私は人形を作る。
一つ一つ心をこめて。
私は人形を作る。
一つ一つ思いをこめて。
悲しいこと、つらいこと、うれしいこと、くやしいこと。
それはただ、私の思いのかけらとなって、部屋中を埋め尽くす。
モチーフなど無い。
理想などあまり考えない。
ただ、ありのままに人形を作り出す。
そうして出来た一つの人形に、私は上海と名づけた。上海は私に似た分身。いつの間にやら動き出した私の心。上海が、私のそばに居るのはとても滑稽で、そして愛らしい。
私はもっといい物が作りたくなって、色々頑張ってみた……。
私のそばには人形が居る。たくさん散らばって部屋に飾ってある人形。
私は上海の上を目指して、たくさんたくさん作っていく。しかし、幾ら作っても上海を越えた気がしない……。
行き詰った私は人形を作るのを少し止め、森に出向いた。新しいモチーフと、もっといい物を作りたくなって、ただただ出歩く。
そんな日々が三日ほど続いただろうか……。魔理沙に出会ったのは。
「よっ、久しぶりだなアリス。こんな所でぼーっとしてるなんて珍しいな」
「なによ、私がボーっとしてちゃいけないわけ?」
「ああ、悩みがあるなら相談くらいには乗るぜ」
「……まぁ、あんたに話しても解決するとは思えないけど。実はね、上海を越える人形を作ろうと思って色々やっていたんだけど、なかなか出来なくって。それで、ここら辺をブラブラしてネタを探していたの」
「ああ、確かにそりゃあ深刻な悩みかもしれないな。でも時間なんて幾らでも有るんだから、ゆっくり作れば良いと思うぜ」
「そうなんだけど……。どうにも落ち着かなくって」
「毎日毎日作ってりゃ、そりゃあネタだって止まるもんだぜ。そうだ、折角だから私の人形でも作るか」
「えっ……。あんたの人形?」
「ああ、出来る事なら上海みたくしゃべったり手伝ったり出来るのがいいな。そうすりゃ、パチュリーの本とか返しに行く時困らなくてすみそうだ」
「それはやってみる価値がありそうね」
「おお、んじゃ期待してるぜ」
私は魔理沙の人形を作ることになった。
魔理沙の髪は金色で綺麗な髪。
魔理沙の顔は憎たらしいけど綺麗な顔立ち。
目の色は青くて宝石みたいに綺麗。
手足も肌も綺麗な肌色。
口調はちょっと男の子っぽいけど、それもまたひとつのチャームポイント。
黒い帽子に白いリボンを巻いて。
服も黒くして、エプロンを白く。
だんだん完成していく魔理沙人形に、私はどんどんはまっていく。
製作してから約2日。
私のそばに魔理沙人形が完成していた。
けれど、私の作った魔理沙人形は上海や蓬莱よりも出来が悪いらしく、魂は篭らなかった。
私は魔理沙のためにもう一度作り直していく。
髪、顔、帽子、服……。もう一つも駄目。二体……三体……四体。たくさん出来ていく魔理沙人形……。
出来の悪いのばかりが出来ていく。
何度か繰り返していくうちに材料も無くなっていった。
そうして、気づくと大分経って、私は机の上で眠っていた。
――ドンドンと扉を叩く音がする……。
何か扉を開く音がする。
でも、魔理沙人形は動かないしとやる気をなくして眠る私。
そこに、
「おお……。流石アリス。見事なもんだぜ」
と言ってくる魔理沙。
しかし、出来の悪い人形に私は不満を漏らす。
「えっ……。でもこの人形は上海や蓬莱みたいに動かないわよ」
それでも良いと言ってくれる魔理沙。
「ああ、でも私そっくりだし、こいつをもらって帰ることにするぜ」
「良いの? まぁ、そう言ってくれるなら悪い気はしないわね」
私は動かない魔理沙人形をプレゼントとして贈った。
魔理沙はプレゼントを嬉しそうに両手に抱えて、私をお茶に誘う。
「おお、サンキュー。それと、折角来たついでにアリスの部屋でお茶でもしないか?」
その言葉に従う私。
「本当はもっといい物を作るまで頑張ろうと思ったんだけど、あんたの嬉しそうな顔見てたらコレでも良いような気がしてきたわ」
「そうそう、たまには気を抜かないとな」
「ふふ、ありがと。魔理沙」
「ああ、もっとも良い人形を作ってもらったんだ、礼を言うのはこっちの方だぜ」
改めて帽子を脱いでお礼をする魔理沙。
そうして、私達二人の様子を見た上海が、
「マリーサ、アリース、ナカヨーシ」
等というのを聞いて二人して真っ赤になった。
うん……。出来は悪かったけど魔理沙が喜んでくれたならそれでいいかな。
私は魔理沙と紅茶を飲みながら、たまにはこんな風に過ごすのも良いよねと思う。
暖かい日差しと、紅茶の香りの中……午後の安らかな一時と共に過ごす日。
たまにはこんなゆったりした時を……。
――END――