「よいしょ、よいしょ」
「……ねぇ、一つ、聞いていい?」
「はい、何でしょう」
「いや、『はい、何でしょう』じゃなくてね……」
目の前にいる人物の、底抜けに明るい笑顔から発せられた一言に、彼女――この神社の現持ち主、博麗霊夢はこめかみ押さえつつ、
「……何してるの」
「見ての通り、販促です」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」
目の前にいるのは、紅魔館の司書、小悪魔。彼女は、大きな机のようなものをどこかから運んできて、その上に、何やらよくわからないものをごろごろぞろぞろと並べ始めたのだ。それが一体何であるのか、一目で見ただけでは、ちょっと理解しがたいものもある。
「……何よ、これは」
「見ての通り……」
「続けなくていいから。
私が聞きたいのは、一体何をやっているか、それを聞いているの」
「ですから。
今度、紅魔館で開かれる『魔法少女オンリーイベント』のための販促ですよ」
「……あ、そう」
さすがに、ため息しか出なかった。
「……で、何でうちの神社でやるの」
「だって、私たちが知っている中で、一番、私たちに寛容なのってここしかないじゃないですか」
天然さん、恐るべし。
こちらが向けている敵意などに全く気づかず、ほにゃら~、とした笑顔を向けてくる。それを向けられては、さすがに反論も出来ず、霊夢はため息一つ。
「……で?」
「とりあえず、今回は、このカタログの販売を行おうかと」
その『カタログ』とやらの表紙は……まぁ、何というか、レミリアだった。やたらかわいらしいふりふりの衣装に身を包み、『魔法少女レミリアちゃんよ☆』とでも題することの出来そうな笑顔とポーズでびしっと決め。
「……その、それ以外のものは?」
「当日のイベントで販売するグッズです。こちらは全部、現時点では見本品ということで」
「商売上手ね……」
「パチュリー様ですから」
「あいつは魔女じゃないのか……」
何でこんな事に心を砕いているのか、全くもって理解が不能。
人形にトレカ、漫画に缶バッジ、ミニサイズのトレーディングフィギュアなどなど。そのどれもが見事なくらいに作り込まれていて、紅魔館の財政の一端をここにつぎ込んだのだと考えると、なぜか涙があふれてきそうになる。
「しかし、よく出来てるわね」
「その『ヴァンパイア☆レミちゃん』人形は、一体五千円ほどで売りに出す予定です。すでに三百体、製作済みなんですよ。当日は五百体ほどの売り上げを予定しています」
「それはまた……」
「こちらの『レミちゃんステッキ』は一本三千円の非稼働品と、一本九千円の完全稼働品の二つを用意しています」
「……」
「あとは……」
と、テーブルの上に並べている『商品』の説明をしてくれる小悪魔。霊夢はもう一度、ため息つきつつ、
「ねぇ……小悪魔」
「はい?」
「あのさ、私、この前さ。魔理沙から『こんなもの見つけたんだ』って渡されたものがあるの」
そう言って取り出すのは、一冊のコミックス。
「ああ、それですか。それは、『ヴァンパイア☆レミちゃん』の販促のために、私が描いた漫画ですね」
「……あんたが描いたの?」
「はい。私、こう見えても、魔界では……」
その『著者』のところには『サークル:リトル』と書かれている。
「……まぁ、いいわ。あんまり、うちの迷惑にならないように勝手にしてちょうだい……」
「はーい。あ、そうそう。レミリア様から、『霊夢も是非』と」
「げっ、私も?」
「ものすごく頑張ってますから、レミリア様。晴れ姿を見て欲しいんだと思います」
これがスタッフ用の特別チケットです、と胸元からそれを取り出す小悪魔。それを受け取って、霊夢は、その場にへにゃへにゃと崩れ落ちそうになった。
もう何というか、『これぞ魔法少女!』な感じの色彩とデザインに統一されたチケットにはコメントも出来ず『か、考えておくわ……』と言い残して、その場を後にするので精一杯だったという。
「紅い気持ちを想いの波にして、あなたに届ける、わたしの恋心……」
ぶつぶつと、レミリアが手にしたA4用紙を見つめながらつぶやいている。そのそばにはフランドールも座っていて、「このケーキおいしー」と口の周りにクリームをべったりとつけながらご満悦していた。
「どうかしら、レミィ。私の考えた、『魔法の吸血鬼 ヴァンパイア☆レミちゃん』のテーマソングは」
「……いい感じじゃないかしら」
「そう。けれど、作詞というのも大変ね。
プリズムリバーのあなた達がいなければ、私のせっかくの企画が頓挫してしまうところだったわ」
「この程度のことなら、いつでも頼んでくれて構わない」
すました表情で、プリズムリバー姉妹の長女、ルナサが手にした紅茶のカップを傾ける。
「当日のイベント、楽しみにしてるからさー」
「私たちの分の特製チケット、お願いねー」
「ええ、それについては問題ないわ」
メルランやリリカもその場に同席し、にこにこ笑顔。
――此処は、紅魔館の一室、レミリアの部屋。そこはある時を境に『魔法少女計画本部』へと姿を変えていた。部屋のクローゼットには、小悪魔やメイド達の手作り『魔法少女のお洋服』がずらり。戸棚には『魔法少女アイテム』がどっさり。そして鏡台の上には、無数の化粧品などなど。
「ふふふ……ついに、幻想郷に生きる伝説が復活するわ。知識を追い求める魔女として、新たなる知識の顕現には、まさに興奮を禁じ得ないという事ね……」
にやり、と笑うパチュリー。
だが、その怪しい雰囲気に、妙な天罰が下ったのか『はうっ!』といきなりひきつけ起こしてぶっ倒れる。外に待機していたらしいメイド達が入ってくると、次の瞬間には、てきぱきと彼女を運んで去っていった。
「全く、パチェも病弱なのに、夜遅くまで頑張るから」
「どんなことをしているのかしら」
「さあ。グッズの作成とか、台本の手直しとか、そういうことに執心している様子よ」
「そう。
当日のBGMは、全部私たちが担当すると言うことを聞いているけれど」
「後日のリハーサルで、それをあわせることになっているようね」
「それは楽しそうね」
「にぎやかなの、フラン、だーい好きー!」
「ふふふ……。最初は、もう何というか、人生そのものに終わりを見いだせそうになったけれど、考えてみれば、これも試練……」
ぼっ、とレミリアの瞳の奥に炎が点る。
「やってやろうじゃない……。立派に、実現してみせようじゃない、魔法少女を!」
「……なーんかずれてるよねぇ」
「しっ。メルラン姉さん、それ禁句」
ドアの向こうで、『ご立派ですわ、お嬢様』とはらはらと涙を流すメイド長もいたりするので、メルランの発言は不謹慎極まりなかった。一人、すまし顔で紅茶をすするルナサは、ぽつりと、
「……そう言えば、昔もこんな依頼、受けたかしらね」
何やら聞き流せないセリフをつぶやいたのだった。
「すいーとらいとまじかるー☆」
「てぃんくる、てぃんくる、すたーないとー☆」
『すかーれっと・どりーむっ☆』
びしっ、と。
魔法の呪文にプラスして、魔女っ娘スタイルで決めポーズ。
「……決まったわ」
その素晴らしき姿を刻む姉妹を、舞台の下から見つめ。
パチュリーはつぶやいた。
「……どうかしら、パチェ」
「ねぇねぇ、かっこよかったー?」
「ええ……ええ、ええ、ええ! 最高よ、レミィ! 最高よ、フラン!」
がたんっ、と音を立てて立ち上がり、スタンディングオベーション。
広い広い、紅魔館の一角のホールを丸ごとイベント会場に改造した中に造られた特設舞台の上は、すでに魔法少女一色。その主役を飾る、二人の魔法少女の見事な姿に、パチュリーは感動して涙をだだもれにさせていた。
「これ以上、私の教えることは何もないわっ! 二人とも、よく、ここまで魔法少女を極めてくれたわね!」
「ふふっ、このわたしにとって、本気になればこの程度のこと、まさに朝飯前よ」
「でも、ちょっぴり大変だったー」
「台本も完璧、動作もふりつけも問題なし! 加えて歌の準備も整ったとくれば、これはもう、いつでも立派な魔法少女として幻想郷でやっていけるわ!」
「あ、いや、その……それはどうかな……」
さりげないパチュリーの言葉に、ふと我に返って顔を引きつらせるレミリア。まぁ、『永遠に紅い幼き月』が『永遠に紅い幼き魔法少女』とでも変わったら、それはそれで何かと問題も出てこようと言うものであるが、まぁ、それはともあれ。
「私の……私の、魔法少女復活計画も、後はイベントの成功を待つまでよ! よく頑張ったわ、二人とも! 今夜は焼き肉よ!」
「わーいわーい、やきにくー」
「イベントの立ち上げから企画、運営、その全てに粉骨砕身してきた甲斐があったというもの……ああ、レミィ、私は今、幸せよ……。具体的に言うと、難解な魔法書を読み解いて新しい魔法を発見した、あの時の喜びに近いものが、今、私の胸の中を駆けめぐっているわ」
魔法少女の実現と、新しい魔法の開発と、その二つを同列に並べられるこの友人はやっぱりすごいな色々な意味で、などと思いつつ、引きつりながらも好意的な笑みを浮かべるレミリア。
……実際、大変だったのだ。ここに至るまで。
セリフをとちって怒鳴られたり、台本通りの動きが出来てないとオータムエッジ喰らいそうになったり、「見せていいぱんつの角度は五度まで!」とわけのわからない理由でサイレントセレナぶっ放されたり、と。
それでなくとも、変な意味で燃えてしまったのだ。これに。
もう色んな意味で人生やめたくなったほど、ある意味、追いつめられていたのだが、それならそれで、と逆に考えた。すなわち、『これに勝利できなくて、デーモンキングを名乗れるか』と、変な意味でプライドを刺激されてしまったのだ。
「レミィ、いっそのこと、二つ名変えない?」
「それは嫌」
「ちっ」
「……いや、ちっ、て」
「フランは変えてもいいよー。妹魔法少女ー!」
「それもまたいいわね」
妹で魔法少女、これは萌えるわ。などと、ぶつぶつつぶやくパチュリー。
「失礼致します」
「あら、咲夜。どう? 似合う?」
と、ステージの上でくるりんと回ってみせるお嬢様。ふわりとなびくスカートの裾や、その際の仕草、表情なども、パチュリーが完全に仕込んだだけはある。全くもって見事だった。完全で瀟洒なメイドも『ぐっじょぶですわ』と親指を立てるほどに。
「小悪魔が帰りました。彼女の話では、カタログが一瞬で完売したそうです」
「そう。まぁ、当然ね」
「首尾は?」
「上々よ。
さあ、レミィ、フラン。最後の特訓よ。あとは明日のリハーサルで全てを調整するわ。練習はこれ限りと知りなさい」
「わかったわ」
「わかったー!」
「頑張って」
再び始まる、魔法少女達の饗宴。確か、EXで流れてたような音楽が響く中、咲夜はそこを後にする。
「ふっ……この私も……」
かつて『魔法のメイド まじかる☆咲夜ちゃん』だった彼女は、当時の、あの熱い気持ちを思いだしたのか、再び顔に笑みを浮かべて歩いていく。
「美鈴」
「あ、咲夜さん。どうですか? この衣装。似合いますか」
「ええ、似合うわ」
当日は悪の首領役に大抜擢された美鈴。彼女の部屋の中で、自分の服装を鏡に映してあれこれやっていた彼女は、咲夜の一言に笑顔を浮かべた。
「よかったぁ」
「さあ、練習よ。
いい? 主役は脇役、そして悪役に引き立てられてこそ、輝くものなの。私の魔法少女としての経験がそれを物語る。あなたが輝かなければ、必然的に、お嬢様達も輝けないのよ」
「はいっ! 私、頑張ります!」
「その意気よ!」
幻想郷の中にそびえる紅の館――紅魔館。
そこは吸血鬼の主によって統べられる世界。近寄るものは死を覚悟し、住まうもの達は、皆、悪魔達。そう、誰もが思っていた。
だが――。
「違う! レミィ、そのステップではダメよ!」
「美鈴、立ちなさい! その程度で音を上げていては、真の悪役として輝くことは出来ないわ!」
「フィギュアの出来がいまいちですねぇ……。ディテール甘過ぎですよっ」
その時、確実に、紅魔館はその存在を変えていた。
『紅魔法少女館』へと――。
――そして、魔法少女達のデビューを迎える日がやってくる。
「……ねぇ、一つ、聞いていい?」
「はい、何でしょう」
「いや、『はい、何でしょう』じゃなくてね……」
目の前にいる人物の、底抜けに明るい笑顔から発せられた一言に、彼女――この神社の現持ち主、博麗霊夢はこめかみ押さえつつ、
「……何してるの」
「見ての通り、販促です」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」
目の前にいるのは、紅魔館の司書、小悪魔。彼女は、大きな机のようなものをどこかから運んできて、その上に、何やらよくわからないものをごろごろぞろぞろと並べ始めたのだ。それが一体何であるのか、一目で見ただけでは、ちょっと理解しがたいものもある。
「……何よ、これは」
「見ての通り……」
「続けなくていいから。
私が聞きたいのは、一体何をやっているか、それを聞いているの」
「ですから。
今度、紅魔館で開かれる『魔法少女オンリーイベント』のための販促ですよ」
「……あ、そう」
さすがに、ため息しか出なかった。
「……で、何でうちの神社でやるの」
「だって、私たちが知っている中で、一番、私たちに寛容なのってここしかないじゃないですか」
天然さん、恐るべし。
こちらが向けている敵意などに全く気づかず、ほにゃら~、とした笑顔を向けてくる。それを向けられては、さすがに反論も出来ず、霊夢はため息一つ。
「……で?」
「とりあえず、今回は、このカタログの販売を行おうかと」
その『カタログ』とやらの表紙は……まぁ、何というか、レミリアだった。やたらかわいらしいふりふりの衣装に身を包み、『魔法少女レミリアちゃんよ☆』とでも題することの出来そうな笑顔とポーズでびしっと決め。
「……その、それ以外のものは?」
「当日のイベントで販売するグッズです。こちらは全部、現時点では見本品ということで」
「商売上手ね……」
「パチュリー様ですから」
「あいつは魔女じゃないのか……」
何でこんな事に心を砕いているのか、全くもって理解が不能。
人形にトレカ、漫画に缶バッジ、ミニサイズのトレーディングフィギュアなどなど。そのどれもが見事なくらいに作り込まれていて、紅魔館の財政の一端をここにつぎ込んだのだと考えると、なぜか涙があふれてきそうになる。
「しかし、よく出来てるわね」
「その『ヴァンパイア☆レミちゃん』人形は、一体五千円ほどで売りに出す予定です。すでに三百体、製作済みなんですよ。当日は五百体ほどの売り上げを予定しています」
「それはまた……」
「こちらの『レミちゃんステッキ』は一本三千円の非稼働品と、一本九千円の完全稼働品の二つを用意しています」
「……」
「あとは……」
と、テーブルの上に並べている『商品』の説明をしてくれる小悪魔。霊夢はもう一度、ため息つきつつ、
「ねぇ……小悪魔」
「はい?」
「あのさ、私、この前さ。魔理沙から『こんなもの見つけたんだ』って渡されたものがあるの」
そう言って取り出すのは、一冊のコミックス。
「ああ、それですか。それは、『ヴァンパイア☆レミちゃん』の販促のために、私が描いた漫画ですね」
「……あんたが描いたの?」
「はい。私、こう見えても、魔界では……」
その『著者』のところには『サークル:リトル』と書かれている。
「……まぁ、いいわ。あんまり、うちの迷惑にならないように勝手にしてちょうだい……」
「はーい。あ、そうそう。レミリア様から、『霊夢も是非』と」
「げっ、私も?」
「ものすごく頑張ってますから、レミリア様。晴れ姿を見て欲しいんだと思います」
これがスタッフ用の特別チケットです、と胸元からそれを取り出す小悪魔。それを受け取って、霊夢は、その場にへにゃへにゃと崩れ落ちそうになった。
もう何というか、『これぞ魔法少女!』な感じの色彩とデザインに統一されたチケットにはコメントも出来ず『か、考えておくわ……』と言い残して、その場を後にするので精一杯だったという。
「紅い気持ちを想いの波にして、あなたに届ける、わたしの恋心……」
ぶつぶつと、レミリアが手にしたA4用紙を見つめながらつぶやいている。そのそばにはフランドールも座っていて、「このケーキおいしー」と口の周りにクリームをべったりとつけながらご満悦していた。
「どうかしら、レミィ。私の考えた、『魔法の吸血鬼 ヴァンパイア☆レミちゃん』のテーマソングは」
「……いい感じじゃないかしら」
「そう。けれど、作詞というのも大変ね。
プリズムリバーのあなた達がいなければ、私のせっかくの企画が頓挫してしまうところだったわ」
「この程度のことなら、いつでも頼んでくれて構わない」
すました表情で、プリズムリバー姉妹の長女、ルナサが手にした紅茶のカップを傾ける。
「当日のイベント、楽しみにしてるからさー」
「私たちの分の特製チケット、お願いねー」
「ええ、それについては問題ないわ」
メルランやリリカもその場に同席し、にこにこ笑顔。
――此処は、紅魔館の一室、レミリアの部屋。そこはある時を境に『魔法少女計画本部』へと姿を変えていた。部屋のクローゼットには、小悪魔やメイド達の手作り『魔法少女のお洋服』がずらり。戸棚には『魔法少女アイテム』がどっさり。そして鏡台の上には、無数の化粧品などなど。
「ふふふ……ついに、幻想郷に生きる伝説が復活するわ。知識を追い求める魔女として、新たなる知識の顕現には、まさに興奮を禁じ得ないという事ね……」
にやり、と笑うパチュリー。
だが、その怪しい雰囲気に、妙な天罰が下ったのか『はうっ!』といきなりひきつけ起こしてぶっ倒れる。外に待機していたらしいメイド達が入ってくると、次の瞬間には、てきぱきと彼女を運んで去っていった。
「全く、パチェも病弱なのに、夜遅くまで頑張るから」
「どんなことをしているのかしら」
「さあ。グッズの作成とか、台本の手直しとか、そういうことに執心している様子よ」
「そう。
当日のBGMは、全部私たちが担当すると言うことを聞いているけれど」
「後日のリハーサルで、それをあわせることになっているようね」
「それは楽しそうね」
「にぎやかなの、フラン、だーい好きー!」
「ふふふ……。最初は、もう何というか、人生そのものに終わりを見いだせそうになったけれど、考えてみれば、これも試練……」
ぼっ、とレミリアの瞳の奥に炎が点る。
「やってやろうじゃない……。立派に、実現してみせようじゃない、魔法少女を!」
「……なーんかずれてるよねぇ」
「しっ。メルラン姉さん、それ禁句」
ドアの向こうで、『ご立派ですわ、お嬢様』とはらはらと涙を流すメイド長もいたりするので、メルランの発言は不謹慎極まりなかった。一人、すまし顔で紅茶をすするルナサは、ぽつりと、
「……そう言えば、昔もこんな依頼、受けたかしらね」
何やら聞き流せないセリフをつぶやいたのだった。
「すいーとらいとまじかるー☆」
「てぃんくる、てぃんくる、すたーないとー☆」
『すかーれっと・どりーむっ☆』
びしっ、と。
魔法の呪文にプラスして、魔女っ娘スタイルで決めポーズ。
「……決まったわ」
その素晴らしき姿を刻む姉妹を、舞台の下から見つめ。
パチュリーはつぶやいた。
「……どうかしら、パチェ」
「ねぇねぇ、かっこよかったー?」
「ええ……ええ、ええ、ええ! 最高よ、レミィ! 最高よ、フラン!」
がたんっ、と音を立てて立ち上がり、スタンディングオベーション。
広い広い、紅魔館の一角のホールを丸ごとイベント会場に改造した中に造られた特設舞台の上は、すでに魔法少女一色。その主役を飾る、二人の魔法少女の見事な姿に、パチュリーは感動して涙をだだもれにさせていた。
「これ以上、私の教えることは何もないわっ! 二人とも、よく、ここまで魔法少女を極めてくれたわね!」
「ふふっ、このわたしにとって、本気になればこの程度のこと、まさに朝飯前よ」
「でも、ちょっぴり大変だったー」
「台本も完璧、動作もふりつけも問題なし! 加えて歌の準備も整ったとくれば、これはもう、いつでも立派な魔法少女として幻想郷でやっていけるわ!」
「あ、いや、その……それはどうかな……」
さりげないパチュリーの言葉に、ふと我に返って顔を引きつらせるレミリア。まぁ、『永遠に紅い幼き月』が『永遠に紅い幼き魔法少女』とでも変わったら、それはそれで何かと問題も出てこようと言うものであるが、まぁ、それはともあれ。
「私の……私の、魔法少女復活計画も、後はイベントの成功を待つまでよ! よく頑張ったわ、二人とも! 今夜は焼き肉よ!」
「わーいわーい、やきにくー」
「イベントの立ち上げから企画、運営、その全てに粉骨砕身してきた甲斐があったというもの……ああ、レミィ、私は今、幸せよ……。具体的に言うと、難解な魔法書を読み解いて新しい魔法を発見した、あの時の喜びに近いものが、今、私の胸の中を駆けめぐっているわ」
魔法少女の実現と、新しい魔法の開発と、その二つを同列に並べられるこの友人はやっぱりすごいな色々な意味で、などと思いつつ、引きつりながらも好意的な笑みを浮かべるレミリア。
……実際、大変だったのだ。ここに至るまで。
セリフをとちって怒鳴られたり、台本通りの動きが出来てないとオータムエッジ喰らいそうになったり、「見せていいぱんつの角度は五度まで!」とわけのわからない理由でサイレントセレナぶっ放されたり、と。
それでなくとも、変な意味で燃えてしまったのだ。これに。
もう色んな意味で人生やめたくなったほど、ある意味、追いつめられていたのだが、それならそれで、と逆に考えた。すなわち、『これに勝利できなくて、デーモンキングを名乗れるか』と、変な意味でプライドを刺激されてしまったのだ。
「レミィ、いっそのこと、二つ名変えない?」
「それは嫌」
「ちっ」
「……いや、ちっ、て」
「フランは変えてもいいよー。妹魔法少女ー!」
「それもまたいいわね」
妹で魔法少女、これは萌えるわ。などと、ぶつぶつつぶやくパチュリー。
「失礼致します」
「あら、咲夜。どう? 似合う?」
と、ステージの上でくるりんと回ってみせるお嬢様。ふわりとなびくスカートの裾や、その際の仕草、表情なども、パチュリーが完全に仕込んだだけはある。全くもって見事だった。完全で瀟洒なメイドも『ぐっじょぶですわ』と親指を立てるほどに。
「小悪魔が帰りました。彼女の話では、カタログが一瞬で完売したそうです」
「そう。まぁ、当然ね」
「首尾は?」
「上々よ。
さあ、レミィ、フラン。最後の特訓よ。あとは明日のリハーサルで全てを調整するわ。練習はこれ限りと知りなさい」
「わかったわ」
「わかったー!」
「頑張って」
再び始まる、魔法少女達の饗宴。確か、EXで流れてたような音楽が響く中、咲夜はそこを後にする。
「ふっ……この私も……」
かつて『魔法のメイド まじかる☆咲夜ちゃん』だった彼女は、当時の、あの熱い気持ちを思いだしたのか、再び顔に笑みを浮かべて歩いていく。
「美鈴」
「あ、咲夜さん。どうですか? この衣装。似合いますか」
「ええ、似合うわ」
当日は悪の首領役に大抜擢された美鈴。彼女の部屋の中で、自分の服装を鏡に映してあれこれやっていた彼女は、咲夜の一言に笑顔を浮かべた。
「よかったぁ」
「さあ、練習よ。
いい? 主役は脇役、そして悪役に引き立てられてこそ、輝くものなの。私の魔法少女としての経験がそれを物語る。あなたが輝かなければ、必然的に、お嬢様達も輝けないのよ」
「はいっ! 私、頑張ります!」
「その意気よ!」
幻想郷の中にそびえる紅の館――紅魔館。
そこは吸血鬼の主によって統べられる世界。近寄るものは死を覚悟し、住まうもの達は、皆、悪魔達。そう、誰もが思っていた。
だが――。
「違う! レミィ、そのステップではダメよ!」
「美鈴、立ちなさい! その程度で音を上げていては、真の悪役として輝くことは出来ないわ!」
「フィギュアの出来がいまいちですねぇ……。ディテール甘過ぎですよっ」
その時、確実に、紅魔館はその存在を変えていた。
『紅魔法少女館』へと――。
――そして、魔法少女達のデビューを迎える日がやってくる。
それは置いといて、グッズの予約は出来るのでしょうk
あぁヴァンパイア☆レミちゃんフィギュアほすぃ
いやだがしかし見てみたいという好奇心もまた…
クッ、俺はどうすればいいんだーっ!!
突っ込みどころが多いなぁもうw
とりあえず当日のショーを見たいw