僕が筆を走らせるのはなにも日記のためだけではない。仮にも商人だ、店を管理する者として、帳簿くらいつける。きわめて事務的に仕入れ(拾得)数と売り上げを記録するのだ。砂上の楼閣なる現実を作るため、情報という土台を手の届く範囲で管理できなければ、生きることもままならないのであって。
だから、そうやって覗き込んでくるのはどうかと思う。
「香霖のことだから怪しいことでも書いてるのかと思った」
今説明したとおりだ。別段面白いものでもないだろうに、魔理沙はなおも僕の手元に過剰なほど顔を近づけて紙面をまさに舐め回すように見ている。そんなことばかりしていると近眼になると思うのだけど。
「そのときは眼鏡をかけるぜ」
何を期待しているのか知らないけど、眼鏡が入り用になったらちゃんとお金を払って買ってもらう。というか、今の体勢では続きが書けないから、そろそろどいて欲しい。
「それが恩人に言うセリフかー?」
魔理沙はニヤニヤと笑って、帳簿のうちのある一点を指先でポンポンと叩く。それは、ある商材の名前だ。そしてここ最近とても仕入れ数の多い品でもある。つまり、外の世界で急速に幻想化が進行しているものということだ。
大量に仕入れ、能力のおかげで名前と用途もわかったところでさてどう売りさばこうかと思案しているときに、いつものように、つまり無邪気に迷惑をまき散らして魔理沙が店に入ってきた。早速それに興味を持った彼女に、用途を教えると彼女は早速試し、「これはいい!」と絶賛した。そして例のごとく「ツケで」いくつかのそれを強奪していって、皆に勧めたらしい。そしてそれが思わぬ効果を呼んだ。口コミが口コミを呼び、その商品はどんどん認知され、飛ぶように売れたのだった。つまるところ、魔理沙はそれが売れたのは自分の手柄だと主張したいようだ。出不精を自任する僕があのまま売り続けても、これほどの売り上げは上げられなかっただろうから、まあ、正しくはないにしてもそれほど間違ってもいない。
「だろ? だからツケをチャラに」
それとこれとは話が別。
「そう言うなよ。ただでとは言わない」と、魔理沙は帽子の中からゴソゴソと何かを取り出した。「ほら、それに関する消費者アンケートを取ってきてやったよ」
律儀な宣伝部長だ。というかその行動力を、ツケを返すためにつぎ込んだらどうなのか。
「資源と時間は無限じゃないんだ」
……まあ、わかりきったことを何回も繰り返す愚はしないでおこう。僕は筆を置いて、魔理沙の持ってきた資料に目を通すことにした。どうやらその商品に関する口頭インタビューへの回答を、そのまま筆記したものらしかった。
R.H.さん(巫女)のコメント
「色が気に入らないわ。……え、赤もあるの?
……ふうん。じゃあ、試してみようかしら」
H.M.さん(門番)のコメント
「ええ、それに関しては紅魔館一同、愛用させて頂いてます。
なんだか、私に関してはそれを使い出して以来、
微妙に非難がましい目で見られるようになったんですよね……。
よくわかりませんけど」
S.I.さん(メイド)のコメント
「それを取り入れて以来、一部のメイドの作業効率が落ちたようなの……。
お嬢様が決めたことだから、仕方ないのだけれど」
R.S.さん(吸血鬼)のコメント
「良いでしょう? 咲夜は嫌がったけど。
……いいえ、私は使ってないわ。必要ないもの。
やはり他人のものを観賞するのが醍醐味でしょうに」
L.P.さん(キーボーディスト)のコメント
「姉さんたちにも勧めたんだけど、効果抜群だったよ!
ライヴでもお客さんの受けがすごく良くて! もう欠かせないわ」
L.P.さん(ヴァイオリニスト)のコメント
「リリカの言うとおりなんだけど……。なんだか、こう……、
観客の視線とか、乗りの感じが変わった気がするのよね……」
Y.K.さん(庭師)のコメント
「弾幕ごっこの勝率が上がりました!
どうしても私は接近主体なんで、機敏な動きができるほうが良いんですよ。
その点これは動きやすくて……ええ、素晴らしいです」
Y.Y.さん(スキマ妖怪)のコメント
「温かくて、とても重宝してるわ。最近冷えるのよね。
……今、更年期がどうとか、いろいろ無理が、とか聞こえた気がするのだけれど。
加齢臭じゃねぇっつってんだろこのダラズ!」
K.K.さん(ワーハクタク)のコメント
「とりあえず、caved!!! には問題ない」
R.U.Iさん(月兎)のコメント
「ええ、いいですよねこれ。なんともいえないフィット感が……。
……どうです、似合いますか?
……え?
……え、ええ? こ、これ、帽子じゃないんですか……?
ちょっと! てゐちゃん、てゐちゃああああん! また騙したわねー!」
E.Y.さん(薬師)のコメント
「うーん、姫がひどくお気に召したみたいなの。
珍しいものの好きなお方だから。
それで永遠亭にも導入したのは良いんだけど、
なんだかイナバたちの間で変な派閥ができちゃってねぇ……。
まあ私としては、ウドンゲを愛でることさえできれば何でも良いのだけど」
A.S.さん(ブン屋)のコメント
「なんだかそれが流行したときくらいから、妙な写真依頼が増えたんですよ。
まあ、私の撮影は盗撮のためにあるものじゃないんで、全部お断りしましたけどね。
……ほ、本当ですよ?
……。
ごめんなさい……お財布の中が寂しいときに、ちょっとだけ……。
だって、高く売れるんですもん……」
E.S.さん(閻魔)のコメント
「あんな破廉恥なものは即刻廃止すべきです!
あんなものがあるせいで人々は堕落の一途をたどるのです!
き、昨日だって……小町が、
小町が私に…………無理やりッ……!
……うっ、うう、……ううぅううううぅぅうううう……(号泣)」
……。なんだか悲喜こもごも、使い心地も人によってかなりの個人差があったらしい。とても興味深いものだった。
「喜んでもらえて何よりだ。じゃあ、」
そういえば、もうすぐ店に紅魔館の知識人が来る予定になっていたような。
「急用を思い出したから帰るぜ。達者でな」
……いったい、向こうにはどれだけの借りがあるのだろうか。まあ、取り立てを恐れて逃げるくらいではあるらしい。魔理沙は音速を超える勢いで扉を開けて出ていった。
さて。
貴重な資料も手に入れたことだし、明日からの商売の方法にも新たな方針が立てられそうだ。魔理沙には感謝しておこう。僕は改めて筆を握ると、それの欄に、事務的な文字の羅列を重ねていった。それが明日の糧となることを信じて。
(香霖堂 ○月×日の帳簿より抜粋)
商品名 仕入れ数 売却数 在庫
ブルマ 34枚 29枚 6枚
それが問題だ
34-29=5
・・・幻想になるの早いよ・・・(泣
間違いであることを祈りまs(虹色の幻想郷
あと、スリットの向こう側がブルマだったらちょっとキレるかも。
>よく生きて某スキマ妖怪からコメントをもらえたな・・・
M.K.さん(インタビュアー)のコメント
「あいにく、弾避けは得意なんでねぇ」
>直に穿いてるのか、スカートの下に穿いているのか。それが問題だ
どっちが立派な穿き方だろうか。
(中略)……穿く……萌える……それだけだ。
>ほらあれだ、自分用。
採用させて下さい。
>とりあえず魔理沙+眼鏡=最強の予感
あなたとはソウルブラザーになれそうだ。
>・・・幻想になるの早いよ・・・(泣
ボクがその魅力に気付いたときにはもう手遅れでした。共に泣きましょう。
>R.S.さん(吸血鬼)が必要ないと言っていますが
きっとメイド長はやってくれます。きっと。(何を
>あと、スリットの向こう側がブルマだったらちょっとキレるかも。
同意します。発売前に期待してたタイトルがいざプレイするとク○ゲーだった、みたいな気分。
在庫1枚は店主が穿いているに決まっているでしょうw
「頭からかぶって『フォォオオオオ!』ってなる」だったら神認定。
それは某Rさんみたいにカブったのか、履いているのか・・・
それ何て変態仮面?