■注意■
狂気描写を含んだ純愛派の蓬莱山 輝夜がここにいます。
苦手な方はご注意ください。
その日は奇しくも13日の金曜日だった。
永遠亭にお呼ばれした。それだけでも珍しいどころか槍でも降りそうなことなのに、
「いらっしゃい。よく来てくれたわね」
歓迎までされた。家主である蓬莱山 輝夜本人に、直接。
何かの悪趣味な冗談だと妹紅は思った。
「……なんのつもりだ?」
ぎろりと輝夜をにらみつけて、妹紅は吐き捨てるように言った。
まあ、無理のないことだ。今までの経緯を考えれば、妹紅がそう思うのも当然のことだ。二人の確執はハンパなものではない。千年も続いたそれは、簡単にどうにかなるようなものではない。
最初に罠を疑った。しかし罠など意味がないことを思い出し、妹紅は単身永遠亭に来たのだ。どんな罠があろうと打ち破る自信はあったし、打ち破れなくても最悪の事態は訪れない。妹紅の『死』は、永遠の彼方、月の向こう側へと消え去ってしまったのだから。
敵意すら孕んだその瞳を受けて、それでもなお輝夜は平然としていた。
「歓迎するつもりよ、もちろん」
そう言う輝夜の周りには、誰もいない。
天才たる従者も、月からの来訪客も、人に成った兎たちも。
誰もいない。
永遠亭の長い長い廊下の入り口。そこに、輝夜だけがぽつりと立っていた。
輝夜はふと思う。
――今なら殺せる。
が、口から出た言葉は、スペルカードではなかった。
敵意の霧散した、ため息交じりの言葉だった。
「ちゃんと歓迎してくれるんだろうな。『これでも食らいなさいな』とかヤだぞ」
妹紅の言葉に、輝夜は袖で口元を隠してくすくすと笑った。
イタズラを思いついた子供のような笑みだった。
「それもいいけど。安心しなさいな、ちゃんとしたご飯よ。美味しいものが手に入ったから、一緒に食べようかと思って」
「へぇ。どんな毒だ?」
「蓬莱の毒よ。永遠を殺せるほどの、ね」
「お前が先に食べろよ、それ」
「ええ、一緒に食べましょう」
物騒な物言いの、軽口の応酬。
死なない人間ゆえのブラックジョーク。
そうした会話が、この二人の常だった。つねに一触即発の、けれども中々破裂することのない、緊張を孕んだ関係。それこそがこの二人のあり方だった。
べたべたと甘くもなく、仲が良くもなく。
それでも、相手のことを理解しているという、腐れ縁の悪友のような関係。
それが妹紅と輝夜の関係だった。
「とりあえずあがりなさいな。玄関で靴でも食べたいなら別だけれど」
「靴はまずいぞ。食べるなら草履にしろ、あれならまだ何とか食べられるから」
「……最っ低。これだから育ちが悪い人は……」
「ちょっとまておい! お前私だって姫だったんだぞ一応」
「はいはい、元オヒメサマね。妹紅姫サマー、こっちですよー」
けたけたと笑ってから、輝夜は踵を返し、奥へと引っ込んでいく。
妹紅は苦虫を噛み潰したような顔をして、その後を追った。靴をそろえて脱いだのは、彼女なりの矜持の表れだろう。
音のしない板張りの廊下を、足音もなく進む。
輝夜は小さく早く。妹紅は大またでゆっくりと。会話の応酬もなく、淡々と歩き続ける。永遠亭の長い廊下を。
「どこまで行く気だ?」
「もうすぐよ」
会話はそれだけだった。
妹紅は頭の後ろで手を組んで、前を歩く輝夜の後ろ姿を見つめた。長い黒髪が、歩くたびにかすかに揺れている。スリッパでなんとなくはたきたくなったがさすがに自重した。スリッパがあったら、迷うことなくやっていたかもしれないが。
輝夜が“もうすぐ”と言った場所から、三分は歩いた。
二回目のせっつきをしなかったのは、なんとなく焦らされているような気がして、そしてそれに見事にはまっているような気がしたからだ。輝夜の手の上で踊らされている――その事実は、妹紅にとって受け入れがたいものだった。
「ここよ」
そう言って、輝夜が足を止めた。
別に、何の変哲もない部屋だった。開いたふすまの向こう、六畳ほどの和室だった。ある意味では珍しいとも言えた。豪華な永遠亭の中で、これほどまでに小さい部屋は珍しいのだから。輝夜が和や寂を理解する人間だと考えれば、おかしくはないかもしれない。
変わった点は、一つだけあった。
六畳間。その真ん中に置かれた丸机。
その真ん中に、鍋が置かれていた。
どこかで見たような八角形の炉が置かれ、ぐつぐつと煮えている鍋が、どんと置いてあった。
おわんと箸は二つあった。
妹紅はソレを見て理解する。つまり、今日ここに来たのは、
「――鍋?」
「そう、お鍋を。お鍋は大勢で食べたほうが美味しいでしょう?」
「大勢って……従者やウサギたちはどうしたんだ」
「たまには二人きりもいいでしょう?」
「さっきと言ってることが違うぞ!」
「うるさいわねぇ。永琳はお片付け。イナバたちは、まあ、色々よ」
言い捨てて、輝夜はさっそうと部屋の中へと入った。
訝しげに見る妹紅を放って、さっさと席に着く。
「食べないの? 美味しいわよ、永琳お手製の、『特別』なお鍋」
「……食べるよ」
不審に思いつつも、妹紅は輝夜の前に座った。
目の前の鍋は、輝夜のことを考えずに見れば、食欲を誘わずにはいられないほど美味しそうだったから。野菜と豆腐と肉がふんだんに使ってある鍋。ダシをきちんと取ってあるのか、食欲を誘う匂いが妹紅の鼻腔をくすぐった。
罠かもしれない。
毒かもしれない。
それでも、食べずにはいられない魅力が、その鍋にはあった。
「いただきます」
先に動いたのは輝夜の方だった。妹紅の見守る中、箸を直接鍋へと伸ばし、肉を一つまみして、口へと運んだ。
そのまま租借して、ごくりと飲み込んでから、笑って言った。
「うん、美味しいわ」
その言葉を聞いて、妹紅も覚悟を決めた。
箸を手に取り、一番近くにあった肉を、口に運んだのだ。
恐る恐る噛み、しかし次第にその勢いはまし、十分に味を感じてから肉を飲み込む。
「ん」
「どう?」
「普通に美味いな」
「特別に美味しいのよ」
「ああ、特別に美味しいな」
事実、美味かった。
今まで食べたどんな肉よりも違った。牛とも馬とも鶏とも違う。魚介類とも、イノシシともウサギとも違う。
千年の間、味わったことのない味だった。
妹紅は喋ることもなく、二枚目、三枚目と、肉を狙って食べる。
その妹紅を、輝夜は、嬉しそうに笑いながら見つめている。
すべての肉を一人で食べて、満足げに息を漏らしてから、妹紅は訊ねた。
「うまかった……なぁ、これ何の肉だ?」
永遠亭にすまう、収集癖のある輝夜だ。きっと珍しいモノを振舞ってくれたに違いない、妹紅はそう考えたのだ。
その考えは、半分だけ当たっていた。
珍しいモノには、違いなかったからだ。
「ええ。今日の食材を紹介するわ」
そう言って、妹紅は指を鳴らす。
その声にあわせて、永琳が入ってくる。永遠亭の頭脳、月からの僕、天才なる従者。
彼女はお盆を持って入ってきた。表情はない。何かを覚悟したような、そんな顔だ。イタズラをしかられる子供の母親のような――職員室に呼び出しをくらった母親のような――いまから子供が怒られるのを待つ親のような、そんな顔だった。
そのことに、妹紅は気づかなかった。肉の美味さと、満腹さで、思考が止まっていたからだ。
その妹紅と輝夜の前に、お盆が置かれる。
妹紅は緩慢な動作でそれを見る。
お盆の上にのったものを、にやにやと笑いながら見下ろして、輝夜は言った。
「これが――今日のお肉よ」
お盆の上には。
――どこかで見たような、赤いリボンのついた、少女の首。
「――――――――――――――――――――――――――――――――え?」
妹紅の思考が、完全に止まった。
永琳は何も言わない。ただ黙って、目をつぶって、事態の成り行きを静かに待っている。
妹紅も何も言わない。何かを言うだけの能力は、既に失われていた。
輝夜だけが、にやにやと、にやにやと、本当に心のそこから楽しそうに笑いながら、言った。
「お友達のお肉。美味しかったかしら?」
吐き気が襲ってきた。
けれども、吐く事もできずに、妹紅は畳の上に横たわった。気分がぐるぐると回る。世界がぐるぐると回る。何も考えられない。
頭の中に、ある単語が思い浮かんでくる。
慧音。慧音。慧音。
――慧音は、ドコ?
吐きたくても吐けずに苦しむ妹紅を見下ろす輝夜の顔は、至福に満ちている。
聖人にしかできないような、優しさに満ちた笑みを浮かべて、輝夜は言う。
輝夜は言う――
輝夜は笑いながら言う――
「――貴方には、私だけがいるわ。それでいいしょう?」
永遠亭には、もはや、人はいない。
人であることをやめたものが三人。
闘いで死んだウサギとハクタク。
静かな、永遠に続く世界。
輝夜の、楽しそうな笑い声だけが、いつまでも響いていた。
でもサイ娘倶楽部さんは、エログロが一番y(日出る国の天子)
1:妹紅の首を切り取って殺す。
2:それを保存。妹紅は首が再生。
3:妹紅
ぎろりと妹紅をにらみつけて、妹紅は吐き捨てるように言った。
3:妹紅の首が二つ!おお。
で、「ぎろりと妹紅をにらみつけて、妹紅は吐き捨てるように言った」
って誤字ですかね。
K-999さん、ありがとうございます
修正しました