも知っている」
「そんな隙間切っちゃいます! えい!」

タン! 

鉄の閉じる澄んだ音 程よい重みと摩擦感 幽々子は病みつきになりました!

タンタンタン! タタタンタン!
タンタタタンタン 淡々とタタタン!

「幽々子さま 幽々子さま 何をなさっているのですか?」
「妖夢、これはハサミよ」
「それで……そのハサミは紫様のお着物を全部直角二等辺三角形にするためのものなんですか?」
「え、ええと、違うのよこれは。タンタンタンっと。そう、これはリズムを刻むものなのよ!
 紫が切れてるのは 時の流れに身を躍らせたから リズムが刻むは時の流れよ 妖夢
 まだあなたが切れない時を このハサミが切ってくれる
 だから妖夢 あなたにこれをあげちゃいます だから妖夢 黙っててね?」
「分かりました幽々子様 あなたの流れに逆らって 私も切られたくはありません」

妖夢は両手に二本のハサミを持って 頭上に掲げてタンタンタタンと リズムを刻んで部屋を出てった
未熟故 自らの刀で切れない時を このハサミが切ってくれると聞いたから
そんな流れに乗ったのだから これは嬉しくもなるでしょう?
タンタンタタタンリズムを刻む 刃の擦れる感覚は 刀使いには綱渡り
刃こぼれと 真刃の憂いの境目で 物をはさんで切る様は 刀には出来ないハサミの特権
それを無造作にタタタンタン 宙を切り 庭木を切り 自分の前髪も切ってみた
タンタンタタン タタ淡々と デコップ ムテップ ステップ踏んで
腰を左右に振りながら タンタンタタタン くるっと回ってハサミを前に ウィンクしながらはさみを閉じる


はらりと銀髪が舞い落ちました。
 

「妖夢 あなたは何をしているの?」
「ハサミで時を刻みました」
「そのハサミは両手に持って 踊りながら私の前髪を切るものなの?」
「いいえ違います リズムを刻むものです」

……。

「お嬢様 私はどうしたら良いのでしょう?」
「久しぶりに来て見た冥界は 酷く不思議な場所だわね ハサミで時を刻むなら咲夜のナイフもハサミかしら?」
「だとしたら、私はナイフを持って切り返しても良いのですね?」
「許すわ咲夜 おでこ見えてるあなたは見るに耐えないものね」
「私も許可します 咲夜の髪を切ったのは私が未熟なせい 本来ハサミとは 心のリズムを刻むもの
 タンタンタンタン でも咲夜 ナイフと名のつくハサミで切ってくださいね」

妖夢は咲夜の怒りを受け入れた
咲夜は妖夢の謝罪を受け入れた
ナイフを二本重ねて持って 指で開いて閉じてみる
けれどナイフはナイフはハサミじゃないから 上手く切れない
切り心地が悪かった
それではタタンと リズム切る 時切るハサミにはなりえない

妖夢は受け取れない怒りを悔しく思い 天地にハサミの神様に 隙間に祈りをささげました
咲夜は受け取れない謝罪を哀しく思い 時間にハサミの神様に 悪魔に救いを求めました

「ならば、ハサミとハサミじゃないものの境界を曖昧にしてしまいましょう」
「ならば、あらゆる物はハサミに刻まれ得る運命を具現しましょう」

かくして 幻想郷の住人は 人も悪魔も幽霊も ハサミを両手に掲げ舞う
タタタンタンタンタンタタタン
腰振り 腕振り ハサミ振り
あらゆる生き物が 二分の一の秒の刻みで 時を切る世界

恍惚とした表情を浮かべた 前髪の無い二人は それこそがこの世界を祝福する印であると
教え広め 短短短 前髪の隙を狙って虎視眈々
それぞれに己が主と友人をまず 短く切ってみたのでした




そして広がる世界




最初に戻るよ?


そう言うわけで、映姫の前髪もサックリ切られてしまいましたとさ 鮭で。

……。

「四季様 四季様 片手に二本 両手に四本持ったそれは卒塔婆という名の罪ですか?」
「いいえ これは ハサミです」
「あはは 四季様 やっぱり ええと 念のため伺いますが ハサミとは時を刻むものですか?」
「小町、何を馬鹿な事を言っているのですか? ハサミとは布や紙や糸を切るためのものですよ
 そしてたまには人の髪 あなたの前髪も 短 短 短♪」



今だけ前髪ベリーショートが至高の存在だと思い至る。
*この話に出てくるハサミの用法は全て危険ですので絶対に真似をしないでください

これはもうあまりにも酷いので しばらく時を置いて 感性を磨き精進し
少し映姫を養いたいと思います
らららくらら
コメント



1.名無し妖怪削除
相変わらず面白いなー。映姫を養った氏に期待!!
2.名無し妖怪削除
でも読んでいて気持ちよい文でした。前髪パッツンは素晴らしいですよね。
次回作を可及的速やかにお待ちしております。
3.サヂテリアス・ズィ・アーチャー削除
あの『シャキッ』って音と、指にまで伝わる刃と刃の擦れる感覚・・・
しかも、小気味よく開閉できるハサミは・・・新品か、散髪用の手入れされてる物じゃないとできなんだよなぁ
4.床間たろひ削除
>タンタンタン タタタンタン♪ 四季様も気持ちよく切れました。

この一文を見た瞬間、心臓が凍った。オチまで見ても動悸が静まらない。
タンタンタタタ タタタタンタタン♪
あー心臓が煩い。煩いから切ってしまいましょう――断!

「音が雅じゃありませんわ。刃毀れでもしたのかしらね?」
5.名無し妖怪削除
詩とも思えるいいリズムの作品でした。
そういえば、鋏の唄ってのがあったなぁ。凄くマイナーだけど。
6.らららくらら削除
感想ありがとうございます。
鋏の唄のキレた歌詞にしびれました
刃毀れさせた心臓って!!!?(そこに驚くのかよ)
はい、ハサミは楽器だと思います。誰にも迷惑をかけない範囲で。
前髪パッツンの美学には可能性があると思うんです。
言えない。いまさら誤字でしたとか言えない。嘘ですけど。