気が付くと、頭にキノコが生えていた。
そんな日もある。
(ねえよ……!)
私は今日二十ニ度目となる、本棚への頭突きを慣行しました。
度重なる突っ込みに、私の頭の耐久値は既に限界に達していましたが、非情な現実を受け入れるよりかは幾分ましでした。
図書館で生まれた招かざる命に何とか理由をつけようと頑張ってるのですが、どんな理屈をつけても上手くいきません。
何度か目を擦って、ぎゅっと目を瞑って、思い切り深呼吸してから、私は襲い来る自然の驚異に、もう一度振り返りました。
パチュリー様の頭上に生える、ぶっといキノコは相変わらずでした。
まずは満足したら、森の息吹は自然に帰るべきです。
お願いします。
誉めるべきか、どうすべきか、パチュリー様はこんな状態でも自然体なのです。
頭にぶっといキノコを生やしたまま、ネグリジェ姿で平然と写本作業を続けておられるのです。
不感症ですかあなたは、失礼、失礼しました、小悪魔スマイルでごめんなさい。今の失言は無かった事に。
私を物理的に嫌な気分にさせてる物がもう一つありまして、それがこの本棚です。
何か間違ってるくらい硬いの。
悔しいですが、私、デーモンリトルクレイドルを割と本気で二十二度繰り出しましたが、こやつには傷一つ付いておりません。
一体なんで出来ているのでしょうか? マホガニーですか? うーん、ミステリウムだ。
(ミステリウムって……!?)
二十三度目、小悪魔VS本棚、頭突き相撲レコードを叩き出したところで額が割れました。
お母さん、都会は辛いです。小悪魔は故郷に帰りたいです。
「小悪魔!? 何をやっているの!」
惨事に気付き、パチュリー様がデスクから飛び出しました。
頭上のキノコが揺れています。
それはもう、ばふんばふんと揺れて胞子を撒き散らしてます。
私はとっさに息を吹いて胞子を跳ね返そうとしましたが、むしろ鼻に入って咳き込みました。
パチュリー様が腰を屈めると、謎のキノコもふにゃりとお辞儀をしました。
私は、それをパチェキノコと命名しました。
マッシュ君とデッドヒートでしたが、パチェキノコが勝ちました。
「大丈夫? 立てる?」
パチュリー様の紳士的態度と、頭上のユーモラスなキノコのツープラトン攻撃です。
こんな時、どんな顔をすればいいのか、小悪魔解りません。
解らないなりに、千秋楽を前に優勝が決まった力士のような笑顔を浮かべましたが、パチュリー様はそれを大丈夫だと取りました。
「良かった。傷はあまり深くないのね……」
深いかどうか心配なのは貴女の頭の菌糸ですし、小悪魔は、まずキノコを抜いてから喋って欲しいと思うのです。
私の熱い視線は全く感知されず、パチュリー様は踵を軸に反転するとデスクに戻り始めました。
この、不感……ふふふっ、残念でしたね、過ちは二度と繰り返さないのが小悪魔のいいところなのですよ。
「パ、パチュリー様! この際、思い切って訊いてみますが……!」
「何?」
「その頭上に生えるキノ――」
「あっと……ページが捲れちゃう」
またしてもキノコに触れる直前ではぐらかされ、パチュリー様はデスクに戻っていって、静かに座りました。
気付いてないはずがないのだが、もしかして触れてはいけない話題なのでしょうか?
お、キノコをキノで区切ると、ちょっと格好良くないですか?
コが駄目なんだね、コのせいで間抜けな響きになっちゃってんだキノコ。
どうでもいいや……。
私はキノコの事を調べる事にしました。
まず、敵を知らなければ話になりません。
図書館の北ブロック、キノココーナーに向かい……(あれ、前からこんなのありましたっけ?)
とにかく私はキノココーナーで、図鑑をじゃんじゃん引っ張り出し、目的のキノコを探し始めました。
目印は、肉厚で白くぶっとい茎と、大きくパンと張った黄色い傘に、でかく赤い斑点模様。
幻想郷キノコ大全。 これには無い。
食べられるキノコ食べられないキノコ。 これにも無い。
キノコ、貴女の生活の隣に。 無い。
魔法薬にかかせない魔導キノコ。 無い。
森の妖精キノコ――
(妖精扱いですかっ……!)
二十四度目の小悪魔クレイドルに、額の出血がぶり返して噴水みたいに立ち上りましたが、小悪魔ならぎりぎりセーフ。
セーフ、アウト、色々ありますが、人生ゆとりあるセーフでいきたいですね。
ごめんなさい、もう止めます、もう突っ込みは止めます。
実は、かなり痛いのですよ。
我慢強い小悪魔だからこそ耐えておりますが、これが氷精や夜雀なら号泣でしょう。
もちろんルーミアやリグルでも泣いてしまいます、大妖精? さん付けで呼べよな! 誰だと思ってんだよあの方を!?
とりあえず、森の妖精を額にあて、吹き出る血を止めました。
ごめんね、キノコちゃん。司書としてあるまじき行為ですが、緊急事態だけに見逃してちょうだい。
そろそろ血も止まったので、私はパチェキノコを求めて、真っ赤に染まったホラーチックな妖精本を捲りました。
やだ、キノコって真っ赤だと怖いんですね。
誰のせいだよ、わたしめ、ははは。
しかし、無い、無いと……んー、ここにも無いのかぁ。
む、レアキノココーナー? 充実してますね妖精ちゃん。
で、何がどうレアなんだろ? ふーん、まつたけ、マタンゴ、スーパーキノコ……。
「……スーパーキノコ!?」
ここで私は一つの結論に達しました。
私は図鑑を持ち、走り、パチュリー様の近くまできて、図鑑のキノコと頭上のキノコを交互に比較します。
間違いない、特徴は全て一致する、スーパーキノコだ。
あれは、スーパーキノコなのだ!
逸る気持ちを抑えて、私はスーパーキノコの詳細を読みました。
『
―スーパーキノコ―
マリオラ○ドでしか存在が確認されていない、魔王クッパすら恐れるレア中のレアキノコ。
強い苦味があり食用には向かないが、そのドーピング効果は凄まじい。
筋肉増強、骨格の急成長、身長は約二倍になり、一度だけなら砲弾で貫かれても復活する身体を瞬時に作り上げる』
「スッゲェーーーーッ!!!」
「小悪魔! 静かにする!」
「はい、すみません!」
さすが、パチュリー様だ。
単にキノコを生やすといっても、そんじょそこらのキノコとは格が違う!
相撲で言うと横綱! 競馬で言うと三冠馬! オペランドでは演算子の前と後ろで格が違うので格変化する。
「やー、凄いですね! パチュリー様の!」
「だから、うるさいってば!!」
かなりの笑顔で話しかけたのに、凄い邪険に扱われて小悪魔しょんぼり。
肩を落として本の整理に歩いて帰ります。
せっかく、素晴らしいパチェキノコを称えてあげようと……はっ! そういう事かな!?
スーパーキノコは凄い、凄いだけにそんなものを頭に生やしてただで済むとは思えない……!
パチュリー様だって頑なに隠し続けていた。
そこに、触れてはいけない理由があるのではないか。
私は机にあったメモを手に取ると、考えられる可能性を箇条書きにしてみました。
1:不治のキノコ(悲しい運命)
2:キノコ星人によるインプラント(やがて本体が乗っ取られる)
3:キノコとみせかけてパチェミサイル(幻想郷終焉)
どの選択肢も終わってるなぁ。
書き上げた途端、暗澹たる気分になってしまいましたよ。
ああ、パチュリー様。
本棚の影から覗く、貴女様の儚げな美貌ったらない。
あんなに楽しそうに写本を繰り返しておられる日が、蝙蝠みたいなこの暮らしのどこにあったでしょうか。
消え行くパチェ蝋燭の最後の輝きでないかと、小悪魔、心配ですよ。
……あ、パチュリー様が何かのメロディラインを口ずさみ始めましたよ。
よっぽど御機嫌なのですね。
ふんふんふん……♪
きのこ……のーこのこ……げんきの……? え?
「きのこっ、のーこーのこ、げんきのこ♪ ぱちゅりーは、むらさき、もっやっし♪」
「2だっ!?」
かなりキノコっぽい発言だ!
2番説がここに来て急浮上ですよ!
これはつまり、つい浮かれてキノコの歌を歌ってしまったのだけれど、私はキノコじゃありません、むらさきもやしですよ?
という事を言いたいが為に、もやしを最後に持ってきてるとしたらどうですか!
まず間違いなく黒!
小悪魔の緋色の脳細胞に隠蔽工作は効きません!
こぁはこの丸い目で見たぞ!
しかし、やばい……! ど、どうしよう!
問題は既に宇宙レベルまで拡大してしまいました!
気付かないうちに身近に潜んでいた、宇宙人の恐怖! あわわ!
私一人の力で何が出来るというのですか!?
自慢じゃありませんが小悪魔、百科事典とパチュリー様のバリューセット以上に重いものは持った事がありません!
あ、バリューセットって言うほどお得じゃないですよね、小悪魔、ポテトいらないし。
単品ハンバーガー×3。これがS(スキマ)バーガーで最もバリューな組み合わせです。
小悪魔は上っ面だけの大人社会には騙されないのですよ。
――コンコン
「パチェー? 入るわよー?」
ぬあ!? あ、あれはレミリア様のお声です!
バリューセットの解説に夢中になりすぎて接近に気付きませんでした!
こんな胞子が充満している部屋に入っては、お嬢様までキノコに侵されてしまいます。
これ以上被害を拡散させないようにしなくては!
私は全力で扉にタックルをしてレミリア様を押し返しました。
「いけません! レミリア様! いけません!」
「いたぁ! ちょっ……開かないじゃないの!? 誰!?」
「小悪魔です、貴女の愛する小悪魔です! どうかお引取りを!」
「どうしたのよ一体!」
「ここはキノコ星人にやられましたーっ!」
「はぁ!?」
「無理です、もう無理! 胞子がぷんぷん!」
「いいから開けなさいよ!」
「駄目ですーーー!!」
しかし私は一介の小悪魔。
どうして、当主様に力で勝てましょうか……!
武運拙く扉は開き、レミリア様の赤いお姿が図書館に現れました。
「パチェ……あなたっ!?」
早速、レミリア様、驚愕のご表情。
それも仕方が無いです、親友の頭にキノコが生えていたら誰だって驚きます。
「……少し背が伸びたんじゃない?」
「それはひょっとしてギャグで言っているのですかー!!?」
何事もなくブレイクタイム。
私の心は、ブレイクアウト。
おかしい、いくらなんでもあんまりだ。
と思いながら、お茶菓子の準備。
しばらく、天気が悪いとか、メイドがなってない、とか談笑したレミリア様は、頭のキノコに一切触れず、図書館を跡にしてしまいました。
私は呆然として見送った後、全ての推理は間違っていたのかなぁ、と考えながら、ティーカップをお下げしました。
その時、レミリア様が去っていった扉にかかる、ヴワル魔法図書館の札が、そよそよと揺れているのが目に入ったのです。
「え?」
その刹那、氷柱を抱かされた気持ちがしました。
何だ、今、何か見えなかったか。
何気ない図書館の札に、黒いオーラが見えた。
私の顎から雑巾を絞るような有り得ない量の汗が落ちてくる。
まさか……まさか……。
這うようにして床を進み、扉の札を掴む。
この裏だ、この裏に……何か見えた……。
肺に思いっきり息を吸い、札を引っくり返す!
『 キ ノ コ 王 国 』
「やっぱりだー!!!」
「小悪魔! 凄いうるさいっ!」
「すみません、すみません!」
土下座して謝りながら、私は確信を持ちました。
ここは、図書館の皮を被った、キノコ王国だ。
パチュリー様はキノコ星人に乗っ取られ、ここで人知れずキノコの栽培を続けているのだ。
だとすれば、レミリア様がキノコを見逃したのにも、納得がいく。
きっと普段は結界を張って、栽培してるキノコを見えなくしているのだろう。
あんなでかいキノコが急に生えてくるはずが無いのです。
昨日までは私も見えてなくて、何かの拍子に今日見えだしたと考えるべきだ。
何の拍子なのかは解らないが……今、キノコ星人の侵略に立ち向かえるのは私しかいないのだ。
壮大なスペースオペラのオープニングに、私たった一人が投げ出された。
パチュリー様の白々しい態度は、何も見えていないフリをしておられたからだ。
あの態度は、不感症だからじゃなかったんだ!
このままだと、気付いた時には既に人類は膝までキノコに埋まっている!
どうするの!? どうするの小悪魔……!?
「小悪魔、ちょっといいかしら?」
「は、はいいぃ!?」
「……? あなた、今日かなり挙動不審だわよ?」
「や、や、やだなー、そんな事はないでござるー」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です 小悪魔、いつでも逝けます」
パチュリー様が眉を顰めて、こちらに歩いてくる。
その時、私はちらりと頭の上で揺れるパチェキノコを覗いた。覗いてしまった……!
「え? ああ、そういう事ね」
パチュリー様が薄く笑う。
ああ、これで私にもキノコが見えていることがばれてしまいました!
このまま小悪魔もキノコ星人の仲間入りなんでしょうか!?
見逃して! 見逃してください! 小悪魔、キノコなんか生やさなくてもパリュリー様の事が好きです、服従してますからー!
今後は、門番の靴下と小悪魔の下着を一緒にしないで! なんて絶対に言いませんからー!
下がる、下がる。じりじりと下がる。
しかし、すぐに後が無くなった。
こんな所に奴だ、本棚withミステリウムだ。
やはりお前は先に倒すべき相手だった、ここで私の退路を塞ぐ、その神算鬼謀……!
パチェがこね、小悪魔つきし、天下餅、立つままに食うがミステリウム……!
「小悪魔、ご飯がまだだったわね」
「は?」
「あなた、お腹が空いているのでしょう?」
「え? え?」
パチュリー様は私の目を見て、にこりと微笑みます。
ち、違ったのでしょうか?
私はてっきり、秘密を知ったからにはロイヤルフレアで灰も残らず消されるのかと……。
「丁度いいわ、小悪魔」
パチュリー様、何を思ったか頭のキノコをむんずと掴みました。
私が唖然としてると、掴んだまま今度は、ぎりぎり、ぎりぎりと横に引っ張るのです……!
余りに脈絡の無いこの行動が、笑顔の下で行われているから怖い!
私、正直、ちょっとちびりました!
それでもパチュリー様の自虐行為は止まりません。
パチェキノコは撓りに撓り、八十度ぐらいの角度でみちみちと嫌な音を立てながら抵抗を続けています。
万力で首の骨を折ってるような、壮絶な光景……!
――ブヂッ!
キノコが……今、千切れました。
本体は反動で胞子をばいんばいん散らせながら、パチュリー様の頭上を反復運動しています。
切り取られた一部のキノコは、パチュリー様の透けるような白い手にそっと乗せられ、私の口元へ寄せられました。
「さあ、私のキノコをお食べ」
それは手の平に溜めたミルクを仔猫に与えるような、無邪気で慈悲に満ちた笑顔でした。
アンパンマンがちょっとした事でアンパンを与えるような、ジャムおじさんの苦労を考えない笑顔でした。
私はパニックに陥って右往左往する脳みそを懸命に纏め上げました。
とりあえず、場に相応しくないアンパンマンの映像を隅に蹴っ飛ばしました。
そうして、残ったのはホラーです。
私のキノコを食べろ、というホラーです。
食べろ? つまりあれですか……?
ああ、しまった、消されると思った考えはよほどマシだった。
そうですよ、こうですよ、ホラーってこれだから怖いんですよ。感染するんですよ!
「もしかして、同族にさせる気ですかー!?」
ぐいぐいと口元に近寄ってくるパチュリー様の手。
私は必死に拒みます。
こう見えて、小悪魔、勝負根性には定評があるのです。
まともにぶつかって七曜の魔女に勝てるわけがありませんが、追い込まれた時の力比べなら負けません!
そう簡単には負けてあげ……キノコは唇に触れました。
やった事が無かっただけで、力でも敵わなかったというオチです。
「こぁーーーー! こぁーーーーー!」
私は言葉にならぬ悲鳴を上げました。
ぷにょんとした感触に、何か大切なモノが奪われた気がしました。
どうして、そんなキノコの醍醐味と言える、傘の端の部分を私に食わさせようとしますか。
せめて茎ならば、白い茎ならば何も考えずにカブっといけたかも知れません。
そいつの赤い斑点とか裏に密集する襞とか見るだけで、食欲が減衰するのですよ。
いや、食欲の問題ではない気がしますが。
「騙されたと思って、食べてみなさい」
騙されたー、いやー、騙されたなー。
お願い! 騙されただけで許してください! 結婚詐欺でも賽銭詐欺でもなんでもいいですから!
食べられるか、そんなの食べられるか、まず胞子拭けって、無理、食べられ――チェストォーー! チェーストォォーーーー!!
どうしたの小悪魔? いや、キノコが歯に触れましてね、平和な紅魔館の連中がほんと羨ましい……ま、嫉妬ですよ。
「グランギニョルゥゥゥー!」
「そんな嬉しそうな声を上げて……よほどお腹が空いていたのね」
「これだから天然は嫌なんじゃボケーーーーー!」
「嘘ばかり。はい、どうぞ」
口を開いたのが運のつきでした。
その瞬間、世界がセピア色に固まりました。
口に飛び込んできたパチェキノコは、舌の上でしゃっきりぽんっと踊っていました。
時間が止まった世界で、パチュリー様が私の顎を押し上げました。
自然と口が閉じます。
もう、キノコしか感じない。
「どう?」
吐こう、としましたが、パチュリー様の手がそれを許してくれません。
口一杯に広がるのは、焼きたての椎茸のような香ばしい香り。
想像とはずいぶん違う香りでした。
スーパーキノコは苦いのではなかったのでしょうか。
退路が無い事に覚悟を決めて、思い切って噛んでみました。
「こぁ?」
あれ? おや?
お、美味しいじゃないですか、パチェキノコ。
芳醇な香りに加え、パリッとした表面が食欲をそそる、それなのに中はとても瑞々しい……!
マヨネーズがあれば、ご飯三倍はいける出来です。
いや、しかし、どんなに美味しくてもこれは……このキノコは……。
「どう、美味しいでしょう?」
「美味しいです、美味しいです……」
「何を泣いているのかしら?」
「はぅぅ、これで私もキノコ星人の仲間入りなのですね……」
「はぁ?」
「隠さなくてもいいです、もう何もかも終わりです。このキノコを食べるとキノコが生えるに決まってます」
「あなたは何を言っているの? それは私が魔法で栽培した食用キノコよ?」
「え?」
「……?」
「パチェキノコ、改めスーパーキノコじゃないんですか?」
「あなた……病院行ったら?」
―――――
あれから、一年の歳月が流れました。
今では、あの日の悪夢が嘘のように思えてきます。
パチェキノコは、本当にただの食用キノコでした。
地下で栽培できる体力のある食用型の大キノコで、味が良く、栄養抜群のパチュリー印の魔法キノコです。
パチュリー様は、自分の帽子にキノコ菌を植え付けて、見事その栽培に成功したのです。
私はそれを知らずに、大騒ぎしていただけでした。
お恥ずかしい限りで……もう、パチュリー様も人が悪い、それならそうと早く言ってほしいですよ、ねえ?
色々と段階を踏んで、量産化に成功したパチェキノコは、今、市場に出回ってます。
果たして、パチェキノコの前には列が出来るほどの大盛況。
紅魔館の財政も大いに潤いました。
「煮て良し、焼いて良し、君に良し、素晴らしいですね」
本当に素晴らしい事です。
紅魔館のおつまみも、三時のおやつも、今夜のディナーも、ほとんどパチェキノコでカバーできます。
小悪魔のお使いの時間も大幅に減りました。
偉大なる魔法使いパチュリー様。
少しでもあなたを疑った私をお許しください。
「パチュリー様、レミリア様、妹様、コーヒーが入りましたよ~」
「わーい」
「ありがとう、小悪魔、あなたもどう?」
「宜しいのですか? それではご一緒させていただきます」
私は幸せです。
こんなにたくさんの笑顔に囲まれて、何一つ不自由ない司書ライフが送れるのですから。
ああ、太陽がとても黄色い……。
「フラン、キノコが曲がっていてよ」
「あら、ごめんなさい、お姉様」
パチェキノコの繁殖力は素晴らしい……すぐに幻想郷に幸せの笑顔が溢れるでしょう……。
そんな日もある。
(ねえよ……!)
私は今日二十ニ度目となる、本棚への頭突きを慣行しました。
度重なる突っ込みに、私の頭の耐久値は既に限界に達していましたが、非情な現実を受け入れるよりかは幾分ましでした。
図書館で生まれた招かざる命に何とか理由をつけようと頑張ってるのですが、どんな理屈をつけても上手くいきません。
何度か目を擦って、ぎゅっと目を瞑って、思い切り深呼吸してから、私は襲い来る自然の驚異に、もう一度振り返りました。
パチュリー様の頭上に生える、ぶっといキノコは相変わらずでした。
まずは満足したら、森の息吹は自然に帰るべきです。
お願いします。
誉めるべきか、どうすべきか、パチュリー様はこんな状態でも自然体なのです。
頭にぶっといキノコを生やしたまま、ネグリジェ姿で平然と写本作業を続けておられるのです。
不感症ですかあなたは、失礼、失礼しました、小悪魔スマイルでごめんなさい。今の失言は無かった事に。
私を物理的に嫌な気分にさせてる物がもう一つありまして、それがこの本棚です。
何か間違ってるくらい硬いの。
悔しいですが、私、デーモンリトルクレイドルを割と本気で二十二度繰り出しましたが、こやつには傷一つ付いておりません。
一体なんで出来ているのでしょうか? マホガニーですか? うーん、ミステリウムだ。
(ミステリウムって……!?)
二十三度目、小悪魔VS本棚、頭突き相撲レコードを叩き出したところで額が割れました。
お母さん、都会は辛いです。小悪魔は故郷に帰りたいです。
「小悪魔!? 何をやっているの!」
惨事に気付き、パチュリー様がデスクから飛び出しました。
頭上のキノコが揺れています。
それはもう、ばふんばふんと揺れて胞子を撒き散らしてます。
私はとっさに息を吹いて胞子を跳ね返そうとしましたが、むしろ鼻に入って咳き込みました。
パチュリー様が腰を屈めると、謎のキノコもふにゃりとお辞儀をしました。
私は、それをパチェキノコと命名しました。
マッシュ君とデッドヒートでしたが、パチェキノコが勝ちました。
「大丈夫? 立てる?」
パチュリー様の紳士的態度と、頭上のユーモラスなキノコのツープラトン攻撃です。
こんな時、どんな顔をすればいいのか、小悪魔解りません。
解らないなりに、千秋楽を前に優勝が決まった力士のような笑顔を浮かべましたが、パチュリー様はそれを大丈夫だと取りました。
「良かった。傷はあまり深くないのね……」
深いかどうか心配なのは貴女の頭の菌糸ですし、小悪魔は、まずキノコを抜いてから喋って欲しいと思うのです。
私の熱い視線は全く感知されず、パチュリー様は踵を軸に反転するとデスクに戻り始めました。
この、不感……ふふふっ、残念でしたね、過ちは二度と繰り返さないのが小悪魔のいいところなのですよ。
「パ、パチュリー様! この際、思い切って訊いてみますが……!」
「何?」
「その頭上に生えるキノ――」
「あっと……ページが捲れちゃう」
またしてもキノコに触れる直前ではぐらかされ、パチュリー様はデスクに戻っていって、静かに座りました。
気付いてないはずがないのだが、もしかして触れてはいけない話題なのでしょうか?
お、キノコをキノで区切ると、ちょっと格好良くないですか?
コが駄目なんだね、コのせいで間抜けな響きになっちゃってんだキノコ。
どうでもいいや……。
私はキノコの事を調べる事にしました。
まず、敵を知らなければ話になりません。
図書館の北ブロック、キノココーナーに向かい……(あれ、前からこんなのありましたっけ?)
とにかく私はキノココーナーで、図鑑をじゃんじゃん引っ張り出し、目的のキノコを探し始めました。
目印は、肉厚で白くぶっとい茎と、大きくパンと張った黄色い傘に、でかく赤い斑点模様。
幻想郷キノコ大全。 これには無い。
食べられるキノコ食べられないキノコ。 これにも無い。
キノコ、貴女の生活の隣に。 無い。
魔法薬にかかせない魔導キノコ。 無い。
森の妖精キノコ――
(妖精扱いですかっ……!)
二十四度目の小悪魔クレイドルに、額の出血がぶり返して噴水みたいに立ち上りましたが、小悪魔ならぎりぎりセーフ。
セーフ、アウト、色々ありますが、人生ゆとりあるセーフでいきたいですね。
ごめんなさい、もう止めます、もう突っ込みは止めます。
実は、かなり痛いのですよ。
我慢強い小悪魔だからこそ耐えておりますが、これが氷精や夜雀なら号泣でしょう。
もちろんルーミアやリグルでも泣いてしまいます、大妖精? さん付けで呼べよな! 誰だと思ってんだよあの方を!?
とりあえず、森の妖精を額にあて、吹き出る血を止めました。
ごめんね、キノコちゃん。司書としてあるまじき行為ですが、緊急事態だけに見逃してちょうだい。
そろそろ血も止まったので、私はパチェキノコを求めて、真っ赤に染まったホラーチックな妖精本を捲りました。
やだ、キノコって真っ赤だと怖いんですね。
誰のせいだよ、わたしめ、ははは。
しかし、無い、無いと……んー、ここにも無いのかぁ。
む、レアキノココーナー? 充実してますね妖精ちゃん。
で、何がどうレアなんだろ? ふーん、まつたけ、マタンゴ、スーパーキノコ……。
「……スーパーキノコ!?」
ここで私は一つの結論に達しました。
私は図鑑を持ち、走り、パチュリー様の近くまできて、図鑑のキノコと頭上のキノコを交互に比較します。
間違いない、特徴は全て一致する、スーパーキノコだ。
あれは、スーパーキノコなのだ!
逸る気持ちを抑えて、私はスーパーキノコの詳細を読みました。
『
―スーパーキノコ―
マリオラ○ドでしか存在が確認されていない、魔王クッパすら恐れるレア中のレアキノコ。
強い苦味があり食用には向かないが、そのドーピング効果は凄まじい。
筋肉増強、骨格の急成長、身長は約二倍になり、一度だけなら砲弾で貫かれても復活する身体を瞬時に作り上げる』
「スッゲェーーーーッ!!!」
「小悪魔! 静かにする!」
「はい、すみません!」
さすが、パチュリー様だ。
単にキノコを生やすといっても、そんじょそこらのキノコとは格が違う!
相撲で言うと横綱! 競馬で言うと三冠馬! オペランドでは演算子の前と後ろで格が違うので格変化する。
「やー、凄いですね! パチュリー様の!」
「だから、うるさいってば!!」
かなりの笑顔で話しかけたのに、凄い邪険に扱われて小悪魔しょんぼり。
肩を落として本の整理に歩いて帰ります。
せっかく、素晴らしいパチェキノコを称えてあげようと……はっ! そういう事かな!?
スーパーキノコは凄い、凄いだけにそんなものを頭に生やしてただで済むとは思えない……!
パチュリー様だって頑なに隠し続けていた。
そこに、触れてはいけない理由があるのではないか。
私は机にあったメモを手に取ると、考えられる可能性を箇条書きにしてみました。
1:不治のキノコ(悲しい運命)
2:キノコ星人によるインプラント(やがて本体が乗っ取られる)
3:キノコとみせかけてパチェミサイル(幻想郷終焉)
どの選択肢も終わってるなぁ。
書き上げた途端、暗澹たる気分になってしまいましたよ。
ああ、パチュリー様。
本棚の影から覗く、貴女様の儚げな美貌ったらない。
あんなに楽しそうに写本を繰り返しておられる日が、蝙蝠みたいなこの暮らしのどこにあったでしょうか。
消え行くパチェ蝋燭の最後の輝きでないかと、小悪魔、心配ですよ。
……あ、パチュリー様が何かのメロディラインを口ずさみ始めましたよ。
よっぽど御機嫌なのですね。
ふんふんふん……♪
きのこ……のーこのこ……げんきの……? え?
「きのこっ、のーこーのこ、げんきのこ♪ ぱちゅりーは、むらさき、もっやっし♪」
「2だっ!?」
かなりキノコっぽい発言だ!
2番説がここに来て急浮上ですよ!
これはつまり、つい浮かれてキノコの歌を歌ってしまったのだけれど、私はキノコじゃありません、むらさきもやしですよ?
という事を言いたいが為に、もやしを最後に持ってきてるとしたらどうですか!
まず間違いなく黒!
小悪魔の緋色の脳細胞に隠蔽工作は効きません!
こぁはこの丸い目で見たぞ!
しかし、やばい……! ど、どうしよう!
問題は既に宇宙レベルまで拡大してしまいました!
気付かないうちに身近に潜んでいた、宇宙人の恐怖! あわわ!
私一人の力で何が出来るというのですか!?
自慢じゃありませんが小悪魔、百科事典とパチュリー様のバリューセット以上に重いものは持った事がありません!
あ、バリューセットって言うほどお得じゃないですよね、小悪魔、ポテトいらないし。
単品ハンバーガー×3。これがS(スキマ)バーガーで最もバリューな組み合わせです。
小悪魔は上っ面だけの大人社会には騙されないのですよ。
――コンコン
「パチェー? 入るわよー?」
ぬあ!? あ、あれはレミリア様のお声です!
バリューセットの解説に夢中になりすぎて接近に気付きませんでした!
こんな胞子が充満している部屋に入っては、お嬢様までキノコに侵されてしまいます。
これ以上被害を拡散させないようにしなくては!
私は全力で扉にタックルをしてレミリア様を押し返しました。
「いけません! レミリア様! いけません!」
「いたぁ! ちょっ……開かないじゃないの!? 誰!?」
「小悪魔です、貴女の愛する小悪魔です! どうかお引取りを!」
「どうしたのよ一体!」
「ここはキノコ星人にやられましたーっ!」
「はぁ!?」
「無理です、もう無理! 胞子がぷんぷん!」
「いいから開けなさいよ!」
「駄目ですーーー!!」
しかし私は一介の小悪魔。
どうして、当主様に力で勝てましょうか……!
武運拙く扉は開き、レミリア様の赤いお姿が図書館に現れました。
「パチェ……あなたっ!?」
早速、レミリア様、驚愕のご表情。
それも仕方が無いです、親友の頭にキノコが生えていたら誰だって驚きます。
「……少し背が伸びたんじゃない?」
「それはひょっとしてギャグで言っているのですかー!!?」
何事もなくブレイクタイム。
私の心は、ブレイクアウト。
おかしい、いくらなんでもあんまりだ。
と思いながら、お茶菓子の準備。
しばらく、天気が悪いとか、メイドがなってない、とか談笑したレミリア様は、頭のキノコに一切触れず、図書館を跡にしてしまいました。
私は呆然として見送った後、全ての推理は間違っていたのかなぁ、と考えながら、ティーカップをお下げしました。
その時、レミリア様が去っていった扉にかかる、ヴワル魔法図書館の札が、そよそよと揺れているのが目に入ったのです。
「え?」
その刹那、氷柱を抱かされた気持ちがしました。
何だ、今、何か見えなかったか。
何気ない図書館の札に、黒いオーラが見えた。
私の顎から雑巾を絞るような有り得ない量の汗が落ちてくる。
まさか……まさか……。
這うようにして床を進み、扉の札を掴む。
この裏だ、この裏に……何か見えた……。
肺に思いっきり息を吸い、札を引っくり返す!
『 キ ノ コ 王 国 』
「やっぱりだー!!!」
「小悪魔! 凄いうるさいっ!」
「すみません、すみません!」
土下座して謝りながら、私は確信を持ちました。
ここは、図書館の皮を被った、キノコ王国だ。
パチュリー様はキノコ星人に乗っ取られ、ここで人知れずキノコの栽培を続けているのだ。
だとすれば、レミリア様がキノコを見逃したのにも、納得がいく。
きっと普段は結界を張って、栽培してるキノコを見えなくしているのだろう。
あんなでかいキノコが急に生えてくるはずが無いのです。
昨日までは私も見えてなくて、何かの拍子に今日見えだしたと考えるべきだ。
何の拍子なのかは解らないが……今、キノコ星人の侵略に立ち向かえるのは私しかいないのだ。
壮大なスペースオペラのオープニングに、私たった一人が投げ出された。
パチュリー様の白々しい態度は、何も見えていないフリをしておられたからだ。
あの態度は、不感症だからじゃなかったんだ!
このままだと、気付いた時には既に人類は膝までキノコに埋まっている!
どうするの!? どうするの小悪魔……!?
「小悪魔、ちょっといいかしら?」
「は、はいいぃ!?」
「……? あなた、今日かなり挙動不審だわよ?」
「や、や、やだなー、そんな事はないでござるー」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です 小悪魔、いつでも逝けます」
パチュリー様が眉を顰めて、こちらに歩いてくる。
その時、私はちらりと頭の上で揺れるパチェキノコを覗いた。覗いてしまった……!
「え? ああ、そういう事ね」
パチュリー様が薄く笑う。
ああ、これで私にもキノコが見えていることがばれてしまいました!
このまま小悪魔もキノコ星人の仲間入りなんでしょうか!?
見逃して! 見逃してください! 小悪魔、キノコなんか生やさなくてもパリュリー様の事が好きです、服従してますからー!
今後は、門番の靴下と小悪魔の下着を一緒にしないで! なんて絶対に言いませんからー!
下がる、下がる。じりじりと下がる。
しかし、すぐに後が無くなった。
こんな所に奴だ、本棚withミステリウムだ。
やはりお前は先に倒すべき相手だった、ここで私の退路を塞ぐ、その神算鬼謀……!
パチェがこね、小悪魔つきし、天下餅、立つままに食うがミステリウム……!
「小悪魔、ご飯がまだだったわね」
「は?」
「あなた、お腹が空いているのでしょう?」
「え? え?」
パチュリー様は私の目を見て、にこりと微笑みます。
ち、違ったのでしょうか?
私はてっきり、秘密を知ったからにはロイヤルフレアで灰も残らず消されるのかと……。
「丁度いいわ、小悪魔」
パチュリー様、何を思ったか頭のキノコをむんずと掴みました。
私が唖然としてると、掴んだまま今度は、ぎりぎり、ぎりぎりと横に引っ張るのです……!
余りに脈絡の無いこの行動が、笑顔の下で行われているから怖い!
私、正直、ちょっとちびりました!
それでもパチュリー様の自虐行為は止まりません。
パチェキノコは撓りに撓り、八十度ぐらいの角度でみちみちと嫌な音を立てながら抵抗を続けています。
万力で首の骨を折ってるような、壮絶な光景……!
――ブヂッ!
キノコが……今、千切れました。
本体は反動で胞子をばいんばいん散らせながら、パチュリー様の頭上を反復運動しています。
切り取られた一部のキノコは、パチュリー様の透けるような白い手にそっと乗せられ、私の口元へ寄せられました。
「さあ、私のキノコをお食べ」
それは手の平に溜めたミルクを仔猫に与えるような、無邪気で慈悲に満ちた笑顔でした。
アンパンマンがちょっとした事でアンパンを与えるような、ジャムおじさんの苦労を考えない笑顔でした。
私はパニックに陥って右往左往する脳みそを懸命に纏め上げました。
とりあえず、場に相応しくないアンパンマンの映像を隅に蹴っ飛ばしました。
そうして、残ったのはホラーです。
私のキノコを食べろ、というホラーです。
食べろ? つまりあれですか……?
ああ、しまった、消されると思った考えはよほどマシだった。
そうですよ、こうですよ、ホラーってこれだから怖いんですよ。感染するんですよ!
「もしかして、同族にさせる気ですかー!?」
ぐいぐいと口元に近寄ってくるパチュリー様の手。
私は必死に拒みます。
こう見えて、小悪魔、勝負根性には定評があるのです。
まともにぶつかって七曜の魔女に勝てるわけがありませんが、追い込まれた時の力比べなら負けません!
そう簡単には負けてあげ……キノコは唇に触れました。
やった事が無かっただけで、力でも敵わなかったというオチです。
「こぁーーーー! こぁーーーーー!」
私は言葉にならぬ悲鳴を上げました。
ぷにょんとした感触に、何か大切なモノが奪われた気がしました。
どうして、そんなキノコの醍醐味と言える、傘の端の部分を私に食わさせようとしますか。
せめて茎ならば、白い茎ならば何も考えずにカブっといけたかも知れません。
そいつの赤い斑点とか裏に密集する襞とか見るだけで、食欲が減衰するのですよ。
いや、食欲の問題ではない気がしますが。
「騙されたと思って、食べてみなさい」
騙されたー、いやー、騙されたなー。
お願い! 騙されただけで許してください! 結婚詐欺でも賽銭詐欺でもなんでもいいですから!
食べられるか、そんなの食べられるか、まず胞子拭けって、無理、食べられ――チェストォーー! チェーストォォーーーー!!
どうしたの小悪魔? いや、キノコが歯に触れましてね、平和な紅魔館の連中がほんと羨ましい……ま、嫉妬ですよ。
「グランギニョルゥゥゥー!」
「そんな嬉しそうな声を上げて……よほどお腹が空いていたのね」
「これだから天然は嫌なんじゃボケーーーーー!」
「嘘ばかり。はい、どうぞ」
口を開いたのが運のつきでした。
その瞬間、世界がセピア色に固まりました。
口に飛び込んできたパチェキノコは、舌の上でしゃっきりぽんっと踊っていました。
時間が止まった世界で、パチュリー様が私の顎を押し上げました。
自然と口が閉じます。
もう、キノコしか感じない。
「どう?」
吐こう、としましたが、パチュリー様の手がそれを許してくれません。
口一杯に広がるのは、焼きたての椎茸のような香ばしい香り。
想像とはずいぶん違う香りでした。
スーパーキノコは苦いのではなかったのでしょうか。
退路が無い事に覚悟を決めて、思い切って噛んでみました。
「こぁ?」
あれ? おや?
お、美味しいじゃないですか、パチェキノコ。
芳醇な香りに加え、パリッとした表面が食欲をそそる、それなのに中はとても瑞々しい……!
マヨネーズがあれば、ご飯三倍はいける出来です。
いや、しかし、どんなに美味しくてもこれは……このキノコは……。
「どう、美味しいでしょう?」
「美味しいです、美味しいです……」
「何を泣いているのかしら?」
「はぅぅ、これで私もキノコ星人の仲間入りなのですね……」
「はぁ?」
「隠さなくてもいいです、もう何もかも終わりです。このキノコを食べるとキノコが生えるに決まってます」
「あなたは何を言っているの? それは私が魔法で栽培した食用キノコよ?」
「え?」
「……?」
「パチェキノコ、改めスーパーキノコじゃないんですか?」
「あなた……病院行ったら?」
―――――
あれから、一年の歳月が流れました。
今では、あの日の悪夢が嘘のように思えてきます。
パチェキノコは、本当にただの食用キノコでした。
地下で栽培できる体力のある食用型の大キノコで、味が良く、栄養抜群のパチュリー印の魔法キノコです。
パチュリー様は、自分の帽子にキノコ菌を植え付けて、見事その栽培に成功したのです。
私はそれを知らずに、大騒ぎしていただけでした。
お恥ずかしい限りで……もう、パチュリー様も人が悪い、それならそうと早く言ってほしいですよ、ねえ?
色々と段階を踏んで、量産化に成功したパチェキノコは、今、市場に出回ってます。
果たして、パチェキノコの前には列が出来るほどの大盛況。
紅魔館の財政も大いに潤いました。
「煮て良し、焼いて良し、君に良し、素晴らしいですね」
本当に素晴らしい事です。
紅魔館のおつまみも、三時のおやつも、今夜のディナーも、ほとんどパチェキノコでカバーできます。
小悪魔のお使いの時間も大幅に減りました。
偉大なる魔法使いパチュリー様。
少しでもあなたを疑った私をお許しください。
「パチュリー様、レミリア様、妹様、コーヒーが入りましたよ~」
「わーい」
「ありがとう、小悪魔、あなたもどう?」
「宜しいのですか? それではご一緒させていただきます」
私は幸せです。
こんなにたくさんの笑顔に囲まれて、何一つ不自由ない司書ライフが送れるのですから。
ああ、太陽がとても黄色い……。
「フラン、キノコが曲がっていてよ」
「あら、ごめんなさい、お姉様」
パチェキノコの繁殖力は素晴らしい……すぐに幻想郷に幸せの笑顔が溢れるでしょう……。
こあ こあ はむすたぁ!
素晴らしきパチェキノコ…恐るべしパチェキノコ
とりあえずパチェもh(ry
一体何があった小悪魔(;゚Д゚)
>マリオラ○ドでしか存在が確認されていない、魔王クッパすら恐れるレア中のレアキノコ。
>強い苦味があり食用には向かないが、そのドーピング効果は凄まじい。
>筋肉増強、骨格の急成長、身長は約二倍になり、一度だけなら砲弾で貫かれても復活する身体を瞬時に作り上げる
やべぇwww知ってる事をこんな冷静に分析して羅列されるとめっちゃ笑えて来るwwwww
ホクト吹いたw
最高ですよこのテンションw あなた何やってんですか!w
つーか後書きにクトゥルーかよ!w
過去にハンバーガーのタダ券3枚+水というコンボでMナルドでタダ食いした経験があります…
まったく関係ないですね
ご飯もありましたね~、プリンもありましたね~。
でも今回はキノコでしたね~。
では皆さん、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。
↓
小悪魔 が この 先生 きのこ る には
俺の文章読解能力返せw
いや、もうホント勘弁w